未来志向の新たな日韓産業連携の可能性を探る日韓相互理解と人材の循環に向けた課題と展望
延世大学行政大学院権聖主兼任教授に聞く
2026年2月17日
ジェトロでは2025年度に、政治に左右されない新たな協力分野について探求し、議論する「未来志向の日韓ビジネス研究会」を立ち上げ、全5回の研究会を開催してきた(「本特集「日韓経済関係は「一方通行」から「双方向」へ」参照」)。研究会で委員を務めた延世大学行政大学院の権聖主(コン・ソンジュ)兼任教授にインタビューを実施し、日韓連携の現状・課題、および同氏が韓国で精力的に活動する人材育成分野に焦点を当て、今後の日韓連携について話を聞いた(インタビュー実施日:2026年1月22日)。

「お互いを分かったふり」の日韓
- 質問:
- これまでの日韓関係に対する認識は。
- 答え:
- 世代別、年齢別、性別で認識に差はあるかもしれないが、韓国と日本は、経済的な発展度合い、社会システムや生活環境の質、安全性の高さなどを見ると、ともに世界をリードする先進国だ。特に、若い世代を中心に、相手国の文化も好意的に受け取る傾向が強まるなど、双方への親近感が高まっている。また、国内外で抱える問題・課題を共有していることも1つの特徴だ。激動の国際社会の中で、経済安全保障面での協力が必要になってくる。類似した文化を共有しながらも、競争力の高い分野が異なっていることから、相互補完的な関係性の構築も可能と考える。
- 質問:
- 現状を踏まえた日韓関係の課題は。
- 答え:
- 先に述べたように、日韓は潜在的にさらなる協力の余地がある。しかし、現状では相性の良さが十分に活かされていない。その理由の1つとして、日韓双方の実務レベルでの理解不足があると考える。
- 日韓の年間交流人数は1,000万人を大きく超え、双方への直行便がある空港は30カ所以上だ。K-POPや日本のアニメも、いわずもがな双方で楽しまれている。日常的な文化交流を通して、表面的な親近感は日々育まれている。一方で、相手国の制度、産業構造、日常の交流では触れることの難しい文化の深層などへの理解は、十分に進んでいないといえる。韓国には、「スイカの皮なめ」ということわざがある。これは「中身を知らずに、外だけ味わう」「外だけ見て知っているふりをする」という意味だ。今の日韓は、まさにその関係といえるのではないだろうか。隣国であるからこそ、お互いを知っていると勘違いし、中身は「タブー領域」という認識がある。こうした外面のみの理解は、ビジネスに悪影響を及ぼす。例えば、自国で売れたものがそのまま相手国で売れるだろうという考えは、日韓のビジネスでしばしば起こる勘違いだ。日韓の連携促進には、スイカの皮の中、つまりは日韓両国が互いに理解できていない領域まで深く理解しあうことが必要だ。互いへの好感度が高まっている今だからこそ、人的交流の記録的数字に満足せず、「違いに対する理解」を目指す交流と、理解した上でのビジネス交流の活発化に進むべきだ。
日韓ビジネスを支えるための人材育成
- 質問:
- 日韓での理解が外面にとどまっている現状から、新たな日韓連携を生み出すには、具体的に何が必要か。
- 答え:
- 現状と課題への認識を踏まえた「新たな日韓連携」に向けた提言を3つしたい。1つ目に、日韓双方を理解するための「企業人(ビジネスパーソン)教育プラットフォーム」を提案する。
- 兼任教授を務める延世大学は、「Gateway to Korea(GTK)」「Gateway to Japan(GTJ)」というプログラムを運営している。先に開始したGTKの設立から携わり、10年継続しているが、プログラム参加者と接する中で、日韓はお互いを深く知らないと肌で感じている。先の課題への認識でも述べたとおり、知っているという錯覚から、間違った情報を基盤にビジネス展開するケースも見られるなど、事業展開や人的交流の拡大にとって錯覚は障壁となる。また、言語の壁も非常に高いと感じている。
- 「日韓の相互理解による経済発展は公益である」という認識のもと、公的機関による教育から始めてみることを提案したい。内容は、インターネットでも得られるような一般論では「違いに対する理解」は進まないため、現場寄りの両国の内側を知り得る情報が望ましい。オンライン講座などで広く開放することで、多くのビジネスパーソンの目に触れ、現場における理解促進に寄与するのではないだろうか。
- 質問:
- 1つ目の提言は、「Gateway to Korea(GTK)」「Gateway to Japan(GTJ)」の運営経験から来たものと思料する。同プログラムの具体的な取り組み内容と設立の経緯は。
- 答え:
- 2016年に在韓日系企業の駐在員向けにGTKを設立した。韓国に日本からの駐在員は多数存在するが、ビジネス文化の違いから、現地従業員との間には壁があると考える。駐在員が韓国について理解を深める機会を作ることで、日本人と韓国人のお互いへの理解促進につなげたいという思いから設立した。
- GTKでは、延世大学内外の有名講師や各分野の著名人が、韓国でのビジネス成功に必要不可欠な韓国の政治・社会・文化・経済について、これまでの歴史と現況、そして今後の展望を講義するほか、韓国独特の社会風土に適したビジネス戦略を、事例を用いて説明している。また、講義外での交流の場も複数設けることで、各分野のキーパーソンや現地の経営者ネットワークの構築をサポートしている。
- 韓国の他の私立大学にも、GTKのようないわゆる最高位教育課程は存在するが、自校の教授によるものがほとんどだ。対してGTKでは、自校の教授が登壇することは極めて少なく、所属先に関わらず、各テーマに最も適した人材による講義を提供している。また、参加者の要望を踏まえながら講義内容および講師のアップデートを続けていることも重要な特徴だ。アップデートによって取り扱うテーマの幅は広がっている。例えば、近年はK-POPなど若者文化にも触れる講義を実施するなど、時宜に合ったテーマを選定している。
- GTKでの経験や、近年日本でのビジネス活動を希望する韓国人が増加していることを踏まえ、2024年から、日本でのビジネス展開を目指す韓国人向けのプログラム「Gateway to Japan(GTJ)」も開始した。GTK・GTJ双方の生徒の交流の場を設けるなど、日韓のビジネス現場での交流活発化を積極的に支援している。
日韓労働市場の流動性向上に向けた取り組み
- 質問:
- 2つ目の提言について伺いたい。
- 答え:
- 2つ目に、日韓での人材の流動性向上のための「認定インターンシップ交換制度」を提案したい。
- まず、問題意識を共有したい。日韓の労働市場を見ると、日本では労働力不足、韓国では慢性的な就職難が続いている。韓国人が日本企業に就職するような事例も散見されるものの、日韓のビジネス現場における情報、また、それを知る機会は多いとはいえず、結果として労使間でミスマッチが生じやすい。本来であれば相互補完的な関係性を築けるにもかかわらず、そうなっていないのが現状だ。
- このような背景を踏まえ、相手国でのビジネス経験を積むための制度・仕組みが必要だと考える。特に、正式採用の前に企業と求職者が相互理解を深められる場があれば、企業は人材の適性を見極めることができ、求職者は企業ひいては相手国の就業環境を知ることができる。現在、これに近い制度としてワーキングホリデー制度が存在している。しかしながら、就業はホスピタリティー分野でのアルバイトなどが主流であり、正式就職の前に企業を知る機会としては不十分だろう。
- そこで、正式雇用前の就労機会提供の手段として、期間限定で韓国の青年の日本での就労を支援する「認定インターンシップ交換制度」を提案した。1年間のインターンシップを前提に、韓国人を採用したい日本企業と、日本での就労を希望する韓国の青年をマッチングすることで、ワーキングホリデーでは難しかった就職の支援が可能になる。また、マッチングによって、大都市圏のみならず地方都市の有力企業にも韓国人材を送り込むきっかけになるだろう。
- 質問:
- 3つ目の提言は。
- 答え:
- 3つ目に、日韓のマルチレベルでの人材交流イベントを提案したい。
- 延世大学での活動として、GTK・GTJのほかに、日韓青年未来会談という日韓の学生が意見交換を行う交流イベントを主催している。そこで多くの学生と出会うが、韓国に滞在する日本人留学生が米国で開催されるボストンキャリアフォーラム(注)に参加するために自費で渡米している事例を複数見た。なぜ、韓国で勉強しているにもかかわらずボストンに行くのか、という疑問を持った。多数企業が集まること、英語圏のイベントの方が優秀な学生が集まると思われていること、など理由は複数聞こえた。一方で、ボストンまで渡航したものの成果を得られない学生も多くみられ、韓国に留学した日本人学生たちが、優秀であっても伝統的な就職活動の中で就職機会を制限されていると感じた。また、日韓の学生や求職者が、両国の企業でどれほどのチャンスがあるのかを正しく理解できていないのではないかと感じた。
- これを踏まえて、日韓で就職したい人材と、彼らを雇用したい企業が一カ所に集まるキャリアフォーラムを実施することを提案したい。韓国で学び、韓国語が流暢(りゅうちょう)な日本人学生を求める日韓企業、また、日本語を学び日本に関連する仕事をしたい韓国人の青年を探している日韓企業が一堂に会する機会ができれば、彼らの可能性は大いに広がるだろう。キャリアフォーラムの参加対象は、青年に限る必要はない。例えば、駐在経験があるエリート人材と、彼らを経営者層として採用したい企業のマッチングの場にもなり得るなど、マルチレベルでの人材交流が生まれることが期待される。
- 人材と企業の交流を行った場合、どこにニーズがあるのかをマトリクス表でまとめてみたい(表参照)。横軸は、就職イベントの参加者を韓国人・日本人の2つに分け、さらに居住希望場所で分けている。縦軸では、参加企業の国籍と所在場所で分ける。整理してみると、求職者と企業いずれもストライクゾーンは複数ある。該当する企業や学生で絞ってイベントを実施することで、さらなる効果が期待できる。
-
表:マルチレベル人材交流イベントを通じたニーズマッチングの例
参加者:青年・離職・企業人 注:○はニーズマッチングする組み合わせ。参加企業 項目 韓国人 日本人 韓国生活希望 日本生活希望 韓国生活希望 日本生活希望 韓国企業 韓国所在
(日本ビジネスあり)◯ ◯ 日本所在 ◯ ◯ 日系企業 韓国所在 ◯ ◯ 日本所在
(韓国ビジネスあり)◯ ◯ 注:○はニーズマッチングする組み合わせ。
出所:権聖主氏提供 - 質問:
- 「未来志向の日韓ビジネス研究会」を終えての所感は。
- 答え:
- 日韓連携についてさらに議論していきたい。例えば、日韓の違いはどこで生まれているのか、など根幹の部分について議論することを提案したい。
- また、知らないだけで日韓の連携が進んでいる分野は多数存在し、成功している事例もある。既に起こっている日韓の連携事例についても情報発信していくことで、相互理解がさらに深まるのではないだろうか。
- 略歴
- 権聖主(コン・ソンジュ)
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- 延世大学 政治外交学科 卒
- 延世大学 大学院 政治学科 修士 卒
- KUMHOASIANA グループ本部 戦略企画チーム 勤務
- 東京大学 大学院 国際政治学 博士 卒
- (株)リブコンサルティング チーフコンサルタント
- 在韓日系企業 駐在員向けの最高位課程、延世Gateway to Korea ローンチング 2016年
- 日本進出韓国企業向けの最高位課程、延世Gateway to Japan ローンチング 2024年
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中国北アジア課
向野 文乃(むかいの あやの) - 2020年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課(2020~2022年)、岐阜貿易情報センター(2022~2025年)を経て、2025年8月から現職。






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