自動車産業や再エネビジネスに新しい動き(モロッコ)
2022年の注目点(1)

2022年4月1日

新型コロナ感染は第3波のピークを越える

モロッコでは新型コロナウイルス感染第3波の状況にあったが、2022年1月19日の9,355人をピークに1日の感染者数が減少、2月22日時点で427人となった。政府は2月24日、「衛生緊急事態」を3月末まで延長すると発表し、感染防止、ワクチン接種を呼び掛けているが、夜間外出禁止や国際航空便運航停止は解除されており、市民生活はより開放的な方向に向かっている。

2021年の実質GDP成長率は7%台のプラス成長、2022年は減速の見込み

モロッコ高等計画委員会(統計局)によると、2021年の実質GDP成長率は、新型コロナの影響で大きく落ち込んだ前年の反動で7.2%のプラス成長となった。主要輸出品であるリン酸肥料の生産が好調だったこと、天候に恵まれ穀物の収穫量が前年比で約2倍になるなど農林水産業が17.9%増と大きく数字を伸ばしたこと、自動車などの製造業が6.8%増となり回復基調にあることなども要因とした。他方、観光や飲食などのサービス産業は、夜間外出制限や国際航空旅客便の運航停止などが影響して5%増と振るわなかった。

2022年の成長率については、2.9%で伸び悩むと予想している。背景には、例年に比べ冬季の降雨量が記録的に少なかったこともあり、水不足が農業生産に影響するとみられている。さらに、製造業は3.3%増、サービス業は3.6%増と足踏みすることが予想される。

政府は2035年までの「新開発計画」を公表

2021年4月に、政府は「新開発計画」を公表した。計画では2035年までに、(1)1人当たりGDPを倍増させる、(2)初等・中等教育における児童生徒の基礎学力の定着を強化する、(3)人口1,000人当たりの医療従事者数を4.5人に引き上げる(2020年2人)、(4)非正規労働の割合を20%以下に抑える、(5)女性の社会参加を45%に引き上げる(2019年22%)、(6)行政や公共サービスに対する利用者満足度を80%以上にする、ことなどを目標としている。

2022年はアハヌッシュ連立政権の指導力が問われる年

2021年(1~12月)の失業率は全国平均が12.3%で、若年層(15~24歳)の失業率は31.8%と高く依然課題となっている。2021年10月に誕生した、自由主義政党で王党派の「独立国民連合(RNI)」を主軸とするアハヌッシュ連立政権は、国民生活の底上げやポストコロナ社会を見据え、社会保障制度の改革や、雇用創出型経済の推進(職業訓練や「メイド・イン・モロッコ」製品のPR)などに取り組んでいる(2021年10月18日付ビジネス短信参照)。2022年は、その成果が問われる年になりそうだ。

国際通貨基金(IMF)は、2022年の経済成長を3%前後と予想し、2021年に好調だった農業生産が例年レベルに戻る一方、その他の分野は回復傾向が続くと分析する。さらに、経常収支赤字は2021年にコロナ前のレベルに戻しているが、先行きが不透明な中、中期的な成長拡大のためには迅速で効果的な構造改革の実行が求められるとしている。

自動車産業は新規投資、追加投資が続く

新規雇用が期待される自動車産業は、組み立てから部品製造まで約250社が操業中で、22万人の雇用を創出している。モロッコ自動車工業会によると自動車生産規模は70万台で、統計局によると2021年(1~11月)輸出実績は80億ドル(前年同期比12.8%増)で、主な輸出先はフランスやスペイン、ドイツなどだ。ステランティス(旧グループPSA)のケニトラ工場では、シトロエンブランドの小型電気自動車(EV)Amiに加え、オペルブランドのRocks-Eの生産もスタート。コロナ過にあっても、米国自動車部品メーカーのアプティブ(Aptiv外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)や、中国のPGTEX外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが新規投資を公表した。また、中国の中信ダイカスタル(CITIC Dicastal外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)は2022年2月、国内3カ所目となるエンジンやシャーシ用アルミ部品生産拠点の着工式を行った。

他方、部品製造を中心に約140社で構成される航空機産業は、2021年の輸出実績が154億ディルハム(約16億ドル)、前年比21.9%増となった。同業界幹部によると、2022年も新型モデル向け部品の生産が始まるため、生産活動はコロナ以前のレベルに戻ると予測している。

グリーン水素など再生可能エネルギービジネスは国際連携が進む

モロッコは、北アフリカでは例外的に、石油や天然ガスなどエネルギーを輸入に頼っている。2021年8月に、アルジェリアがモロッコとの国交を断絶したため、アルジェリアからの天然ガス輸入が停止し、昨今のエネルギー国際価格の高騰もあいまって、政府にとってエネルギーの安定的確保は喫緊の課題だ。政府は再生可能エネルギーの活用割合を、2025年までに52%、2030年までに64%とする目標を掲げており、水力発電(北部中心20カ所)、風力発電(7カ所)、太陽光発電(7カ所)の増強を図っている。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が2022年1月に公開したレポート「Geopolitics of the Energy Transformation:The Hydrogen Factor」の中では、モロッコが2050年までに「グリーン水素」の主要輸出国の1つになる、と述べられている。

モロッコ政府は2021年3月、アフリカ初のグリーン水素ビジネス推進拠点「クラスターグリーンH2(Cluster Green H2)」を設立した(2021年10月6日付ビジネス短信参照)。また、ドイツやポルトガルなど、グリーン水素の開発における他国との連携も強化している。2021年7月には、アイルランドのフュージョン・フューエル・グリーン(Fusion Fuel Green外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)とのプロジェクトが発表され、2022年からグリーンアンモニアを年間18万トン生産開始する見込みだ。プロジェクトの規模はモロッコ最大で、推定総投資額は75億ディルハム(約8億5,000万ドル)を超える。エネルギー分野においては、欧州を軸に国際競争の場となりそうだ。

執筆者紹介
ジェトロ・ラバト事務所長
本田 雅英 (ほんだ まさひで)
1988年、ジェトロ入構。総務部、企画部、ジェトロ福井、ジェトロ静岡などで勤務。海外はハンガリーに3度赴任。ジェトロ鳥取を経て2021年7月から現職。