未来志向の新たな日韓産業連携の可能性を探る日韓スタートアップ協力の可能性と課題
SERVE ジン・ホンギュ本部長に聞く

2026年2月20日

ジェトロでは2025年度に、政治に左右されない新たな協力分野について探求し、議論する「未来志向の日韓ビジネス研究会」を立ち上げ、全5回の研究会を開催してきた(本特集「日韓経済関係は「一方通行」から「双方向」へ」参照)。本稿では、同研究会の中で取り上げたテーマの1つであるスタートアップ分野における韓国の特徴、日韓それぞれの政策の比較、日韓での連携可能性に向けたヒントなどを提示する。日韓のスタートアップ企業への支援を手掛ける有限会社SERVEのジン・ホンギュ氏に話を聞いた(インタビュー実施日:2026年1月21日)。


ジン・ホンギュ氏(同氏提供)

韓国のスタートアップは海外志向が強い、特に米国・日本は関心が高い

質問:
韓国のスタートアップの現状は。
答え:
韓国のスタートアップ投資額は2015年に3兆円だったが、2023年には3倍以上に増加し、投資が拡大傾向にある。起業数も増加しており、2015年の約350万社から年平均2~3%増加し、2024年は約480万社が起業した。分野としては、人工知能(AI)、バイオ、SaaS(Software as a Service)、コンテンツに投資が集中し、全体の50%以上を占める(注)
最近は海外進出も活発化している。シリーズAからBのスタートアップが資金調達を目指す際には海外展開を基本条件とするため、日本、米国などさまざまな国・地域への展開を望む企業が増加している。
韓国の政策で注目すべきものとして「超格差スタートアップ1000+(プラス)」がある。ディープテックを国家成長の原動力として育成するため、AI、ロボット、半導体、宇宙、バイオなど12の重点分野を対象に、研究開発、海外進出、規制緩和などを組み合わせてパッケージで支援する。海外展開に対しては、政府・地方自治体・政府系金融機関による支援プログラムも拡充されており、特に日本と米国については国ごとのパッケージが準備されている。
2024年時点の韓国のユニコーン企業は24社だ。内訳を見ると、半数以上が電子商取引(EC)プラットフォームなどBtoCビジネスであり、BtoBビジネスを手掛けるユニコーンは比較的少ない。そのため、韓国ではBtoBの育成がより重視される傾向にある。
質問:
韓国のスタートアップ企業が日本進出に関心を寄せているということだが、その際の進出形態や課題は。
答え:
韓国のスタートアップが日本に進出する際、大きく3つの段階に分けられる。短期的には代理店経由の間接的な進出で、シリーズAの企業や消費財、ITサービス分野の企業が多い。中期的には日本法人の設立で、BtoCプラットフォーム企業に多い。長期的にはジョイントベンチャー(JV)の運営となるが、日本の大手企業から誘われて設立する企業が多い。最近は、日本法人やJVの設立から入るケースも見られ、進出方式は多様化している。
韓国企業が日本市場で直面する課題は、(1)日本企業独特の意思決定プロセス、(2)言語・書類・コミュニケーションの壁、(3)概念実証実験(PoC)に係るコストやリードタイム、(4)データアクセス制限、(5)規制・セキュリティーに係る手続き。特に(3)が大きな課題で、無償PoCの要求が多い上にその期間も3~6カ月と長くスタートアップ側の負担が大きい。
事例から考察するに、日本への進出は「運営・手続き」が勝負だ。日本ではPoCを重視するため、実施のためのプロセスの設計が必要で、日本語対応や現地に精通した人材・パートナーを確保した上で、PoCによってレファレンスを獲得することが求められる。
質問:
逆に、日本のスタートアップ企業に、韓国進出に関心を持ってもらうための方法は。
答え:
海外進出先の選定には、ベンチャーキャピタル(VC)の影響が大きい。スタートアップ側に韓国への関心があっても、より大きい市場を目指してほしいというVC側の要望が反映されやすい。韓国に関心を持ってもらうためには、韓国側によるメリットの提示が必要。釜山などの地方大学にVCが存在するが、このような地方大学やそのVCと日本側のVCが連携し、交流の場を作ることで、日本側のVCの資金が韓国市場に向かう可能性があるだろう。
確かに韓国の市場規模は小さいものの、韓国の大手企業への納入実績がグローバルな展開に繋がる可能性は高いだろう。例えば、素材・部品分野などで日本が強い製造、先端技術を持つスタートアップが、韓国の大手財閥系企業からの投資を受けることでグローバルに販路が拡大した事例もある。このような視点を持てば、韓国進出のメリットの大きさを感じてもらえるのではないか。
また、韓国は距離が近く、文化も似ている。日本語人材も多い。大きな市場に進出する前のテスト地域として考えることもあり得るのではないか。
韓国内のスタートアップイベントで日本のスタートアップに対して、このようなメッセージを発信しつつ、韓国の大手財閥系企業と直接交流できる場を作ることが重要だろう。

地方間のスタートアップ交流が期待されるが、多くの課題が存在

質問:
日韓それぞれ、スタートアップに対して支援を強化しているが、支援制度の特徴は。
答え:
日本の特徴としては、(1)検証を重視する長期的な支援、(2)書類やコンプライアンスなどの手続き重視、(3)長期的な視点での成長を見込んだ安定性重視の3点が挙げられる。
韓国の支援は、もっぱら予算・資金重視だ。多様なプログラムや資金支援の体制を素早く整えてきてはいるが、支援を受けた後の現場での実践や定着には課題が残る。代表的なものとして、TIPS(民間投資主導型技術創業支援)があるが、審査を通過したスタートアップに対しアクセラレーションプログラムと政府からの技術開発資金などが提供される。
韓国の制度は、直接的な支援による事業成長促進、短期集中型(1年程度)で、資金・制度中心の支援メニューが多い。
日韓を比較すると、検証を重視する日本と、成長速度や資金調達を重視する韓国とで特徴は違うが、それぞれの良さを組み合わせることで、さらに支援の可能性が広がるのではないか。
質問:
ジェトロでも、日韓の地方におけるスタートアップ交流に向けた取り組みを行っているが、地方間協力の可能性は。
答え:
最近、韓国を含む海外のスタートアップが日本の地方都市で実施されるオープンイノベーションや実証実験に応募するケースが増加している。具体的には、製造業・観光(インバウンド)・小売業の分野におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)、コンテンツやIP(知的財産)による地方都市の広報連携などが挙げられる。
例えば、日本の鉄鋼・セメント関連企業に対し韓国のスタートアップがプロセス最適化のソリューションを提供した事例や、九州の商業施設と韓国のAI動画生成企業がインバウンド客のデータ収集で連携した事例がある。これらの成功事例には共通して、日本語対応可能なメンバーや現地でサポートするパートナーの存在がある。
日本の地方都市における制約ポイントとしては、外国企業の受け入れ経験不足、言語・実務コミュニケーションの難しさ、デジタル人材不足、実証実験のための予算不足、ビジネス文化の違い(意思決定の長さと稟議(りんぎ)文化)、関連情報やデータの不足、PoC環境の限界(実証実験後に契約まで進まず、横展開ができないなど)などが挙げられるだろう。
名古屋であれば自動車関連、沖縄であれば観光関連など、地方都市の強みが活かせる産業分野で、事業規模や資本規模がある程度大きい企業と連携することなどが、初期段階では重要となる。最初から小さい企業に行ってしまうと横展開が難しくなり単発で終わりやすい。
質問:
スタートアップ分野における日韓連携の課題は。
答え:
5つの課題を申し上げたい。主に、韓国のスタートアップが日本の大企業や自治体などと連携する場合の課題について説明する。
1つ目は、実証実験のコストが大きいこと。日本の大企業や自治体の意思決定には実証実験が必須だが、韓国のスタートアップ側の費用負担が大きい。自治体による実証実験の資金援助もあるが、多くの場合はスタートアップ側の赤字となる。レファレンス獲得のために赤字覚悟の投資が求められる状況。
2つ目は、データアクセスへの厳しい規制。日本側の法規制や社内調整の影響で、実証実験のためのデータアクセス手続きのみで2~3カ月かかる。その結果、スケジュールの遅延、データ利用範囲の縮小などが頻繁に発生する。
3つ目は、契約・法務・IPに係る条項が日韓で一致していないこと。韓国のスタートアップは契約書に関する認識が甘い一方で、日本の大企業・自治体は契約関係に非常に厳しく手続きに時間がかかる。韓国のスタートアップが適応できるよう、支援の拡充が必要だ。
4つ目は、担当者の理解度と言語の問題だ。韓国のスタートアップの技術力が高いことは理解されても、日本側の海外スタートアップとの協業経験不足、英語や韓国語での実務対応の困難さ、韓国側の日本語人材の不足などによってコミュニケーションに時間がかかり、プロジェクト化するまで長期間かかってしまう。
最後は意思決定プロセスの違いで、社内での合意形成プロセスを重視する日本に対して、韓国のスタートアップはキャッシュフローへの意識が強い。この認識の違いから衝突が起きやすい。
質問:
課題克服に向けたご提案があればお聞きしたい。
答え:
3つの提案を挙げる。
1つ目は、海外スタートアップ向けのPoC費用支援だ。具体的には、PoCによってレファレンスを獲得するためのファンドを、日本と韓国の共同出資により組成し資金援助できれば、韓国のスタートアップ側の負担軽減に繋がる。
2つ目は、DX特化型のプロジェクトマネジャーを拡充すること。特に、日本の地方企業や自治体にはDXの専門人材が少ない。支援機関で専門人材を育成し、海外スタートアップとの協業を望む企業・自治体に派遣することで、プロジェクトの質を向上させることが可能となるだろう。
3つ目は、韓国のスタートアップ向けのファストトラック制度の設置だ。日本の自治体の実証実験支援に参加する場合、手続き・条件が自治体ごとに異なり申請が非効率的だ。ジェトロなど支援機関にファストトラックを設け、申請手続きを簡素化すれば、地方での協業はさらに進むだろう。
また、日韓のスタートアップ関係者からの意見として、スタートアップビザ取得企業へのインセンティブの拡大やビザ発給可能オフィスの拡大、日本人採用に係る諸経費の支援なども聞かれた。

注1:
韓国ベンチャーキャピタル協会(KVCA)「2023年国内ベンチャー投資およびファンド形成の動向」より。本文に戻る
略歴
有限会社SERVE 本部長 ジン・ホンギュ氏
2016年 大韓貿易振興公社(KOTRA)に入社し、消費財・ITソリューションを担当
2021年 九州大学大学院にてMBA取得、日韓技術スタートアップ環境について研究
2022年 韓国スタートアップのTECHLABSにて日本事業開発を担当。
2024年 家業である有限会社SERVEに合流
執筆者紹介
ジェトロ・ソウル事務所
橋爪 直輝(はしづめ なおき)
2023年4月、経済産業省からジェトロ・ソウル事務所に出向。経済調査チーム所属。