特集:動き出した人権デューディリジェンス―日本企業に聞く小島衣料、持続可能な会社づくりを推進
従業員の声を拾い、経営の現地化を推進

2023年4月20日

大手アウトドアブランドの上着など、アパレル製品のOEM(他社ブランド品製造)をメインに、海外工場で縫製事業を展開する小島衣料(本社所在地:岐阜県岐阜市)は、バングラデシュをはじめとする海外工場で働く現地従業員の就労環境の向上に取り組んでいる。取引先からの対応要請もあるが、それ以上に現地経済への貢献やSDGs(持続可能な開発目標)に根差した経営といった自社の理念が原動力となっている。ジェトロはILO駐日事務所とともに、同社のバングラデシュにおける人権デューディリジェンスや人材育成などの取り組みについて、日本本社の石黒崇社長と小島高典常務取締役[兼バングラデシュ現地法人(KOJIMA LYRIC GARMENTS LTD.)社長]に話を聞いた(日本本社:2022年10月13日、バングラデシュ現地工場:同年12月14日)。

縫製人材が豊富なバングラデシュに進出

1991年以降、中国で生産してきたが、人件費の高騰や、縫製以外の産業に労働力が流れる傾向を受け、次の拠点として、2010年にバングラデシュに現地法人を設置。現地パートナーと合弁契約を結んだ。同国は輸出の8割が衣料製品で、縫製が主力産業になっている。人材が雇いやすく、また人件費の安さも進出の決め手となった。

バングラデシュ工場は従業員1,650人を有し、月10万着を生産する。製品の大半は日本向けで、ごく一部は米国にも輸出している。サプライチェーンについては、約9割が顧客の指定した副資材を日本、中国、韓国、ベトナム、香港、台湾、インドネシア、イタリアなどから輸入し、現地工場で縫製している。生地の仕入れ先は、発注者とともに複数社を直接視察し、決定している。

コンプライアンス面では、取引先ブランドの求める基準をクリアしないと取引ができない。特に労働環境に関する基準は厳しく、ブランドが指定する第三者機関の監査を受ける。監査では、SMETA(Sedex Members Ethical Trade Audit)やWRAP(Worldwide Responsible Accredited Production)、BSCI(Business Social Compliance Initiative)などの国際基準の監査対応が求められる。一部のブランドとの間では、就労条件を含めて工場全体の検査を行う認定工場という制度がある。当社は複数の海外工場で認定を取得しており、バングラデシュ工場は一部米国向け取引での認定も受けている。監査や工場検査で指摘された場合は、期間を設けて改善策を講じる。こうした監査に対応しつつ、人権デューディリジェンスに関する情報について、ジェトロや現地の商工会議所、外部のコンサルティングサービスなどを活用しながら情報収集を行っている。

自社主導の積極対応、従業員の声を吸い上げて経営に反映

ビジネスの観点に加えて、バングラデシュの貧困削減に貢献する目的から、自社主導で労働環境の改善に取り組む。各工場にはコンプライアンス部を配置している。現地の労働法の順守や取引先からの要請への対応に加えて、ジェンダーの平等や宗教の自由が確保されているかを確認している。

従業員の意見を把握するため、全駐在員に週次の報告書を作成し、それぞれが所属長へ提出してもらっている。所属長は、報告内容を確認し、本社に共有する。労働環境に問題があると判断すれば、是正措置を検討・実施する。コロナ禍以前は2~3カ月に1回、本社から各工場を訪問し、現地視察を行っていた。工場現場を直接確認することで、仮に従業員に不満があっても声として上がってこない状況がないように努めている。工場における職場満足度調査も頻繁に実施している。

また、従業員の代表を労働者による投票で決めている。選出された代表が意見を集約した上で、1カ月に1回のペースで経営層に報告している。これまで出された意見としては、やはり給与面の要望が多い。要望を踏まえて、皆勤賞を達成した従業員への賞与を高くするなど、対応している。ここ2年はコロナ禍で行っていないが、社員旅行も、従業員の代表からの報告を受けて実施するようになった。こうした取り組みは、従業員からポジティブな評価を受けている。

従業員の待遇を的確に向上させる観点でも、人事評価において、適切な技能や知識を習得した従業員には、給料を上げるようにしている。職種に合わせて、たとえば工場の生産ラインに配置される従業員については、良品率がひとつの評価基準となる。

補助事業も活用しながら現地従業員の育成・登用を推進

将来的な現地化を念頭に、現地従業員の日本への派遣研修制度を実施している。管理職を育成する目的で、1年間の研修プログラムを組み、来日後の最初の3カ月はAOTS(海外産業人材育成協会)の技術研修制度を活用し、日本語を学習してもらう。その後、本社で9カ月、実務経験を積んでもらっている。意欲的な従業員を招くと、日常会話レベルの日本語はすぐ習得する。年間4人を上限とし、これまで15人がこの制度を利用している。研修から戻った従業員は、現場の生産や品質検査を行うラインの班長や、各ブランドとの連絡窓口などの要職に就いている。

現地工場においても、日本語の勉強会を実施している。参加者は半年ごとに10人ずつ、週2回2時間のコースを提供している。基本的な読み書きに加えて、アパレルに関する専門用語を覚えてもらうことも目的としている。

経営の現地化が最大のコスト削減につながる。「縫える、パソコンができる、日本語が堪能」という現地従業員が増えてくれば、日本から派遣する駐在員の役割を代わって担える人材が増えることになる。研修に参加した従業員にとっては、給料が上がり、離職するケースも減る。また、バングラデシュ人が技術や日本語を習得し、日本語で理解したことを他の従業員に直接伝えることができれば、工場の製造ラインにおける技術指導や日本本社との調整などのコミュニケーションも容易になる。コロナ禍で日本人駐在員を帰国させた後、オンラインによるコミュニケーションでは品質管理には限界があると感じた。優秀な現地人材がいる経営上のメリットを再認識した。バングラデシュには、日本人駐在員を6人、中国工場からの技術者を9人それぞれ派遣しているが、将来的には駐在員を減らし、研修で育成した現地従業員で経営を行えるようにしたい。

労働と環境の両方でSDGsの実現を目指す

これからは「SDGs」に根差した経営でなければ、将来性のある魅力的な企業としての成長は難しく、日本国内において日本人も雇えない。できることからしっかり取り組んでいく方針だ。生産活動においては、上記の取り組みを通じて労働者の就労環境を向上させると同時に、「完全リサイクル工場」の推進を目指す。例えばバングラデシュでは、廃棄物ゼロを目標にし、90%のリサイクル率を達成している。現地のリサイクル業者に廃材を引き取ってもらい、裁断くずは布団の中綿に加工したり、紙くずはリサイクルペーパーとして活用したりしている。生ごみについても、排出量を減らす予定である。初期投資に費用はかかるが、持続可能な経営を念頭に置いた必要な取り組みと考えている。

執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課 リサーチ・マネージャー
藪 恭兵(やぶ きょうへい)
2013年、ジェトロ入構。海外調査部調査企画課、欧州ロシアCIS課、米州課を経て、2017~2019年に経済産業省通商政策局経済連携課に出向。日本のEPA/FTA交渉に従事。その後、戦略国際問題研究所(CSIS)日本部客員研究員を務め、2022年1月から現職。