特集:新型コロナ禍における北米地域の新たな消費トレンド和牛の消費トレンドと成長する植物肉産業の現状(米国)

2022年2月14日

新型コロナウイルス感染拡大に伴うEC(電子商取引)の利用拡大などにより、米国で和牛の消費量が増加している。他方、環境・動物倫理などに対する意識の高まりから、植物肉市場も急速に拡大している。本稿では、米国における和牛の消費トレンドに加え、昨今の成長著しい植物肉産業の現状について、業界関係者へのヒアリング結果も踏まえながら紹介し、今後の見通しについて展望する。

2021年の和牛輸出量は前年から倍増

和牛の対米輸出に関して、直近7年間のトレンドを見ると、輸出量と輸出金額は着実に拡大している(図1参照)。2020年の輸出量は2015年の2.5倍強で、2021年は11月末時点で既に前年の2倍以上に伸長し、1,000トンの大台に達している。

図1:和牛輸出量及び輸出金額の推移
米国向けの和牛輸出量は、2015年には206トンであったが、2016年245トン、2017年373トン、2018年421トン、2019年398トン、2020年522トン、2021年1,072トンと、着実に伸長。輸出金額についても、2015年の17億円から、2016年21億円、2017年30億円、2018年33億円、2019年31億円、2020年42億円、2021年は93億円に伸びている。

注:2021年は1月~11月の数値を集計。
出所:財務省貿易統計

こうした輸出増加の一因に、2020年以降の低関税枠の拡大がある。日本の低関税枠は当初200トンだったが、日米貿易協定(2020年1月1日発効)により、複数国枠(注1)の6万4,805トンと合算され、他国と共同で計6万5,005トンとなった。米国では、和牛の輸入金額に対し、通常26.4%の関税が課せられるが、割当枠内であれば1キロ当たり4.4セントの低い従量税が適用されるため、コストが低く抑えられ、低価格での販売が可能となる。

米国に輸出される和牛の部位をみると、2021年はロインが79%、次いで「かた、うで、もも」が15%となっており、米国での和牛需要はステーキに適した高級部位のロインに集中している(図2参照)。ジェトロが日系和牛輸入事業者からヒアリングしたところによると、「和牛の主な消費者層は、白人と中華系をはじめとするアジア人で、前者は専らステーキを好み、後者はしゃぶしゃぶやすき焼きといった鍋での消費が多い」という。特にアジア人がステーキ以外の新しい食べ方やロイン以外の部位への関心も高いことから、「今後はこうした好奇心の強い層をターゲットに販売拡大を狙っていきたい」との意気込みも聞かれた。

図2:部位別の輸出量割合(2021年)
2021年の米国向け和牛輸出量の部位別割合は、ロイン(背肉)79%、かた、うで、もも15%、ばら3%、その他3%となっている。

注:1月~11月の数値を集計。
出所:財務省貿易統計

新型コロナ禍で和牛消費は拡大

従来、和牛は主に高級飲食店で取り扱われていたが、前出の和牛輸入事業者からのヒアリングによると、和牛消費が昨今拡大している要因の1つとして、新型コロナ禍の中で消費者の生活様式が変化し、ECサイトや小売店からのデリバリーによる需要が増加したことがあるようだ。米国では輸送インフラが全国的に整備されており、和牛を輸送できる環境が整っていることも背景にある。こうした状況の下、牛肉のEC販売を専業とするクラウドカウや、ECサイト、コストコなどでの購入を契機に、レストランよりも安価に和牛を楽しめることが認知されるようになり、新たな購買層の獲得につながったとみられる。ECサイトでは、気に入ったものを再度購入する消費者も多いという。また、コロナで規制されていた飲食店の営業が再開されたことで、和牛消費が一層拡大したもようだ。


コストコはA5和牛を1ポンド約100ドルで販売(ジェトロ撮影)

インフルエンサーやSNSを通じた販売手法も注目されている。数百万人のフォロワーを有するインフルエンサーが情報を発信すれば、たとえ行動を起こしたフォロワーが全体の0.1%だったとしても数千人の購買につながるため、決して見過ごせない。特に、流通量が限られる和牛でインフルエンサーの影響は大きく、事業者からも「インフルエンサーは、一度の発信で年間売り上げの約1割をもたらすポテンシャルを有しており、インスタグラムなどを通じたマーケティングは今後一層重要になってくる」との声が聞かれた。中でもクラウドカウは、農場紹介や動物福祉に配慮しつつ、インスタライブなどを通じて積極的にプロモーションを行うことで、売り上げを伸ばしている。

前出の事業者からのヒアリングによると、「和牛の購入者は、ユーチューブなどで和牛の種類や調理方法を研究していることが多く、これまでの『和牛=神戸牛』という認識から、『日本にはさまざまな地域に和牛がある』といった認識に変わってきている」という。今後も各種プロモーションを通じ、米国における和牛の認知度の向上や消費拡大に期待がかかる。

コロナを受け、2020年に植物肉の売り上げ急増

植物肉は、大豆などの植物性タンパク質を用いて肉の風味や食感を模した食品(注2)で、人口増加に伴う食料問題や畜産による環境負荷、動物倫理への解決策として注目され始めた。現在、米国の植物肉市場で最大のシェアを獲得しているのが、2009年創業の植物肉ベンチャーのビヨンド・ミート(本社:カリフォルニア州)だ。同社は「植物肉のハンバーガーは、牛肉を使ったものに比べて水の使用量を99%、土地の使用量を93%、エネルギーの使用量を46%、温室効果ガスの排出量を90%削減することができる」とうたい、植物肉が環境配慮型商品であることを消費者に訴えかけている。2011年には、同じく植物肉を販売するインポッシブルフーズ(本社:カリフォルニア州)も創業している。同社は動物性タンパク質に含まれる鉄分を含んだ「ヘム」を大豆から抽出・使用し、「より肉に近い質感と味」を再現している点で、競合他社との差別化を図っている。これらに加え、米国食肉大手のタイソン・フーズ、ホーメル、カーギル、食品大手のケロッグなども独自の植物肉ブランドを立ち上げ、業界参入を果たしている。

植物肉市場は、こうしたプレーヤーに牽引されるかたちで急速に拡大し、市場規模は2020年に前年比約5割増となる14億ドルに達した。同年は新型コロナウイルス感染拡大の真っただ中であり、大手食肉工場でも相次ぐ感染により通常のスケジュールで出荷できなくなり、行き場を失った家畜の安楽死などが社会問題になった。こうした問題への関心が高まったことや、食肉の供給量が減少したことで、一時的に食肉と植物肉の価格差が縮小した。それによって、植物肉が一部の消費者にとって魅力的な選択肢となり、市場規模が急拡大したとみられる。

当時の状況について、全米肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)のコリン・ウッドオール会長は「牛肉不足はあくまで一時的なもので、購買データによると、消費者は引き続き牛肉を切望している」と述べているが、ビヨンド・ミートのイーサン・ブラウン社長兼最高経営責任者(CEO)は「長期的な顧客を獲得するために、一時的な出来事や混乱をどのように利用するか(が市場拡大のカギだ)」とした。また、インポッシブルフーズの創業者でCEOのパット・ブラウン氏も「肉食主義者にとっては、今が試練の時」とコメントしており、植物肉を扱う各社が市場拡大に強い意欲を示していることがうかがえる。事実、植物肉各社は新型コロナウイルスのパンデミック発生後に製品の値引きなど各種キャンペーンを実施しており、2020年5月2日までの9週間で市場全体の売り上げが前年同期比4倍となる急成長を遂げた。


健康・環境志向の大手小売店ホールフーズでは、ビヨンドミートの専用コーナーを設置(ジェトロ撮影)

植物肉は2021年に成長減速の傾向、課題は価格か

一方、2021年の植物肉の売り上げは減速傾向にある。米国の小売統計を扱うスピンズによると、2021年の植物肉の月別売り上げは、12月に前年同月比で1.6%増加したものの、3月から11月にかけて連続して減少しており、年間の総売上高は前年比0.5%減となっている。同社はこの要因として、2020年に市場が急拡大したことに加え、飲食店の再開などに伴い消費者がスーパーで植物肉を買う機会が減ったことや、サプライチェーンの問題で一部の製品がうまく流通しなかったことを挙げる。また、米系コンサル会社の担当者は「植物肉産業が成長し続けるためには、生産能力を増強してコストを削減し、研究開発を通じて食味改善に取り組むことが不可欠」と述べた。食品関連事業者らに対するジェトロのヒアリングでも、植物肉の長期的な課題として価格と食味が挙げられており、「市場が拡大したことで植物肉の価格は下がっているが、依然として従来の食肉より3割程度高く、購買につながりづらいのでは」という声や、「食味も近づいているが、少しあっさりしており、好みが分かれる印象」といった意見が聞かれた。投資家や消費者の興味を引きつけつつ、こうした課題をクリアしていけるかが、これから植物肉市場の行方を左右するものと思われる。

新型コロナウイルスの感染拡大は、和牛と植物肉の双方で、それぞれ異なるかたちで認知度の向上と消費拡大をもたらした。一見すると、植物肉の台頭は和牛輸出にとって障壁となり得るが、米国の食肉市場における植物肉や和牛の市場規模は極めて小さく(注3)、また、消費者層も大きく異なっており、和牛輸入事業者からのヒアリングでも「現時点で脅威には感じない」といった声が聞かれた。とはいえ、ミレニアル世代を中心に環境や動物福祉に対する消費者意識は高まっており、これから和牛の対米輸出でも、こうした新しい価値観への配慮が求められる可能性はある。それぞれの市場において、各社がどのように消費者の選好を読み取り、どのように課題を乗り越えていくのか、今後の動向が注目される。


注1:
複数国で一定の数量を分け合う関税枠。ブラジル、アイルランド、オランダ、日本、チリ、フランス、ナミビア、英国、ポーランドが同枠を利用。
注2:
代替肉は、大豆など植物由来の「植物肉」と培養技術を用いた「培養肉」に分けられるが、後者は試験段階で市場に出回っていないため、本稿では植物肉についてのみ記述した。
注3:
植物肉の売り上げは食肉の2.7%(2020年)。和牛の輸出量は牛肉消費量の0.01%(2021年)程度。

変更履歴
文章中に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2022年5月9日)
3段落目
(誤)複数国枠(注1)の6億4,805トンと合算され、他国と共同で計6億5,005トンとなった。
(正)複数国枠(注1)の6万4,805トンと合算され、他国と共同で計6万5,005トンとなった。
執筆者紹介
ジェトロ・シカゴ事務所
小林 大祐(こばやし だいすけ)
調査および農林水産関係担当、民間等研修生。2021年4月から現職。