活用事例から見るEPA活用のメリットとコツシバタ、輸出入双方でRCEP活用を目指す(東京都)
2025年6月6日
シバタ(本社:東京都新宿区)は、1955年に東京特殊電線(現 TOTOKU)の販売代理店として創業した。電線や電線加工品の専門商社として、電線・電線加工品、エレクトロニクス素材・その加工品の販売、近年では水処理フィルターや装置の設計、製造、販売など、さまざまな事業を展開している。アジア(シンガポール、香港、上海)に海外拠点を設け、2022年1月の地域的な包括的経済連携(RCEP)協定(以下、RCEP)の発効以降は、中国からの輸入の一部に、RCEPを活用してきた。RCEP利活用の状況や、きっかけ、メリットなどについて、総務・経理部と営業部の経済連携協定(EPA)担当者に聞いた(取材日:2024年12月26日)。




- 質問:
- 貴社の海外ビジネスについて。
- 答え:
- 海外の売り上げ比率は8割程度だ。そのうちメインは中国で、6割ほど、その他は、東南アジア(タイ、ベトナム、フィリピンなど)、欧州となる。海外拠点については、シンガポール(1994年設立)、香港(2001年設立)、中国(上海、2005年設立)に現地法人を設けている。輸出案件としては、TOTOKUの電線や電子加工品、高周波測定用同軸ケーブル、古河電工の電線(当社は現在、古河電工の特約パートナー)、他社メーカー(シンフォニアテクノロジー、東芝ITコントロールシステムなど)の製品などを扱っている。
RCEP利活用は価格競争でメリット
- 質問:
- 貴社でのRCEP利活用状況は。
- 答え:
- 当社では現在、HSコード1品目のみ、車載用の電線を中国から輸入する際に活用している。RCEP活用以前の関税率は7.8~8.0%ぐらいだったが、RCEPを使うことによって3.4%まで下がった。最近もう1つ、HSコードで合致する品目があることが分かったので、こちらも対応してきたいと思っている。輸出については、タイやベトナムなどの取引先からRCEPを使ってほしいという要望がある。しかし、日本国内メーカーの多くは外部に情報を出すことに危機意識があり、エンドユーザーや当社に情報を開示したくないと考えているため、まだ実現できていない。2025年こそは、RCEPによるコスト削減をお客さまに還元できるように進めていきたいと思っている。また、ほかのEPAについても、積極的に使っていきたいと考えているが、それは今後の課題としたい。
- 質問:
- RCEP利活用のきっかけやメリットは。
- 答え:
- 中国との取引が多かったので、RCEPを使わない手はないだろう思っていた。多方面でコストが上昇する中、RCEPを活用することで税率が半分以下になり、現状の単価を維持できている。価格競争という面でメリットが大きい。
- 質問:
- どのようにRCEP利活用を進めたか。
- 答え:
- 関税が高いと常に思っていた。既存のEPAなどを見ていたが、対中国が欠けているとずっと考えていた。2019年ぐらいから、中国との協定ができるという情報を入手し、当社でも活用できるのではないかと思って、チェックしていた。
RCEPやEPAを積極的に活用する社内体制へ
- 質問:
- RCEPを利用した後、貴社の中で何か変化はあったか。
- 答え:
- 国内のお客さまに対して、当社のRCEP活用実績のアピールが可能となるほか、国外のお客さまに対しても、RCEPを使うと価格競争で差が出てくるためアピール材料になる。当社内で積極的にRCEPを使っていく方針だが、HSコードが合致するかどうか判断が必要な場合もあり、まだ一部でしか活用できていない。活用できるEPAがあれば、当社営業に情報共有して、積極的に使ってもらえるよう働きかけてはいる。
- 質問:
- RCEP利活用に当たって、苦労した点は。
- 答え:
- RCEP利活用には国内メーカーの協力が必要となる。しかし、メーカーの多くは、製品登録などが技術的な部分にかかわるため、外部に情報を出すことに危機意識があり、エンドユーザーや当社に情報を開示したくないと考えている。そのため、国内メーカーの腰は重く、2年以上かけて協力をお願いした。
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シバタ本社のオフィス内(同社提供)
香港でのRCEP利活用に期待
- 質問:
- RCEP利活用の期待と課題は。
- 答え:
- 出港地を香港(香港を起点)とする輸出でスムーズに使えるようになることを期待したい。仕入れ先の中国メーカーの製造拠点は中国本土だが、発送拠点としては、中国本土と香港の2拠点をメーカーの判断(リードタイムの兼ね合いで、その時々で変化)で使い分けている。現在の輸出はおおむね中国本土で6割、香港で4割程度だ。香港から発送されるものもわりと多いので、香港でRCEPが適用されるようになるといい。なお、以前に当社が独自で調べたところ、中国本土と比べて、香港の方が早く着いた。香港でRCEPが利用できるようになれば、香港の方が便を取りやすいので、増えるのではないか。
- また、トラブル案件はそこまで多くないものの、レギュレーションが変わりやすい点が気になる。
- 現在は輸入のみでRCEPを活用しているが、輸出者としてもRCEPを活用していきたいと考えており、輸出入双方でRCEPやEPAを幅広く使っていきたい。まずは、輸出者としてRCEPを活用するに当たり、社内体制の見直しなど準備を進めている。
- 質問:
- 今後の海外ビジネスの展望は。
- 答え:
- 電線以外では、ろ過装置の海外展開を増やしたいと考えている。アジア(タイや中国など)や米国に向け、輸出者としてEPAを活用できるようにしていきたいという展望がある。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中国北アジア課 アドバイザー
嶋 亜弥子(しま あやこ) - 2017年4月から現職。