特集:新型コロナ禍における北米地域の新たな消費トレンドジョージア州企業によるネオバンクや金融教育サービスに注目(米国)
新型コロナ禍でジョージア州のフィンテック産業に存在感

2022年2月2日

米国ジョージア州のフィンテック産業は、目下需要を伸ばしている。前稿では、コンタクトレス決済や暗号資産(仮想通貨)を活用したサービスについて紹介した(本特集「新型コロナ禍でジョージア州のフィンテック産業に存在感(米国)」参照)。

しかし、これら以外にも、需要が増えているサービスがある。

例えば、経済的な事情などから従来型の銀行口座を持つことができない消費者に、どう金融サービスを提供するのか。また、多様化する金融サービスに関して教育プログラムを提供することも課題だ。本稿では、これらサービスを提供するジョージア州のスタートアップ企業を紹介する。

従来型の銀行口座を持てない消費者向けにネオバンク

銀行や信用組合で口座を持つことができない人々は、アンバンクト(unbanked)と呼ばれる。口座開設がかなわない以上、従来型の金融サービスを享受できない。一方、ジョージア州には、こうした消費者向けにサービスを提供するフィンテック企業もある。

連邦預金保険公社(FDIC、Federal Deposit Insurance Corporation)の調査では、2019年時点で、米国内のアンバンクトの家庭は約710万世帯。米国全世帯の5.4%を占める。その理由は、口座維持手数料を払えないといった経済的な事情などによる。このような消費者は、現金を得るためにチェックキャッシング(注1)やペイデーローン(注2)など、銀行以外の代替サービスに頼らざるを得ないことが多い。これらは、えてして金利が高い。一方で、新型コロナウイルス禍の中、キャッシュレス化が加速した。現金を使えない場面が増えると、銀行口座を持たない人々の生活がますます不便なものになりかねない。

スタートアップ企業のキャップウエー(2017年設立)は、2021年10月にネオバンク(注3)を立ち上げた。アンバンクトに陥った境遇の人々をサポートするのが、狙いだ。ネオバンクにより、同社のアプリからアカウント登録を行うだけで口座開設とデビッドカード発行が可能になる。口座維持のための最低預入残高要件がないのが特徴だ。そればかりか、預金残高を超えて支払った際に同社が不足分を立て替えるための手数料(オーバードラフト・フィー)も発生しない。アカウントを持つユーザー同士では、無料で即時送金できる。そのほか、提携する3万カ所以上のATMが手数料無料で利用可能になる。

一方グリーンウッドは、元アトランタ市長のアンドリュー・ヤング氏ら3人が共同で2020年に設立したスタートアップ企業だ。黒人やラテン系のマイノリティーを対象に、デジタルバンキングのプラットフォームを提供する。黒人家庭の14%近く、ラテン系家庭の約12%近くがアンバンクトと言われている。白人家庭では3%未満で、比率が高いことがわかる。共同設立者の1人ライアン・グローバー氏は、「代表的な白人家族の資産はラテン系家族の8倍、黒人家族の10倍大きい。この貧富の差は治療可能な不公平で、協業が必要だ」と述べている。グリーンウッドのサービスは、こうした人種間の経済格差を是正すべく立ち上げられた。そのため、キャップウエー同様、口座維持の最低預入残高要件はない。オーバードラフト・フィーやユーザー間の送金手数料も発生しない。その上で、世界10万カ所以上のATMを手数料無料で利用できる。このほか、給与相当額を他の銀行よりも2日早く受け取ることも可能だ。2021年3月に6つの大手銀行と2大クレジットカード会社(マスターカード、VISA)から4,000万ドルを調達したことでも、業界の注目を集めた。一方で、口座開設の待機リスト登録が50万人を超えるなど、需要が当初の見込みを上回った。そのため、プラットフォームの利用開始は当初の2021年前半から2022年に変更された。

コロナ禍で高まる金融教育の意識

このように、新型コロナ禍に伴い、決済機能をはじめとして金融サービスが多様化してきた。こうした中、消費者の金融知識を高めることに主眼を置いたサービスにも、需要が高まってきた。

ユニコーン・スタートアップ企業のグリーンライト(2014年設立)は、子供向けのデビットカードや投資プラットフォームを提供している。アプリを通じて、子供は「賢く貯める、稼ぐ、使う、投資する」教育を受けられる。このほか、デビットカードを使った買い物や1ドルからの投資が可能。全ての取引に親による承認機能を備えている。同社は2021年4月、2億6,000万ドルの資金調達を発表し、評価額は23億ドルに到達。収益は前年比で3倍、ユーザー数も前年比の2倍と急成長した。社長兼最高経営責任者(CEO)のティム・シーハン氏は、「この背景には、コロナ禍で親が子供に金融知識を教えることの重要性をより強く認識するようになったことがある」と述べた。同社は2021年10月、投資の知識や経験不足を感じている親を対象にした投資プラットフォームも新たに立ち上げている。

学校や親から金融や投資に関する知識を十分に習得していないという点では、多くの若者も同様だ。そのような背景から、前述のキャップウエーもプログラムを提供している。プログラムを通じて、資金の管理方法や金銭上健全なライフスタイルを築く方法などを学ぶことができる。若者だけでなく、会社や学校、地域団体などさまざまな組織で利用可能なツールだ。キャップウエーの創設者兼CEOのシーナ・アレン氏は同社のビジョンについて、「これまで十分な金融サービスを受けられずにいた人をはじめ、あらゆる人がアクセス可能な包括的な金融システムを構築すること」と語っている。

2021年に新型コロナワクチン接種が普及して以降、人の流れは戻りつつある。他方で、ニューノーマルの中で生まれた新たな金融サービスに対する評価や需要は今後も高まることが見込まれる。ジョージア州のフィンテック企業による新たなサービスの展開がますます注目される。


注1:
銀行口座を持たず、一定の手数料で小切手を現金化できるサービス。
注2:
一般的に、次の給料日を返済日とした高金利、短期、小口のローン。
注3:
スマートフォンアプリやウェブサイトを通じて銀行取引サービスを提供するフィンテック事業。
執筆者紹介
ジェトロ・アトランタ事務所
石田 励示(いしだ れいじ)
2009年、ジェトロ入構。ジェトロ松江、農林水産・食品部などを経て、2018年4月から現職。

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