活用事例から見るEPA活用のメリットとコツRCEPの累積制度を活用し原産地規則を達成(東京都)

2025年7月22日

本間ゴルフ(本社:東京都港区)は、ゴルフクラブやゴルフウェアなど、ゴルフ関連製品の製造および販売を行うスポーツ用品メーカーだ。販売先は日本国内のほか、アジアや欧州、米国など国外への輸出も行っている。特にアジアへの輸出では経済連携協定(EPA)を利用し、通常より低い関税率を享受している。

10年前から同社のEPA関連業務を担当する宮川芽位子氏に、具体的な手続きの進め方や社内の体制構築について聞いた(取材日:2025年5月28日)。


EPA関連業務担当の宮川氏(同社提供)

RCEPの累積を活用し原産地規則を達成

本間ゴルフは中国、韓国、スイス、米国にある販売代理店との取引に加え、他地域ではバイヤーへの直接販売で海外ビジネスを展開している。金額ベースでは韓国への輸出が最も多く、中国、東南アジア、米国、欧州と続く。主要製品のゴルフクラブは山形県酒田市の自社工場で組み立てているほか、ソフトグッズ製品(ゴルフウェア、キャディバッグ、ヘッドカバーなど)は中国で委託(OEM)生産を行っている。ゴルフクラブとソフトグッズのセット販売が多いため、OEM生産品も含め一旦酒田工場に集め、そこから一括して出荷している。

EPA利用のきっかけは、タイの輸入者からの依頼だった。宮川氏は「当初は全くEPAに関する知識がなかったが、取引先の商社やフォワーダーに教えてもらいながら、少しずつノウハウを蓄積していった」と振り返る。現在は、ゴルフクラブを韓国、タイ、インドネシア向けに輸出する際にEPAを活用。韓国向けでは地域的な包括的経済連携(RCEP)協定、タイとインドネシア向けでは日ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定を利用している。AJCEPは、一度、原産地証明書を取得すれば、他のASEAN加盟国への輸出にも応用できる点をメリットに感じているという。


ゴルフクラブのヘッド(同社提供)

原産地規則については、ゴルフクラブでは部分品と完成品でHSコードが4桁レベルで変わらないため、関税分類変更基準ではなく、付加価値基準を採用している。中国から部品であるヘッドを輸入しているが、ここでRCEPの累積規定を活用することで、原産地規則を満たしている。中国がRCEPの締約国であるため、ヘッドを原産材料として扱い、原産付加価値の計算に入れ込むことが可能になる。また、同社はヘッドを香港経由で輸入しており、原産性を保つために未再加工証明書(注1)を取得しているという。宮川氏は「将来的にRCEPに香港が加入すれば、連続する原産地証明書(Back to Back C/O)(注2)を活用した手続き簡素化の可能性も期待できる」と語る。香港は2022年1月にRCEPへの加入を申請しているものの、現在も未加盟だ。

証明制度については、全て第三者証明制度を利用している。RCEPでは認定輸出者自己証明制度や自己申告制度の利用も検討しているものの、第三者証明では日本商工会議所に相談しながら原産地証明を進められるメリットもあり、利用には至っていない。一方で、「ゴルフクラブはロフトやシャフトなど、部品の組み合わせが何通りもあり、年間80~100個程度と多くの新商品が発売される。その分だけ原産地証明書の発給手数料がかかるため、費用がかさんでしまう」といい、コスト削減のため証明制度の切り替えも視野に入れる。

社内体制には課題も、段階的に整備

EPA利用において多くの企業が抱える課題の1つは、原産地証明手続きなどを進める社内体制の整備だが、本間ゴルフも例外ではない。長らく宮川氏がEPA利用手続きを担当してきたものの、原産地証明書の発給件数が増加するにつれて、対応しきれなくなっていったという。特に、新製品について輸入者から原産地証明書の発給依頼があった際に、即時に対応することが難しい。遡及(そきゅう)して、原産地証明書を発給するケースも多いそうだ(注3)。

こうした状況に対し、他の輸出担当者もEPA利用手続きができるよう、社内での研修を進めている。貿易の担当チームは、宮川氏以外は酒田工場に勤務しているため、遠隔で教える難しさもあるが、「今秋の新商品からは、輸出と同時に原産地証明書を発給できるようになる見込み」だという。「取引成立後にEPA利用手続きを行う場合、手続きコストに対する手数料の徴収や取引量増加など、輸入者との交渉にもっていくことが難しい。即時に対応することができれば、交渉材料の1つにできるかもしれない」と、宮川氏は体制整備に意欲的だ。


山形県・酒田工場(同社提供)

注1:
香港で発行される未再加工証明の活用については2022年4月7日付ビジネス短信で詳しく解説している。
注2:
輸出締約国の最初の原産地証明に基づいて、経由国である締約国(中間締約国)の発給機関、認定輸出、または輸出者が発給することができる原産地証明のこと。
注3:
RCEPでは、各締約国に定める期間内に必要な書類を税関当局に提示することにより、事後申告に基づいて実際に支払った関税額(事前に預け入れた担保などを含む)とRCEP協定税率に基づく関税額の差額の還付を受けることができる場合がある。韓国への輸出の場合、1年以内であれば申請が可能。
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課中南米班
加藤 遥平(かとう ようへい)
2023年、ジェトロ入構。調査部調査企画課を経て、2025年4月から現職。