活用事例から見るEPA活用のメリットとコツAJCEP利用でASEAN展開を目指す、吉本産業の取り組み(大阪府)
2025年4月4日
吉本産業(本社:大阪府東大阪市)は、キッチンカウンターやシンク、洗面カウンターなど、水回り製品を製造している。原料研究・素材開発から製造・販売まで、自社グループで一貫対応。高いシェアを誇る自社開発素材と小ロット生産に対応可能な体制が強みだ。
ベトナム向けを中心に、海外展開にも取り組んでおり、経済連携協定(EPA)を活用しながら取引拡大を目指している。同社の海外展開とEPA利用の状況について、業務管理部の樋田亜希氏、佐古田悠佳氏に聞いた。

- 質問:
- 貴社の事業概要と海外展開状況は。
- 答え:
- BMC(Bulk Molding Compound)系の人工大理石を用いて、キッチンカウンターや洗面カウンター、シンクなどの製品を国内外に販売している。
- BMC系人工大理石は、自社で開発した素材だ。特殊耐熱樹脂やフィラー材、ガラス繊維などを均一に混錬した複合材料を高温高圧プレス成形して製造する。高い耐久性や短期大量生産が可能な点が特徴だ。国内の人工大理石キッチンカウンターのうち、75%以上でこの素材を使用している(注1)。
- ベトナム、中国、台湾向けをはじめとして、海外にも販売を行っている。キッチンカウンターやシンク、洗面ボウルのほか、排水栓などの付属品も輸出している。営業担当にベトナム人がいることを強みに、販路を築いてきた。ベトナムでは、現地の代理店を通じて販売を強化している。
- 質問:
- EPAの利用状況は。
- 答え:
- 2022年に、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が発効し、中国からの輸入でこの協定利用を開始したのを契機として、輸出でもEPAの利用を開始した。
- 中国から輸入する場合、以前は一般特恵関税制度(GSP)で関税が無税だった。しかし、2019年4月に、中国がGSPを全面卒業して以降、GSPが使えなくなった。RCEP協定の活用により、EPAによる関税削減効果を実感した。
- 現在、主にベトナム向けにキッチンカウンターやシンク、ボウル一体型洗面カウンターなどを輸出する際に、日本ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定を利用している。このうち、ボウル一体型洗面カウンターなど排水栓を含む製品については、手続き面の工夫が必要である。第三者から仕入れる場合に排水栓部分の原産性を証明することが難しく、特恵関税を活用できないおそれが生じるためだ。そこで、本体と排水栓とでインボイスを分けることにした。そうして輸出することで、排水栓を含まない洗面カウンターとして原産地証明書を取得できる。
- 質問:
- AJCEPを利用している理由は。
- 答え:
- 当社の製品をベトナムに輸出する際、関税率が0%になる協定には、(1) AJCEPのほかに、(2)日本・ベトナム経済連携協定(日ベトナムEPA)と、(3)環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)がある。(1)の特長は、ベトナム向けに取得した原産地証明書を他のASEAN諸国に輸出する時にも応用しやすい点だ。
- なお利用するEPAは、原則として輸入国側の要望に応じた結果だ。輸入側から(1)を指定してくる要因の1つには、AJCEPが採用する第三者証明制度もあると考えている。この制度では、日本商工会議所が特定原産地証明書を発給することになる。公的な認定を受けられることで、安心感が生じるのではないか。
- 質問:
- EPA利用によるメリットを感じているか。
- 答え:
- 当社が扱う製品の中には、ベトナムの最恵国(MFN)向け実行税率が20%以上に上るものもある。EPAを利用できると、大きなコスト競争力の向上になる。営業担当者も、EPA利用ができることを前提に、顧客に営業活動をしている。
- もちろん、原産性の証明が難しい場合など、全て対応できるわけではない。それでも、可能な限りEPAを利用したいと考えている。
- 質問:
- EPAを利用する上での課題やトラブルはあるか。
- 答え:
- EPAを利用する場合に、輸入通関がスムーズにいかないケースがある。
- 例えば、本来ならPDF形式で原産地証明書の提出が可能なのに、紙原本の発送を求められたことがある(注2)。また、HSコードが原産地証明書とインボイスで異なることについて、指摘を受けたことがあった(注3)。
-
岡山工場(吉本産業提供) - 質問:
- 今後の展望は。
- 答え:
- 海外での売り上げ比率は、5%程度とまだ少ない。しかし、今後は東南アジア諸国をはじめ、ヨーロッパやオセアニアなど他の国・地域への拡大も検討している。
- 実際、世界的なデザインインテリア商品のオンラインプラットフォームを通して、バイヤーから幾つか引き合いを受けている。そうしたチャンスも活用する予定だ。まずはAJCEPが利用できる、インドネシアなどASEAN諸国で展開したい。
- 注1:
-
吉本産業のウェブサイト
に基づく。
- 注2:
-
2023年9月から、日ベトナムEPAとAJCEPに基づくベトナム向けの原産地証明書が、PDFファイルでの発給に切り替わった(経済産業省のウェブサイト参照
)。
- 注3:
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a)特定原産地証明書とb)インボイスでは、記載するHSコードが異なる場合がある。それぞれ正しく記入する限り、コードが相違すること自体は問題ない。
a) 特定原産地証明書のコード:原産品判定を行う際に使用する品目別原産地規則(PSR)に記載されるHSコードの年版は、各協定が定めている。日本では、PSRのHSの年版に合わせて特定原産地証明書が発行されるため、協定ごとに異なり、必ずしも最新版でない。
b) インボイスに反映するコード:輸出入申告には、最新のHSコード(現在は2022年版)を利用する。
それでも、現実には通関でトラブルになることはありうる。そうした場合には、近くのジェトロ事務所で相談してほしい。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部調査企画課
加藤 遥平(かとう ようへい) - 2023年、ジェトロ入構。同年4月から現職。