特集:動き出した人権デューディリジェンス―日本企業に聞く三起商行、国内サプライヤーにおける外国人労働者の責任ある雇用推進
人権デューディリジェンスを実施の上、重要課題を決定

2023年5月25日

ベビー・子ども用品の「ミキハウス」ブランドを展開する三起商行(本社:大阪府八尾市、アパレル製造・小売)は、「子どもと家族の未来を笑顔でいっぱいに」を企業ミッションに掲げ、サプライヤーと協力し、CSR調達方針に基づく活動や外国人労働者の責任ある雇用の推進に取り組んでいる。ジェトロはILO駐日事務所とともに、三起商行の人権デューディリジェンスの取り組みについて、同社企画本部品質管理部長兼サステナビリティ推進リーダーの上田泰三氏に聞いた(取材日:2022年9月28日)。

企画本部がCSR調達を主導

社会的な潮流などから、三起商行が責任ある調達活動について必要性を感じ始めたのは2013年ごろだ。2016年には社内でCSR調達の具現化について検討を始め、調達方針の骨子をサプライヤー各社に送付するとともに、CSR調達への対応に関するアンケートを実施した。こうした社内の動きと並行して、国際人権NGOから2016年11月に、グループ会社の製品を扱うミャンマー工場の労働環境を巡る問題について指摘を受けた。指摘の対象は、当社が製造を委託していた国内商社のさらにその先の委託先の韓国系企業のミャンマー工場で、当社としてはその工場の存在を把握できていなかった。指摘内容については、国内商社を通じて韓国のオーナーに働きかけて状況の改善を図った(注)。

こうした案件が1つのきっかけになったことや、当社が2013年からハロッズ百貨店内で店舗展開している英国で2015年に制定された「英国現代奴隷法」への対応のため、以前から準備を進めてきたCSR調達方針の必要性をあらためて認識することになり、2017年にCSR調達方針PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(495KB)サプライヤー人権方針PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(622KB)サプライヤー行動規範PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(104KB)という3つの方針を策定した。 CSR調達を進める社内体制として、実務面の中心的な役割は、日常業務としてサプライヤーとコンタクトを取りつつ、ものづくりの現場についても理解している企画本部の執行役員と、企画本部品質管理部長の2人体制で担っており、生産管理部の各サプライヤー担当者や法務部とも協力して動いている。CSR調達に関する専門部署があるわけではないので、関係メンバーがその都度、持ち回りで対応している(図参照)。

図:三起商行のCSR調達への取り組み
17年にCSR調達方針、サプライヤー人権方針、18~19年にサプライヤー行動規範を策定、18~19年に人権デューディリジェンスを実施し、マテリアリティーを決定、18年以降に国内サプライヤー(Tier1)への訪問監査を開始、20年以降に苦情処理メカニズムを導入し、サプライヤー行動規範を改定、21年以降に監査の対象サプライヤーをTier2へ拡大した。 

出所:三起商行へのヒアリングを基にジェトロ作成

海外の間接取引先にも、CSR調達ガイドライン周知を依頼

三起商行は自社工場を持たず、生産は全て協力工場(間接取引先を含む)に委託しており、普段やりとりしている直接の取引先は国内商社や国内サプライヤー工場だ。実際に製品が生産される海外工場は、国内サプライヤーが運営している自社工場、もしくは国内サプライヤーの外注先で、当社にとってはいずれも間接取引先という位置付けにある。

CSR調達方針、サプライヤー人権方針、サプライヤー行動規範の3方針を骨子とする「三起商行株式会社 CSR調達ガイドライン(初版)」を作成後、2017年10月に、サプライヤー各社に大阪本社に集まっていただき、当社のCSR調達に関する説明会を実施した。その場でCSR調達ガイドラインを配布し、後日、CSR調達への協力に関する同意書に署名いただくことで運用をスタートした。当社では長い付き合いのあるサプライヤーが多く、当社方針への理解と賛同の上で真摯(しんし)に対応いただいている。

さらに、2020年1月には上記3方針に加え、サプライヤー環境方針、移民労働者方針、加えて、サプライヤー行動規範に「苦情処理メカニズムの構築と報復行為の禁止」などを新たに追加した「三起商行株式会社 CSR調達ガイドライン(第2版)」を策定した。第2版の策定時にも、同様にサプライヤー各社を対象にCSR調達説明会を実施し、内容の周知と協力を依頼した上で、全てのサプライヤーと協力への同意を取り交わしている。また、間接取引先の海外工場に周知を行うため、「CSR調達ガイドライン」には英語、中国語(繁体字・簡体字)版も作成し、必要に応じて利用している。

当社では、生地メーカーに対して、当社向けオリジナル生地の生産を直接依頼することも多いが、特に国内の場合はその生地に関わる紡績、ニッター、織元、染色加工工場までをほぼ把握している。海外については直接取引先の商社などを通じて縫製工場までは把握できているが、例えば、海外の縫製工場で現地調達した生地などの素材に関しては、生産背景を把握することが困難なことが多く、トレーサビリティーを追求することが現在は難しい状況にある。

マテリアリティーは、国内サプライヤーの外国人労働者の責任ある雇用

三起商行は2019年に外部専門機関の協力を得て、人権デューディリジェンスを実施した。その一環として、まずは国内NGOのザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(ASSC)とともに、生産量の大部分を占める主要なTier1サプライヤーに対してアンケート調査を実施。間接取引先を含めた国内外のサプライヤー工場を把握、確認し、サプライチェーンのマッピングを行った。続いて、その調査結果を基に、ASSCを通じて英国の専門機関のRights DDにリスクの特定・分析を依頼した。その結果、日本での外国人技能実習生の雇用は、特に海外から見た時に強制労働と判断されるリスクが高く、当社の国内サプライヤー工場に従事する外国人技能実習生の雇用についても、強制労働に加担するリスクが相対的に高いと指摘された。これを受けて、当社が対応すべきマテリアリティー(重要課題)は国内サプライヤーにおける外国人労働者の責任ある雇用の推進と位置付け、外国人労働者を雇用する国内サプライヤーに対して、ASSCとともに工場監査を実施することとした。

当社は小さな子ども向けの商品を扱っているが、お客さまの日本製のものに対する潜在的な要望が非常に高いことから、「メード・イン・ジャパン」のものづくりにこだわっている。国内の繊維産業が働き手不足などの要因から、構造的に縮小を余儀なくされている現在、技術力の高い国内サプライヤーは大変貴重な存在で、今後も長く付き合っていきたい。また、日本でものづくりを行う以上、外国人技能実習生の問題にしっかり向き合わなければならないと考えている。

Tier1に加え、一部Tier2も工場監査の対象に

三起商行は、ASSCとともに、2018年から2019年にかけて、外国人技能実習生を雇用する25の国内縫製工場に工場監査を実施した。2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、工場訪問を一時中断せざるを得なかったが、2021年から再開した。調査対象は当初、Tier1の縫製工場を対象としていたが、2021年以降はTier2の国内染工場にも対象を拡大している。訪問監査では外国人技能実習生に関する帳票類の確認、作業現場の視察(作業環境や安全管理面の確認)、外国人技能実習生への母国語でのインタビュー、寮の視察などを行っている。

工場監査の結果、当社にとって最優先事項の適正な賃金支払いや児童労働の禁止などについては、全てのサプライヤーで問題なく順守されていることが確認できた。一方、労使協定の範囲内ではあるものの、やや長時間労働の傾向が見られる、作業現場での安全管理が不十分(避難経路の確保や避難訓練の実施が不十分、危険物や薬品管理が不徹底)などの問題が散見されることから、当社としては、それらの問題点をまず認識してもらうことで、改善に向けた取り組みを促すようにしている。早急にサプライヤー側で対応が可能な問題と、すぐには対応が難しいものがあるため、状況を見ながら可能な範囲で対応いただいている。

外国人労働者の待遇面では、不慣れな日本の慣例的な規定、例えば、就業規則の減給規定や互助会費といった賃金からの控除項目などについて、十分理解されているかを確認し、理解されていないならば、同意を得た旨を文書で残すなど、サプライヤーに改善するよう依頼している。また、日常業務で各種のハラスメントがないか、パスポートや母国語の雇用契約書の写しを労働者自身で管理できているか、生活面で不便がないかといったことをインタビューで確認し、寮の視察では居住スペースで独立性が保たれてプライバシーが確保されているか、Wi-Fiなどの通信環境が整っているかなどを確認している。

加えて、工場監査に対応いただくなど当社の方針をしっかり理解いただいているサプライヤーには、当社としてもできる限り安定的で継続的な生産発注を維持するように努め、サプライヤーの従業員の雇用維持に少しでも貢献したいと考えている。

多言語対応の苦情処理メカニズム導入

三起商行では、2020年からASSCが開発した苦情処理メカニズムASSC WORKERS VOICE(AWV)を取引先の175の国内・海外サプライヤーに導入し、運用している。導入に先立って、2020年に改定した「三起商行株式会社CSR調達ガイドライン(第2版)」でも、苦情処理メカニズムの構築に関する説明を追記した。

AWVは、従業員に何らかの人権侵害が生じた際、国籍や言語を問わず、第三者に苦情を直接訴えることで救済に向けた対応が得られる仕組みで、従業員各自のスマートフォンにインストールした専用アプリのチャット上で利用することができ、8カ国語に対応している。もちろん、日本人従業員も利用の対象で、運用に関する費用は当社が負担している。寄せられた相談に対しては、ASSCの協力を得ながら、労働者への支援やサプライヤーの課題改善へ働きかけを行う仕組みとなっている。取引先のサプライヤーに対しては、AWV運用に関するガイドブック、従業員配布用のハンドブック、インストール用QRコードが表示されたポスターの3つのツールをセットでデータ提供し(それぞれ日本語、英語、中国語、ベトナム語版を用意)、各サプライヤーのAWV利用に関して周知を依頼している。また、ポスターについては、通用口など目につきやすい場所に掲示いただいて、加入を促している。なお、AWVへの加入については、強制ではなく、従業員個人の任意としている。

AWV導入対象については、当社製品のシェアを問わず、工場単位での導入を推奨している。サプライヤーの規模によっては、製造ラインが別であるなど、当社製品に携わらない従業員が多いことも考えられるが、AWVの仕組みを利用することで、サプライヤー全体の改善につながればと考えている。

実際の相談案件として、国内サプライヤーの従業員からアプリを通じて、労使間での残業代に関する認識の相違に起因するものがあったが、相談をした従業員、工場経営者、三起商行、ASSCの4者間で対話を行い、問題の解決に至ったという事例がある。


注:
国際人権NGOからの指摘に関しては、第三者機関による調査結果、その後の改善推進活動の進捗について、いずれもミキハウストレードウェブサイト(2017年1月外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます2017年2月外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます2017年8月外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )で公開されている。
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課 課長代理
森 詩織(もり しおり)
2006年、ジェトロ入構。ジェトロ広島、ジェトロ・大連事務所、海外調査部中国北アジア課などを経て現職。