未来志向の新たな日韓産業連携の可能性を探る新たな日韓連携に向けた3つの提言
韓国外国語大学融合日本地域学部 李昌玟学部長に聞く
2026年2月17日
ジェトロでは2025年度に、政治に左右されない新たな協力分野について探求し、議論する「未来志向の日韓ビジネス研究会」を立ち上げ、全5回の研究会を開催してきた(本特集「日韓経済関係は「一方通行」から「双方向」へ」参照)。本稿では、同研究会の座長を務めた韓国外国語大学融合日本地域学部の李昌玟(イ・チャンミン)学部長に日韓連携の現状、新たな日韓関係に向けた提言および研究会の総括などを聞いた(インタビュー実施日:2026年1月16日)。

日韓経済協力、3つの構造的な課題・限界が存在
- 質問:
- 2025年は日韓国交正常化60周年の節目の年だった。この60年間で日韓の経済協力はどのように変化したのか。
- 答え:
- 1965年の国交正常化以降、日韓の経済協力は資金協力から技術協力、さらに通貨協力に変化してきた。協力の中身は変わったものの、共通して、政府主導の日本から韓国への一方的な協力が行われたといえる。その結果、日韓の間には、垂直的な分業関係が形成され、韓国からみれば慢性的な対日貿易赤字の状態が継続してきた。しかし、2010年代から日韓の経済協力は変化を見せ始めた。これまでの「鵜飼(うか)い経済(注1)」が変容し、韓国の対世界輸出が増えても日本からの輸入は増えず、いわゆる垂直的な分業関係から水平的な分業関係に変化した。2020年代以降は、世界のサプライチェーンが低コスト・高効率重視から弾力性・安定性重視に変化し、米中の覇権争いの中で保護主義が台頭する中で、日韓は多国間体制が弱体化する外部要因の影響を受けることになった。産業面では、半導体や人工知能(AI)などの先端技術産業へパラダイムシフトし、日韓はともに内需市場に限りがあることから、規模の経済効果が働かない問題に直面した。このような流れから、日韓は標準・規格を合わせることで、国際競争力を向上させ、グローバルサウスなど新興市場での販売拡大を目指す時代になっている。
- 質問:
- 変化しつつある日韓経済関係は、どのような課題・限界を抱えているか。
- 答え:
- 日韓は経済協力をすることでベネフィットがあるものの、構造的な限界が3点存在する。
- 1つ目は、弱体化する直接貿易・投資と分業構造の制約だ。2010年代から中国が中間財のハブとして台頭する一方、韓国は素材・部品の国産化を推進した結果、日韓貿易が水平的関係に変換した。これにより、日韓の直接貿易・投資が減少し、日韓経済協力の意義が希薄化している。
- 2つ目は、経済安全保障問題と協力リスクだ。2019年の日本の半導体素材輸出管理の運用見直し以降、日韓の間でも経済安全保障が主要課題になった。日本は2022年に経済安全保障推進法を制定し12品目を重要物資として指定し、2023年には特定社会基盤事業者を選定した。個人的には、その延長線上に2024年のいわゆる「LINEヤフー問題(注2)」があり、今後も日韓が産業協力・経済協力をする中で、常に経済安全保障が問題になると思料している。
- 3つ目は、トランプ変数だ。第2次トランプ政権により対米求心力と対米遠心力の2つの力が同時に強くなっている。その中で日韓が協力するケースと、競争するケースが想定できる。4つのケースの詳細は以下のとおりだ。
-
- ケース1:
対米求心力が強まる中で、日韓が協力できるケース。例えば、アラスカ液化天然ガス(LNG)開発や小型モジュール炉(SMR)共同開発などで日韓が同時に米国に投資をするケース。 - ケース2:
対米遠心力が強まる中で、日韓が協力できるケース。例えば、グリーントランスフォーメーション(GX)やCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)などにより米国の存在感が低下する中で、日韓がミドルパワーとして世界貿易秩序を再構築し、一緒にリードするケース。 - ケース3:
対米求心力が強まる中で、日韓が競争するケース。例えば、自動車と鉄鋼分野で米国市場をめぐって日韓が競争するケース。 - ケース4:
対米遠心力が強まる中で、日韓が競争するケース。例えば、半導体とAI分野で日韓双方が米国に関係なくソブリンAI(注3)を重視し、自国内にエコシステムを作ろうとするために、日韓協力が難しくなるケース。
- ケース1:
- 質問:
- 日韓の経済協力も重要だが、共通で抱えている社会的な課題での協力も重要と思料するが、どのようなことができるのか。
- 答え:
- 日韓が社会的課題で協力するためのよい方法は、正直なところないと思う。例えば、数学ができない学生と、英語ができない学生の間では、互いに自分が得意な分野を相手に教えることができる。しかし、日韓はそのような関係ではなく、少子高齢化、地方消滅など、同じ課題を抱えており、教えあうことができない状況だ。ただし、日本が30年間、韓国が十数年間行ってきた高齢化対策などについて、意見交換や実証を行うことで、予想外の結果が導出できる可能性もある。また、日韓が協力して、高齢者制度に関する共通認証、医療サービスの共有などを通じ、市場やビジネスチャンスの拡大を図ることができる。利用者側もどこでもサービスを受けることができるようになるなど利便性が拡大する。
日韓はデジタル貿易協定を通じ、新産業分野の協力促進を図るべき
- 質問:
- 課題・限界を乗り越え、新たな日韓協力関係を作るためにはどのようなことが必要なのか。
- 答え:
- マクロ的な観点から大きく、「日韓デジタル貿易協定の締結」「日韓(米)標準・規格協力フォーラムの創設」「日韓青年ホワイトカラー労働市場の統合」の3つの必要性を提言したい。
- まず、日韓デジタル貿易協定の締結。このテーマは、個人的に2年前から主張している。日韓の経済協力は従来の製造業中心からデジタルサービス型の取引に急速にシフトしており、コンテンツ、ゲーム、クラウド、AI、プラットフォーム分野で国境を越える取引が拡大している。企業間では設計や研究開発(R&D)データ、サプライチェーン管理、AI学習用のデータの移転が日常化している。デジタル貿易とデータの活用は、日韓経済協力の中核分野になっている。もちろん、韓国がCPTPPに加入すれば解決できるものだが、加入には時間がかかる。先に進める現実的な選択肢として、日韓のデジタル貿易協定があり得る。米国がCPTPPから離脱した際、日本は多国間枠組みの空白を埋めるため日米デジタル貿易協定を別途、締結した。デジタル分野は、関税よりもルール整備の即効性が高い分野であるため、CPTPPを待たずに日韓で合意可能な分野からアプローチする必要がある。日韓デジタル貿易協定が締結されれば、データの移転活用に関する法的予見可能性が高まり、企業活動の不確実性が低減され、AIやクラウド、スタートアップ分野での国境を越えた協力が促進される。デジタルサプライチェーン構築の制度的な基盤を形成するためにも、日韓のデジタル貿易協定をまず結ぶべきだ。
- 質問:
- 二つ目の提言の「日韓(米)標準・規格協力フォーラムの創設」とは。
- 答え:
- 半導体、AI、水素などの新産業分野においては、これから標準規格が市場形成を左右すると予想され、技術開発とともに標準規格の主導権を確保することが、市場先行の鍵となる。標準を主導した国や企業は、認証制度を通じ、国際市場で優位な立場を確立できる。とりわけグローバルサウス市場では、技術と規格認証を一体化したかたちでの展開が競争力を左右する。日中韓では標準協力の対話枠組みが存在するが、日韓あるいは日米韓を軸にして新産業分野を横断的に扱う標準協力フォーラムは存在しない。特に半導体、AI、水素といった分野では、個別分野での協議は存在しても、戦略的に標準形成を強調する場は限定的で、国際標準化の場における連携は必ずしも十分とはいえない。このようなことから、まず日韓を中心に、必要に応じて米国も含め、重点分野を絞った標準規格協力フォーラムを設置する必要がある。日韓が技術協力の段階からルールや標準の形成を主導的に行うことで、新産業分野において戦略的パートナーシップが構築できる。
- 質問:
- 三つ目の提言の「日韓青年ホワイトカラー労働市場の統合」とは。
- 答え:
- まず、日韓の若年雇用を巡る非対称な構造を理解する必要がある。韓国では若年層の失業率が全年齢層の失業率を大きく上回る状態が長期化している。一方、日本は少子高齢化の進行により、人手不足が慢性化しており、それを主因とする倒産も増加している。恒常的なミスマッチが顕在化しているといえる。
- 近年、韓国を留学先として選ぶ日本の若者が増加しているが、韓国での在留資格の移行・更新が非常に煩雑で難しく、学業と就職を一本のキャリアとしてつなげにくいのが現状だ。事実上、E7ビザ(特定活動ビザ)を取ることは非常に難しい状況だ。これにより、卒業してもほとんど韓国内で就職はできず、日本に帰らざるを得なくなる。韓国企業側も、外国人のホワイトカラー人材を中途・新卒採用する経験も制度もないため、外国人ホワイトカラー、主に日本人の採用・配属・評価の運用システムを作る必要がある。このような状況を解決するため、日韓の若者ホワイトカラーを対象に、就学・就職、起業への円滑な移行を認める特別な枠組みを作ることを提言したい。この枠組みがあれば、日韓の若者が在学中のインターンや卒業後の就職を一体的に設計できる。ビザの更新や資格変更に伴う不確実性を大幅に低減でき、人材の移動と定着を促進する。また、中長期的には、ヨーロッパのシェンゲン協定を参考に、若いホワイトカラー層の自由な移動を可能にする制度を作ることも必要であろう。日韓の間でビザや在留資格なしで自由に若者人材が移動でき、就学・就職・起業において国境を越えた選択ができる環境を整備する必要がある。
- 質問:
- 3つの提言において日本政府およびジェトロに期待する具体的な役割は。
- 答え:
- まず、デジタル貿易協定関連だ。日本ではデジタル貿易赤字がインバウンドの黒字を上回り、課題になっている。日本が強みを持つデジタルコンテンツと韓国が強みを持つデジタルプラットフォームを結合すると、さまざまなビジネスチャンスが生まれ、問題を一部解決することができる。しかし、現行の日韓デジタル貿易は、民間セクターによる自由な取引ができないため、承認の権限を持っている政府や公的セクターの役割が極めて重要だ。
- 標準・規格協力フォーラムの創設と関連して、同フォーラムの創設に向けて日韓政府・企業同士の話し合いの場を公的セクターが提供することが考えられる。多様な産業分野からの要望を公的セクターがまとめるかたちを想定している、特に、中国が先行していない水素自動車、バイオなどの新産業・先端産業分野を優先的に取り扱うべきだ。
- 日韓青年ホワイトカラー労働市場の統合においては、意外に少ない両国の就業関連情報を提供し、企業に両国人材採用の機運作りを働きかけるべきだ。また、就活ビザの導入など、ビザ問題の解決も検討すべきだ。
- 質問:
- 3つの提言は、新産業分野、標準・規格分野、人的交流分野における日韓協力と理解した。そのほか、サプライチェーンの観点で重要鉱物分野における日韓協力の可能性や提言は。
- 答え:
- 重要鉱物分野の日韓協力はかなり難しい面がある。日韓は中国のように資源から完成品まで作るバリューチェーンができていない。また、日韓は重要鉱物を保有しておらず、技術のみを持っており、協力には限界があろう。つまり、日韓の間には、資源の供給者がなく、需要者のみがある構造だ。もう1つの問題は、重要鉱物は二重用途(注4)であるため、例えば、日韓が戦闘機や戦車などの防衛産業分野で協力したいと仮定した場合でも、協力範囲が限定される。
- 質問:
- 最後に研究会の総括および新たな発見とは。
- 答え:
- 研究会では、現場でビジネスを展開している方々からの問題意識を聞くことができ、研究を中心としている自分には新たな発見が多かった。研究会から得られた教訓を自分なりに整理しており、今後の研究や執筆活動に活用していきたい。
- 略歴
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李昌玟 (イ・チャンミン)
東京大学大学院経済学研究科修了、経済学博士。 -
2012年、東京工業大学(現 東京科学大学)社会工学科助教授。
2014年、韓国外国語大学融合日本地域学部および国際地域大学院日本学科に着任。助教授、副教授を経て、現在は教授を務めている。その間、一橋大学経済研究所客員研究員、ブリティッシュ・コロンビア大学客員教授を歴任。
2024年より韓国外国語大学韓日政策研究センター長。
2025年より韓国外交部政策諮問委員、ならびに韓国国家安保室諮問委員を務めている。主な著作に『今一度、日本精読』、『アベノミクスと低温恐慌』などがある。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ソウル事務所
李 海昌(イ ヘチャン) - 2000年から、ジェトロ・ソウル事務所勤務。本部中国北アジア課勤務(2006~2008年)を経て、現職。






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