欧州市場に見るチャンス、中堅・中小企業の取り組みゼロから挑んだ酒の海外展開、三つの心得
鳥取県・梅津酒造
2026年8月27日
国税庁の発表によると、2025年の清酒(以下、日本酒)の輸出金額は458億7,900万円(前年比5.6%増)、数量は約3万3,500キロリットル(同8.0%増)となり、輸出金額、数量ともに前年を上回った。海外における日本酒の人気が堅調な中、鳥取県東伯郡北栄町の梅津酒造は、日本酒仕込みの梅酒とお燗向け(温めて飲む)の清酒、焼酎、ゆず酒などを10カ国以上に輸出している。ジェトロは欧州展開について、5代目蔵元の梅津雅典氏にヒアリングを実施した(取材日:2026年3月26日)。梅津氏は海外展開の経験から、(1)「身の丈に合った相手」を見つけること、(2)日本と海外の「当たり前」の違いを理解すること、(3)自社の「強み」と「弱み」を認識することが重要だと指摘する。本稿では、その具体例を通じて、欧州市場の魅力や中小企業が海外展開を進める際の示唆を探る。
「身の丈に合った相手」を選ぶ
梅津酒造は慶応元年に創業し、現在の代表取締役である梅津史雅氏で6代目となる老舗の酒蔵だ。創業時から伝承されてきた酒造りの心技などのこだわりと地元とのつながりを大切にしながら、日本酒、焼酎、梅酒、果実を漬け込むための清酒を製造している。
海外展開は5代目の梅津雅典氏から始まり、欧州とアジア大洋州を中心に12カ国への輸出実績がある。輸出割合としては、梅酒が多く、その次にお燗向けの清酒などが続く。一般的に、酒の海外輸出というと、清酒、それも「冷や」や「冷酒」のイメージが強い中、梅酒と燗酒(かんざけ)の展開という非常に特徴的な海外展開を成功させた。しかし梅津氏は、海外展開を決めた当時は「何をしたら良いか分からなかった」と振り返り、海外への挑戦はまさにゼロからのスタートだった。

梅津氏は海外展開を始めるにあたり、まず日本で毎年開催されているアジア最大級の食品・飲料専門展示会「FOODEX JAPAN」に赴き、海外事業者の様子を視察した。そして、これを契機に欧州の展示会への出展を決意し、ドイツで開催される欧州最大級の総合食品見本市「アヌーガ」(2025年10月24日付ビジネス短信参照)の視察を経て、フランスの総合食品見本市「シアル」(2024年12月5日付ビジネス短信参照)に出展した。
シアルへの参加は梅津氏にとって初の海外展示会への出展であったが、ここではあえてジャパンパビリオンではなく、アルコール部門に単独で出展したという。「アルコール部門に単独で出展し、そこで選ばれたならば現地で受け入れられたということ」という強い意志で同部門に挑んだ。もちろん、ジャパンパビリオンに参加するメリットは多くあるが、梅津氏は自社の企業規模や大手と競合した場合のリスクなどに鑑み、戦略を立てた。結果、現地のインポーターとの関係構築に成功し、その後、フランスへの輸出を実現させた。


シアルで出会ったこのインポーターも、当時は貿易の初心者で、互いにゼロからのスタートだったという。両社は徐々に信頼関係を深め、現在では強固な関係を築いている。こうした当時の状況を振り返りつつ、梅津氏は、「身の丈に合った相手を選ぶことが重要」だと強調する。これは消極的な意味ではなく、「自社や自社の製品に理解を示し、取引に前向きな相手」を見つけることの重要性を示している。その際、企業規模の類似性は一つの参考になる可能性がある。輸出に挑戦する中小企業にとって、商談のハンドリングや契約などに関する確実性を重視する場合、有効な戦略の一つとなる。
規制への対応、コスト負担・責任の所在を明確に
フランスへの日本酒輸出に当たっては、同国の酒税法に対応した。同国における日本酒の酒税は、アルコール度数が15%以下の場合は4.19ユーロ/100リットル、15%超の場合は209.53ユーロ/100リットルとなり(2026年1月1日から適用の税額)、アルコール度数が15%を超えると税率が変わる。そのため、フランス向けの清酒はアルコール度数を14.5%にするなどの微調整を行った。
また、焼酎の輸出の際には、EUの容量規制に対応した。梅津酒造は焼酎の輸出に際して720ミリリットルの容器(四合瓶)を準備していた。しかし、当時EUでは蒸留酒の場合には1,750ミリリットルや700ミリリットルなど、決められた容量以外での流通・販売が認められていなかったため、当該規制に適合する容器を用意することで対応した。なお、欧州議会は2018年9月12日、2019年2月に発効した日EU経済連携協定(EPA)の法令整備の一環として、日本で単式蒸留により製造され、日本で瓶詰めされた焼酎について、四合瓶(720ミリリットル)および一升瓶(1,800ミリリットル)の使用を例外的に容認する欧州委員会提案を承認した。これにより現在は日本で流通している容量の瓶での輸出が可能となっている。
法規制への対応にはコストがかかり、対応に不備や漏れがある場合には追加でコストが発生する恐れもある。梅津氏は、法規制への対応にあたり、インポーターとの間であらかじめコスト負担や責任の所在を明確にすることが必要だと述べる。長期間の契約を結ぶのであれば、コストを折半することや、価格に上乗せするという方法も考えられるだろう。梅津氏は、どちらか片方が負担するとなると関係の維持が困難になると指摘しており、このような交渉などを念頭においても「身の丈に合った相手」を探すことが重要だと強調する。
輸出展開先の拡張性と「ワインインフラ」が魅力
欧州市場への展開では、複雑な法規制を丁寧にクリアする必要があるが、同市場には地域特有の魅力もある。その一つに、輸出展開先が波状的に広がる可能性が挙げられる。梅津酒造の欧州展開はフランスに始まり、オランダ、イタリア、ベルギー、スイスへと広がっていった。このように欧州において特定の国を皮切りに展開先が波状的に広がる事例は他の業種でも確認できる。展開先が広がる要因としては、地理的な事情、言語の共通性、EU加盟国間における規制の共通性などが挙げられるだろう。
また、酒の展開という文脈では、欧州におけるワイン文化の存在も展開先の拡大に寄与している可能性があるという。梅津氏は、欧州における「ワインのインフラ」を注目点として挙げていた。例えば、現地ではワイングラスやデカンタ、クーラーボックスなどが普及しており、こうしたワイン用品は日本酒にも用いることができると梅津氏は語る。フルーティーな日本酒などはワインのように飲むことも可能だ。日本酒をよりおいしく楽しむために活用できる道具が既にそろっている欧州の環境は、結果的に市場参入時および展開時に有利に働くと考えられる。
「違い」を柔軟な発想と工夫で乗り越える
梅津氏は欧州において燗酒の展開に取り組んでおり、そこでは数々の工夫を凝らしている。梅津氏は自ら現地に赴き、レストランなどで日本酒の飲み方をレクチャーしているが、そこでは日本酒を口にした参加者に対して「日本酒はいかがですか」と梅津氏から感想を尋ねることはしないという。梅津氏いわく、そのような尋ね方をすると、そもそも日本酒になじみがない人の場合、判断基準がワインとなってしまい、ワインとの比較で日本酒が評価されてしまうためだ。 ワインと日本酒では、味、香り、見た目などの評価方法に違いがあるとされる。このような背景から、ワイン文化が浸透している欧州において、ワインとの比較ではなく、日本酒を日本酒として評価してもらうため、まずは何も言わずに常温(冷や)で差し出し、次に同じものを燗酒として提供する。現地の感覚としては、ワインを温めると味が悪くなるため、燗酒に対して困惑するそうだが、試飲した参加者はその味わいに驚くという。さらに、チーズなどを勧めて味を楽しんでもらうよう促す。こうすることで、参加者は日本酒に対してワインの枠にとらわれることなく、独自の評価を行うようになるという。
一方で、燗酒の展開において課題となるのが道具の問題だ。欧州を含め海外に徳利(とっくり)や「ちろり」は普及しておらず、日本で行うのと同様の方法で燗酒を作ることは難しい。当初は日本の道具を普及させることを考えていたが、現地に存在する道具を使う方法にシフトしたという。例えば、一般家庭にもあるようなワインの小瓶を鍋などで温める方法を伝えているそうだ。また、燗酒においては推奨されるさまざまな温度帯が存在するが、梅津氏は「自分の好きな温度を見つけてほしい」とする。「体調、室温、機嫌、料理などによって適した温度は変化するため、自分に合った温度を見つける楽しさを伝えたい」「最低限の道具と自分がいればよいということを伝えたい」と語るなど、梅津氏は非常に柔軟な考えを持っている。
日本と欧州には共通点もある一方、商習慣などの違いや前述したような文化的な違い、さらには日本酒に関する道具の普及度合いなどの差異も存在する。梅津氏の事例からは、そのような「違い」を理解し、課題や障壁が存在する場合には、柔軟な発想と工夫を持って対応することが、現地での展開機会の獲得につながり得ることが示唆される。
さらに、梅津氏が海外展開の各段階において、自ら現地に足を運んで活動している点にも注目したい。梅津氏は間接的な輸出の場合でも、自ら現地を訪問している。インタビューの最後に、「『自分が売るんだ』という感覚を持っている。自分が行って、自分でしっかりとプロモーションを行い、反応を見ることが大切だ」と足で稼ぐことの大切さを語った。また、他社との違いを説明できなければならないと述べ、「自社の強み、得意技(商品など)を、よく認識しておくこと、そしてそれがなければ作ることが必要だ」と強調した。併せて梅津氏は、ビジネスにおいて無理をせず、自らを守るために、「自社の弱みも認識しておくことが必要」と述べた。 (1)「身の丈に合った相手」を見つける、(2)日本の「当たり前」と海外におけるそれとは異なることがあることを認識する、(3)自社の「強み」と「弱み」を認識するという梅津氏からの三つのアドバイスは、海外展開に挑戦する中小企業にとって大いに参考となりそうだ。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部欧州課
近藤 慶太郎(こんどう けいたろう) - 2024年、ジェトロ入構。同年4月から現職。





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