フィンテック産業集積地として発展するジョージア州-全米の大手決済業者10社のうち6社が集中-

(米国)

アトランタ発

2018年01月11日

全米の大手フィンテック企業の多くがジョージア州に拠点を置き、世界中のカード取引やオンライン決済の約7割近くを処理しているといわれている。フィンテック産業の年間収入はニューヨーク州、カリフォルニア州に次ぐ全米3位だが、フィンテックのハブとしての地位を確立するため、産学一体となった取り組みが積極的に行われている。

「トランザクション・アレー」を形成

「ピーチ(Peach)」「ピーカンナッツ(Pecan)」「ピーナツ(Peanuts)」「松(Pine Tree)」「鶏(Poultry)」など、頭文字が「P」の名産品で有名なジョージア州だが、今後はこれに「決済処理(Processing and Payments)」を付け加えるべきだ、とする声もある。同州は全米屈指のフィンテック産業集積地として急成長している。

ジョージア・テクノロジー協会(TAG)によると、州内のフィンテック企業は、フォーチュン500大企業からベンチャー企業まで規模は異なるものの計約100社に上る。このうち約90社がメトロアトランタ地域に集積し、「トランザクション・アレー」とも呼ばれている。フィンテック企業による雇用は州内で3万人以上、事業所面積は州内総事業所面積の約8%に当たる800万平方フィート(約74万4,000平方メートル)を占め、総収入は年間720億ドルでニューヨーク州、カリフォルニア州に次ぎ全米3位となっている。世界の1,180億件、360億ドル以上の決済がジョージア州企業を通じて処理されている。

全米最大の決済業者などがジョージア州に本社を置く

全米最大の決済業者で全米カード取引の45%を処理し、全世界118カ国に600万人の顧客を持つファーストデータをはじめ、グローバルペイメンツ、TSYS、ワールドペイ、エラボンなど、全米の大手決済業者10社のうち6社がジョージア州に本社を置く。また、ストアブランド(ハウスブランド)のギフトカードやプリペイドカードを主に扱うインコム、業者向けガソリンスタンドカードを扱うフリートコアなども同州を本拠としている。4億人の信用情報を保有する信用調査最大手のエクイファックスも、アトランタの老舗企業だ。

金融・情報システム大手のNCRは、2009年に本社をオハイオ州からジョージア州に移転した。FIS(本社:フロリダ州)やFiserv(本社:ウィスコンシン州)など他州のフィンテック大手企業も人材面やインフラ上の利点からジョージア州に進出している。さらに英国企業のトゥルーレーティング(TruRating)など海外企業の進出も見逃せない。

ジョージア州発のベンチャー企業も注目されている。2017年7月にソフトバンクが2億5,000万ドルの投資を行ったキャベッジ(Kabbage)は、SNSやSaaS(注)などのビッグデータ分析による独自の与信審査システムにより、オンライン融資を提供している。同社の創設者で最高経営責任者(CEO)のロブ・フローウェイン氏は、今後さらに米国内での事業を拡大するほか、アジアなどへのグローバル展開も計画しているという。

このほかにも、ビットコイン決済大手のビットペイ(BitPay)、不動産クラウドファンディングベンチャーのグラウンドフロア、アキュリンク、プライムレベニューをはじめ、数多くのフィンテック新興企業がある。

幾つもの業界支援団体が活発に活動

テクノロジー関連ベンチャー企業の成功率は1割程度といわれている中で、インキュベーターやビジネスインフラの重要性が指摘されているが、ジョージア州でも新興企業育成を目指して幾つかの業界支援団体が活発な活動を行っている。ジョージア工科大学の先端技術開発センター(ATDC)は、全米トップクラスの非営利インキュベーターとして業界誌「Inc」に取り上げられた。2015年にはワールドペイが、ATDCにおけるフィンテック分野促進基金として100万ドルをジョージア工科大学に寄付した。

ATDCが本拠を置くテック・スクエアは、高層ビル建設ラッシュが進むアトランタ市中心部のミッドタウン地域にあり、ジョージア工科大学メインキャンパスに隣接することからも、テクノロジーのハブとして注目されている。NCRやグラウンドフロアが他州から本社を移転し、ワールドペイも近くに移転するなど、フィンテック企業の集積が進んでいる。TAGには2,000以上の企業、3万人以上が加盟しているが、2010年にTAGフィンテックを創設し、セミナーやイベント開催のほか、調査レポートの発行、州政府への要望など業界発展のための活動を行っている。

さらにTAGは、米国取引決済業者連合(ATPC)、メトロアトランタ商工会と共同で2015年にフィンテックのタスクフォースを立ち上げた。タスクフォースは「フィンテック・アトランタ」と称され、ファーストデータなどの大手決済業者、NCR、エクイファックス、キャベッジなど同州の代表的なフィンテック企業のほか、コカ・コーラ、ホームデポ、デルタ航空、UPSなどの大手企業、ジョージア州商務省経済開発局、ジョージア工科大学など、文字どおり産官学からフィンテック関連団体20社余りが創立メンバーとして参画している。フィンテック・アトランタは、「人材」「資金」「広報」「政策提言」の4分野においてそれぞれワーキンググループを設置し、同州におけるフィンテック産業のさらなる発展を目指して今後、中心的な役割を担っていくものと期待される。

(注)SaaS:ソフトウエアをベンダー(プロバイダー)側で稼働し、ソフトウエアの機能をユーザーがネットワーク経由で活用すること。

(ラマース直子)

(米国)

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