中南米における米国通商政策による影響-ビジネス機会と脅威米国との良好な関係がアルゼンチンの経済再生を後押し

2026年1月26日

アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領(以下、ミレイ大統領)は、米国のドナルド・トランプ大統領(以下、トランプ大統領)が2024年11月5日の大統領選挙で勝利した後に最初に会った外国の指導者だ。両氏の政策アプローチには、例えば、ミレイ大統領の経済は自由主義的、トランプ大統領のそれは保護主義的といった違いはあるが、反体制的イデオロギーを一にすることで強固な個人的信頼関係を有する。この関係は、米国による異例ともいわれるアルゼンチンへの経済的支援につながっているが、米国にもアルゼンチンとの良好な関係には地政学的メリットがあると考えられる。

米国はアルゼンチンの重要な経済パートナー

米国は、アルゼンチンの主要貿易相手国のひとつだ。ブラジル(全体の19.3%)、中国(同16.9%)に次ぐ3番目(同8.9%)だ。2025年1~11月のアルゼンチンの対米貿易額を見ると、輸出額は72.4億ドル、輸入額は61.4億ドルで11億ドルの貿易黒字となっている(図1)。2015年以降の二国間の貿易収支を見ると、2023年までは一貫してアルゼンチンの貿易赤字だったが、2024年、2025年(1~11月)は逆転した。その背景には、アルゼンチン国内で産地から需要地までの天然ガスの輸送インフラの整備が進み、輸入天然ガスの需要が縮小したことや、ディーゼル燃料の消費需要の減退などがある。

図1:アルゼンチンの対米貿易収支の推移
2025年に関しては1月から11月の累計値。2015年は-44億9,200万ドル、2016年は-25億2,300万ドル、2017年は-31億4,100万ドル、2018年は-34億8,600万ドル、2019年は-21億8,000万ドル、2020年は-11億200万ドル、2021年は-9億5,100万ドル、2022年は-34億5,000ドル、2023年は-29億6,500万ドル、2024年は2億5,600万ドル、2025年の1月から11月は10億9,900万ドル。

注:2025年は1~11月累計値。
出所:グローバル・トレード・アトラスからジェトロ作成

対米主要輸入品目は、火力発電、産業機械の燃料用途に用いられるディーゼル燃料、輸送インフラの未整備で国内供給の不足分を補う天然ガス、除草剤の中間材料である非ハロゲン化有機りん誘導体、衛星通信対応のデジタル送受信装置、ヒト用の免疫産品だ(表1)。

一方、対米主要輸出品目は、原油、金、アルミニウム、牛肉、ぶどう酒、天然はちみつだ(表2)。アルゼンチン産原油は軽質で、米国の製油所において重質原油と混合することで精製効率を高めるために使用されている。

表1:アルゼンチンの対米主要輸入品目(単位:100万ドル、%、ポイント)(△はマイナス値)
NCM 品目 2025年
1~11月
前年同期比
伸び率
増減
寄与度
271019 ディーゼル燃料 679 56.3 4.3
271111 天然ガス 351 △ 40.7 △ 4.3
293149 非ハロゲン化有機りん誘導体 165 △ 13.2 △ 0.4
851762 音声・映像・データ送受信装置 131 56.7 0.8
300215 免疫産品 123 11.4 0.2
870840 ギヤボックス及びその部分品 115 3.7 0.1
310559 鉱物性肥料及び化学肥料 106 74.7 0.8
283620 炭酸二ナトリウム 105 29.7 0.4
300490 医薬品 103 35.0 0.5
270112 歴青炭 95 △ 23.4 △ 0.5
合計 6,143 9.1 9.1

出所:図1と同じ

表2:アルゼンチンの対米主要輸出品目(単位:100万ドル、%、ポイント)(△はマイナス値)
NCM 品目 2025年
1~11月
前年同期比
伸び率
増減
寄与度
270900 石油及び歴青油(原油に限る) 3,037 75.5 22.5
71CCCC 貴石及び半貴石 550 △ 17.4 △ 2.0
999999 秘匿 488 374.6 6.6
76CCCC アルミニウム及びその製品 424 △ 19.6 △ 1.8
271012 軽質油及びその調製品 208 10.9 0.4
020230 骨付きでない冷凍牛肉 206 70.0 1.5
220421 発泡酒以外のぶどう酒 137 △ 19.3 △ 0.6
040900 天然はちみつ 125 2.6 0.1
27CCCC 鉱物性燃料 93 45.0 0.5
020130 骨付きでない生鮮・冷蔵牛肉 84 52.9 0.5
合計 7,242 24.9 24.9

出所:図1と同じ

アルゼンチンへの外国直接投資の状況を見ても、米国は重要なパートナーであることが分かる。2024年末日時点の国別直接投資額(ストック)を見ると、米国の直接投資額は309億5,100万ドルと、最も大きく、全体の17.3%を占めている(図2)。幅広い業種に投資しており、特に投資額が大きいのは、原油および天然ガスの採取と製造業の2つだ(図3)。

図2:国別直接投資額(2024年末、ストック)
米国17.3%、スペイン15.4%、オランダ11.9%、ブラジル7.7%、その他47.7%。

出所:アルゼンチン中央銀行

図3:米国の投資分野(2024年末、ストック)
鉱業(原油および天然ガスの採取)30.6%、鉱業(その他)7.5%、製造業20.6%、情報通信11.8%、卸売・小売業7.6%、金融仲介業(商業銀行など)6.7%、その他の金融仲介業(証券会社など)4.0%、その他11.1%。

注:数値は四捨五入しているため、合計が100%とはならない。
出所:図2と同じ

追加関税措置の影響は限定的か

米ドナルド・トランプ政権(以下、トランプ政権)は、2025年5月以降、アルゼンチン原産品に対して10%の追加関税を、米国向け主要輸出品目であるアルミ製品に対しては50%の追加関税を課している。2025年1~11月のアルゼンチンの対米貿易額は前年同期比で24.9%増加しており、追加関税措置により対米輸出が急減するといったことは起きていない。ただし、メルコスール対外共通関税分類番号(NCM)の76類(アルミニウム及び同製品)は、前年同期比19.6%減、増減寄与度は同1.8ポイント減となっている。また、アルゼンチン政府は2025年10月、仕向け地の輸入関税が45%以上の場合、アルミニウムの板・棒・線材、鉄鋼製品の輸出税を無税とする措置を導入しており、アルミ製品は追加関税措置の影響を受けている可能性がある。

ジェトロが2025年8~9月に実施した海外進出日系企業実態調査(中南米編)(注)において米国の追加関税措置の2025年営業利益への影響の有無をアルゼンチン進出日系企業50社に尋ねたところ、「マイナスの影響がある」の回答率は12%とメキシコ(48.9%)、ブラジル(22.9%)に比べて低かった。

現時点では、特定の輸出品目は追加関税措置の影響を受けているが、アルゼンチン経済や企業活動全体への影響は限定的といえそうだ。

追加関税措置の撤廃に向けて枠組み協定で合意

これまでのところ、追加関税措置の影響は限定的といえそうだが、ミレイ大統領は2025年4月、追加関税の対象除外に向けて、米国通商代表部(USTR)が2025年3月に「外国貿易障壁報告書(NTE)」を通じて発表したアルゼンチンの貿易障壁の早期撤廃を約束した。NTEは、アルゼンチンの貿易障壁について後述のとおり指摘した(参考参照)。このうち中古資本財やその他中古品の輸入規制を速やかに緩和したが、そのほかの項目については、両国が11月13日に発表した「相互貿易及び投資協定枠組みに関する共同声明」において、新たな枠組みのもとで取り組むことに合意した。USTRの指摘の有無に関わらず、ミレイ政権は、コストアップにつながる貿易障壁を順次廃止しており、米国企業や米国製品以外もその利益を享受している。現在、枠組み協定の協定文書の最終化に向けた作業が進められているが、共同声明は市場アクセスについて、米国がアルゼンチン産品に対する追加関税措置を撤廃する一方で、アルゼンチンは特定の医薬品、化学品、機械、情報技術製品、医療機器、自動車、広範な農産物を含む米国製品に優遇的な市場アクセスを供与すること、米国製品の輸入に対する統計税3%の課税を段階的に廃止することを約束しており、これらは米国製品に有利に働くとみられる。

参考:USTRが指摘したアルゼンチンの貿易障壁

  1. メルコスール加盟国の1つで内国貨物化された域外原産品を他の加盟国に再輸出する際、輸出先国で再度、関税が課税される。
  2. 消費目的の輸入品に3%の統計税が課税される。
  3. 商品輸入時に必要な、所得税の前払いについて輸入者への負担が大きい。輸出後の付加価値税の還付にも遅延が生じている。
  4. 多くの中古資本財の輸入が禁止されていることに加えて、輸禁対象外の中古品でも厳しい制限がある。中古・再生タイヤ、中古画像診断装置、中古自動車部品の輸入も禁止されている。再生医療機器の輸入は、輸入者が最終利用者(病院、医師など)である必要があるなどの条件が付され、輸入が難しい。
  5. 外貨による物品や財の購入に30%の所得・個人資産税が課税される。
  6. 輸入代金の支払いが依然として規制されており、前払いができず、取引先の信用供与を受ける必要があるなど余計な負担が生じている。
  7. 牛海綿状脳症(BSE)への懸念を理由に、2002年に米国産の牛および牛肉製品の輸入が禁止された。2018年に米国産牛肉の輸入は再開されたが、米国産の生きた牛の輸入は依然として禁止されている。
  8. アルゼンチン法の下で特許対象が大幅に制限されている。また、アルゼンチン政府が不正な商業利用や無許可についての長い審査プロセスの中で、受け取った未公開の試験データやその他のデータに対する保護が不十分。地理的表示(GI)の保護において透明性と適正手続きの確保も強く要請する。
  9. 偽造品、海賊版を取り締まるための現行の法体制と執行力が弱い。

出所:外国貿易障壁報告書(NTE)からジェトロ作成

ミレイ・トランプ両大統領の関係の地政学的意味

2023年12月に発足したアルゼンチンのハビエル・ミレイ政権(以下、ミレイ政権)は、国家の経済への介入を必要最小限とする方針を掲げる右派政権だ。同政権の外交政策は、米国とイスラエルを絶対的な同盟国とし、中南米地域では右派政権を好み、左派政権を嫌っているとの報道が目立つ。それ以外の国々との関係は、アルゼンチンに有益かどうかという価値観に基づいているとみられる。

ミレイ大統領は政権発足当初、政治、経済において支配的な既存勢力、伝統的勢力をカーストと呼んで強く批判したが、その反体制的なイデオロギーはトランプ大統領のそれと共鳴し、両者は強い信頼関係で結ばれている。

両者、あるいは両国の関係は、単にイデオロギーの共鳴だけでなく、双方に実利を伴うものとみられている。アルゼンチンにとっては米国との良好な関係は、制度化された二国間合意や法的枠組みによるものというより、ミレイ大統領とトランプ大統領の、あるいはその周辺を含む個人的関係に依存したもので、異例ともいえる米国からの支援を引き出している。米国はアルゼンチンがIMFに対して抱える債務問題への後ろ盾となるだけでなく、直接的な支援も行っている。2025年10月にアルゼンチンで実施された国会議員中間選挙を前に、米財務省がドル・ペソ相場に介入してペソを買い支え、200億ドル規模の通貨スワップ協定を締結して、為替の安定と国会議員中間選挙での与党の勝利に貢献した。

トルクァト・ディ・テラ大学のフアン・ネグリ教授によると、米国にとってアルゼンチンとの連携強化は、地政学的に重要な意味合いを持つと考えられる。アルゼンチンが持つ穀物、天然ガス、リチウムといった鉱物などの豊富な天然資源へのアクセスという経済的利益に加えて、アルゼンチンとの連携強化は、南米地域で中国に対する境界線を引き、南米地域の戦略的安定を確保することに意義があるという。アルゼンチンと中国は、過去10年以上にわたり、インフラ投資・エネルギー・通信分野で深い結びつきを持ってきた。アルゼンチンと中国の関係について、ネグリ教授によると、ミレイ政権は親米路線を明確にしているものの、対中関係を全面的な断絶ではなく選別的冷却へと転換している。アルゼンチンは、中西部のネウケン州にある中国の宇宙基地や一帯一路への参加は維持しつつ、新規の協力案件は政治的審査を厳格化し、特に軍事技術・通信インフラ・クリティカルインフラ分野では、中国企業の参入が事実上困難になっている。例えば、現在実施中の、河川輸送の重要インフラである「パラグアイ・パラナ水路」の浚渫(しゅんせつ)・航路整備の入札では、「国家が支配する法人や関連会社は入札不可」との条件が設定され、中国の国有企業の入札への参加が阻止されている。こうした状況は、中国企業との競争を回避できるという観点で、西側諸国の企業には有利に働くかもしれない。

対米関係に見るミレイ政権のリスクは何か

国会議員中間選挙前には敗色が濃かった与党の勝利を米国の異例の支援が後押ししたのは事実だろう。今日のアルゼンチンのマクロ経済の安定は、アルゼンチン政府のコミットメントによるものだが、米国やIMF、とりわけ米国の支援は、アルゼンチンの取り組みへの信認を補強するものとなっている。

ミレイ大統領とトランプ大統領の良好な個人的関係に基づく米国のアルゼンチンへの支援は、トランプ政権が有権者の支持を失い、将来、政権を追われるようなことになると、その継続、支援の内容、条件が変わる可能性がある点はリスクといえる。また米国には、トランプ政権のアルゼンチンへの支援に反発し得る勢力も存在する。大豆や畜産品で両国は競合することから、「競合国の輸出競争力を高める支援は自国産業の不利益」という論理で、生産者団体が政治的圧力をかけることも想定できる。

アルゼンチンは、現在の米国との良好な関係を利用し、財政規律を守りながら制度の透明性、規制の予見可能性を高め、市場の信認を得ることで投資を集め、経済を一層安定化させることが重要だろう。


注1:
詳細は、「2025年度海外進出日系企業実態調査(中南米編)」を参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ブエノスアイレス事務所
西澤 裕介(にしざわ ゆうすけ)
2000年、ジェトロ入構。ジェトロ静岡、経済分析部日本経済情報課、ジェトロ・サンホセ事務所、ジェトロ・メキシコ事務所、海外調査部米州課、ジェトロ沖縄事務所長などを経て現職。