「次のフロンティア」アフリカを巡る世界各国・地域の動向インドネシアの対アフリカ戦略
バンドン会議から70年、連携の深化
2025年7月14日
アフリカ市場は、人口増加と経済成長を背景に「最後のフロンティア市場」として、世界的に注目を集めている。インドネシアの政府と民間企業も市場潜在力に注目し、バンドン会議の精神を受け継ぐ歴史的背景や、同国のBRICS加盟による国際的立場の向上を生かしながら、戦略的にアフリカ市場開拓に向けた官民連携を推進している。本稿では、インドネシアが対アフリカ政策や企業展開をどのように深化させているのか、最新の動向を踏まえて報告する。
バンドン会議から70年、BRICS加盟で加速する対アフリカ外交
インドネシアの対アフリカ外交は、1955年に同国のバンドンで開催されたアジア・アフリカ会議(バンドン会議)の精神に深く根差している。この会議で採択した「バンドン十原則」は、今日のインドネシア外交の指導的精神として受け継がれており、2025年に開催70周年という重要な節目を迎えた。これを記念し、同年4月にはジャカルタやバンドン市で一連の記念行事が実施され、インドネシアをはじめ、アジア・アフリカ諸国の外交関係者や有識者が集まり、バンドン精神の現代的意義について議論を交わした。ジャカルタで開催された国際セミナーにインドネシア政府を代表して登壇したアリフ・ハヴァス・オグロセノ外務副大臣は「非同盟運動の現代的刷新と多国間主義の再活性化を通じて、公正で包摂的な世界秩序の構築を目指す」と表明した。政府はこの「バンドン精神」(注)を現代の国際情勢の中で再活性化させ、グローバルサウス諸国との連帯を強化し、気候変動や経済回復、食料・エネルギー安全保障、デジタル格差といった地球規模課題への対応で、アフリカ諸国とともに主導的役割を果たそうとしている。
このような歴史的背景と外交理念の下、近年のインドネシア政府はアフリカとの関係強化を具体的な政策として推進している。特に2014年から2024年まで続いたジョコ・ウィドド前政権は「経済外交」を最優先課題とし、アフリカ大陸を「非伝統的だが有望な市場」と位置づけた。ジョコ前大統領は2023年8月にケニア、タンザニア、モザンビーク、南アフリカ共和国(南ア)を自ら歴訪した。この訪問を通じて、エネルギー供給の安定化や保健システムの向上、食料安全保障の確立、鉱物資源開発、さらには、インフラ整備といった多岐にわたる分野で、計15件以上にも及ぶ協力覚書(MOU)を締結した。これは、インドネシアのアフリカへの具体的な関与を示す重要なマイルストーンとなった。
この経済外交を具現化し、官民連携を促進する重要なプラットフォームが「インドネシア・アフリカフォーラム(IAF)」だ。2024年9月にバリで開催された第2回IAFは「アフリカのアジェンダ2063のためのバンドン精神」をテーマに掲げ、インドネシアとアフリカ諸国間の強固で包摂的、平等かつ持続的な関係の構築を目指した。アフリカ29カ国から首脳級を含む多数のハイレベル代表団が参加し、食料安全保障、エネルギー安全保障、保健・医療、鉱物資源開発などを重点的に議論した。その結果、総額35億ドル相当とされるMOUや複数の商業プロジェクトの合意が成立したと報じられている。例えば、インドネシア国営製薬大手バイオファルマとアフリカ諸国とのワクチン供給・技術移転に関する覚書や、国営航空機メーカーのディルガンタラ・インドネシア(PTDI)によるアフリカ向け航空機輸出に向けた合意などが含まれる。これは2018年の第1回IAFの成果を大幅に上回るもので、IAFが実効性の高いプラットフォームへと進化していることを示している。
さらに、インドネシアは2025年1月、ASEAN加盟国として初めてBRICSへ加盟した。これにより、既にBRICSに加盟している南ア、エジプト、エチオピアといったアフリカ諸国との間で、政策協調や経済協力が促進されることが期待されている。
インドネシアのアフリカ向け輸出戦略
アフリカ向けの輸出戦略についてはどうか。インドネシアは貿易・投資関係の拡充を目指し、2国間の特恵貿易協定(PTA)締結を積極的に進めている。2022年に発効したモザンビークとのPTAでは、パーム油や紙製品など217品目の関税引き下げによって輸出拡大を実現したほか、現在も北アフリカ市場への足掛かりとして、チュニジアとのPTA交渉を加速させている。
インドネシアのアフリカ向け主要輸出品目を見ると(表1参照)、農産品と軽工業製品が中心だ。特にパーム油を主とする動植物性油脂は2024年に輸出額約3,174億ドルと、全体の約5割を占め、最大の輸出品目となっている。ただし、価格下落や需要変動の影響を受けやすく、前年比では18.4%の減少だった。このパーム油への高い依存は、国際市場価格の変動や環境規制強化といったリスク要因を内包している。パーム油に次ぐ主要輸出品目としては、紙・板紙類、輸送機器、せっけん・ワックス類、コーヒー・茶・香辛料類などが挙げられる。特に注目すべきは、輸送機器が前年比24.9%増、中でもオートバイが44.7%増だった点と、コーヒー・茶・香辛料類が同91.5%増と、大幅な伸びを示している点だ。これらの品目が輸出全体に占める割合はまだ限定的ではあるものの、アフリカ市場でのインドネシア製品への需要が、伝統的な一次産品から、付加価値のより高い工業製品や特色ある農産品へも広がりを見せている。
アフリカからの輸入は(表2参照)、インドネシア国内のエネルギー需要や製造業向け原料などの品目が中心だ。最大品目は鉱物性燃料で、原油を中心に輸入額は6,392億ドル、全体の約7割を占める。次いで鉄鋼、鉱石・スラグ・灰、カカオ製品、タバコなどが主要品目となっている。特に鉱石の輸入は、クロム鉱石を中心に、前年比で2.5倍と急増しており、国内の精錬産業需要に対応した動きとみられる。また、カカオやタバコなどの農産資源の輸入も伸びており、インドネシアの加工産業にとって重要な供給源となっている。
政府は、世界経済の不確実性が高まる中で、輸出市場の多角化を図り、特定市場への依存リスクを軽減しようとしている。アフリカ市場の開拓は、経済安全保障を強化する上でも重要な意義を持つ。
品目 | 2023年 | 2024年 | ||
---|---|---|---|---|
金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
動植物性油脂 | 3,889.4 | 3,173.8 | 50.0 | △ 18.4 |
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3,430.3 | 2,711.0 | 42.8 | △ 21.0 |
紙・板紙類 | 440.3 | 332.7 | 5.2 | △ 24.4 |
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293.6 | 195.2 | 3.1 | △ 33.5 |
輸送機器(鉄道除く) | 240.4 | 300.3 | 4.7 | 24.9 |
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103.3 | 149.6 | 2.4 | 44.7 |
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107.2 | 121.6 | 1.9 | 13.4 |
石けん・洗浄剤・潤滑剤・ワックス・ろうそく類 | 320.0 | 280.7 | 4.4 | △ 12.3 |
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298.1 | 259.9 | 4.1 | △ 12.8 |
コーヒー・茶・香辛料 | 125.4 | 240.2 | 3.8 | 91.5 |
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117.0 | 217.8 | 3.4 | 86.1 |
電気機器・部品 | 219.8 | 219.0 | 3.5 | △ 0.4 |
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40.9 | 33.1 | 0.5 | △ 19.1 |
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42.4 | 33.0 | 0.5 | △ 22.2 |
一般機器・原子炉・ボイラー | 176.8 | 188.4 | 3.0 | 6.5 |
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59.1 | 81.2 | 1.3 | 37.3 |
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36.3 | 28.3 | 0.4 | △ 22.2 |
鉄鋼 | 162.2 | 174.6 | 2.8 | 7.7 |
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128.5 | 157.9 | 2.5 | 22.8 |
医薬品 | 92.2 | 111.8 | 1.8 | 21.2 |
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43.7 | 70.1 | 1.1 | 60.5 |
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27.7 | 34.6 | 0.5 | 24.8 |
合成繊維(短繊維) | 111.0 | 103.3 | 1.6 | △ 6.9 |
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54.9 | 52.2 | 0.8 | △ 5.0 |
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34.3 | 31.7 | 0.5 | △ 7.6 |
合計(その他含む) | 6,884.5 | 6,341.3 | 100.0 | △ 7.9 |
出所:Global Trade Atras〔原データはインドネシア中央統計庁(BPS)〕
品目 | 2023年 | 2024年 | ||
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金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
鉱物性燃料 | 7,079.6 | 6,392.1 | 68.1 | △ 9.7 |
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6,658.3 | 6,202.5 | 66.1 | △ 6.8 |
鉄鋼 | 942.3 | 771.9 | 8.2 | △ 18.1 |
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936.9 | 771.0 | 8.2 | △ 17.7 |
鉱石・スラグ・灰 | 292.2 | 718.0 | 7.6 | 145.7 |
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206.6 | 582.3 | 6.2 | 181.9 |
カカオおよびその製品 | 430.0 | 491.2 | 5.2 | 14.2 |
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422.0 | 467.4 | 5.0 | 10.8 |
タバコおよびその製品 | 81.5 | 164.5 | 1.8 | 101.8 |
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73.6 | 161.3 | 1.7 | 119.3 |
肥料 | 61.8 | 109.1 | 1.2 | 76.4 |
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43.3 | 108.7 | 1.2 | 151.4 |
ゴムおよびその製品 | 119.9 | 78.6 | 0.8 | △ 34.5 |
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119.5 | 77.6 | 0.8 | △ 35.0 |
食用果実及びナッツ | 82.9 | 76.8 | 0.8 | △ 7.3 |
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42.7 | 42.2 | 0.4 | △ 1.1 |
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19.1 | 18.3 | 0.2 | △ 4.0 |
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13.8 | 12.3 | 0.1 | △ 11.0 |
塩、硫黄 | 56.3 | 67.8 | 0.7 | 20.5 |
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52.9 | 55.0 | 0.6 | 3.9 |
アルミニウムおよびその製品 | 46.1 | 63.9 | 0.7 | 38.7 |
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44.9 | 63.9 | 0.7 | 42.3 |
合計(その他含む) | 9,861.4 | 9,389.5 | 100.0 | △ 4.8 |
出所:Global Trade Atras〔原データはインドネシア中央統計庁(BPS)〕
官民連携で進むインドネシア企業のアフリカ進出
近年、インドネシア政府は、前述したIAFの開催や首脳外交のほか、金融支援策によって、企業のアフリカビジネスを後押しする動きを強めている。エネルギーやインフラといった分野では、国営企業を中心に少しずつ具体的なビジネスが生まれ始めている(表3参照)。象徴的な事例の1つとして、2023年にインドネシア国営石油会社プルタミナが政府の後押しを受け、アフリカ4カ国(ケニア、タンザニア、モザンビーク、南ア)との間で、石油・天然ガスの上流事業と地熱開発に関する複数の協力覚書(MOU)を締結した。同社は、ケニアでの石油・ガス上流分野でケニア国営石油会社と協力協定を結んだ。ケニアでの地熱発電開発分野では、同社子会社のプルタミナ・ジオサーマル・エナジー(PGE)が現地企業アフリカ・ジオサーマル・インターナショナル(AGIL)と協定を結んだ。タンザニアでも、現地の国営石油開発公社TPDCとの間で、油・ガス上流、下流の事業に関するMOUを取り交わしている。モザンビークでは、上流から下流の石油・天然ガス開発、ガス火力発電に至るまで、幅広い分野の協力について、現地企業と合意し、南アでも、現地法人グマ社との提携を通じて、パイプライン整備や発電事業での協業を模索している。
No | 企業名 | セクター | 主要アフリカ展開国・地域 | 主なプロジェクト/事業概要 |
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1 | プルタミナ | エネルギー(石油・ガス) | ケニア、タンザニア、モザンビーク、南アフリカ共和国(南ア) | 2023年、アフリカ4カ国での石油・ガス(上流から下流)、地熱エネルギー分野での戦略的提携に向け、南ア現地企業グマ・アフリカ社などとの間で包括的な覚書(MOU)を締結。想定投資総額は約26億ドル規模。 |
2 | プルタミナ・ジオサーマル・エナジー(PGE) | 再生可能エネルギー(地熱) | ケニア | ケニアの国営企業(GDC)と民間企業(AGIL)と提携し、同国ロンゴノットやススワなどの地熱鉱区での資源開発プロジェクトを推進。2023年に覚書を締結。 |
3 | インドラマ (注) | 化学(肥料・石油化学) | ナイジェリア | ナイジェリアで肥料(尿素)プラントを運営。国際金融公社(IFC)主導の融資枠組みにより、ポートハーコート拠点で年間140万トンの尿素を生産する第3工場と輸出用港湾ターミナルを建設中。 |
4 | インドフード | 食品(即席麺) | ナイジェリア、ガーナ | 即席麺「インドミー」を1995年にナイジェリアで生産開始(現地企業との合弁による)。以降、西アフリカ市場に進出し、ナイジェリアはインドミー最大の海外市場となるなど、現地の国民食として定着している。 |
5 | インダストリー・クレタ・アピ | 鉄道(車両製造) | ザンビア | 2018年にザンビア政府向けディーゼル機関車30両の輸出契約(総額約9,000万ドル)を受注し、インドネシアの鉄道車両メーカーとして初のアフリカ案件となった。 |
6 | ディルガンタラ・インドネシア(PTDI) | 航空宇宙(航空機製造) | コンゴ民主共和国、セネガル | 2024年にコンゴ民主共和国政府向け小型輸送機N219を5機受注(同機にとって初の輸出案件)。併せて、コンゴ空軍向けCN235輸送機2機の供給枠組みや、セネガル空軍とのCN235機体整備契約も締結するなど、アフリカ市場への航空機導入が進展。 |
7 | ウィングス・グループ | 日用品(消費財:洗剤・食品など) | ナイジェリア、ガーナ | 1995年に自社洗剤「SoKlin(ソークリン)」ブランドを西アフリカ市場に投入し、ナイジェリアやガーナを中心に普及。現在では「ソークリン」は同地域で広く知られるプレミアム洗剤ブランドとなっており、2022年には西アフリカで欧州サッカークラブとのマーケティング提携も実施。 |
8 | カルベ・ファルマ | 製薬 | ナイジェリア | 2012年にナイジェリアの製薬企業オレンジ・ドラッグス社と合弁会社「Orange Kalbe Nigeria Ltd.」を設立し、同国医薬品市場に参入。インドネシア産医薬品の現地展開により、合弁先のオレンジ社はナイジェリア市場でトップクラスの製薬企業へと成長。 |
9 | ウィジャヤ・カルヤ | 建設・インフラ(総合建設) | ニジェール、ナイジェリア | 2018年にニジェールの大統領宮殿改修工事(契約額2,000万ユーロ)を受注し、同社初のサブサハラ・アフリカ進出案件となった。その後もインドネシア政府主導の経済協力を通じて、アフリカでのインフラ事業の受注機会を模索しており、ナイジェリアを含む各国で追加案件獲得に意欲を示している。 |
注:インドラマは、1975年にインドネシアで設立されたが、現在の本社はシンガポールに所在。
出所:各社プレスリリースや現地報道などからジェトロ作成
その他、PTDIは2011年以降、セネガル空軍へCN235輸送機を3機納入し、2024年にはコンゴ民主共和国向けにCN235(2機)と新型N219機(5機)の販売契約を取り付けた。同社の航空機輸出では、インドネシア政府が海外の買い手側を対象に、低金利の融資支援を行っている。この仕組みは国家収益勘定(NIA)と呼ばれ、借り手国の返済リスクをインドネシア政府が負担することで、PTDIの航空機輸出競争力を高める要因の1つとなっている。
こうした国営企業のアフリカへの事業展開が本格化する以前に、民間企業が独自の努力で市場開拓に成功した先行事例もある。食品分野では、インドフード社の即席麺「インドミー (Indomie)」がナイジェリアを中心に、アフリカ各地で国民食ともいえる人気を博しており、現地生産拠点を設立し、アフリカ市場に深く浸透している。他方、アフリカ諸国の産業ニーズに応えるかたちで、インドネシア重工業企業も販路を開拓しつつある。インドラマによるナイジェリアでの大型肥料プラント稼働だ。同社は国際金融機関の融資も受けつつ、追加投資による生産能力拡大を進めている。
こうした官民一体の包括的なアプローチにより、インドネシア企業の対アフリカ展開は着実に成果を上げている。政府は金融支援にとどまらず、IAFなどビジネスプラットフォームの提供や、首脳外交を通じた関係構築、市場情報の提供など、多角的な支援体制を構築しており、これが民間企業の商機拡大につながっている。
インドネシアの対アフリカ戦略は、歴史的背景や経済的実利、グローバルサウスとしての役割拡大という多層的な動機に基づき、官民連携で推進している。政府は、PTA締結による市場アクセスの改善、IAFのようなプラットフォームを通じたビジネス機会の創出、BRICSの枠組みを活用したアフリカ主要国との連携強化を通じて、アフリカ市場のさらなる開拓と、国内産業に不可欠な資源調達先の安定化・多様化を両立させることを目指している。
- 注:
- 「バンドン精神」とは、1955年のバンドン会議で採択した「バンドン十原則」に象徴される精神で、植民地支配への反対や国家間の平等・協力を重視した非同盟の理念を指す。アリフ外務副大臣の発言は、この精神を受け継ぎ、現代において途上国による多国間協調を復活させることで、公正で包摂的な世界秩序を築こうとする趣旨とみられる。例えば、2024年9月に開催された第2回インドネシア・アフリカフォーラムでは「アフリカのアジェンダ2063のためのバンドン精神」をテーマに掲げ、バンドン精神に基づく協力強化が図られた。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・ジャカルタ事務所
八木沼 洋文(やぎぬま ひろふみ) - 2014年、ジェトロ入構。海外事務所運営課、ジェトロ・北九州、企画部企画課を経て現職。