中南米における米国通商政策による影響-ビジネス機会と脅威米国の関税引き上げがブラジル経済・政治に与えた影響

2026年1月26日

米国のドナルド・トランプ大統領は4月2日、全ての国から輸入される全ての品目に対して10%の相互関税(ベースライン関税)を導入した(2025年4月3日付ビジネス短信参照)。さらに7月30日、ブラジルからの輸入に対して40%の追加関税を課す大統領令を発令したことで、追加関税率は合計で50%となった(2025年8月1日付ビジネス短信参照)。なお、鉄鋼、オレンジジュース、木材パルプなど一部品目は対象外となったが、ブラジル国内への影響は小さくない。本稿では、ブラジル企業・産業界および政府・政治の対応と課題を整理する。

ブラジルと米国の貿易への影響

2025年(1~11月)の貿易統計によれば、ブラジルの対米輸出額は前年同期比6.7%減少した。品目別に見ると、減少の要因が米国の関税措置に起因するとは限らない。例えば、相互関税および追加関税の対象外である「石油及び歴青油」が前年同期比23.1%減少した。他方、関税引き上げ後でも輸出額が増加した品目もある。コーヒーと牛肉は、11月まで相互関税および追加関税の課税対象であったが、輸出額は前年同期比でそれぞれ6.8%、20.8%増加した(表1参照)。

表1:ブラジルの対米主要品目別輸出額(通関ベース)
輸出(FOB)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)注:1および8は、4月5日以降相互関税、8月6日以降追加関税の対象外。4、5、6、7、10は8月6日以降追加関税の対象外。5は9月8日以降相互関税の対象外。3、4、9、10は11月13日以降相互関税の対象外。3、9は11月13日以降追加関税の対象外。
品目 2024年(1~11月) 2025年(1~11月)
金額 金額 構成比 伸び率
1.石油及び歴青油(原油に限る。) 5,535 4,258 12.4 △ 23.1
2.その他の鉄又は非合金鋼の半製品 2,556 2,390 7.0 △ 6.5
3.コーヒー 1,660 1,773 5.2 6.8
4.非合金銑鉄 1,316 1,320 3.9 0.3
5.木材パルプ 1,450 1,136 3.3 △ 21.7
6.飛行機その他の航空機(15,000kg~) 947 1,107 3.2 16.9
7.飛行機その他の航空機(2,000~15,000kg) 836 996 2.9 19.1
8.その他の石油及び歴青油(原油を除く。) 662 986 2.9 48.9
9.牛肉 788 952 2.8 20.8
10.オレンジジュース 593 706 2.1 19.1
合計(その他含む) 36,652 34,204 100.0 △ 6.7

注:1および8は、4月5日以降相互関税、8月6日以降追加関税の対象外。4、5、6、7、10は8月6日以降追加関税の対象外。5は9月8日以降相互関税の対象外。3、4、9、10は11月13日以降相互関税の対象外。3、9は11月13日以降追加関税の対象外。
出所:開発商工サービス省統計を基にジェトロ作成

石油及び歴青油の対米輸出減少要因について、ブラジル米国商工会議所(AMCHAM)は同会ウェブサイト(10月8日付)で、米国における国内生産拡大や製油所閉鎖に伴う需要減少などを指摘した。石油・エネルギー情報サイト「RIGZONE」(11月10日付)が引用したJPモルガン・チェースのレポートでは、10月1日から11月12日にかけての米連邦政府閉鎖の影響で、航空管制官の欠勤などにより航空便のキャンセルが増え、石油需要が減少した。

牛肉については、2024~2025年の月次データを見ると、上半期に対米輸出額が増加した。4月2日に導入された10%相互関税の影響は限定的だったとみられる(図1参照)。米紙「ニューヨーク・タイムズ」(5月10日付)によれば、米国内の牛肉需要は旺盛で、相互関税導入後もブラジル産牛肉の購入を継続した事業者が多かった。一方、米国大手格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ・グローバル(S&P、10月26日付)は、7月30日に導入された40%の追加関税の影響は大きく、米国でブラジル産牛肉の輸入は大幅に減少したと報告している。

図1:2024~2025年の月別対米牛肉輸出額の推移(1~11月)
1月は2024年が9.100万ドルで2025年が8,000万ドル。2月は2024年が5,300万ドルで2025年が1億500万ドル。3月は2024年が2,100万ドルで2025年が1億6,500万ドル。4月は2024年が1,800万ドルで2025年が2億1,400万ドル。5月は2024年が4,200万ドルで2025年が1億1,100万ドル。6月は2024年が8,000万ドルで2025年が6,300万ドル。7月は2024年が6,500万ドルで2025年が5,600万ドル。8月は2024年が6,500万ドルで2025年が3.400万ドル。9月は2024年が9,000万ドルで2025年が3,100万ドル。10月は2024年が1億1,700万ドルで2025年が4,300万ドル。11月は2024年が1億4,500万ドルで2025年が5,000万ドル。

出所:開発商工サービス省統計を基にジェトロ作成

コーヒーについては、2025年の対米輸出額は国際価格の上昇(注1)により前年同期比で増加したが、輸出量は前年の680万袋(1袋=60キログラム換算)から456万袋へ減少した。2024年の対米輸出量は例年と比較しても多かったため、2025年も同数量を維持することは難しいとみられていた(8月12日付現地紙「グローボ」)が、7月末に米国による40%の追加関税が導入されると、対米輸出量がさらに減少している。関税引き上げが米国向け輸出減に拍車をかけたことが推測できる〔ブラジルコーヒー輸出者評議会(Cecafé)の報告書(11月12日発表)〕(図2参照)。

図2:2024~2025年の月別対米コーヒー輸出量の推移(1~11月)
単位は「袋」で、1袋60キログラムと換算している。1月は2024年が70万袋で2025年が57万袋。2月は2024年が66万袋で2025年が53万袋。3月は2024年が68万袋で2025年が47万袋。4月は2024年が60万袋で2025年が59万袋。5月は2024年が70万袋で2025年が47万袋。6月は2024年が51万袋で2025年が38万袋。7月は2024年が49万袋で2025年が34万袋。8月は2024年が36万袋で2025年が30万袋。9月は2024年が56万袋で2025年が30万袋。10月は2024年が64万袋で2025年が35万袋。11月は2024年が92万袋で2025年が27万袋。

注:1袋60キログラム換算。
出所:開発商工サービス省統計を基にジェトロ作成

ブラジルと世界の貿易への影響

追加関税の影響により対米輸出が著しく減少した品目もあった。ただ、ブラジルを代表するシンクタンクのジェトゥリオ・バルガス財団(FGV)は、「データ上、関税引き上げによるブラジル総輸出への短期的な悪影響は見られない」と指摘している(11月19日発表レポートによる)。

対米輸出額の減少は他国向け輸出の増加で相殺され、ブラジルの総輸出額は前年同期比で増加した。開発商工サービス省の統計では、中国、アルゼンチン向けの輸出額の増加が顕著だ(表2参照)。

表2:ブラジルの主要国・地域別輸出額(通関ベース)
輸出(FOB)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2024年(1~11月) 2025年(1~11月)
金額 金額 構成比 伸び率
1.中国 89,190 92,912 29.2 4.2
2.米国 36,652 34,204 10.8 △ 6.7
3.アルゼンチン 12,482 17,080 5.4 36.8
4.オランダ 10,956 10,704 3.4 △ 2.3
5.スペイン 9,386 8,126 2.6 △ 13.4
6.メキシコ 7,211 7,140 2.2 △ 1.0
7.シンガポール 7,316 6,514 2.0 △ 11.0
8.カナダ 5,747 6,487 2.0 12.9
9.チリ 6,230 6,339 2.0 1.7
10.インド 4,709 5,909 1.9 25.5
合計(その他含む) 312,165 317,822 100.0 1.8

出所:開発商工サービス省統計を基にジェトロ作成

対米主要輸出品目であるコーヒーおよび牛肉に焦点を当てると、相殺効果が確認できる(表3、4参照)。両品目については、7月30日導入の40%追加関税の影響が大きかったが、8~11月の統計では、コーヒーはドイツ、イタリア、日本向け、牛肉は中国、ロシア、フィリピン、メキシコ向けの輸出額増加により、対米減少分が相殺された(注2)

表3:2024~2025年(8~11月)のブラジルの国別コーヒー輸出額(通関ベース)
輸出(FOB)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2024年(8~11月) 2025年(8~11月)
金額 金額 構成比 伸び率
1.ドイツ 884 917 18.0 3.7
2.米国 696 475 9.3 △ 31.8
3.イタリア 399 448 8.8 12.3
4.日本 205 362 7.1 76.6
5.ベルギー 415 331 6.5 △ 20.2
6.トルコ 141 203 4.0 44.0
7.オランダ 139 201 4.0 44.6
8.中国 47 195 3.8 314.9
9.カナダ 98 143 2.8 45.9
10.スペイン 142 143 2.8 0.7
合計(その他含む) 4,624 5,088 100.0 10.0

出所:開発商工サービス省統計を基にジェトロ作成

表4:2024~2025年(8~11月)のブラジルの国別牛肉輸出額(通関ベース)
輸出(FOB)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2024年(8~11月) 2025年(8~11月)
金額 金額 構成比 伸び率
1.中国 2,372 3,946 65.9 66.4
2.ロシア 99 223 3.7 125.3
3.フィリピン 144 204 3.4 41.7
4.メキシコ 58 189 3.2 225.9
5.米国 418 158 2.6 △ 62.2
6.エジプト 102 150 2.5 47.1
7.イタリア 86 146 2.4 69.8
8.オランダ 34 96 1.6 182.4
9.サウジアラビア 50 80 1.3 60.0
10.アラブ首長国連邦 75 64 1.1 △ 14.7
合計(その他含む) 3,868 5,989 100.0 54.8

出所:開発商工サービス省統計を基にジェトロ作成

貿易相手先の多角化を試みるブラジル連邦政府

米国が相互関税および追加関税を導入して以降、ブラジル連邦政府は影響の最小化策として、貿易相手先の多角化の必要性を一貫して強調している。特に、2024年12月に最終合意に至ったEUメルコスールFTAを重視している(注3)。ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領は、6月4~9日にかけてフランスを公式訪問し、同FTAに反対してきたエマニュエル・マクロン大統領に対し、急ぎ署名することの必要性を訴えた。

その後、ルーラ大統領は、9月5日に欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相(9月11日)、スペインのペドロ・サンチェス首相(9月19日)とそれぞれ電話会談し、EUメルコスールFTAの署名を再度要請した。さらに、11月10~21日にベレン市で開催された国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)を前に、同月5~7日にベレン市でフォン・デア・ライエン委員長を含む欧州首脳と面談し、FTA署名について協議した。

加えて、2019年8月以降中断していたカナダとメルコスール間のFTA交渉を重要課題に位置付けた。6月15~17日にかけてカナダで開催されたG7サミットに招待されたルーラ大統領は、カナダのマーク・カーニー首相と面談し、経済協力の重要性を強調した。10月9日には、メルコスール・カナダFTA交渉の再開に向けて両側の交渉担当者の話し合いが行われた。

さらに、ルーラ大統領は3月に日本とベトナム、5月にロシアおよび中国、10月にインドネシアとマレーシアを相次いで訪問し、各国首脳との面談でメルコスールとのFTA交渉開始、またはブラジルとの貿易パートナーシップ拡大を求めた。ジェラウド・アルキミン副大統領兼開発商工サービス相も、6月にナイジェリア、8月にメキシコ、10月にインドを訪問し、同様の方針を示している。

輸出企業支援措置の導入

ブラジルは8月13日、米国の相互関税および追加関税への対応として、輸出企業支援プログラム「ブラジル・ソベラーノ」を導入した(2025年8月21日付ビジネス短信参照)。主な措置として、米国向け輸出企業を対象に雇用維持を条件とした低金利融資制度を創設した。予算規模は400億レアル(約1兆1,200億円、1レアル=約28円)で、申請は9月12日に開始された。

制度運営を担った国立経済社会開発銀行(BNDES)(注4)は、12月11日に同プログラムによる融資合計が162億レアル(約4,536億円)に達したと発表。内訳は、製造業124億レアル(約3,472億円)、商業20億レアル(約560億円)、農畜業10億レアル(約280億円)、鉱業2億レアル(約56億円)。1,131件の融資のうち、810件は零細・中小企業向けであった。

一方、同プログラムを規定した大統領暫定措置令(MP)は120日以内に法律化されず、12月11日に失効した。現地紙「バロール」(11月18日付)によれば、連邦政府および与党議員は、米国による関税引き下げへの期待や、支援政策による財政負担への懸念から暫定措置令の法律化を支持しなかった。

政治的な緊張の高まりと緩和

トランプ大統領は7月30日、40%の追加関税を導入する理由の1つとして、ブラジル連邦最高裁判所(STF)によるジャイール・ボルソナーロ前大統領に対する「政治的迫害」が、法治・人権を脅かし、米国の安全保障への脅威となっている点を挙げた(注5)。ボルソナーロ前大統領は、2022年大統領選挙結果の覆しを企てた罪などで起訴されていた。同日、米財務省および米国務省は、ボルソナーロ前大統領の裁判のまとめ役を務めたアレシャンドレ・デ・モラエス判事が政治的動機に基づく職権乱用で人権侵害に関与したとして、グローバル・マグニツキー人権問責法に基づく金融制裁の対象に追加した(2025年8月1日付ビジネス短信参照)。

ルーラ大統領は同日付リリースで、追加関税を「正当化できない措置」、モラエス判事への制裁を「許し難い介入」として批判。現地紙「フォーリャ」(8月8日付)によると、ルーラ大統領は財務省に対し、トランプ政権への報復措置の可能性を検討するよう指示し、両国関係は緊張を高めた(注6)。一方、ブラジル産業界は報復ではなく、冷静な交渉や対話を一貫して求めた(2025年7月24日付ビジネス短信参照)。

その後、9月23日にニューヨークで開かれた国連総会において両首脳は短く言葉を交わし、トランプ大統領は総会演説で「(ルーラ大統領と)相性が良かった」と述べ、今後の首脳会談の可能性に言及。10月6日には電話会談を行い、トランプ大統領は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で「非常に良い」会談だったと投稿した。10月26日には、ASEAN首脳会合のために訪問していたマレーシアで、両首脳の初の対面会談が行われ(2025年10月29日付ビジネス短信参照)、ルーラ大統領は米国の関税引き下げやモラエス判事への制裁解除を求めた。

11月14日、トランプ大統領は肥料、牛肉、オレンジジュース、コーヒーなどの農産品に加え、石油製品や鉱区関連部品を含む約200品目を10%相互関税の対象外とする大統領令を公布した(2025年11月17日付ビジネス短信参照)。その後、11月20日には、コーヒー、牛肉、果物などの農産品を含む249品目を40%追加関税の対象外とする大統領令を発表したことに加え(2025年11月25日付ビジネス短信参照)、12月12日には、米政府はモラエス判事への金融制裁を解除した。

両首脳間の関係の改善と、相互関税および追加関税の対象外品目拡大の背景については、ブラジル側の報道では外交交渉の成果を評価する声がある。一方、関税引き上げで米国のインフレが上昇局面に入り、2026年に実施予定の中間選挙をにらむトランプ大統領にとって有権者の支持率上昇のために関税緩和が必要だったとの見方が有力だ。

今後の課題

アルキミン副大統領兼開発商工サービス相は11月21日の記者会見で、ブラジルから米国への輸出における高関税対象品の割合が、以前は輸出額のうち36%を占めていたが、現時点では22%に低下したとしつつ、「われわれの仕事は終わっていない。魚、はちみつ、ブドウなどの食品、機械、エンジン、靴などの工業品はなお対象であり、対象外化に向けた努力を継続する」と述べた。ルーラ大統領は現地経済紙「バロール」(12月18日付)のインタビューで、「15日おきにトランプ大統領へ直接メッセージを送り交渉している。米国との解決が得られなければ報復措置もあり得るが、可能な限り回避し、冷静で丁寧な関係を維持したい」と発言した。今後も両国の交渉の行方が注目される。


注1:
米国のビジネス専門メディアCNBC(9月4日付)によれば、コーヒー生産国であるブラジルおよびベトナムの天候不順により、2025年にコーヒー国際価格が上昇傾向を継続。 本文に戻る
注2:
なお、コーヒーの輸出量は8~11月に全体として減少。 本文に戻る
注3:
報道によれば、メルコスールとEUは12月20日のメルコスール首脳会談に併せて協定文書署名を目指していたが、直前でイタリアも反対の立場を示したことで、1月に延期となった。 本文に戻る
注4:
BNDESは、ブラジルで長期事業資金の供与を担う政策金融機関。 本文に戻る
注5:
STFは4月11日にボルソナーロ前大統領の裁判を開始。9月11日に有罪判決(禁錮27年3カ月)を言い渡した。 本文に戻る
注6:
4月11日、外国による貿易制限に対する報復措置を可能とする法律15122号が公布。輸出先国による高関税などの不当な制限に対し、ブラジルも同様の措置を導入可能とする(2025年4月7日付ビジネス短信参照)。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・サンパウロ事務所
エルナニ・オダ
2020年、ジェトロ入構。現在に至る。
執筆者紹介
ジェトロ・サンパウロ事務所
中山 貴弘(なかやま たかひろ)
2013年、ジェトロ入構。機械・環境産業部、ジェトロ三重、ジェトロ・サンティアゴ事務所、企画部海外地域戦略班(中南米)、内閣府などを経て、2023年7月からジェトロ・サンパウロ事務所勤務。