未来志向の新たな日韓産業連携の可能性を探る日韓の越境ECの特徴と活性化の条件
越境EC事業者MALLTAIL JAPAN鄭奕氏に聞く

2026年2月25日

ジェトロでは2025年度に、政治に左右されない新たな協力分野について探求し、議論する「未来志向の日韓ビジネス研究会」を立ち上げ、全5回の研究会を開催してきた(本特集「日韓経済関係は「一方通行」から「双方向」へ」参照)。本稿では、同研究会の中で取り上げたテーマの1つの電子商取引(E-コマース、以下、「EC」)分野における日韓市場の特徴、日韓市場活性化の方策などを探り、日韓の市場統合に向けたヒントを提示する。韓国大手越境EC事業者である株式会社MALLTAIL JAPANの鄭奕(ジョン・ヒョク)氏にECサイト運営者の視点から話を聞いた(インタビュー実施日:2026年2月5日)。


鄭奕(ジョン・ヒョク)氏(本人提供)

越境ECの人気製品は、時代のトレンドを反映

質問:
MALLTAIL(韓国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますおよびMALLTAIL JAPAN外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますのビジネスは。
答え:
MALLTAILは、韓国最大の越境EC総合サービス会社で、日本をはじめ、米国、中国、ドイツなど、世界8カ国・12ヵ所に物流拠点などを構えている。当初、配送代行を主要ビジネスとして展開してきたが、今は購買代行、直接販売など、全ての越境EC分野にビジネス領域を拡大している(注1)。MALLTAIL JAPANは2007年に設立された日本法人で、主に配送代行を展開している。配送代行は、(1)現地ECサイトへ登録、(2)商品購入(配達場所は現地のMALLTAIL倉庫)、(3)配送代行申込書作成、(4)商品到着後検収・検品・配送料の計測、(5)海外配送料決済、(6)国際配送・通関手続き、(7)顧客への配送、という流れで行っている。最近は購買代行にも力を入れており、特に顧客の利便性や信頼性を高めるために、顧客が直接、購入ウェブサイトを確認・選択できるようなシステムを導入している。なお、MALLTAILは2年連続、ジェトロのジャパンモール事業者として選定され、日本企業73社約140製品の韓国展開を支援している。
質問:
MALLTAILでの人気商品の変化とその理由は。
答え:
当然のことながら、時期によって、トレンドを反映して人気商品が変わる。為替相場や世界情勢によっても変化が起きる。また、仕入れ力の大きい販売店が特定の製品を多く買い付けることで、一時的な独占状態が生まれ、その特定製品が自然と越境ECで売れていく傾向もみられる。一方で、越境ECで人気だった製品が、現地での対面販売網の強化により、越境ECから消えていくケースもある。以上の状況を踏まえ、韓国の越境EC市場で人気の高い米国製品と日本製品について、この10年間の変化を紹介する。
  1. 2016~2017年
    米国製品:LGエレクトロニクス(以下、「LG」)製のテレビ、サプリメント、ダイソン製の掃除機
    日本製品:興和の胃腸薬「キャベジンコーワ」や久光製薬の鎮痛消炎剤「サロンパス」などの医薬品、セイコー、カシオなどの腕時計、資生堂、SK-IIなどの化粧品
    米国のLG製のテレビは、同じ仕様の製品でも、越境ECでは韓国国内販売価格よりかなり安価だったため多く売れた。この傾向は、2020年前半まで続いた。他方、日本製品は、先進国特有のより良い品質を求めるニーズに応える商品が人気だった。
  2. 2018~2019年
    米国製品:LG製のテレビが引き続きトップ、続いてアイロボット製のロボット掃除機「ルンバ」とダイソン製の掃除機
    日本製品:医薬品、マッサージチェア、加湿器
    この時期、米国のルンバは韓国に正式輸入されていなかったため多く売れた。日本の加湿器は、韓国内の加湿器殺菌剤問題(注2)の反動で多く売れた。この時期は、韓国の所得水準の向上、規制変化の影響が作用したといえる。
  3. 2020~2021年
    米国製品:LG、サムスン電子(以下、「サムスン」)のテレビ、テンピュールの寝具
    日本製品:「専科パーフェクトホイップ」などの一般生活用美容品、「ロイズチョコレート」などの土産品
    越境ECにおける医薬品の規制強化による医薬品の減少、コロナでの訪日が制限されたことによる日本産土産品の需要増加が特徴としてみられた。
  4. 2022~2023年
    米国製品:LG、サムスンのテレビとOTT(注3)・ユーチューブの視聴のためのグーグルクロームキャスト
    日本製品:アサヒグループ食品の胃腸・栄養補給薬「エビオス錠」、日清食品の即席カップ麺「どん兵衛」、石油ストーブ
    日本の石油ストーブは、新型コロナ禍におけるキャンプ関連用品としての需要増加により人気が出た。
  5. 2024~2025年
    米国製品:シャンプー、サプリメント、プロテイン
    日本製品:焼酎、ワイン、テンピュールなどの寝具
    この時期の米国製品をめぐる主な動きとしては、LG、サムスンのテレビが、量販店からの購入製品の海外配送禁止という両社の方針が出たことで、米国から韓国に配送できなくなったことが挙げられる。日本製品では、当社の酒類販売の免許取得により、アルコール類の人気が上昇した。ただ、この時期の日本のワインは、日本産のワインではなく、ヨーロッパ産などのワインだった。これは在庫が豊富な日本市場から購入できたことや、さらに円安で割安感があったことが要因だった。
質問:
韓国およびグローバル越境EC市場の現状は。
答え:
インターネットおよびスマートフォンの普及によって越境EC市場は拡大している。韓国国家データ処(旧統計庁)によると、韓国の越境ECでの購買金額(韓国への輸入)は、2023年は6兆8,000億ウォン(約7,480億円、1ウォン=約0.11円)、2024年は8兆1,000億ウォン、2025年は8兆5,000億ウォンと、毎年伸びている。越境ECの販売金額(韓国からの輸出)も、2023年は2兆4,000億ウォン、2024年は2兆6,000億ウォン、2025年は3兆ウォンと成長している。韓国のみならず、グローバル越境EC市場も伸びており、特に中国、東南アジアなど、新興国の成長が著しい。
今後も「ChatGPT」などAI(人工知能)技術により、顧客サービス(CS)、翻訳レベル、決済の利便性などが向上し、越境EC市場はさらに成長すると思われる。グローバルおよび韓国の越境EC市場の拡大・成長の背景には、越境ECにおける多様なプレーヤーの登場がある。グローバル越境EC専門企業の中国のTemu(テム)や、天猫(Tmall)のような巨大プラットフォーム企業が出てきている。そのほか、大型マーケットプレイス(注4)やショッピングモールもプレーヤーとして参入しており、裾野がさらに拡大している。MALLTAILも配送代行から、購買代行、直接販売まで事業を拡大している。

日韓越境ECの活性化に向けて、相互認証などの規制緩和が必要

質問:
日韓越境EC市場の特徴は。
答え:
まず、日韓の文化や政治的な環境によって大きく変わることが特徴だ。しかし、政治的な環境変化はオフライン市場に比べて激しくないことも特徴だ。
2000年代に入り、「冬のソナタ」「宮廷女官チャングムの誓い」などの放映により、40代の女性をはじめとして、日本人の韓国に対する好感度が向上した。その後、BOA、東方神起、KARAなどアイドルの日本進出も加速し、日本の消費者の年齢のすそ野が広がった。この時期から、文化浸透による日韓越境ECの成長への期待が高まり、日韓の越境ECが徐々に動き始めた。しかし、2017年に韓国で文在寅(ムン・ジェイン)政権が誕生し、日韓関係が急速に冷え込み、2019年には韓国で日本製品の不買運動が起きた。この一連の状況により、日韓越境ECも一部打撃を受けた。ただし、関係の冷え込み度合いに比べ、越境ECへの悪影響は比較的小さく、売り上げが少し減少した程度だった。これは越境ECの場合、対面販売での購入と比べ、他人の目を気にせず、購入できたからだ。
もう1つの特徴としては、日韓の価値観の相違による消費カテゴリーの違いが挙げられる。日韓の経済的な格差が縮まった最近でも、韓国の消費者は価値観として、日本製品の質が良いとの印象を持っており、多様なカテゴリーの商品を求めている。一方で、日本の消費者は韓国の家電や車に手を出さないなど、魅力を感じる商品のカテゴリーが限定的だ。日本の消費者は、自分が好きなアイドルが使う化粧品や洋服などを購入する傾向が強く、そうしたカテゴリーの商品が多く売れている。しかし、最近、若者を中心に韓国コンテンツへの関心がさらに高まっており、韓国に対するイメージ改善や商品カテゴリーの多様化の進展が期待される。
質問:
日韓越境EC市場を活性化させるためには。
答え:
第1に、多様なプレーヤーの活躍と規制をめぐる基盤整備が必要と思う。マーケットプレイス企業も含め、購買代行、直接販売など、さまざまなかたちで取引が進むことが必要だろう。また必要のない規制の緩和および必要な規制の強化も必要だ。例えば、韓国のKC認証と日本のPSE認証は、中身はほぼ同じだがそれぞれに認証を受けなければならないため、相互認証の導入など規制緩和が必要だ。一方で、海外取引で起こる返金・返品に関する問題や、保証が十分ではない点などは、規制を強化していく必要がある。
第2に、越境ECに対する「難しい、面倒臭い」というイメージを解消していくことも必要だ。海外取引特有のハードルについて、今は「ChatGPT」などのAIを活用することで言語的ハードルは下がりつつある。
第3に、越境ECが他国への本格的な進出の架け橋になりうることを認識することが必要だ。越境ECで販売すると、商品の消費者がそのままバイヤーになり、バイヤーが自分の国だけではなく、他国へ輸出する可能性も出てくる。
第4に、各種貿易協定の活用も挙げられる。越境ECは、国際配送料などが加算され、商品の本来価格より高くならざるを得ない。しかし、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)などの枠組みを活用すると、関税が撤廃・引き下げになり、その分が越境EC商品の価格に反映され、消費者のメリットが大きくなる。
質問:
日韓越境EC市場の活性化に向けた政府およびジェトロなどの公的機関の役割は。
答え:
最も重要なのは、政治に左右されない日韓関係を作り、日韓越境ECの不安要素を最小化することだ。越境EC市場は民間主体であり、政府や公的機関の役割は限られている。政府や公的機関は、介入を最小限にしながらも安定的な関係を維持する方策を模索する絶妙なバランスを取る必要がある。また、活性化に向けた情報提供、啓発活動などを行うべきだ。
次に、日韓関連企業の話し合いの場を作ることだ。越境ECは、「商品の実物を見ずに触らずに購入する」という制約が存在する。政府や関係機関の主導で、ポップアップストアなど、対面でも相互の優れた商品を体験・購買できる場を提供することが必要だ。
最後に、越境ECビジネスで発生する検査費用などの支援だ。購買代行などのビジネスを展開する際、食品、化粧品などは品目ごとに精密検査が義務付けられている。この費用は零細・中小企業にとっては大きな負担だ。政府や公的機関が支援することで、ビジネスの活性化が図られるだろう。

注1:
越境ECはインターネットを利用し、国境を越えて行う取引の総称。越境ECは大きく分けて、以下の3つのかたちで行われる。
  1. 配送代行:顧客が海外のECサイトで購入した商品を、海外の配送代行業者の倉庫に送り、その商品を配送代行業者が顧客に配送する。
  2. 購買代行:顧客が購入したい海外商品を購買代行業者が代わりに購入し、その商品を購入した顧客に配送する。
  3. 直接販売:越境EC業者が商品を買い取り、海外の顧客に販売する。 本文に戻る
注2:
加湿器に使う殺菌剤による肺損傷で新生児や妊産婦を中心に多数が死傷した事件。この事件をきっかけに、殺菌剤が不要な日本製加熱式加湿器の販売が急増した。 本文に戻る
注3:
「Over The Top(オーバー・ザ・トップ)」の頭文字を取った略語。インターネットを通じて、映像や音声、SNSなどのコンテンツを提供するサービスを指す。 本文に戻る
注4:
アマゾン(AMAZON)や楽天市場など、複数の売り手と買い手が商品やサービスを売買するオンラインプラットフォーム。 本文に戻る
略歴
鄭奕(ジョン・ヒョク)
2011年 埼玉大学 経営学科 卒業
2011~2013年 Giosis Qoo10 合同会社(現eBay Japan合同会社)
2013~2017年 ヘレンパクコスメ営業チーム長
2017年~現在 株式会社MALLTAIL JAPAN代表取締役
執筆者紹介
ジェトロ・ソウル事務所
李 海昌(イ ヘチャン)
2000年から、ジェトロ・ソウル事務所勤務。本部中国北アジア課勤務(2006~2008年)を経て、現職。