未来志向の新たな日韓産業連携の可能性を探る高まりつつある日韓協力の必要性
阪南大学経営学部 千島智伸教授に聞く

2026年2月17日

ジェトロでは2025年度に、政治に左右されない新たな協力分野について探求し、議論する「未来志向の日韓ビジネス研究会」を立ち上げ、全5回の研究会を開催してきた(本特集「日韓経済関係は「一方通行」から「双方向」へ」参照)。本稿では、研究会で副座長を務めた阪南大学経営学部の千島智伸教授に日韓連携の現状・課題、今後のあり方などを中心に話を聞いた(インタビュー実施日:2026年1月26日)。


千島智伸氏(同氏提供)

適切な競争は市場の活性化や持続的成長に寄与

質問:
日韓企業は世界市場で厳しい競争を繰り広げているが、この点について、どう評価しているか。
答え:
競争それ自体は悪いものではない。むしろ、市場が成長段階にあるときには、適度な競争が市場拡大の原動力になる。複数の企業が異なる技術や価格、デザインで製品を投入することで選択肢が増え、消費者の期待が高まり、新たな需要が生まれる。スマートフォンやEV(電気自動車)市場が短期間で拡大した背景にも、こうした競争による製品の多様化があった。しかし、市場が成熟段階に入ると状況は変わる。成長が鈍化する中で過度な競争が起きると、利益率の低下や研究開発投資の制約を招き、産業全体の競争力を弱めてしまう。特に設備投資や技術開発に資金を要する産業では、競争一辺倒ではなく、標準化やインフラ共有など特定領域に集中した協調行動が戦略的に重要になる。
この「競争と協調のバランス」を象徴する例として、コカ・コーラとペプシの関係が挙げられる。両社は100年以上にわたり世界の飲料市場で激しく競い合ってきたが、新フレーバーの開発、パッケージデザイン、あおり広告戦略、スポーツイベントとの連携など、互いに刺激を与え合いながら市場そのものを拡張してきた。実際、炭酸飲料市場が成熟した後も、無糖飲料、機能性飲料といった新カテゴリーを生み出し続けている。このように、市場の発展段階に応じて競争と協調を使い分けることが、長期的な成長には欠かせない。競争と協調は対立するものではなく、市場を次の成長段階へ導くための両輪だ。
質問:
これまでの日韓協力について、どう評価しているか。
答え:
日韓間では今までも協力関係があったものの、これは可変的要素に影響を受けたもので、抜本的な協力の構造は欠けていたとみている。そのために、協力関係がうまくいかなかったり中断したりすることがあった。協力の構造が弱かった理由は、次の3つが挙げられる。1点目は、日韓の役割分担に関する設計意識に変化がなかったことだ。例えば、「日本は上流工程、韓国は下流工程」といった分業概念が長く存在し、状況に応じた分業の役割が定められなかった。2点目は、協力が制度化されていなかったことだ。そのために、危機が発生した際にルールが存在しないためリカバリーができなかった。3点目は、小さくても相互理解を蓄積する行動が不足していたこと。そのため、何らかの問題が生じると両国の協力意識が崩れるか、頓挫してしまう。日韓が協力関係を構築するという意味は、「仲良くすること」よりも、「関係が崩壊しにくくなる状況を作り出すこと」だ。

日韓協力が必要だという認識が徐々に定着

質問:
現在の日韓協力の必要性について、どのように認識しているか。
答え:
日韓は米中対立、サプライチェーン分断など、経済安全保障上の共通の課題に直面している。こうした環境の中で、今や、日韓は連携した方がよい、連携しないリスクの方が大きい、という認識が広がってきたとみている。例えば、EVのモーターに使われるネオジム磁石を共同購買する合弁会社が今後設立される可能性は十分にあると考えている。また、協力の必要性を連携のメリットに置き換えて考えると、例えば、研究機関でいえば、基礎研究の連携は難しい領域だが、事業化研究の連携は多様な方法が見えてくる。ネオジム磁石でいえば、合弁会社内で代替材料の開発に取り組むことなども挙げられる。
経済協力は、本来、2カ国に限定して捉えるのではなく、連携過程で新しいプレーヤーが参加できる構造を持つ方が、市場規模は大きくなる。ただし、2カ国連携は目標とするゴールが共有しやすいので連携スピードは速まる。こうしたジレンマに向き合い対応する手段を考えていくことで「日韓協力の必要性」が理解できる。
質問:
今後、日韓が協力すべき分野として、どのような分野が挙げられるか。
答え:
協力すべき分野として、少なくとも次の3領域が挙げられる。
第1に脱炭素・エネルギー転換分野だ。エネルギーの安全運用、規格設計、長期インフラ構築は、1カ国独自よりも日韓で協力する方が、費用・時間効率の面で効果が出やすい。さらに、水素・アンモニア供給網、洋上風力、次世代電力網といった分野での「机上の構想」に終わらない協力には、両国に共通して存在する総合商社の調整能力が欠かせない。単独では実現が難しい大規模案件では、資源開発・金融・プロジェクト管理の知見と建設・製造・運用能力を組み合わせることでシナジー効果が期待できる。それは、将来的にASEANやインド太平洋地域へ展開する際の「アジア標準」を構築することにもつながると思う。
第2に資源分野だ。この分野は、日韓が協力しなければ互いに脆弱(ぜいじゃく)性を抱え続ける、いわば「サプライチェーンのアキレス腱(けん)」ともいえる領域だ。両国ともエネルギー・鉱物資源の多くを海外に依存しており、国際情勢の変化によって供給が途絶すれば、産業全体が深刻な影響を受ける。従来、資源分野では調達先を巡る競争が中心だったが、それではリスクの本質的な解消にはつながらない。日韓が連携する最大の意義は、「資源を奪い合う関係」から「供給網をともに設計する関係」へ転換しやすい点にある。共同開発、共同備蓄、リサイクル技術での協力は、コスト削減だけでなく、供給の安定性そのものを高める効果を持つ。
第3に気候変動分野だ。集中豪雨、洪水、干ばつ、農業生産への影響といった問題は、日韓両国が既に現実として直面している課題であり、今後さらに深刻化することが確実視されている。これらは1国単独ではデータ量も実証環境も限られるため、技術開発の速度アップに限界がある。農業ドローン、気象センサー、実験装置、試験方法、データ形式などを日韓で共用すれば、洪水予測モデルや水管理の人工知能(AI)の精度は飛躍的に向上する。異なる気象条件や地形で得られたデータを統合することで、技術の汎用(はんよう)性と信頼性が高まるからだ。こうした協力は、国内の対策にとどまらず、アジア全体の気候適応モデルとして展開する可能性も持っている。
少なくとも協力すべきと表現したのは、「協力しなければ効率も安全性も高まらない」という現実があるからで、コスト・リスク・時間を現実的に削減するための合理的な選択肢となるためだ。

日韓協力進展のためには、制度・資金・人材の3領域の整備が必要

質問:
今後、日韓協力が進展していくためには、どのような条件を整える必要があるか。
答え:
制度・資金・人材(資源)の領域で制度設計することを提案したい。分かりやすい表現で「三方よし」という発想があるが、政府にとっては制度の安定と安全保障、企業にとっては投資回収と成長機会、研究者・人材にとっては挑戦とキャリア形成、この3領域が「互いに影響する仕組み」であれば、協力推進は加速すると考えている。
制度については、「協力はするが、どこまでが共有可能なのか」「どの情報は管理対象なのか」といった線引きがあいまいなままでは、現場は動けない。だからこそ、日韓の担当機関が実務レベルで合意できる、運用ルールの共通化が必要だ。
資金については、官民ファンドの活用を研究している両国の知的グループの成果やノウハウを活用すること。特に重要なのは、スタートアップの初期投資が自然に集まる仕組みだ。「どの段階の技術を対象にするのか」「失敗をどう評価するのか」「民間投資が入りやすい基準になっているか」、こうした点を明確にした投資基準の設定ができるかが、スタートアップ参入のスピードを左右する。
人材について、これから求められるのは「交流」ではなく「循環」だ。循環を活かせる仕組みを構築すること。「研究者や技術者が大学から企業へ、企業から研究機関へ、そして国境を越えて再び戻ってくる」といったような人材循環を実現するためには、労働市場の流動性向上が不可欠だ。さらに、こうした循環過程に税制面のインセンティブを組み込んで考えるべきだ。移動すると不利になる状況では、誰も動かないからだ。
以上をまとめると、日韓協力進展のカギは、(1)制度は「動かせるルール」に、(2)資金は「挑戦しやすい設計」に、(3)人材は「循環を前提」に、この3点を同時に進めることだ。
質問:
日韓協力が広く普及していくためには、どのようなことが必要か。
答え:
制度や予算を用意すれば物事が動く、という時代は既に終わっている。なぜなら、人は急には変わらないからだ。そこで、「どう変えるか」ではなく、どうすれば自然に広がるか、つまり普及させる仕組みづくりについて提案したい。
早稲田大学の内田和成名誉教授の研究によると、イノベーションは技術単体では起きず、社会の構造、制度、人の認識が重なったときに初めて広がる。この研究をベースにして、次の3つの視点を強調したい。
第1に、「今、活用できる技術と制度は何なのか」、既に存在しているのに、十分に使われていないものは何か、という視点だ。
第2に、「社会構造の中で、ボトルネックになっているものは何か」という視点だ。制度なのか、慣行なのか、組織文化なのか。ここを見誤ると、どれだけ優れた政策や技術を投入しても、途中で止まってしまう。
第3に、これが非常に重要なポイントだが、「人の心理は変わり始めているのか、あるいは変わる兆しが見えているのか」だ。人は制度だけでは動かない。「意味」を感じたときに初めて動く。例えば、ある技術が環境対策として導入された結果、企業の競争力が高まり、働く人の誇りが生まれ、消費者に「気づき」が生まれる。この「気づき」が消費者に起き、企業に起き、そして日韓両国民に共有されることで、行動は少しずつ変わっていく。つまり、「個の変化 → 集団の変化 → 社会の変化」という流れを意識的に設計する必要がある。

成長ステージごとに日韓協力のかたちを変えるべき

質問:
産業の成長ステージごとの日韓協力のあり方についての考えは。
答え:
「最初から全てを一緒にやろうとしない」ことが大事だ。むしろ、成長ステージごとに協力のかたちを変えていく方が現実的で持続可能だ。この考え方が現実的だと表現したのは、産業や技術の多くが「一気に完成する」のではなく、「競争→共有→選別→市場化」という段階を踏んで成熟してきた歴史と一致しているからだ。最初から全面協力を目指すと、利害調整が先に立ち、技術も制度も前に進まなくなる。逆に、成長段階に応じて協力の深さと範囲を変えることで、企業の競争意欲と政府の政策目的を両立させることができる。
実際に、半導体、液晶、通信などのデジタル関連の産業は、成功した国際連携では「段階的な協力設計」によって伸びてきた。だからこそ、日韓協力においても、この成長ステージ別の発想は理念ではなく、実務ベースで考えられる現実的な方法だといえる。
質問:
最後に、本研究会での議論も踏まえ、今後の日韓連携に関する提言があればお聞きしたい。
答え:
日韓連携の新しい形として「共創」を強調したい。資源地政学、エネルギー安全保障、AI半導体開発が同時進行で激化する現在、各国や企業が「自前主義」に過度に拘る戦略は、必ずしも合理的とはいえなくなっている。全てを国内で完結させようとすれば、設備投資・人材確保・研究開発に膨大なコストがかかり、技術進化のスピードにも追いつけない。実際、AI半導体やインフラの分野では、単独投資による限界が顕在化しており、米国は自国に有利な条件を前提に同盟国との分業と連携を推進している。重要なのは、どこまでを自前で持ち、どこから他国・他社と組むかという「階層的な分業設計」だ。技術や産業を垂直に一体化するのではなく、価値連鎖のどの段階で接続するかを戦略的に選ぶことが、現代の競争力を左右する。この視点に立てば、日韓の協力関係が意味あるものとなるためには、次の3点が欠かせない。
第1に、継続的な対話と調整を行うためのコミュニケーション・プラットフォームを持つことだ。個別企業の連携ではなく、政府・企業・研究機関が常時情報を共有できる場を設けることで、投資や研究の重複を防ぎ、協力のタイミングを逃さずに済む。
第2に、単独で進めることへの固執を避けることだ。国家戦略としての自立性と、産業としての効率性は必ずしも一致しないという見方を持った方が良い。むしろ、連携によってリスクを分散し、投資回収の確度を高める合理的なケースが増えている。
第3に、新しい市場や価値創出の可能性が見えるかどうかを重視することだ。既存市場の奪い合いではなく、連携によって初めて生まれる市場を見据えることが、協力を持続させる条件となる。
異なる強みを適切な段階で結びつけ、新しい価値を生み出すこと。この過程で、政府が税制優遇制度を用い、企業の連携を後押しすることもありえよう。政治的合意に加え、経済合理性に基づいた連携を制度として設計することが、共創を実体あるものにすると付言しておきたい。
略歴
千島 智伸(ちしま・とものぶ)
阪南大学経営学部教授
プロフィールなどについては、阪南大学ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
中央大学大学院ビジネス科学専攻修了(博士・経営管理)。
サムスン電子、および、日本アンテナにおいて、製品開発・調達・貿易実務・サプライチェーン管理など、製造業の中核業務に長年従事した実務家研究者。
1998年、サムスン日本法人に入社。輸出貿易業務の支援、日本企業との取引推進を担当し、日韓間における製造業取引・調達管理の実務を経験。
2012年以降は、サムスン電子本社にてグローバル・サプライチェーン業務に従事し、国際分業体制の設計、調達ネットワーク管理、サプライチェーン最適化(現地組織化)に関する実務経験を積む。
2015年以降は、ICT製品の新規開発、製品普及プロセスの企画、開発購買・技術調達など、製品ライフサイクル全体に関わる業務を担当した。
2022年より阪南大学経営情報学部准教授、2026年より同大学経営学部教授。
大学では「BtoBマーケティング」「ICTビジネス」「イノベーション論」などを担当し、実務と理論を架橋する教育・研究を行っている。専門分野は、プラットフォームビジネス、製品開発論、サプライチェーン・エコシステム。
特に、製品開発・調達・貿易物流形成の現場情報を理論化することで、日韓ビジネスの成長性・発展性を高める実践的な方法論の構築を専門としている。近年は、半導体・製品プラットフォーム領域を中心に、企業間連携、サプライチェーン強靱化、ビジネス・エコシステム形成研究に取り組んでいる。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課
百本 和弘(もももと かずひろ)
ジェトロ・ソウル事務所次長、海外調査部主査などを経て、2023年3月末に定年退職、4月から非常勤嘱託員として、韓国経済・通商政策・企業動向などをウォッチ。