特集:新型コロナ禍における北米地域の新たな消費トレンド新型コロナ禍でD2C消費が進展(米国)

2022年3月22日

新型コロナウイルス禍の中、D2C(Direct-to-Consumer)型のeコマース需要が拡大している。D2Cとは、ブランドがウェブサイトなどを通じて消費者へ直接販売することだ。ある調査結果によると、消費者は「ブランドを信頼している」「商品を見つけやすい」「より良い買い物ができる」ことを利用理由に挙げているようだ。他方、サプライチェーンの混乱や物価上昇が、D2Cを含めeコマース消費の障壁になっている。多くのブランドが乱立し、競争が激化している様子もみられる。

目下、購買の6割以上がオンライン

デジタルコマース360によると、2021年11月の感謝祭休暇期(注1)、eコマースを通じた消費は51億ドル。前年同期比0.5%増、前々年同期比21%増になった(図1参照)。CGSの調査結果によると(注2)、2021年の購買場所を尋ねた質問に関して、61%がアマゾンなどのオンラインマーケットプレイスと回答。これに対して、実店舗との回答は16%にとどまった。コロナ禍の完全な収束が見通せない中、eコマースをよく利用する消費者からは「子どもの感染に対する不安から、買い物はほとんどeコマース」という声も聞かれる。さらに、スケールファストの調査結果では(注3)、4分の1弱(24%)が「新型コロナによって変化した消費習慣(オンライン消費など)は、永久に変わらない」と回答した。

図1:感謝祭休暇期間中のEコマース消費額および伸び率の推移
Eコマースの消費額は、2014年18億ドル、2015年21億6,000万ドル(前年比20%増)、2016年24億3,000万ドル(前年比12.5%増)、2017年28億7,000万ドル(前年比18.1%増)、2018年36億8,000万ドル(前年比28.2%増)、2019年42億1,000万ドル(前年比14.4%増)、2020年51億1,000万ドル(前年比21.4%増)、2021年51億4,000万ドル(前年比0.6%増加)となっている。

出所:デジタルコマース 360

コロナ禍中でD2C型eコマースの利用が拡大

オンライン消費が拡大する中、消費者に商品を直接販売するeコマースの利用が拡大している。イーマーケター(eMarketer)が2021年2月に発表したデータによると、米国でのD2C型eコマースの市場規模は、2019年の766億ドルから2020年には1,115億ドルへ拡大した。前年比で、実に45.6%増になる。また、PYMNTSが2020年8月に発表したアンケート結果では(注4)、パンデミック以降に利用を増やした購入場所は、分野を問わず、実店舗に比べてオンラインの割合が大幅に増加。さらにオンラインの中でも、ブランド運営サイトとマーケットプレースが同程度増加したという(図2参照)。

図2:パンデミック以降に、米国の消費者が利用を増やした購入場所 
食料品はブランド運営の実店舗で21.8%増、ブランド以外の運営の実店舗で12.2%増、ブランド運営のオンラインで60.6%増、マーケットプレース運営のオンラインで59.9%増と購入が増えた。同様に、家庭用品はブランド運営の実店舗で22.8%増、ブランド以外の運営の実店舗で12.3%増、ブランド運営のオンラインで54.9%増、マーケットプレース運営のオンラインで56.1%増。衣服・アクセサリーはブランド運営の実店舗で9.8%増、ブランド以外の運営の実店舗で7.7%増、ブランド運営のオンラインで49.9%増、マーケットプレース運営のオンラインで43.3%増。健康・ウェルネスはブランド運営の実店舗で22.0%増、ブランド以外の運営の実店舗で9.8%増、ブランド運営のオンラインで47.1%増、マーケットプレース運営のオンラインで48.4%増。靴はブランド運営の実店舗で10.1%増、ブランド以外の運営の実店舗で10.0%増、ブランド運営のオンラインで38.4%増、マーケットプレース運営のオンラインで41.5%増。美容・コスメティクスはブランド運営の実店舗で17.6%増、ブランド以外の運営の実店舗で9.8%増、ブランド運営のオンラインで50.1%増、マーケットプレース運営のオンラインで48.5%増。ペット用品はブランド運営の実店舗で21.7%増、ブランド以外の運営の実店舗で8.7%増、ブランド運営のオンラインで42.8%増、マーケットプレース運営のオンラインで46.7%増。

注:パンデミック以降、利用を「やや」または「より多く」増やした購入場所の割合。
出所:PYMNTS「 D2C And The New Brand Loyalty Opportunity」を基にジェトロ作成

企業規模を問わずD2Cを活用

すでに、さまざまな企業がD2Cビジネスを展開している(表参照)。大企業や小規模事業者、スタートアップなど、企業規模も問わない。それらのうち、サンフランシスコ市に拠点を構えるスタートアップ企業としては、グローブ・コラボレーティブ、レジデント、イミーなどがある。

米国のD2C型eコマースの市場規模は今後も拡大していくと予測されている。先述したイーマーケターのデータによると、2023年には1,750億ドルまで拡大する見通しだ。

表:米国のD2Cスタートアップなどの例
企業名 オフィス
所在地
カテゴリー 資金調達額
(ドル)
概要
グローブ・コラボレーティブ(Grove Collaborative) カリフォルニア州サンフランシスコ市 ホーム商品、個人ケアなど 4億7,450万 サステナビリティーを重視した日用品などを取り扱う。掲げる4つの基準は、「妥協のない健康」「美しく効果的」「倫理的に生産されている」「クルエルティーフリー(残虐性のない)」。
現時点で、4基準を満たした自社ブランドを150以上創出。監修している。
ブランドレス(Brandless) ユタ州ドライパー市 個人ケア、健康、日用品など 4億1,050万 個人ケア、健康、日用品などを扱うD2Cブランド。コラボレーションや品質、人に焦点を当て、より良い選択は単純かつ簡単であるべきというムーブメントを率いている。
マディソン・リード(Madison Reed) カリフォルニア州サンフランシスコ市 美容 2億300万 55種類以上のヘアーカラー商品を展開。ウェブサイトから注文・購入できるほか、同社が経営する20以上のヘアーカラー専門店で、カラーリングサービスを受けられる。
レジデント(Resident) カリフォルニア州サウスサンフランシスコ市 日用品 1億6,920万 マットレスや寝具などのD2Cブランドを展開。良質な素材、時代を超えたスタイル、快適さを重視 。同社のマットレスブランドの1つnectarは、その快適さで、メディアから高く評価されている 。
エバーレーン(Everlane) カリフォルニア州サンフランシスコ市 ファッション 8,620万 衣料品のD2Cブランド。倫理的に運営されている世界中の工場と提携し、良質でサステナブルな素材を使用した衣料品を製作・販売している。ウェブサイトでは、製作にかかった実費の内訳を公開している。
Mジェミ(M.Gemi) マサチューセッツ州ボストン市 ファッション 8,150万 イタリア製の靴やハンドバックを取り扱うD2Cブランド。イタリア全国の小規模工房と提携しており、靴は全て何世代にわたって受け継がれてきた技術を使い作られている。
アウドドア・ボイス(Outdoor Voices) テキサス州オースティン市 ライフスタイル 6,440万 アウトドア向けの服や靴を取り扱うD2Cブランド。スポーツを楽しむこと、身体を動かすことで、自信が持てるようになり、行動を起こす力になると信じた衣料品づくりをしている。
ハニーラブ(Honeylove) カリフォルニア州ロサンゼルス市 ファッション 1,600万 エレクトリック・ダンス・ミュージックのアーティストによって作られたD2Cの補正下着(シェイプウエア)などを販売。高品質のシェイプウエアや下着の販売を通じて、あらゆる女性に自信を持ってもらうことを目標にしている。
アージェント(Argent) カリフォルニア州ロサンゼルス市 ファッション 410万 女性用のワークウエアなどを取り扱うD2Cブランド。オフィスのドレスコードの向上や社会進出する女性の衣服支援を目標としている。
イミー(Immi) カリフォルニア州サンフランシスコ市 食品 380万 低炭水化物かつ高タンパク質のインスタントラーメンを販売するD2Cブランド。ブラックガーリックチキン、スパイシービーフ、トムヤムシュリンプの3種類を品ぞろえ。サブスクリプションでの購入も可能。

出所:Crunchbase、LinkedIn、各社ウェブサイトなどを基にジェトロ作成

消費者もD2Cに高い関心

ペイパルとPYMNTSが2020年9月に発表した調査では(注5)、消費者の37%がD2Cに「とても関心がある」または「非常に関心がある」と回答した。関心ありとした回答者を年収別に見ると、10万ドル超が43.9%、5万~10万ドルが36.5%、5万ドル未満が31.1%。高所得者ほどD2Cに関心を持つようだ。世代別に見ると、ミレニアム(47.7%)やブリッジミレニアム(50.0%)、ジェネレーションZ(40.1%)(注6)で、その割合が高い。また、学歴別では大卒以上が43.4%、高卒以下が34.5%だった。D2Cに関心を持っている理由については、「ブランドを信頼している」(39.8%)、「商品を見つけやすい」(33.3%)、「オンラインサイトのほうがより良い買い物ができる(33.0%)、「便利」(31.5%)、「価格が安い」(28.3%)などが挙がった。

他方で消費者は、eコマース利用に当たり、ブランド運営のオンラインサイトと第三者のマーケットプレースを使い分けているようだ。D2CEコマースでも、「急いでいる時は、アマゾンなど第三者のマーケットプレースを使う」という声も聞かれる。スケールファストが2021年1月に実施したアンケート調査によると、回答者の42%が「D2Cブランドが無料かつ迅速に配送してくれるなら、第三者ではなくブランド運営サイトから直接購入する」と答えている。

デジタル消費の行方を専門家はどう見る

では、今後のD2Cビジネスの動向や課題をどう見るべきなのか。

eコマースビジネスの専門家に話を聞いたところ、基本線として「多くのブランドが今、販売チャネルをマーケットプレースから自社サイトに移している。米国ではこれから、D2Cによるeコマースは拡大するだろう」との見解だった。その背景にあるのは「消費者のブランドに対するロイヤルティー(loyalty)の高まり」だ。その上で、「多くのブランドは中間マージンを取り除き、消費者と直接コミュニケーションを取りたいと考えている」という。他方、「その拡大に向けては、いくつか障壁も存在する」とも。専門家がeコマース全般について指摘した課題は、第1にサプライチェーンの混乱、第2に物価の上昇、第3に消費者行動の変化だった。第3の点は、多くの人々が外出をする生活に戻っていることを意味する。また、とくにD2Cに関して、「1つのカテゴリーを見ても多数ブランドがあり、消費者にとって比較が困難になってきている」ことも挙げた。これらを踏まえて「D2Cには、これからさまざまな進化がみられると思う」と述べた。

デジタルマーケティングを専門にするコンサルティング会社からは、「D2Cの市場は拡大するだろう。ただし、消費者に対する広告には難しい面がある」とのコメントを受けた。あわせて、「小売り販売は、商品への注目を集める上でよい方法だ。しかし、ブランドのメッセージや価格設定、品質などをほとんど管理できない。その点、D2Cサイトはこれらを管理するに当たって非常によく機能するだろう」と、企業にとってD2C販売が有用なことを指摘した。他方で、「消費者を自社サイトに誘導するには、とてもコストがかかる。各ブランドはそのために多額の投資を行っている」などと付言した。

D2Cを含め、eコマース事業を始める上では、法務上の留意も必要だ。当該分野を専門とする弁護士は「マーケットプレースを通じたeコマースでは、サイト内の規約や条件、契約内容をしっかり見る必要がある。また、自社サイトを通じたeコマースでも、消費者との規約や条件を整備しなければならない。訴訟社会の米国でこれらの対応は特に重要になるだろう」と指摘した。


注1:
11月の感謝祭休暇は、米国で一大消費時期と理解されている。
注2:
CGSは、ビジネスアプリケーション事業を展開する企業。当該調査は、2021年7月に発表された。調査の対象者は、米国の消費者1,000人だった。
注3:
スケールファストは、eコマースのシステム開発会社。調査は2020年6月に発表。その対象者は、米国の消費者1,354人。
注4:
PYMNTSが実施したアンケートの対象者は、米国の消費者2,200人。
注5:
ペイパルとPYMNTSの調査の対象は、米国の消費者2,163人。
注6:
Pew Research CenterとBeresford Research、PYMNTS、3者の定義に基づくと、それぞれの年代は次の通り。
  • ジェネレーションZ:10~25歳程度。
  • ミレニアム:26~41歳程度。
  • ジェネレーションX:42~57歳程度。
  • ブリッジミレニアム(ミレニアムとジェネレーションXの間):34~43歳程度。
執筆者紹介
ジェトロ・サンフランシスコ事務所
石橋 裕貴(いしばし ゆうき)
2011年、ジェトロ入構。海外調査部(2011年~2016年)、ジェトロ沖縄(2016年~2018年)を経て、2018年7月より現職。