特集:アフリカにおける医療機器ビジネスの可能性煩雑な輸入手続きなどに課題も、医療機器市場は拡大(エジプト)
医療関連サービスのデジタル化事例も

2021年9月9日

エジプトの医療機器市場に参入するには、高いハードルがある。例えば、厳しい価格競争や煩雑な輸入手続きなどだ。しかし、人口増加や所得水準の向上により、医療機器に対するニーズは増えている。大規模病院や医療都市の建設計画があるほか、医療のデジタル化も徐々に進む。

外国製医療機器や現地医療の現地事情について、医療機器を扱う輸入業者インターファーム(InterPharm)会長兼最高経営責任者(CEO)のアハメド・サミ氏に話を聞いた(2021年8月23日)。


アハメド・サミ氏(本人提供)
質問:
企業概要と主な事業は。
答え:
インターファームは1977年に設立された。先進的な医療機器、医薬品、機能性食品をフランス、英国、日本などから輸入し、エジプトで販売している。輸入以外に、消毒用アルコールやハンドジェルの製造・販売、国産乳幼児ミルクの買い付け・販売にも従事する。従業員は約200人。年間売り上げは125万米ドル程度だ。
質問:
日本から購入希望する商品は。
答え:
血液分析装置(血液凝固や血液中糖度など)、超音波検査機器(ポータブルスキャナー、眼科用超音波機器)、マイクロカテーテル、注射針などを検討している。ジェトロのオンライン商談会に参加し、商談中の商品もある。
質問:
エジプトにおける日本製医療機器の普及状況、今後の可能性は。
答え:
日本製にかかわらず、海外製医療機器には、安さが求められる。価格設定は重要だ。
同じ価格帯なら、もちろん質が良いものが優先される。高価格な機材は、販売促進への協力や大型取引の際に割引をするなど、工夫が必要だ。エジプトでは、海外からの医療機器の輸入が多い。一方で、人口増加や平均寿命の延びなどに伴い、需要が増えると見込まれる。
質問:
取り扱いを検討する際に重視するポイントは。
答え:
商品決定の際には、顧客に販売可能性などのヒアリング調査を行ってから購入を決定する。ニーズに合致しやすい売り込みポイントがあれば、購入につながりやすい。そのため、市場調査も重要だ。

医療機器の輸入制度は高いハードル

インターファーム社へのインタビューを踏まえつつ、エジプトの医療機器市場について考察してみる。

エジプトの医療機器市場に参入する上で最大の課題は、輸入にあたっての煩雑な手続きだ。まず、言語対応として、英語とアラビア語両方の書類が必要。加えて、CEマークの取得。その上で、保健・人口省傘下のエジプト医薬品庁(Egyptian Drug Authority、EDA)の中央薬事局(Central Administration of Pharmaceutical Affairs、CAPA)を通じて、医療機器・装置を登録する必要がある。

通関手続きも煩雑だ。一般的に、書類の整備や申請・申告などには数週間かかることが多い。さらに、新たに導入予定の通関事前申告制度(ACI)でも、混乱が生じている状況だ。なお、ACIは、2021年10月1日以降に出航予定の船便に正式適用されることになっている(2021年6月24日付ビジネス短信参照)。

政府はアフリカの医療拠点を目指す

このように、ビジネス上の課題はある。しかし、政府の積極的な取り組みなどにより、国内の医療機器市場は拡大を続けている。

エジプト中央動員統計局によると、国内の病院数は、2009年に1,617だったのに対し、2018年までに1,848に増加した。近年は、政府が国際的な支援をもとに病院を増設・修復するほか、カイロ近郊やスエズ地区などに大規模な医療都市を建設する計画がある。公立病院の中には、不衛生な施設や老朽化の進む建物も多いのが現実だ。しかし、富裕層は私立病院で先端医療も受けられる。

また、保健省管轄の公立病院で治療を受けた患者数は、2009年の215万人に対し、2019年は362万人まで増加した。国内の治療関連支出総額も、2009年の約39億エジプト・ポンド(約273億円、1ポンド=約7円)が、2019年に約103億エジプトポンド(約721億円)だ。この10年で、約2.5倍に膨れ上がったことになる。薬剤・医薬品の輸入額も増加傾向。2020年には前年比10.5%増の28億ドルとなった。

このように、市場が拡大し、病院での医療機器の高度化が図られている。これらにあわせて、エジプトでは外国製医療機器を扱う企業が、医療機器を海外から輸入しているかたちだ。エジプトの国営医薬品企業が中国のシノバック製の新型コロナ・ワクチンの現地製造を本格化するなど、アフリカ諸国の中では医療や製薬の水準が高い(2021年6月10日付ビジネス短信参照)。

医療や薬局のデジタル化も進む

市場拡大に加えて、医療のデジタル化も徐々に進む。エジプトではインターネットとスマートフォンの普及を背景に、ヘルスケア・スタートアップが増えてきた。新型コロナウイルス感染拡大の影響もあって、医療サービス提供にあたってのデジタル化が加速しているわけだ。

例えば、近年は医者の予約と評価をオンライン化したヴェジータ(Vezeeta外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)が利用され始めている。従来は、特定の病気に関する専門医を探すことが難しく、病院で長時間待たされることもしばしばだった。エジプト発のヴェジータはまさにその解決を図ろうとするシステムだ。既に6カ国55都市で3万人以上の医師が登録。中東・アフリカの1,000万人以上の患者が予約を活用しているという。また、日系ベンチャーキャピタル (VC)も出資するヘルスケア・スタートアップのロロジー(Rology)は、CTやX線検査などの遠隔診断を進める(2020年8月22日付ビジネス短信参照)。さらに、シェファ(Chefaa)は、GPSを用いて顧客の近くの薬局で在庫を検索でき、処方箋の写真のアップロード・注文・決済・配達までを手配するアプリを開発。普及を目指している(2020年1月24日付地域・分析レポート参照)。

こうしたデジタル化の進展による市場の多様化も、日本企業のビジネス機会となりうるだろう。


執筆者紹介
ジェトロ・カイロ事務所
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課(2010年~2013年)、ジェトロ北海道(2013~2017年)を経て現職。貿易投資促進事業、調査・情報提供を担当。