未来志向の新たな日韓産業連携の可能性を探るJ-POPを輸出産業に
K-POPビジネス評論家Ricky Lee氏に聞く

2026年2月19日

ジェトロでは2025年度に、政治に左右されない日韓の新たな協力分野について探求し、議論する「未来志向の日韓ビジネス研究会」を立ち上げ、全5回の研究会を開催してきた(本特集「日韓経済関係は「一方通行」から「双方向」へ」参照)。本稿では、同研究会で取り上げたテーマの1つであるコンテンツ・エンターテインメント分野のうち音楽分野に焦点を当てる。日韓それぞれの音楽業界を比較しながら、日本の音楽(J-POP)が輸出産業として発展していくために必要な取り組みの方向性や、双方の強みを活かした日韓連携の可能性を探る。韓国音楽(K-POP)業界をビジネス視点で解説するK-POPビジネス評論家のRicky Lee氏から話を聞いた(インタビュー実施日:2026年1月19日)。


Ricky Lee氏(同氏提供)

日韓音楽産業の特徴と海外展開状況

質問:
活動内容と、活動開始のきっかけは。
答え:
2002年にK-POPを聞き始めたことをきっかけに韓国語を勉強。日本の大学入学後に韓国に交換留学し、卒業後は韓国財閥系企業の日本法人でビジネス経験を積んだ。現在は、日本のウェブメディア企業で韓国企業とのビジネスを行う一方で、主にX(旧Twitter)などSNS上で、K-POP関連ニュースや証券会社のアナリストレポートなどをビジネス的視点で解説している。
質問:
K-POPとJ-POPそれぞれの特徴とグローバル展開の状況は。
答え:
K-POPはグローバルで多国籍な展開を特徴としており、ハイレベルなパフォーマンスとビジュアルが強みだ。その歴史はまだ浅く、2000年代以降に急速に成長したジャンルだ。一方、J-POPは、旺盛な内需を背景に国内市場が主な活動拠点だ。ストーリー性や親近感、多様性を重視する傾向があり、1990年代から歴史を築いてきた。
世界市場におけるプレゼンスで比較すると、J-POPはK-POPに比べて遅れを取っているといえよう。両国の大手音楽・エンターテインメント企業(プロダクション)のうち、主な上場企業の海外売上比率を比較すると、日本企業(エイベックス、アミューズ)に対し、韓国企業(SM Entertainment、JYP Entertainment)の海外売上比率は圧倒的に高い(図1、図2参照)。
図1:日本企業(エイベックス、アミューズ)の2024年度売上高と
海外売上比率
日本企業エイベックスとアミューズの2024年度の売上高と海外売上比率を示した棒グラフ。縦軸左は売上高(億円)、右は海外売上比率(%)。エイベックスは売上高が1,317億円で、海外売上比率は4.3%、アミューズは売上高が682億円で、海外売上比率は7%。

注:アミューズは海外売上を公開していないため、海外事業売上を使用。
出所:エイベックス、アミューズ

図2:韓国企業(SM Entertainment、JYP Entertainment)の
2024年度海外売上高と海外売上比率
韓国企業SM EntertainmentとJYP Entertainmentの2024年度の海外売上高と海外売上比率を示した棒グラフ。縦軸左は売上高(10億ウォン)、右は海外売上比率(%)。SM Entertainmentは売上高が9,900億ウォンで、海外売上比率は約32.6%。JYP Entertainmentは売上高が6,020億ウォンで、海外売上比率は57.5%。

出所:韓国金融監督院「DART(電子公示システム)」

J-POPの中でも一部のアーティストに世界進出の兆しは見られる。例えば、アミューズ所属のBABYMETALは、ストリーミング数のうち米国が約25%を占める。また、藤井風をはじめとする若手シンガー・ソングライターも世界的に注目を集めている。しかし、J-POP全体としては輸出産業と呼べる段階には至っていないのが現状だろう。

リリースプロセスの違いが世界戦略にも影響

質問:
日韓の音楽業界のビジネスモデルの違いは。
答え:
日本と韓国の楽曲リリースプロセスを見ていくと違いが見えてくる。日本では、企業とのタイアップでともにCD収録曲を決定することが多い。現在も、テレビ広告、ドラマ・アニメなど、多岐にわたる企業とのタイアップが見られる。その後、代表曲のミュージックビデオ(MV)やサブスクリプションをCD発売に先行して公開し、歌番組や地方ラジオなど、各種メディアへの出演などのプロモーションを実施する。最近では、SNSでショート動画の拡散などの手法も取られ、一連の事前プロモーションを経た上でCDを発売する。
対して韓国では、タイアップ案件は日本と比較すると少ない。実施する場合でも、発売するアルバムの収録曲ではなく、配信限定など露出が限られる曲だ。日本では、タイアップ先の要素をメロディーや歌詞にも色濃く反映させる一方で、韓国ではそういった要素は限定的だ。これを踏まえて、K-POPのリリースプロセスを見ると、まずは作品コンセプトを起点にCD収録曲を決定する。楽曲発売前のプロモーション活動としてSNSやYouTubeでティザー(注1)を公開し、ファンやユーザーの興味を引きつける。CD発売と同時にMVやサブスクリプションを一斉にリリースし、発売後もSNSでのショート動画拡散や、テレビ音楽番組への出演などによる精力的なプロモーション活動やファンとの交流を実施する。独自のコンセプトで楽曲を作成し、リリース前後のデジタルメディアを活用したプロモーションを経て、グローバルに発信し、ファンによってさらに拡散される。
なぜ、日韓でビジネスモデルに相違が生まれたのだろうか。日本では、1990年代にCDが大量に売れ、その前後で日本国内での音楽関連ビジネスモデルが確立した。現在は、サブスクリプション型の配信サービスが主流となり多少の変化はあるものの、基本的な構造は変わっていない。特に、タイアップから楽曲を作ることが「エコシステム」として定着し、ステークホルダーの多さも相まって、変化を起こしにくいというのが正しいかもしれない。
一方、韓国は音楽市場規模が日本と比較して小さく、K-POPの始まりも90年代後半からだ。これにより、早期から中国や日本への海外進出に活路を求めた。加えて、高速インターネットとMP3プレーヤーの普及が他国に比べて早かったため、CDが売れなくなるタイミングは日本以上に早く到来した。おかげで、YouTubeなどデジタル関連サービスの活用も早く始まり、デジタル時代のグローバルなファンダム(注2)形成へと自然につながることで、現在のモデルが確立されたといえよう。グローバルファンの獲得は、結果的にCDの販売拡大にも寄与している。近年では、CDをリリースすると、1作品あたりグローバルで数十万枚から数百万枚を売り上げるなど、物理メディアは大きな収益の柱になっている。
質問:
J-POPの世界展開のボトルネックは。
答え:
ボトルネックとしては、J-POPの楽曲リリースプロセスが、内需向けにCDの販売が好調だった時代の手法が継続している点にある。海外での販促を前提とした仕組みにはなっていない。
ただし、多くの日本のアーティストが従来の内販型の販売手法を取る一方で、近年、手法に変化が見られるアーティストやレーベルも見られる。例えば、男女2人組アーティストのYOASOBIの曲「アイドル」は、アニメ「推しの子」のテーマソングとして世界的なストリーミングヒットを記録した。これは、アニメという日本のグローバルコンテンツを通じたJ-POPの海外展開事例といえるだろう。また、エイベックスの社内レーベルプロジェクト「XGALX」に所属する7人組アーティストのXGはデビュー当初、日本の音楽番組ではなく韓国の音楽番組に出演し、その映像がYouTubeで拡散された。さらに、グローバル市場を意識し、楽曲は全編英語で制作されている。そのほか、NTTドコモ・スタジオ&ライブ所属の日本人4人組ガールズグループcosmosyも、XG同様に韓国の音楽番組から出演を開始している。これらは、グローバル市場を意識した手法の事例といえる。
アーティストサイドが変化を起こそうとしている中で、最大のボトルネックとなるのは、アーティストが出演するテレビの「音楽番組のDXの遅れ」だとみている。韓国では、音楽番組での歌唱シーンをYouTubeで配信することで、グローバルなファン拡大につながった。一方、日本の音楽番組は、YouTubeはおろかTVer(注3)などでの配信もなかなか実現できずにいた。最近ようやく変化の兆しが見られるようにはなったものの、音楽コンテンツを放送で扱うメディア(テレビ局、広告代理店)のグローバル化やビジネストランスフォーメーションは韓国と比較すると停滞している。
なお、韓国ではYouTubeの番組配信で得られた広告収入の分配をめぐってアーティストとテレビ局が争うケースがあるほか、芸能事務所よりもテレビ局の方が大きな力を持っていることも指摘される。韓国も、各種メディア露出において決して権利保護が十分とはいえないことは、日本の音楽業界が参考にする場合に考慮する必要がある点だ。

J-POPを輸出産業として育てる

質問:
J-POPを輸出産業に育てるには何が必要か。
答え:
前述のとおり、アーティストサイドには変化が見られることから、最大のボトルネックになっている「音楽番組」にフォーカスをして、改善していくことが望ましいのではないか。そのための環境整備として、具体的に、次の3点が日本の音楽の海外展開を促進すると考える。
  1. OTT(注4)・YouTubeでの配信を円滑にするための著作権法改正・システム整備
  2. 海外展開促進のためのインセンティブ付与
  3. 海外向けFAST(注5)・OTTプラットフォームの主導
1点目について、日本での放送と配信の権限について比較すると、放送は歴史的に整備された包括許諾と集中管理によりワンストップに近い権利処理が可能であるのに対し、配信は著作権(公衆送信)と原盤権(レコード製作者の権利)や実演家の隣接権(著作物の伝達に重要な役割を果たす者の権利)が分かれており、著作権管理団体(JASRAC)の管轄範囲を超える部分、とりわけ原盤権などで個別の許諾取得が必要になる、という構造的な違いがある。従って、テレビ番組をYouTubeで配信しようとすれば、その権利処理のための作業は、テレビ局にとって追加負担となる。特に、多数のアーティストが出演する音楽番組は、権利が複雑に絡み合うため、テレビ局にとっては重荷だ。いずれにしても、放送したものを配信でも流しやすくするための法改正やシステム整備によって、日本の音楽の海外展開はさらに進むことが期待できる。足元では、日本でも藤井風の音楽番組出演動画が、同番組の公式YouTubeチャンネルで配信されるという事例もみられた。こうした動きをさらに促進するため、放送と同レベルでの許諾と集中管理ができるよう、法とシステムの整備が必要だろう。
2つ目に、コンテンツ産業をビジネスとして成立させるために、海外展開を前提とした番組などの制作に対して補助金制度を設けるなど、制作者側にインセンティブを与える仕組みも有効ではないだろうか。先行事例として韓国では、韓国コンテンツ振興院(KOCCA)をはじめとする政府系機関が、放送コンテンツを含むコンテンツ産業全般に対して製作段階から海外展開支援までをカバーする各種支援事業を展開している。
3つ目に、海外向けのFASTなどの立ち上げも効果的と考える。FASTは、米国を始めとした海外で流行しており、韓国でも力を入れている。韓国の場合、サムスン電子やLGエレクトロニクスが販売するスマートTVでFASTチャンネルが見られるようになっており、そこに韓国の芸能事務所がチャンネルを提供するなど、ハードウェア企業とコンテンツ企業の協力によるビジネスモデルも存在する。もし、日本で今後FASTを活発化させるのであれば、例えば、TVerの海外向けFAST化などの取り組みが考えられる。海外のユーザーが日本のコンテンツに触れる機会を増やすことで、グローバルなファンの獲得につながる可能性がある。

広がる日韓連携の可能性

質問:
音楽産業同士に限らずコンテンツ分野で日韓連携の可能性はあるか。
答え:
今現在も日韓での協業事例は存在し、今後さらに広がる可能性が高い。よく見られるのは、K-POPとアニメの協業だ。最近の例として、K-POPアーティストのENHYPENとのコラボレーションによるウェブトゥーン(注6)を日本のアニメ制作会社であるアニプレックスがアニメ化した。日本のアニメの主題歌にK-POPアイドルの楽曲が採用されることも、近年頻繁に見られる動きだ。例えば、アニメ「BEYBLADE X」は放送開始当初からK-POPアーティストが多くのテーマソングを手掛けてきた。もちろん、音楽業界同士の協業例もある。YOASOBIのボーカルikuraとして活動する幾田りらと、韓国アーティストのZICOが楽曲を共同制作した際は、大きな話題を呼んだ。
韓国にとって日本は、世界2位の音楽市場規模(注7)を持つ魅力的な市場だ。日本のアーティストやコンテンツとの協業は、日本の音楽市場への訴求において一定程度メリットがある。反対に、日本にとっては、世界的な知名度を持つ韓国コンテンツとの協業は、グローバル展開にポジティブな影響をもたらすだろう。双方にメリットのある方法を模索しながら、今後さらに協業と海外展開が進むと予測している。

注1:
本編や正式発表に先立ち、内容の一部のみを提示することで関心や期待を喚起するための予告的な情報・素材。 本文に戻る
注2:
同じ文化や世界観を共有するファン文化を指し、「ファンダムコミュニティ」はその中でファン同士がつながり、交流するファンの集まりを指す。 本文に戻る
注3:
日本の民放テレビ局が共同で運営する、広告付きの無料の公式動画配信サービス。主に地上波番組の見逃し配信を提供しており、インターネット経由で視聴者が番組を選択して視聴するオンデマンド型(AVOD)のサービス。 本文に戻る
注4:
Over‑The‑Topの略。インターネット回線を通じて、放送事業者やケーブルテレビ事業者を介さずに提供される動画配信サービスの総称。視聴形態には、定額制、広告付き無料、都度課金などが含まれる。 本文に戻る
注5:
Free Ad‑Supported Streaming TVの略。インターネット経由で提供される、広告付きの無料の動画配信サービス。視聴者は料金を支払うことなく、24時間編成された仮想チャンネルを通じて番組を受動的に視聴する。 本文に戻る
注6:
主にスマートフォンで読むことを想定した韓国発祥の縦スクロール型デジタル漫画。 本文に戻る
注7:
国際レコード産業連盟(IFPI)が毎年公表している「Global Music Report」によれば、日本の録音原盤市場は、米国に次ぐ世界第2位の規模。なお、本ランキングは、録音原盤の収益を対象としており、ライブ興行や音楽出版などは含まれない。 本文に戻る
略歴
2002年にBoAやSHINHWA、S.E.SをきっかけにK-POPを聞き始め、韓国語を独学で勉強。大学入学後に韓国に交換留学し、卒業後は韓国財閥系企業の日本法人に入社し韓国語を使ったビジネス経験を積む。
現在はウェブメディアの企業に勤め、韓国企業とのビジネスに韓国語を使いながら、X(旧Twitter)をメインフィールドに、K-POP関連ニュースや証券会社のアナリストレポートなどをビジネス的視点で解説している。
NewsPicksの取材協力や動画番組出演の経歴あり。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課
向野 文乃(むかいの あやの)
2020年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課(2020~2022年)、岐阜貿易情報センター(2022~2025年)を経て、2025年8月から現職。