活用事例から見るEPA活用のメリットとコツサトー、EPAの活用で競争力強化を目指す(東京都)
2025年4月11日
サトー(本社:東京都港区)は、「自動認識ソリューション」に関連する商品の企画、開発、設計から製造、販売、保守までを行う企業。同社の「自動認識ソリューション」は、バーコード、QRコード、音声認識、画像認識、センサーなどの技術により、あらゆるモノやヒトに情報をひも付け、その動きを可視化して、現場ごとに最適な課題解決の仕組みを提供する。例えば、このソリューションは現場での工程管理、在庫管理に使用される。また、その上位システムとして、技術管理、経理・販売・調達管理などにも連携する。主な商品には、ラベルプリンター、ラベル自動印字貼付機(ラベリングマシン)、ソフトウェア、シールラベル、ハンドラベラーなどがある。
同社では、主に日本で製造した製品の輸出に際し、経済連携協定(EPA)、自由貿易協定(FTA)などの貿易協定(以下、EPA)を利用しているという。ジェトロは、同社海外事業本部事業管理部の奥井唯史部長、黒田雄治エキスパートに、同社のEPAの活用状況とそのメリットについて聞いた(取材日:2024年12月25日)。


- 質問:
- 貴社の海外展開の状況と、その中でのEPAの利用シーンについて教えてください。
- 答え:
- グループ全体では、世界26カ国・地域において121拠点を有し、90以上の国・地域でビジネスを展開しており、海外売上高比率は47.4%となっている(2024年12月時点)。日本で生産した製品をアジア、欧州、米国などに輸出しているほか、ベトナム、マレーシアにも工場を有する。
- うち、主に日本から各国・地域への輸出に際して、日・EU経済連携協定(EPA)の利用を皮切りとして、さまざまなEPAを利用している。また、日本で生産したラベリングマシンの中国向け輸出に際して、新たにRCEP(地域的な包括的経済連携協定)の利用を開始した。なお、日本からASEANへの輸出で活用できる協定としては、RCEPのほか、各国・地域との2カ国間協定、日・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)がある。自社の輸出品目について、それぞれ適用される特恵税率を比較した上で、これら既存の枠組みを引き続き利用している。
- 質問:
- RCEPの利用開始に当たって苦労した点は。
- 答え:
- RCEPは関税の段階的な引き下げの初期ステージにあり(注1)、他方で当社が関わる多くの品目では他のEPAで関税撤廃が実現していることから、RCEPの利用実績はまだ数件程度とどまる。通関時のトラブルなどは今のところ生じていない。他方で、原産地証明制度に関しては、当社が利用するEPAのうち最も比重が大きい日EU・EPAなどでは、自己申告制度が利用できる。自己申告制度では、第三者証明制度に比べて自社で迅速に対応でき、発給手数料もかからない。RCEPにも自己申告制度の導入が広がっていくことを期待している(注2)。
- 質問:
- EPAの利用開始に当たり、社内での合意形成や予算確保のために実施したことは。
- 答え:
- 利用時にどれだけのメリットを得られるかを数値化したデータを取りまとめて上層部に報告し、社内の理解増進と予算確保につなげている。
- 質問:
- EPA利用によるメリットは。
- 答え:
- 当社の海外拠点では、日本からラベル、リストバンド、リボンなどを輸入する際、おおむね5~20%の関税を負担していたが、EPA利用によって輸入関税削減効果が得られ始め、現地市場での価格競争力の強化につながっている。グループ全体として利益を生み出し、持続的な成長を遂げていくうえで、自社のサプライチェーン全体におけるFTA・EPA戦略の検討が重要だと考えている。
- 質問:
- EPA活用に関する今後の展望は。
- 答え:
- 各国・地域のEPAの最新動向をフォローしながら、当社のビジネスチャンスにつながるものを残さず利用していきたい。例えば、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)に関して、インドネシアが2024年9月19日付で加盟申請している(2024年10月10日付ビジネス短信参照)。日本からインドネシア向けの輸出品目については、すでに既存の日本・インドネシア経済連携協定やAJCEPでおおむね関税撤廃が実現しているが、不意の取りこぼしを防ぐためにも、こうした各国・地域の動向についてしっかりキャッチアップしていきたいと考えている。
- 日本からの輸出に関しては、あらゆる品目に対して各EPAをスムーズに適用できるような社内体制も並行して整備してきた中で、さまざまなEPAを積極的に活用し始めている状況だ。今後は、海外拠点間の輸出入に際するEPA活用も強化していきたい。
- 質問:
- EPAの利用を検討している企業へのアドバイスは。
- 答え:
- 少量の貨物に対しても利用のメリットが得られるのかなど、必要なコストと享受できるメリットを積算した上で費用対効果を見て、利用を検討することが望ましいと考える。ジェトロの貿易投資相談や、EPA相談窓口などを適宜利用するのもよいだろう。


- 関連リンク
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サトーウェブサイト
- 注1:
- RCEPの関税撤廃スケジュールでは、協定発効日(2022年1月1日)に1回目(1年目)の引き下げが開始された。2回目(2年目)は、日本、インドネシア、フィリピンが発効日から最初の4月1日、その他の国が最初の1月1日に引き下げとなり、以降も毎年4月1日または1月1日にそれぞれ引き下げが行われる。具体的な関税の引き下げ期間は、品目や国によって異なるが、最長20年で段階的に引き下げを実施する。
- 注2:
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RCEPでは、第三者証明制度および認定輸出者自己証明制度は全ての条約締結国において、協定発効時から活用可能だ。ただし、自己申告制度については、輸出者・生産者と輸入者それぞれで各国対応状況が異なる。なお、日本は輸入者による自己申告制度が協定発効時から活用可能だが、輸出者(生産者) による自己申告制度は自国での協定発効後10年以内に導入予定となっている。詳細はジェトロ「RCEP協定解説書(2022年2月改定版)」
(12.0MB)を参照。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中国北アジア課
刈屋 壮二郎(かりや そうじろう) - 2022年、ジェトロ入構。知的資産部知的財産課を経て、2024年10月より現職。