特集:新型コロナ禍における北米地域の新たな消費トレンドアパレル業界、新型コロナ禍の苦境から復活(米国)
カジュアルウエアとファッションテックが牽引役に

2022年2月28日

新型コロナウイルス禍のため、全米各地でロックダウン措置が導入された。そのため、アパレル小売店舗の売り上げは激減。人々の外出機会が減ったことで、特にスーツやドレスなど、フォーマルな衣服を扱うブランドは苦境に立たされた。

対照的に、カジュアルウエアの売り上げは早々と回復している。ホームフィットネスや部屋着需要の高まりに伴った結果と考えられる。ロックダウン措置が緩和された後も、人気を保っている。リモートワーク継続による環境変化や、オフィス通勤者がカジュアルファッションに選好を変化させたことに支えられているとみられる。

ロックダウン措置は、ファッションテックの導入も後押しした。オンライン販売サービスが拡充されたことに加え、路面店舗の営業再開以降も顧客の利便性向上に向けた新たなサービスの導入が進んでいる。

当面は「カジュアルウエア」と「ファッションテック」が米国アパレル市場を牽引していきそうだ。

ロックダウンでカジュアルウエアの人気上昇

新型コロナ禍に伴って2020年初めに全米各地で導入されたロックダウン措置により、人々は外出行動を大きく制限された。ヘルスケアや食料品店など「必要不可欠な活動」を除き、多くの業種で営業活動の停止を余儀なくされた。アパレル産業は「必要不可欠な活動」と見なされず、路面店舗の一時的な閉鎖が相次いだ。

ロックダウン措置導入直後の2020年3月に食料品店舗の売り上げが前月比28.4%増と大きく伸びたのとは対照的に、アパレル店舗では売り上げが同月に同49.1%減、翌4月には同75.3%減。これほど急減したのは、路面店舗の営業停止に大きく起因している(図1参照)。アパレルブランドや百貨店などの小売店は、経営難に陥った。ジェイクルー、ニーマン・マーカス、ジェイ・シー・ペニー、ブルックス・ブラザース、テイラード・ブランズ(傘下にメンズ・ウエアハウスやジョス・エー・バンクなど)、センチュリー21など、業界を代表する企業が相次いで米国連邦破産法第11章(Chapter 11)を申請する事態に至った。ロックダウン措置は人々の外出機会を奪い、とりわけスーツやドレスなどフォーマル衣料の売り上げに影響を与えた。既述の破産企業のうち、ブルックス・ブラザース、メンズ・ウエアハウス、ジョス・エー・バンクは紳士服ブランドだ。

図1:米国小売店舗販売額(2020年1月~2021年12月)
小売全体(百万ドル)は、2020年1月526,930、2月525,810、3月480,407、4月409,819、5月484,295 、6月526,659 、7月534,295 、8月538,646 、9月549,528 、10月550,038 、11月542,583 、12月535,972 、2021年1月 576,466 、2月559,970 、3月 623,119 、4月 628,751 、5月617,938 、6月 621,340 、7月615,250 、8月622,383、9月 626,999 、10月638,102 、11月639,067 、12月626,833 。アパレル店舗(百万ドル)は、 2020年1月 22,914 、2月 22,560 、3月 11,494 、4月 2,836 、5月 8,394 、6月 17,568 、7月18,137 、8月 18,579 、9月 21,411 、10月 20,766 、11月 19,609 、12月20,095 、2021年1月 21,351 、2月 20,180 、3月 25,012 、4月 24,660 、5月 25,586 、6月 26,464 、7月 25,776 、8月 25,776 、9月26,293 、10月 26,558 、11月 26,885 、12月 26,061 。グローサリーストア店舗(百万ドル)は、2020年1月58,546 、2月58,441 、3月 75,026、4月 65,033、5月 65,931 、6月 64,685 、7月 64,944 、8月 63,861 、9月 63,823 、10月 63,383 、11月 64,371 、12月 63,775 、2021年1月 64,656 、2月 64,290 、3月 64,605 、4月 65,183 、5月 66,098 、6月 66,731 、7月 66,592 、8月 68,123 、9月68,515 、10月69,315、11月 69,467、12月 68,981 。無店舗(百万ドル)は、 2020年1月 65,240 、2月 65,600 、3月 68,433 、4月 76,629 、5月 81,508 、6月 78,553、7月 80,707 、8月 82,248 、9月 80,808 、10月 83,295 、11月82,280 、12月 74,474 、2021年1月 87,028 、2月84,324 、3月 88,886 、4 月 88,975 、5月 87,917 、6月 88,003 、7月 83,934 、8月 88,903 、9月 88,532 、10月 91,875 、11月 90,463、12月 82,596 。

出所:米国商務省「Monthly Retail Trade Report」からジェトロ作成

他方、外出機会の減少は、アスレジャー(Athleisure、注1)を中心とするカジュアルウエアの需要増加につながった(図2参照)。確かに、アスレジャーブランドを取り扱う主要各社も、ロックダウン措置導入により販売額が落ち込んだ。しかし、ギャップやルルレモンは2020年後半から回復へ向かっている。アパレル全体での米国販売の回復を上回る勢いだ。米国のアスレジャー人気はパンデミック以前から顕著だったが(2015年11月5日付ビジネス短信参照(記事本文は会員のみ閲覧可))、フォーマルなスーツを着る必要がない新しい生活様式や、ホームフィットネス需要が、これらブランドの売り上げ回復を後押ししたとみられる。

図2:アスレジャーブランドを扱う主要各社の販売額
(2019年第4四半期~2021年第3四半期)
アパレル全体は、2019年4Q100、2020年1Q 75、2Q 75、3Q 84、4Q 102、2021年1Q 85、2Q 97、3Q 98 。ナイキは、2019年4Q100、2020年1Q 74、2Q 55、3Q 89、4Q 94、2021年1Q 89、2Q 106、3Q 107 。ルルレモンは、2019年4Q100、2020年1Q 72、2Q 61、3Q 79、4Q 123、2021年1Q 110、2Q 105、Q3 109 。ギャップは、2019年4Q100 、2020年1Q90、2Q 99、3Q 114、4Q 136 、2021年1Q141 、2Q138 、3Q130 。

注1:2019年第4四半期(10~12月)を100とした場合の推移。
注2:四半期決算月が3月、6月、9月、12月とは異なるため、決算上の四半期販売額を期間案分した推計値となる。
注3:ナイキは北米のアパレル全体、ルルレモンは米国全体、ギャップは米国のアスレタブランドの販売額。
出所:各社発表、米国商務省「Monthly Retail Trade Report」からジェトロ作成

アスレジャーブランドを取り扱う各社は、自社製品の拡販につながるサービスの拡充にも取り組んだ。パンデミック期間に多くの顧客を取り込むのが、その狙いだ。例えば、ルルレモンは2020年6月、ミラーの買収を発表した。ミラーは、家庭用エクササイズ器具やビデオライブ・オンラインでのトレーニング・フィットネス・クラスを提供する企業だ。ジムやフィットネスクラブが一時的に閉鎖する中、自宅でのエクササイズ需要を取り込むのが目的だったと考えられる。またアンダーアーマーは、自社と契約するアスリートの専属運動選手やフィットネストレーナーが自宅からエクササイズ指導する映像を流す動画内容をシリーズ化。これをユーチューブで配信し、消費者のブランド認知度の向上に取り組んだ。

また、好調なアスレジャー市場の需要を取り込むために新規参入するカジュアルウエアやフォーマルウエアのブランドも出てきた。カジュアルウエアのアメリカン・イーグル・アウトフィッターズ(AEO)は、「オフライン・イーリー」を2020年7月に立ち上げた。傘下の女性用下着ブランド、イーリーのアスレジャー版サブブランドとしての位置づけだ。また、百貨店のコールズも2021年3月に自社独自のアスレジャーブランドFLXを設立。同社のウェブサイト・トップページには2022年2月現在、アスレジャーを扱うページに誘導するバナーも掲載されている。

オフィスでもカジュアルウエア定着

カジュアルウエア人気は、ロックダウン措置が緩和された現在も続いている。その理由の1つとして、リモートワークの定着したことが挙げられる。その結果、オフィス営業再開以降も在宅勤務を続ける社員が少なくない。もう1つは、オフィス通勤の態勢に戻した企業の中に、スーツやネクタイ着用など、以前の厳しいドレスコードを緩和する動きが見られることだ。

オフィスのドレスコードにカジュアルウエアを加える動きは、パンデミック以前から見られた。しかし、この傾向はパンデミックで明らかに強まったと専門家は指摘している。リモートワークでカジュアルウエアに慣れた社員の多くは、オフィス通勤に戻ってもカジュアルウエアを着用しているようだ。この点、デジタル・ビデオ・ネットワーク事業を展開するキャプティベイトが、オフィスワーカー501人を対象にアンケート調査を実施。その2021年10月の発表によると、パンデミック以前と比べてオフィスでジーンズを着用する人が増えたと回答した割合は、43%。Tシャツを着用する人が増えたとした割合は、28%だった。

こうした中、「ワークレジャー(Workleisure)」と呼ばれる新ジャンルも定着しつつある。見かけこそフォーマルに近い一方、カジュアルウエアのように素材のストレッチ性が高く、ウエスト部分をゴム仕様などに切り換えたウエアだ。ルルレモンは、従来のアスレジャーからフォーマルに寄せたデザインの商品を導入している。トレーニングウエアに用いる素材のボタンダウンシャツや、トレンチコートのようなデザインのレインジャケットなどが一例だ。スーツブランドも、同様の動きを見せる。女性向けスーツブランドのアージェントは、ストレッチ性の高い素材を使ったスーツや、ブレザーやズボンに合う襟付きのセーターやタートルネックなどを販売。このほか、ジーンズやTシャツ、オーバーオールと合わせたブレザーのスタイルを提案している。男性向けスーツ大手のブルックス・ブラザースやヒューゴボスでも、パーカーやポロシャツなどを多用したカジュアルウエアコレクションを展開している(「ファストカンパニー」2021年12月28日)。

オンラインと実店舗両方でファッションテック導入

新型コロナ禍の中で余儀なくされた実店舗営業の停止は、オンライン販売の拡大につながった。米国で、路面店舗を含む小売店舗全体の売り上げは2020年3月と4月、それぞれ前月比8.6%減、14.7%減と連続で減少した(図1参照)。一方、オンライン販売を含む無店舗販売は同年3月に前月比4.3%増、4月には同12.0%増と大きく増加した。

アパレル市場でも同様に、オンライン販売の重要性が高まっている。アパレルのオンライン販売額がアパレル市場全体の売り上げに占める割合は、新型コロナ禍以前の2018年第1四半期(1~3月)~2019年第4四半期(10~12月)の2年間で平均8.2%だった。これに対し、2020年第1~第4四半期には平均12.3%まで上昇した(図3参照)。もっとも、店舗営業の再開に伴い、そのシェアは足下で低下気味ではある。だとしても、その販売額は新型コロナ禍以前と比べて高い水準で推移している。こうしてみると、引き続き重要な販売チャンネルとなっていると評価できるだろう。

図3:アパレルのオンライン販売額・シェア
(2018年第1四半期~2021年第3四半期)
アパレル・オンライン販売額(百万ドル)は、2018年1Q 15,963、2Q 17,661、3Q 18,070 、4Q 30,195、2019年1Q 18,095 、2Q 20,093 、3Q 21,154 、4Q 35,286、2020年1Q20,690、2Q 33,732、3Q 30,699 、4Q47,429、2021年1Q31,046、2Q 33,952 、3Q32,170 。シェア(%)は、2018年1Q6.9、2Q 7.0、3Q 7.1、4Q 9.8、2019年1Q 7.8、2Q 7.7、3Q 8.2 、4Q11.2、2020年1Q 8.7 、2Q14.2、3Q 11.5、4Q 14.7、2021年1Q 11.6 、2Q11.0 、3Q10.4 。

出所:米国商務省「Latest Quarterly E-Commerce Report」からジェトロ作成

オンライン販売システムを積極的に導入するアパレル企業は、新型コロナ禍以前も少なくなかった。ただし、新型コロナ感染拡大による店舗営業制限により、各社にシステムの導入や拡充が促進されたとは言える。特に、スマートフォンのアプリから商品を購入する傾向が消費者の間で強まった。それに応じて、スタートアップが開発する新アプリの導入や、ティックトックといったSNSを利用したマーケティング手法が広く採用されるようになった。

例えば、店舗に実際に足を運べない以上、顧客の試着需要にオンライン上で応えることが重要になる。その中で、カリフォルニア州サンフランシスコに本社を置くファッションデジタル開発のフォーマは、ユーザーの顔写真を基に生成されたアバター(注2)を使って衣服のバーチャル試着を可能とするアプリを開発した。コンピュータビジョン機能とグラフィック技術を駆使した結果だ。ロックダウン措置施行以降にフォーマのアプリの新規ユーザー数が急増すると、多くのブランドから注目を集めた。

カリフォルニア州ロサンゼルスに本社がある写真共有アプリサービスのスナップは2020年6月、高級ブランドのグッチと提携。拡張現実(AR)機能を用いて自社のアプリ上でグッチのスニーカーを試着できるサービスを開始した。スナップは2021年5月、ファッション専用電子商取引(EC)プラットフォームのファーフェッチや高級ブランドのプラダとも提携を発表した。

路面店舗の営業再開以降も、自宅でのバーチャル試着は定着している。パーフェクトは、スマホを身体にかざすだけで、ファッションアクセサリーや時計を3D画面で試着することを可能にした。同社は、カリフォルニア州サンノゼに本社を置く人工知能(AI)/ARテック企業だ。

なお、商品のSNSマーケティングでは、インスタグラムなどでインフルエンサーを利用するのが主流になっている。その中で、新しい手法として、特に若年層向けにティックトックを活用する企業が増えた。検索エンジン最適化(SEO)トレーニングサービス提供のバックリンコが発表したデータによると、米国では2020年8月までにティックトックの月間利用者数が1億人を超えた。中でも10~29歳のユーザーが、約半分を占めている。ティックトック上では、小売業者やインフルエンサーが商品を実況で紹介する。詳細や開発ストーリーなどを視聴者に伝えながら、同時に視聴者からの質問にその場で応じる。AEOやアバクロンビー&フィッチなどのカジュアルウエアブランドは、新型コロナ禍の中、いち早くティックトックを使って若年層顧客の獲得に努めた。ティックトックでの口コミが広がった結果、イーリー(AEO傘下)の青色レギンスはすぐに完売。再入荷まで半年間かかったと報じられている。

新型コロナ感染拡大初期では、オンライン販売の普及が顕著だった(図3参照)。ただし、ロックダウン措置の緩和に伴い、オンライン販売シェアが減少するとともに、実店舗への客足が増えている。店舗で商品の肌触りを確認するなどの「体験」はオンラインでは提供できないということもあるだろう。

もっとも、オンラインと実店舗は互いに競争的ではなく、むしろ補完的な関係が強まっている。例えば、消費者はオンラインで好みの衣服を見つけ、他者のレビューを確認して購入を検討した後に、実店舗を訪れて商品を確認し、最終的に購入するパターンが多い。オンライン販売や実店舗といったさまざまな販売チャンネルをシームレスにつなぐ、いわばリテールのオムニチャネル化は、各社が新型コロナ禍以前から進めてきた試みだ。その重要性は、より高まったといえる。

その一例をアマゾンにみることができる。同社は著名なEC企業でありながら、数年前、自社ファッションブランドを設立。そんな同社が2022年1月、初のアパレル実店舗「アマゾン・スタイル(Amazon Style)」を設置する計画を明らかにした。2022年後半に、ロサンゼルスで開業するという(2022年1月24日付ビジネス短信参照)。顧客は、同社のアプリで商品のQRコードを読み取ることで、商品情報を確認できる。そのほか、試着室に備え付けられたタッチパネルを使い、試着室にいながら異なるサイズや色の商品を探すことも可能だ。加えて、事前にオンラインで購入した商品をアマゾン・スタイル店舗へ配送を依頼し、店内で試着できるようにもしている。アマゾンは、まさに各社が進めるオムニチャンネル化の最先端を走っているといえる。

米国商務省の小売り統計によると、2021年第1~第3四半期、米国でアパレルの売り上げは2019年同期比で17.8%増だった。新型コロナ禍以前の水準をも大きく上回ったことになる。復活を遂げたアパレル産業は、当面はカジュアルウエアとファッションテックが引っ張っていきそうだ。


注1:
運動(athletics)に用いることができる機能性と、旅行や部屋着といった運動目的以外の余暇(leisure)にも着用できるデザイン性を持ち合わせた衣類や服装を指す。アスレジャーの代表的なブランドとしては、ナイキやアディダス、アンダーアーマー、プーマ、ルルレモン・アスレティカ、アスレタ(ギャップ傘下)、などがある。
注2:
オンラインの仮想空間上で自身の分身として表示されるキャラクター。
執筆者紹介
ジェトロ・ロサンゼルス事務所
永田 光(ながた ひかる)
2010年、財務省入省。2020年8月からジェトロに出向、現職。