特集:アフリカにおける医療機器ビジネスの可能性ブルーオーシャンのアフリカ市場に挑戦、日本の医療品メーカー

2021年9月9日

ハクゾウメディカル(本社:大阪府大阪市)は、1954年の創業以来、日本国内で医療など衛生材料の製造・販売を行ってきたが、10年ほど前からアジアを中心とする海外市場開拓に積極的に取り組んでいる。特に近年では、ジェトロの商談会などを活用し、アフリカ市場の開拓にも力を入れ始めている。同社のアフリカ市場開拓の取り組みについて、海外営業部長の佐々木光一郎氏に聞いた(2021年6月30日)。


ハクゾウメディカル海外営業部長の佐々木光一郎氏(本人提供)
質問:
会社概要と海外市場への取り組みについて。
答え:
当社は、医療消耗品のメーカーとして、ばんそうこうや包帯といった創傷被覆材に加え、アルコール消毒剤や産婦人科系の製品など、幅広く取り扱っている。日本国内では、主に病院や薬局などとの取引が中心で、現場のニーズに応えることをモットーとし、営業部門と開発部門が一体となって製品開発に取り組んできた。

アルコール綿(同社提供)

エレバンプレスタット(同社提供)
売り上げの9割以上が日本国内だが、10年ほど前から海外市場開拓に取り組んでおり、20~30カ国に販売した実績がある。海外では東南アジアへの輸出が最も多いが、オーストラリアや米国、インド、UAE(アラブ首長国連邦)やサウジアラビアなどの中東地域、アフリカではコートジボワールやケニアに販売した。海外市場では代理店経由で販売しており、エンドユーザーは病院が中心だ。
これまで日本で生産した製品を中心に輸出していたが、海外への販売を拡大していく上で輸送コストや価格が課題だったことから、2019年にタイに生産拠点を設けた。これにより今後は、コストを抑えるだけでなく、海外でも現地のニーズを把握し、それを基にした生産が可能になる。そういう意味でも現地に拠点を持つことは重要だと考えている。
質問:
アフリカ市場への取り組みのきっかけは。
答え:
特にアフリカだからということではなく、需要があれば世界中どこへでも行く。当社はUAEで毎年開催されている医療展示会・ヘルスケア産業総合見本市「アラブヘルス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」に7年連続で出展しており、そこでアフリカのバイヤーと接点を持つようになった。2017年以降には、ジェトロが主催するアフリカの医療機器バイヤーとの商談会にも参加しており、アフリカ市場開拓に継続的に取り組んでいる。
近年では新興国も豊かになり始めており、それに伴って肥満や糖尿病に苦しむ人が増えている。そのため、海外では人工透析関連商品の需要が高まっている。アフリカ市場はまだまだ未開拓で、これから伸びる市場と考えている。最近ではアフリカも経済発展が進み、国内で豊かな暮らしを実現している人も少なくなく、今後は生活習慣病といった成人病予防のための商品需要が高まっていくだろう。
アフリカとの関わりがかねて深い欧州諸国や中国からは既に多くの製品が入っているが、アフリカのバイヤーと商談をしていて、中国製品は避ける傾向があると感じている。一方、日本製品に対しては良いイメージを持っている。競合するのは欧米企業で、現地でOEM生産(相手先ブランドによる生産)をしており、安価で品質も悪くない。ブランド力もあることから、入札ではなかなか勝てない。
質問:
アフリカビジネスを進めるに当たっての課題は。
答え:
やはり代金回収の面での懸念が大きい。ケニアとコートジボワールはまだ継続的なビジネスにつなげられていないが、L/C(信用状)は難しい。
海外ビジネスでは主に、薬事認証や販売登録などの規制面と、輸送、そしてパッケージの3つの課題がある。薬事認証や販売登録では、求められるデータ・書類をできる限り提出して現地当局に申請するが、それが1~2年かかる場合もある。ばんそうこうなど医療用品の輸送は比較的容易だが、アルコールを使った製品の輸送方法や輸送コストも課題だ。さらに、英語パッケージあるいは現地語パッケージが求められるのか、国によっては日本製品だとひと目で認識できるよう日本語のままが良いと言われることもある。
質問:
新型コロナウイルス感染拡大によるビジネスへの影響は。
答え:
良い面と悪い面がある。良い面は、消毒関連製品やマスク、プラスチックエプロンなど感染症対策として用いられる製品の売り上げが好調という点だ。また、ワクチン接種時に必要な消耗品の需要も高まっている。悪い面は、一般診療で手術や治療が減り、それらの現場で使用する商品の売り上げが落ち込んでいる点だ。
アフリカでも感染症対策にかかる製品への関心は高い。しかし、薬事認証や販売登録には時間がかかるし、感染症対策として有効なアルコール製品は国によっては危険品として扱われたり、宗教上その取り扱いが厳しかったりと、すぐに需要に対応するのは難しい。
質問:
今後の事業展開と課題は。
答え:
アフリカ市場は魅力的で、ブルーオーシャンと言っても過言ではない。便利なものへの需要は高く、新型コロナウイルス感染対策でも貢献していきたい。今後は、タイ工場の製品をより価格を抑えつつ、ビジネスを拡大していければと考えている。アフリカで注目している国を挙げるなら、ナイジェリアだ。展示会でもよくバイヤーを目にし、人口の多さと市場としての成長性に加え、公用語が英語ということもある。新型コロナウイルスの感染拡大が収まって、訪問できるような状況になれば、ぜひ現場を見てみたい。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課
梶原 大夢(かじわら ひろむ)
2021年、ジェトロ入構。同年から現職。