活用事例から見るEPA活用のメリットとコツ世界中の人々の目の健康を守るニデックの取り組み(愛知県)
2025年3月13日
眼科医療機器メーカーの株式会社ニデック(本社:愛知県蒲郡市)は、目の健康に関する医療機器分野、眼鏡機器分野、および眼鏡レンズなどのコーティング分野の3つを事業の柱としている。視力検査の測定器をのぞいた時に、色鮮やかな気球を目にしたことがある人は多いだろう。あの気球は「検眼のニデック」といわれるニデックのオリジナルだ。眼科向け医療手術機器や診断機器、眼鏡店向けレンズ加工機や検査/測定機器を製造販売し、眼鏡レンズや光学部品フィルター類のコーティング技術を提供する。海外輸出先はおよそ100カ国以上に及ぶ。自社製品を通して世界中の人々の目の健康を守りたい、というパーパスを掲げる同社が、どのように経済連携協定(EPA)を活用しているか、またEPA利用の課題を国際営業部の大津誠氏、岸偉氏、業務管理部の中島謙氏に聞いた(取材日:2025年2月12日。)


100カ国以上で眼科医療に貢献
- 質問:
- 貴社の事業内容は。
- 答え:
- 「見えないものを見えるようにする」という設立目的のもと、眼科医療に特化した医療機器の開発、製造、販売を行っている。医療機器分野では、眼科手術機器、検査診断機器、眼内レンズ(IOL)などを扱っており、2001年からは創業以来の夢であり目標である「人工視覚」の研究にも継続して取り組んでいる。眼鏡機器分野では、眼鏡店向けの検査/測定機器やレンズ加工機などがあり、短時間で誰もが自分にあった眼鏡を購入できるようになったのは、弊社機器の貢献も大きい、と自負している。コーティング分野では、反射防止膜、ハードコート、防汚コートに関する技術を提供し製品に新たな価値を与えることに努めている。
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本社工場(ニデック提供) - 質問:
- 貴社の海外事業の状況は。
- 答え:
- 売り上げ比率は海外が6割を占めており、およそ100カ国以上で販売している。全地域で代理店経由の販売が主だが、フランス、イタリア、米国、ブラジル、中国などいくつかの国には現地法人を設立しており、中国では政府の方針に沿って中国国内向け製品の生産も行う。全世界の人に製品を使ってほしい、という基本姿勢をもって事業を展開しているため、小さな市場でも参入したいと考えている。海外向けに販売している製品は医療・検眼機器が90%、レンズ加工機器が10%となっている。
部署を新設してEPAに取り組む
- 質問:
- EPA利用のきっかけは。
- 答え:
- 当初は、代理店や顧客からの要望でスポット的に利用し、輸出入課で対応していた。以前からEPAの積極的な活用を弊社代理店が希望していたこともあり、メリット、リスク、社内コストを踏まえた上で当社としての利用方針を定めた。また、社内でのDX化の流れをくみ情報管理体制を構築するため、2023年にトップダウンの判断で営業業務2課を新設。本格的なEPA利用に向けて検討を開始し、2024年度から対象国を限定して利用を開始した。
- 質問:
- EPA利用開始にあたり役立った支援と、利用開始にあたって感じた課題は。
- 答え:
- 政府機関のウェブサイトやジェトロ主催のセミナー、専門書が情報源として有益だった。まず、「何から手をつけたらよいか」がわかりにくかったので、利用開始に向けた手順などを示した資料があったらより助かったと思う。
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インタビュー光景(ジェトロ撮影)
3カ国でEPAを利用
- 質問:
- EPA利用の現状は。
- 答え:
- 現在は、フランスと米国、およびチリの3カ国で利用している。品目は、眼科機器とレンズ加工機器の2品目。対象国には、2023年に戦略的なEPA利用を検討した際に、子会社があり、それぞれ2019年と2020年にEPAが発効していたフランス(日EU・EPA)と米国(日米貿易協定)を選定し、優先的にスタートした。医療機器には関税がかからない国が多いのでEPAを利用しなくてもよいのでは、という社内からの声もあるが、フランスと米国で販売額の多いレンズ加工機器には2~3%程度の関税がかかっているので利用している。フランス現地子会社からは「欧州メーカーと競合するにあたり、輸送費と関税は価格競争で後れをとる要因だった。関税だけでもコストを削減できたことは、販売活動上、大きな意義を得られた」とコメントがあり、今後の適用範囲拡大が期待されている。日チリEPAを利用しているチリでは、医療機器にも関税が通常6%かかっており、10年以上前から代理店が主となって対応している。
- 質問:
- 原産地規則として関税分類変更基準と付加価値基準のどちらを使っているか。
- 答え:
- 関税分類変更基準の場合、部品数が数万点に上るので1つ1つHSコードを確認するハードルが高い。付加価値基準の場合、自社システムに根拠となる金額のデータが残っていてハードルが低いため、付加価値基準を使っている。また、関税分類変更基準だとHSコードの解釈を誤る可能性があるが、付加価値基準だと担当が変わっても判断にブレが生じないというのも、付加価値基準を採用している理由だ。
- 質問:
- EPA利用開始後に遭遇した課題は。
- 答え:
- 付加価値基準を採用しているため、部品の原産性確認のために仕入れ先にサプライヤー証明書の作成を依頼している。EPAやサプライヤー証明書について知っている仕入れ先は想定以上に少なく、作成してもらうために、EPAについての説明資料を自ら作成した。
- 質問:
- EPA利用のハードルを下げることに貢献すると思われる外部支援は。
- 答え:
- HSコードについて解説するオンライン講座などはあるが、自社製品について正しく解釈できているかどうか確認できる相談窓口が整備されるとありがたい。また、EPAを利用する側の立場としては、サプライヤー証明書を作成可能なメーカーを検索できるデータベース、および日本製としてサプライヤー証明が発行可能なモーターなどの部材データベースがあれば、EPA利用を見越してサプライヤーや部材を選択できるため、非常に役立つと思う。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部欧州課
牧野 彩(まきの あや) - 2011年、ジェトロ入構。企画部情報システム課、ジェトロ福島、ジェトロ・ロンドン事務所を経て、2022年5月から現職。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部欧州課
冨岡 亜矢子(とみおか あやこ) - フランス民間企業、国際NGO勤務を経て、2024年から現職。