バイデン米大統領、対外投資に関する大統領令に署名、半導体やAI分野の対中投資を規制

(米国、中国、香港、マカオ)

ニューヨーク発

2023年08月14日

米国のジョー・バイデン大統領は8月9日、米国から懸念国への対外投資に関する大統領令に署名外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。これにより、半導体・マイクロエレクトロニクス、量子情報技術、人工知能(AI)の3分野で、国家安全保障にとって重要な機微技術・製品に関わる対外投資を制限するプログラムを新設する(注1)。米国からの投資が、懸念国の軍事力などの向上に利用されるリスクに対処するのが目的だ。

新たな対外投資プログラムでは、米国人(注2)による対象技術・製品に関わる懸念国の個人・事業体・政府との取引について財務省への届け出を義務付け、国家安全保障に特に深刻な脅威をもたらすそのほかの取引を禁止する。大統領令は財務長官に対し、禁止対象の投資が実行された場合に投資の引き揚げを強制する権限も与える。

財務省はプログラムを実施するための規則案を策定するため、利害関係者からパブリックコメントを募集外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますする。正式には8月14日付の官報で公示外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますし、9月28日までコメントを受け付ける。官報では、対象取引の範囲などに関し、利害関係者にコメントを求める質問を列挙した。パブコメ締め切り後の規則制定のスケジュールについては触れられておらず、実際の施行は2024年以降と見る向きもある。

官報によると、プログラムの対象として検討している取引の種類は、株式取得(M&A、プライベート・エクイティ、ベンチャーキャピタルなど)、グリーンフィールド投資、合弁事業、特定のデットファイナンス取引を含む(注3)。対象技術・製品に関しては、半導体・エレクトロニクス、量子情報技術、AIシステムの各分野で、対外投資を禁止する場合と届け出を求める場合に分けて提案されている(添付資料表参照)。

懸念国については、大統領令の付属書で、中国(香港とマカオを含む)のみが指定された(注4)。財務省は大統領令に関するファクトシートPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)で、中国は軍事力の現代化に重要な機微技術の生産能力を高めるために、米国からの投資を利用していると問題視した。米国からの投資は「経営支援や投資・人材ネットワーク、市場アクセスなど、(投資を受けた)企業の成功を助ける特定の無形の利益を伴うことが多い」と言及した。米国政府は既に、中国向けに先端半導体などの輸出管理を強化している(2023年7月19日記事参照)。同省は対外投資プログラムによって、米国からの投資がそれら先端技術の中国国内での開発に寄与するのを阻止し、既存の輸出管理や対内投資審査制度の効果を補完すると説明した。

ファクトシートでは「越境投資の流れは長い間、米国の経済活力に貢献してきた」と指摘した上で、「大統領令は、オープンな投資に対する米国の長年のコミットメントを維持しつつ、国家安全保障を守るための的を絞った行動だ」とも記した。政権高官も記者向けの説明会外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、大統領令は「中国に関わるリスクを軽減させる政策」であり、「経済のデカップリング(分断)を行うものではない」と強調した。

(注1)新たな対外投資プログラムに関しては、大統領令の実施を主導する財務省のウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに情報が集約されている。

(注2)米国市民、永住者、米国の法律または米国内の管轄権に基づいて組織された事業体(米国外の支社も含む)、および米国内に存在する個人・事業体を指す。

(注3)財務省は、プログラムの対象外となる例外取引も指定する予定。官報は、公開市場で取引されている証券への投資やインデックスファンド、上場投資信託(ETF)、米国の親会社から子会社への資金移動などを例示している。

(注4)懸念国は「米国の国家安全保障を脅かす方法で米国の能力に対抗するために、軍事、諜報、監視、またはサイバー能力にとって重要な機微技術・製品の進歩を指示、促進、または支援する包括的かつ長期的な戦略に関与している国・地域」を指す。懸念国は大統領令の付属書の改定により、今後追加される可能性がある。

(甲斐野裕之)

(米国、中国、香港、マカオ)

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