中南米における米国通商政策による影響-ビジネス機会と脅威米通商政策の影響は限定的(ペルー)
対米関係とFTA網構築に注力

2026年1月26日

米国関税制度の方向性が見えてきたこと、ペルー国内消費が回復していることを背景にペルーで事業展開する国内外企業の戦略に大きな変更は見受けられない。一方、政府は米国との良好な関係を維持し、目立つことなく、自由貿易協定(FTA)による輸出先国の多様化で貿易戦争を乗り切る国づくりを進めようとしている。

好調なペルー経済

新型コロナ禍の影響と2023年に発生したエルニーニョ現象による打撃を乗り越えたペルー経済について、ペルー中銀、政府、各金融機関は2026年の経済状況を前向きに捉えている。実質GDP成長率についてペルー中銀は3.0%、経済財務省(MEF)は3.2%と予測している。また中銀の調査によるとペルー各金融機関の見通しの平均は3.0%となっている。

企業も景況感を良好と受け止める。ペルー中銀が2025年12月に発表した調査結果によると、今後12カ月間のペルー経済の見通しを算出した企業経済期待指数は、11月時点で64となった。この指数は中銀が企業経営者を対象に景況感を調査したもので50を上回ると経済状況を「好調」、下回れば「不調」とみていることを意味する。

また世界的に広がる貿易摩擦と関税障壁が自社の製品とサービスの需要に与える影響に関して、「需要が減る・大いに減る」と回答した企業は25%だった。一方、「増える・大いに増える」が9%、「影響ない」は67%で、合わせると7割以上の企業が影響は限定的と受け止めていることが明らかになった。

今後12カ月間に自社ビジネスに米国関税政策が与える影響については、「影響ない」との回答が61%でもっとも多かった。「やや影響する」が20%、「影響する」が11%、「大いに影響する」が8%だった。

ペルーへの海外直接投資については「減る・大いに減る」は9%だった。「増える・大いに増える」は4%で「影響ない」と回答した87%を合わせると9割以上が海外情勢を踏まえても海外直接投資は減らないと見ている。2025年11月には衣料品大手H&Mが首都リマに2,050平方メートルの大型店舗を設置した。12月にはスイスの建設資材世界大手のホルシム(Holcim)がペルーのセメント大手セメントス・パカスマヨ(Cementos Pacasmayo)の株式50.01%を約5億5,000万ドルで取得すると発表した。同社としては中南米地域で最大規模の投資で、今後、中南米地域の事業展開の礎とする。

企業経営者がペルーへの海外直接投資は減らないと見ている背景について専門家は、ペルー国内での競争激化を肌で感じているからだと指摘する。製造業で構成され産業・貿易、労働などの分野で発言力を有するペルー工業協会(SNI)のアントニオ・カスティージョ専務理事は2025年12月17日、ジェトロのインタビューに対し「ペルーは中南米域内で有数のマクロ経済安定国として認知されている。また、新型コロナ禍とエルニーニョ現象による打撃を経て国内市場は活況を帯びている。そのため業種や国を越えた競争が厳しくなっていて、ペルー企業は国内の同業者だけを見ていては勝負できなくなっており、自社の競争力強化に余念がない」と話す。

前述のペルー中銀の調査結果によると、回答企業の2024年売上額全体の33.5%が海外向けだった。国・地域別に見ると中南米地域向けが58.7%と最多、次いで米国が15.1%、欧州12.4%となっている。

中国からは大型投資も米国との関係維持に注力

中国企業のペルーでの動きが米国でも報道されるなか、ペルー政府は今後も米国の関税政策によるビジネスへの影響を最小限とするため、米国との良好な関係維持に注力する。

2024年11月、APECサミットのため中国の習近平国家主席がペルーを訪問した際に開港したチャンカイ港は、中国海運大手コスコが60%、地場系鉱業会社が40%出資している。コンセッション案件ではなくペルー政府は直接関与しない。しかし、米国ではチャンカイ港について、中国が将来的に軍事施設を設けるための布石ではないかとの見方を紹介する報道がでている。

ペルー政府が進めるアンコン工業団地(PIA)開発構想は、リマ首都圏にあるカジャオ港、リマ空港とチャンカイ港の中間に位置する場所で製造業の集積を図り貿易促進を狙うプロジェクトだ。投資促進庁(Proinversión)によると1,338ヘクタールの国有地を造成し、12億6,134万ドルの投資が見込まれる。生産省は2025年12月12日、中国系コンソーシアム(企業連合)が同案件を落札したと発表した。入札に関する政府の技術審査会の関係者はジェトロに対し「複数のコンソーシアムが入札に参加していたが、札入れ価格が高かったので印象に残っている」と話す。造成予定地とその周辺は未開発地域で基礎的インフラもないため、地場系コンソーシアムは地元の土地相場をベースに価格設定しており違和感のない価格だったが、破格の価格が提示されると歯が立たないだろうと感じたという。

一方で、ペルー政府は通商観光省(Mincetur)を中心に米国政府との対話を続けている。元通商観光相で駐米ペルー大使のアルフレド・フェレロ氏は、米国のドナルド・トランプ大統領が2025年11月14日に発表した農産品を相互関税の対象外とする大統領令(2025年11月17日付ビジネス短信参照)について、ペルー産アボカド、コーヒー、バナナなどの対米輸出にメリットが得られる一方、ブルーベリー、アスパラガス、ブドウなどの対象外品目について引き続き交渉を重ねる必要があるとの認識を示した(地元経済紙「ヘスティオン」2025年11月24日)。

また、ウゴ・デ・セラ外相は、米国のマルコ・ルビオ国務長官が2026年2月もしくは3月にペルーを訪問する予定であることを明らかにした(地元一般紙「エスプレソ」2025年12月16日)。セラ外相によると米国政府は国家安全に関わる問題に関心があり、ペルーとしては宇宙分野の協力に関心があるという。2024年に会談した米国のジョー・バイデン大統領とペルーのディナ・ボルアルテ大統領(いずれも当時)は、宇宙分野での協力で合意している(2024年11月19日付ビジネス短信参照

ある経済団体の関係者はジェトロに対し、ルビオ氏は重要鉱物、レアアース、物流といったサプライチェーンについてペルー側と意見を交わす意向があるとペルー政府関係者から聞いていると話した。

ペルー議会は2025年12月3日、米軍関係者が武器を保持してペルーに入国しペルーの軍と警察のキャパビルを行うことを承認した。承認の根拠となる議会決議第32526号によると、2026年に首都リマのみならず全国の軍事施設などで現地指導を行う計画だ。ペルーが麻薬撲滅、国際犯罪集団の取り締まり、国境管理などの対策を強化できれば、米国の国家安全上もメリットがある。

FTA拡大で貿易の多角化図る

MinceturはFTAのネットワーク構築による、輸出先の多角化を進めている。既に日本との二国間経済連携協定(EPA)、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)など23の協定を有し58の国・地域、輸出の9割をカバーしているが、さらにグアテマラ、香港、インドネシアとの協定が発効待ちとなっている。2025年8月に署名したインドネシアとの包括的経済連携協定(CEPA)が発効すれば、インドネシアからペルーに輸出している日系自動車メーカーの一部車種も恩恵を受けられる可能性がある。タイとの交渉は大詰めの段階に入っており、2026年には交渉妥結になるとみられる。また、インド、アラブ首長国連邦(UAE)、エルサルバドルとの協定交渉にも意欲を見せる。

大国に対し名指しで注文を付けることが難しいペルーは、米中対立のはざまで全方位外交とも言えるFTAネットワーク構築に注力する。

執筆者紹介
ジェトロ・リマ事務所長
石田 達也(いしだ たつや)
1995年、ジェトロ入構。ジェトロ沖縄など国内事務所のほか、1999年から2003年、2007年から2013年までペルーのジェトロ・リマ事務所に通算10年間勤務。企画部、農林水産・食品部などを経て、2024年6月から現職。