中南米における米国通商政策による影響-ビジネス機会と脅威2025年は対米輸出増、しかし品目によって明暗(チリ)
2026年3月4日
チリは、米国が南米諸国で初めて自由貿易協定(FTA)を締結した国だ。2004年の当該FTA発効以来、南米諸国の中で最も緊密な通商関係を構築してきた。チリの主要輸出品(銅、水産物、果実、木材など)に安定的な米国市場アクセスを保証し、対米輸出拡大を支える重要な制度基盤になっていたことになる。
一方、トランプ米政権は2025年4月、チリに10%のベースライン関税を導入した。両国間でFTAが締結されているにもかかわらず一部品目で追加コストを生じる事態を招き、輸出企業に不確実性をもたらしている(ただし、この措置はチリだけを対象としたわけではない。多くの貿易相手国に横断的に適用している)。
本稿では、米国の関税政策が2025年のチリの貿易動向に与えた影響を追う。あわせて、当地輸出企業や政府の対応策を紹介する。
2025年の対米輸出はむしろ増加
2025年のチリの対米輸出動向を見ると、輸出総額に大幅な落ち込みはなかった。むしろ前年比で14.1%増加している(図1参照)。
出所:チリ中央銀行
対米輸出全体を押し上げた要因の1つが、銅を中心とする鉱物資源だ。国際市況の回復や米国の安定的需要が、この品目の輸出を支えた。銅は、米国の製造業・インフラ・軍需分野に不可欠な戦略物資。そのため今回の追加関税措置の対象外となった。またチリから米国への銅関連製品の99.9%は銅カソードだが、銅カソードは2025年7月に発表された通商拡大法232条に基づいた銅への追加関税措置の対象外ともなった。このため、米国の関税措置が当地経済全体に及ぼす短期的影響は、ほとんどないと言える。
金や非金属鉱物も、国際価格が上昇し需要が増加した。そのため、2024年以前と比較して、2025年は輸出が増加している(図2参照)。
〔主要輸出品目のうち、増加傾向または横ばいのもの(2024~2025年)〕
出所:チリ中央銀行
関税の影響が出やすい品目の業界から懸念
対照的に10%のベースライン関税は、木材や果実・青果類などの分野により直接影響。対米輸出額が前年比で減少している(図3参照)。これら品目は元々利益率が低く、関税が価格競争力を直ちに損ないやすい。
実際、生産者団体からは懸念と警戒の声が相次ぐ。例えばチリ全国農業協会(SNA)は、「FTAに基づいて原産地規則を順守しているにもかかわらず一律に関税を適用している」点を問題視。サクランボ、ブルーベリー、リンゴ、ナシ、ブドウなど主要果実の競争力低下を懸念する。またチリ果実生産者連盟(FEDEFRUTA)は、「米国の10%関税が採算を大きく圧迫し、生産者によっては輸出継続そのものが困難になる」可能性を指摘した。チリ木材協会(CORMA)も、「構造的課題を抱える木材セクターにとって、今回の関税は特に中小企業に深刻な影響を与える」と述べている。
こうした懸念は、単に輸出額が減少したために浮かび上がったのではない。その背景には、より構造的な問題がある。
関税は本来、輸入者(米国側)が負担するはずだ。しかし実務上は、米国バイヤーが価格の引き下げを要求し、チリ側輸出者に一部または全部を転嫁している。その結果、輸出価格が据え置かれるどころか、低下する場合すらある。その分、輸出企業の利益率を圧迫していることになる。低利益率の品目(木材やブドウなど)で、この影響が特に顕著だ。実際、2025年の輸出額は減少している(図3参照)。
(主要輸出品目のうち減少傾向のもの/2024~2025年)
出所:チリ中央銀行
こうした状況を受け、企業は米国市場への依存度を見直しつつある。換言すると、中国、アジア、中南米市場への輸出多角化を進めている。
サーモンの米国向け輸出総額は2024年と2025年を比較して、ほぼ横ばいだ(図2参照)。その中でサーモン輸出企業の一部は、メルコスール域内(ブラジルなど)への販路拡大に注力している。米国中心の輸出モデルを見直す動きが進む例といえるだろう。
FTAを基盤にした新政権の対米関係改善に期待
企業が輸出先を多角化する一方で、政府はFTAを基盤に米国と制度的対話〔米国通商代表部(USTR)との協議、合同委員会の活用など〕を進める取り組みを引き続き重視。関税措置による影響緩和を模索している。
一方で米国側も、2026年3月には発足するホセ・アントニオ・カスト新政権に対して、関係強化に向け明確なシグナルを発している。2026年3月11日には、米国のマルコ・ルビオ国務長官が代表団を率いてカスト大統領の就任式に出席することを決定済みだ。これは、米国が新政権との関係強化を重視し、通商面での協力深化を期待していることを示す現れといえる。
今後の対米通商政策では、チリがより柔軟かつ実利的な対米関係を構築できる可能性がある。関税リスクが残存することを前提にした市場多角化と、FTA制度に基づく対話、その両立が一層重要になるだろう。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・サンティアゴ事務所
橋爪 優太(はしづめ ゆうた) - 日本と南米各国における輸出入、国際業務を経たのち、2025年、ジェトロ入構。






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