COP27に向け、環境関連プログラムを立ち上げ(エジプト)
金融機関と連携して資金調達を目指す

2022年10月12日

国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)の開催が2カ月後に迫る中、エジプト政府は国際開発金融機関との連携を強めている。政府は5月、2022年11月6日からシャルムエルシェイクで開催されるCOP27に先駆けて、国家気候変動戦略「National Climate Change Strategy 2050」(NCCS)を導入した(2022年6月21日付ビジネス短信参照)。

NCCSには、持続可能な開発目標(SDGs)に沿った5つの目標〔(1)持続的かつ低炭素な経済成長の実現、(2)気候変動への適応力と耐性の強化、(3)気候変動に対応する政策の整備、(4)気候変動対応ファイナンスの拡充、(5)気候変動関連の調査や技術移転の拡充〕と、今後5年間の政府の行動計画が示されている。また、NCCSは、26分野のプロジェクトを2030年までに実施するとしている。

資金調達優先度の高い環境関連事業をまとめたNWFEプログラム

その後、NCCS自体に変更はないが、政府は2022年7月、NCCSで挙げられた26分野の中でも、エネルギー、食糧、水の3分野を、緊急性が高く、また分野の関連性が強いと位置付け、国内外から計画実行のための資金調達を行い、各分野の優先事業を確実に実施することを目指すNWFE(Nexus of Water, Food and Energy、ヌワイフ)プログラムを立ち上げた。

2022年8月22日にカイロで開催された日本・エジプト間ハイレベル政策対話に出席した、ラニア・マシャート国際協力相の説明によると、プログラムは、エネルギー、食糧、水の3分野において約束されたグリーン投資を着実に実行することを目的としたもので、プログラムを通じて、エネルギー分野で100億ドル、食糧分野で33億5,000万ドル、水分野で13億6,000万ドルの合計約150億ドルの調達を目指す。

エネルギー分野では、温室効果ガスの発生を抑制する事業で、老朽化した複数の火力発電所の電源を再生可能エネルギーに置き換える。具体的には、計10ギガワット(GW)規模の新たな太陽光および風力発電所の建設を目指す。これは、エジプト政府が掲げる2035年までに発電電源の42%を再生可能エネルギーとする国家目標に合致している。ただ、エジプトは財政難のため、発電に使われていた天然ガスを輸出に回したいという昨今の事情もあるとみられる。風力発電は、欧州に加え、日本企業も実績を有する有望分野だ。

食糧分野では、灌漑事業や、農事の塩害対策事業など気候変動対応関連が多い。水分野には、再生可能エネルギーにより稼働する海水淡水化プラントの建設(6億3,000万ドル)が含まれる。食糧と水は、ナイルバレー、デルタ、地中海沿岸、紅海沿岸、スエズ運河地域、シナイ半島など、開発が遅れている地方が主な対象となっており、地方の貧困層を取り残さないインクルーシブな経済成長を目指す政策「ハヤ・カリーマ」との整合性が取られている。

エジプト政府はNWFEプログラムを、各国政府が各国の気候変動戦略と優先度を定めて投融資を呼び込むために、参考となる有効な気候変動対策プログラムであると位置付けている。エネルギー分野は欧州復興開発銀行(EBRD)、食糧分野は国際農業開発基金(IFAD)、水分野はアフリカ開発銀行(AfDB)からの資金調達を予定している。

NWFE とCOPとの関係性

NWFEプログラムは、COP27を強く意識して策定された。2022年9月4日、COP27に向けた国内外関係者と調整を担う国連気候変動ハイレベルチャンピオン(UN Climate Change High-Level Champion for Egypt)のマフムード・モハエルディンは、アインシャムス大学が開催したウェビナーで、NWFEにふれ、「エネルギー、食糧、水はCOP27でも優先的な議題とする。気候変動、新型コロナウイルス、ロシアによるウクライナ侵攻の影響は、世界的な食糧、水、燃料の不足につながった」「COP27は約束を実行に移すことに重きを置きたい。これまでのCOPは世界全体で気候変動対策に取り組むという方針であったが、COP27は各地域の実情に沿った地域目線での効率的な気候変動アクションを支援する」と言及している。

エジプトはCOP27の議長国であり、会議を成功に導くためにNWFEをモデル事業にしたい思いがある。2021年に英国で開催されたCOP26では、COP21で採択されたパリ協定で言及された「2020年までに先進国から途上国へ毎年1,000億ドル規模の気候変動対策費用を拠出する」との約束が果たされていないという途上国からの批判が最後まで残った。今回のCOP27では、エジプトに対して、途上国と、特にアフリカにおけるリーダーシップを発揮することが期待されている。

2021年のCOP26でエルシーシ大統領は、アフリカは温室効果ガス(GHG)の排出が少ない一方で気候変動の大きい影響を受ける地域であること、先進国はパリ協定の約束を果たすべきことなど、アフリカ諸国を代弁するメッセージを発信した(2021年11月22日付ビジネス短信参照)。エルシーシ大統領がよく口にする「計画を実行せよ」という言葉は、「From Pledges to Implementation」という形で、NWFEプログラムやCOP27に向けた各種スピーチなどのメッセージとして頻繁に登場する。

アフリカにも行動を促す

一方で、エジプトは途上国側にも、脱炭素の取り組みに参加することや、先進国や援助機関からの資金が入りやすくするよう呼び掛けるようだ。COP参加国は、先進国・途上国であるかを問わず、目標達成に向け、国が決定する貢献(NDC)を作成・更新して、気候変動に関する国連枠組み条約(UNFCCC)のウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで公開することになっている。エジプトは自国のNDCを2022年7月に更新した。議長国として、アフリカ各国にもNDCの更新を促す。

COP27開催に向けて、9月7日から9日まで、アフリカ諸国の財務・経済・環境分野の閣僚を集めてカイロで開催された「第2回エジプト国際協力会議外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(EGYPT-ICF)でも、マシャート国際協力相はNWFEプログラムを紹介。各国で受け皿となる事業を示し、複数の国際開発金融機関からの資金を組み合わせて、各国とも「グリーントランジション」を実行することを提言した。


マシャート国際協力相のスピーチ(ジェトロ撮影)

国際開発機関、民間金融機関との連携も

エジプトの呼び掛けに応じて、アフリカ各国が援助や投資を呼び込みたい分野や案件を具体的に示せば、先進国側も資金を投じやすくなる。特に期待されるのは、国際開発金融機関との連携だ。エジプトは、国際通貨基金(IMF)、世界銀行、欧州復興開発銀行(EBRD)などの多国籍機関から多額の援助やローンを受けており、また、欧州、米国、日本を含む先進国から気候変動関連事業を実施するための融資も受けている。発電所熱源の再エネへの転換、公共交通の拡充などでは、海外からの投資も積極的に呼び込むことに成功している。

第2回エジプト-国際協力会議では、国際開発銀行との協調融資など、民間金融機関の参加にも期待が寄せられた。国際協力省によると、NWFEプログラムには、既にシティバンクやHSBCなど民間の有力銀行が関連事業に参加予定であることが示されているが、日本を含む新たな銀行の参加も期待されている。また、アフリカ各国の事情に応じた事業を選択して集中的に資金を投入するのであれば、地場銀行の参加や、それに向けたグリーン分野投資へのノウハウ向上が今後、重要性を増すであろう。

ヒシャム・オカシャ・エジプト銀行協会副会長は、2022年8月28日にチュニスで開催されたアフリカ開発会議(TICAD8)のビジネスフォーラム(2022年9月6日付ビジネス短信参照)において、持続開発なファイナンスに関するセッションに登壇し、「銀行が持続的成長につながる経済活動への投資を行うことができなければ、SDGsに掲げられた目標を達成できない。エジプトでは中央銀行が設定した持続可能なファイナンスのためのガイドラインが導入され、複数の現地銀行が、持続可能な経済分野に対し、気候変動リスクの管理や国際的融資基準に準拠した直接融資を行うことが可能になっている」と日本およびアフリカ経済界に語ったとおり、このような取り組みへの支援も重要視される。

執筆者紹介
ジェトロ・カイロ事務所長
福山 豊和(ふくやま とよかず)
2004年、ジェトロ入構。本部では途上国産品の対日輸出、機械分野の輸出支援などを担当。ジェトロ・リヤド事務所、ジェトロ香川、大阪本部などの勤務を経て、2021年7月から現職。