特集:新型コロナ禍における北米地域の新たな消費トレンド新型コロナ禍でジョージア州のフィンテック産業に存在感(米国)
コンタクトレス決済や仮想通貨の導入進む

2022年2月2日

新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、消費のオンライン化やデジタル化が加速した。その結果として大きな変化が生じた産業の1つが、フィンテック産業だ。例えば、ECサイトでオンライン決済が多様化し(本特集「EC市場拡大に伴い、後払いサービスが成長(米国)」参照)や、実店舗での非接触型(コンタクトレス)決済が導入されるようになった。ニューノーマルの生活に対応してフィンテック関連サービスの新規導入や拡大が進み、業界全体の大きな変革期となった。

フィンテック産業集積都市をランク付けする「Findexable」の2021年6月レポートによると、米国ジョージア州の州都アトランタは世界15位に付ける。北米では5位だ。サンフランシスコ、ニューヨーク、ボストン、ロサンゼルスに次ぐことになり、脚光を浴びている。

州内にフィンテック企業集積地「トランザクション・アレー」

ジョージア州は、新型コロナ発生前からフィンテック産業の集積地として知られていた。例えば、全米のカード決済の70%が州内に拠点を置く企業を通じて行われている。そうした大手決済サービス企業の中でも、フォーチュン500に名を連ねるグローバル・ペイメンツ(注1)やNCR(注2)が州内に本社を置く。また、エラボンやファーストデータ(注3)、TSYS(注4)などもジョージア州本社だ。加えて、FIS(本社フロリダ州)やフィザーブ(本社ウィスコンシン州)などのフィンテック大手企業も、当州に進出している。多くのフィンテック企業が集積するアトランタ都市圏域は、「トランザクション・アレー」(図1参照)とも呼ばれる(2019年11月22日付地域・分析レポート2018年1月11日付ビジネス短信参照)。

ジョージア・テクノロジー協会(TAG)のレポートによると、フィンテック関連でジョージア州に本社を置く公開会社は12社ある。2020年には年間総額370億ドルの収益をあげ、これら企業の2020年12月時点での時価総額は1,920億ドルに達した。大手企業に加えて、スタートアップ企業の活動も盛んだ。当州に拠点を置くフィンテック企業の数は、2020年時点で170社だった。それが、新型コロナ禍にもかかわらず、2021年5月時点で201社まで増加した。この増加は、スタートアップ起業に起因するところが大きい。州内フィンテック産業の雇用数は年々増加してきた。2020年時点では、同分野のエキスパートとして、3万9,000人超が雇用された。

図1:「トランザクション・アレー」のフィンテック関連企業の集積
アトランタ都市圏域のフィンテック関連産業の集積マップ。約120社のフィンテック企業ロゴが図示されている。

出所:ジョージア・テクノロジー協会(TAG)

導入相次ぐコンタクトレス決済サービス

新型コロナ禍で存在感を大きく放ち、世界的なトレンドとなった分野の1つが、コンタクトレスの決済サービスだ。オンライン決済会社ワールドペイの「グローバル・ペイメンツ・レポート」によると、2020年の米国とカナダでのPOS取引(注5)時に使われる決済手段の中で、現金の割合は2019年の14.6%から2020年に11.4%へと減少した。一方で、デジタル/モバイルウォレットの割合は、2019年の6%から2020年には9.6%へと増加。2024年には15.5%まで伸びると予想されている(図2参照)。また、VISAが2020年6月に18歳以上の米消費者1,000人を対象に実施した調査によると、54%がコンタクトレスの決済方法を提供する店舗での買い物に切り替えると回答した。ミレニアル世代(注6)に限定すると、この割合は72%にまで増加する。新型コロナの感染リスクの軽減もさることながら、従来のカードリーダーを用いた読み取り式の決済と比較して速度・利便性・安全性に優れている点が、人気を高めた大きな要因だ。

図2:米国、カナダのPOS決済手段の割合推移
2019年は、クレジットカード40.1%、デビットカード33.5%、現金14.6%、デジタル・モバイルウォレット6%、チャージカード3.9%、プリペイドカード1.9%。2020年は、クレジットカード38.6%、デビットカード28.6%、現金11.4%、デジタル・モバイルウォレット9.6%、チャージカード4%、プリペイドカード3.9%、POSファイナンス3.9%。2024年の予測は、クレジットカード38.4%、デビットカード25.8%、現金8.7%、デジタル・モバイルウォレット15.5%、チャージカード4%、プリペイドカード4%、POSファイナンス3.6%。

注:商品購入時点に申込が可能な融資サービス。借主は購入後に分割払いで返済する 。
出所:グローバル・ペイメンツ・レポートからジェトロ作成

こうした需要の高まりを受けて、ジョージア州内の大手決済サービス企業は、コンタクトレスの決済サービスを導入・強化してきた。

長年にわたりグローバルにPOSシステム事業を展開してきたNCRは、近年、「モバイル・ペイ」を開発した。これにより、QRコードのスキャンまたはテキストメッセージで届くURLを通じ、コンタクトレスで支払い可能になる。グローバル・ペイメンツや決済サービス大手のエラボンも、実店舗でのコンタクトレスの決済に対応したPOSシステムのほか、スマートフォンアプリやオンライン上での支払いを可能にする決済プラットフォームを提供している。

コンタクトレスという概念は、小売店での支払いに限定されない。医療機関に対して患者の医療費支払い用プラットフォームを提供するペイシェンコは、医療機関の経理担当者の在宅勤務や、遠隔医療サービスが増える中、スマートフォンのテキストメッセージを通じて請求・支払いができるサービス、「テキスト・トゥ・ペイ」を開発。導入後、数週間で、同サービスを通じて200万ドルが決済された。

スマートパーキングサービスを提供するパークモバイルは、メーター機械に触れずにスマートフォンアプリを通じて駐車料金の支払いが可能な決済サービスを提供。このアプリでは、駐車スペースの利用開始から延長まで、アプリ内で完結できる。こうした利便性も相まって、現在では全米で1,800万人以上のユーザーが同社のアプリを利用している。

プリペイドカードやギフトカードを発行するインコムペイメンツは、目下、200ブランドの電子ギフトカードを取り扱う。2010年から取り組んでいる電子ギフトカードの展開を強化してきた結果だ。新型コロナ禍で、ギフトカードを直接手渡しすることが困難な中で需要が急増した。同社の調査によると、2020年の電子ギフトカードの購入は61%増加したという。

仮想通貨ビジネスが拡大

消費のオンライン化、決済の多様化が進む中で、仮想通貨向けの決済サービスも広がっている。

調査会社Statistaの統計によると、2019年11月時点で約2,800種類だった世界の仮想通貨は、2年後の2021年11月時点で約7,500種類。3倍近くまで増加したことになる(図3参照)。仮想通貨を利用した取引数や価格も上昇している。最大規模の仮想通貨ビットコインの場合、平均取引数(1日あたり)は、2021年に入り35万件以上に増えた(パンデミック前の2019年は32万8,000件だった)。ビットコイン価格は、2020年上半期は1万ドル未満で推移していた。しかし、その後、価格は徐々に上昇し、2021年に入り一時期は6万ドルを超えた。

図3:世界における仮想通貨種類数の推移
2013年66、2014年506、2015年562、2016年644、2017年1,335、2018年3月1,658、2019年11月2,817、2021年2月4,501、2021年7月6,044、2021年8月5,840、2021年10月6,826、2021年11月7,557。

出所:Statista

仮想通貨の流通拡大に伴い、関連サービスを提供するジョージア州のスタートアップ企業は、仮想通貨決済の利便性を高める取り組みを進めている。

デジタル資産による取引を可能にするプラットフォームを提供するバックト(2018年設立、注7)は、2021年3月に新たにデジタルウォレットのアプリを導入した。取引対象になりうるデジタル資産には、仮想通貨やロイヤルティープログラムなどが含まれる。ユーザーは、仮想通貨やさまざまなロイヤルティープログラムによって得られる特典、ギフトカードなどの複数のデジタル資産をバックトのアプリで一括管理することができる。それだけでなく、これらをデジタル上の現金に換算し、バックトが提携する先の支払いに充てることができる(注8)。さらに2021年10月には、マスターカードとの提携を発表した。マスターカードのパートナー企業は、顧客に対して従来のロイヤリティポイントの代わりに仮想通貨を提供することが可能になった。顧客は、それをバックトのアプリで管理できるわけだ。バックトは同月、ニューヨーク証券取引所への上場も果たしている。

仮想通貨決済サービスを提供するビットペイ(2011年設立)も2021年、同社の「ビットペイ・プリペイド・マスターカード」をアップルペイ、グーグルペイに登録して支払いに使うことが可能になったと発表した。このカードは、ビットコインをはじめとする仮想通貨をチャージすることで、使用が可能になる。

仮想通貨のATMを運営するビットコインデポ(2016年設立)は、事業を急速に拡大した。これは、新型コロナ禍での仮想通貨需要の高まりを受けた結果だ。2021年9月までの半年間で、ビットコインATMの台数を3倍以上に増やした。現在、米国とカナダでの台数が5,000台以上に及ぶ。このATMでは、ビットコインはじめ30種類以上の仮想通貨を現金で即時購入することができる。2021年7月には、コンビニエンスストア・燃料小売り大手サークルKとの提携も発表。既に700台以上のビットコインATMをその店舗内に設置済みだ。

本稿では、コンタクトレス決済や暗号資産(仮想通貨)を活用したサービスについて紹介した。しかし、これら以外にも、需要が増えているサービスがある。次稿では従来型の銀行口座を持つことができない消費者向け金融サービスや、多様化する金融サービスに関する教育プログラムを提供する、ジョージア州のスタートアップ企業を紹介する(本特集「ジョージア州企業によるネオバンクや金融教育サービスに注目(米国)」参照)。


注1:
グローバル・ペイメンツは、州内のフィンテック企業として雇用数が最大。
注2:
NCRは、2020年に日本拠点創立100周年を迎えた。
注3:
ファーストデータは2019年1月にフィザーブに買収された。
注4:
TSYSは2019年9月にグローバル・ペイメンツと合併した。
注5:
Point of Salesの略。ここでは実店舗での取引の意。
注6:
1981年から1996年の間に生まれた世代。現在25歳~40歳。
注7:
バックトは、米国取引所大手のインターコンチネンタル取引所(ICE)の子会社として設立された。 なおロイヤルティープログラムとは、商品の購入やサービスの利用が頻繁な顧客に対して事業者から提供される特典のこと。特典として付与されるポイントが、ロイヤルティーポイント。
注8:
バックトが提携するサービスには、(1)アップルペイ、(2)グーグルペイ、(3)スターバックス、(4)ベストバイ(家電量販大手)、(5)チョイスホテルズ(ホテル運営大手)などがある。(1)や(2)は、 スマートフォン用決済サービスとして代表的な存在だ。
執筆者紹介
ジェトロ・アトランタ事務所
石田 励示(いしだ れいじ)
2009年、ジェトロ入構。ジェトロ松江、農林水産・食品部などを経て、2018年4月から現職。

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