活用事例から見るEPA活用のメリットとコツ多摩川精機、EPA活用を語る(世界、日本)
高品質な製品で海外展開に実績
2025年5月2日
多摩川精機(本社:長野県飯田市)は、創業1938年。高精度な角度センサやモータ、ジャイロなどの精密機器を製造・販売している。その用途はFA(ファクトリーオートメーション)機器や自動車、鉄道、防衛機器、航空機、宇宙機器、建設機械、農業機械、医療機器など幅広い。欧州、北米、中南米、中東、アジア、オセアニアなど、世界各地に販売している。
同社の海外展開や、日EU経済連携協定(EPA)の利用状況について、同社広報宣伝部部長の満澤拓也氏と技術品質統括部貿易管理課主任の佐藤芽久里氏に聞いた(取材日:2025年1月29日)。
世界でも高いシェアを誇るHEV向け角度センサ
同社の海外展開は1970年代にさかのぼる。現時点で、約50カ国・地域向けに販売代理店を置くまでになっている。
主にロボット・半導体製造設備などの自動化設備用のモータ・センサー類、民間航空機・鉄道・電気自動車・ハイブリッド車といった移動体設備用のアクチュエータ・モータ・センサー類を積極的に海外に販売している。同社製品が選ばれる理由として、(1)日本の物づくり技術に基づいた高い品質、(2)お客様のニーズに沿った製品提案、(3)コストとカントリーリスクを考慮し、日本、中国、ベトナムの3カ国に生産拠点を置いていること、 (4)これまでの実績を挙げた。同社の製品はFA機器やハイブリッド車(HEV)、電気自動車(BEV)向けが多い。HEV用の角度センサは、世界的にも同社製品の採用率が高い。国内では8割近く、海外でも約7 割近くを占めるという。
欧州には28カ国向けに販売代理店を置く。現地グループ会社(在ドイツ)と協力しながら販売を進めている。また2024年9月にはドイツで開催された自動車関連の見本市「オートメカニカ・フランクフルト」(2024年9月19日付ビジネス短信参照)の長野県ブースに出展した。海外見本市を活用して、販路開拓を行っている。
多くの製品を日本の工場から出荷している。2019年の日EU・EPA発効以来、顧客の要望に応え、同EPAを使って輸出しているという。これまでも他地域向けの輸出時に商社などを介してEPAを使ったことはある。しかし、自社が輸出者としてEPAを利用したのは日EU・EPAが初めてだ。これまでのところ、通関時に申告書類を見落とされるなどのトラブルには見舞われていないという。

(多摩川精機提供)
輸出者としてのEPA活用における課題
しかしEPAを活用する上での課題もある。同社では貿易条件として、関税は輸入者負担となるものが多く、関税率の削減は同社にとって直接のメリットにはならない。EPAでの関税率削減によって輸入者がコストを削減できても、最終顧客に販売する際の価格に反映しているかを把握することは難しい。輸出者にとってはメリットが見えづらい。
また、EUでは加盟国ごとの取り扱いの不統一への対応に苦労している。例えば、輸入通関を行う加盟国ごとに、同じ製品であっても適用する関税分類が異なることがある。
なお、同社は製品を輸出しているだけでない。一部部材には輸入品を活用している。そのため、輸入者としてEPAを活用してコスト削減することにも、期待を寄せている。輸入関税がかかっている品目についても、今後、積極的にEPAを活用していきたい。
これからEPAの活用を検討する企業へのアドバイスとして佐藤氏は、「自身はEPAについて学ぶ際に、経済産業省のEPA相談デスクや同社の輸出港である名古屋税関の相談会、ジェトロのセミナーなど公的機関のサービスや、民間企業などが主催するHSコードの勉強会などで情報を集めた。最初の情報収集をどのように行うか迷うと思うが、これらを活用できることを伝えたい」と話した。


- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部欧州課
牧野 彩(まきの あや) - 2011年、ジェトロ入構。企画部情報システム課、ジェトロ福島、ジェトロ・ロンドン事務所を経て、2022年5月から現職。