特集:アフリカにおける医療機器ビジネスの可能性医療ニーズに変化、高度医療機器の需要が拡大(コートジボワール)
西アフリカの医療ハブ構想で医療ビジネスの機会が拡大

2021年9月9日

コートジボワールは、西アフリカ域内において比較的高い医療設備・技術・サービスを誇り、2000年代に政情不安が深刻化するまで長らく、1億人の人口を擁する西アフリカ経済通貨同盟(UEMOA)地域の医療ハブとして同地域から多くの患者を受け入れてきた。近年、西アフリカの医療ツーリズム利用者は拡大傾向にあるが、コートジボワール政府はこれらの潜在的な需要を取り込むため、病院や医療施設の拡充、医療インフラ整備、官民連携の促進による医療体制の強化・医療サービスの向上を図るなど、現地医療の高度化、包摂的医療の実践を目指しており、医療機器市場の拡大が期待される。以下、2021年6月に行われたジェトロ医療機器商談会に参加した、アライアンス・オーバーシーズ(Alliance Overseas)で社長を務めるアカ・ジロブウ・ゲデオン氏にビジネスの現状を聞いた(2021年8月2日)。


アライアンス・オーバーシーズ社長のアカ・ジロブウ・ゲデオン氏(本人提供)
質問:
ビジネスの概況は。
答え:
当社は2011年に設立された、医療機関への豊富な納入実績を持つ医療機器輸入販売会社である。主な取り扱い製品は、血液検査装置、自動PCR検査装置、バイオ関連分析機器、粒度測定器、免疫解析装置、イオノグラム、血液ガス分析器、試薬などだ。特に診断機器、ラボ用設備に強みを持つ。最大の取引先は、日本メーカーで売上高の3割を占める。この他、フランス、米国、オーストリア、スペイン、オランダのメーカーとの取引がある。販路は、私立病院が6割、公立病院が4割だ。設立当時は、診断機器や外科手術用の高分子材料を取り扱う代理店が少なかったため、競争面で優位な立場を獲得し、事業は小規模ながらも、売り上げが順調に伸びている。診断機器と血液検査機器の国内シェアはそれぞれ30%、65%だ。社内では、セールスやアフターサービスに対応するチームを組成し、人材、技術を投入して周辺サービスに注力している。技術進歩に対応できる有能な技術者の養成に力を入れるとともに、アフターサービス体制を整備し、顧客満足度の向上に努めている。

試験所に納入した日本医療機器メーカーの自動血液凝固測定装置(アカ社長提供)
質問:
医療環境を巡る変化や医療機器のニーズは。
答え:
コートジボワールではこの数年間に、公的医療機関や民間病院の新設・改修・拡張が相次ぎ、これに合わせて医療設備・機器の近代化・高度化が進んでいる。政府は、医療施設の設立や設備導入に優遇措置を適用し、医療サービスの向上に力を注いでいる。コートジボワールの医療機器市場は、歴史的な関係から長年にわたりフランスを中心とする欧州のブランドが太宗を占めていたが、近年は中国メーカーの低価格帯製品がシェアを増やしている状況だ。市場規模はいまだ小さいものの、人口増加や所得・生活水準の向上、食生活やライフスタイルの変化、健康意識の高まりに伴う医療ニーズの変化に加え、国民皆保険の導入により、今後、医療機器市場は着実に拡大していくだろう。
質問:
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた医療関係者の機器に対するニーズは。
答え:
医療従事者への感染防止の水際対策を強化していくため、マスク、グローブ、ガウンなど感染防御用消耗品だけでなく、診断機器の供給や、2次感染防止策としてリモートでの作業環境に対するニーズが高まっている。
質問:
取り扱い製品を検討する際に重視するポイントは。
答え:
ユーザーが正しい製品選択ができるよう、品質、有効性、安全性を重視していることに加えて、収益性を判断基準にしている。

ドバイ「MEDLAB(アラブヘルス)」サロンでの商談会(アカ社長提供)
質問:
日本製医療機器の普及状況、今後の可能性は。
答え:
コートジボワールでは、欧州メーカーが先行していることに加え、中国企業も低価格を武器にシェアを広げている。しかし、高度・先端医療機器における日本メーカーへの信頼度は高く、医療関係者の間では日本製品の性能、品質、耐久性、安全性の高さが認知されている。特に超音波装置、CT、MRIなどを中心に日本からの輸入が増加傾向にある。コートジボワールは、医療インフラの整備だけでなく、医療サービスの質の向上にも力を注いでいることもあり、高度医療機器は今後、需要拡大が見込まれる。ここに、日本メーカーの商機があるとみる。そして、品質以上に、価格競争力がある製品に対する需要が高いことも認識すべきだ。

試験所に納入した日本医療機器メーカーの多項目自動血球分析装置(アカ社長提供)
質問:
日本製医療機器の輸入・通関の実態や課題は。
答え:
日本からの輸入は、距離的に時間を要すること、それに伴うコスト増で、価格競争力がそがれてしまう。欧米メーカーと比べて、製品の現地化やカスタマイズといった現地ニーズへの対応が不十分であることや、資金調達サポート、メンテナンスサポートなど周辺サービスが劣っている。また全体として、不正な密輸品との競争、煩雑な通関手続きが課題となっている。
質問:
商談会での主な成果、日本から調達したい製品、日本企業へのアドバイスは。
答え:
ポータブル超音波スキャナー、心臓血管外科治療設備、神経外科治療設備、新生児インキュベーター、殺菌・消毒薬、生検針、微生物検査キットなどの日本製品に関心を持っており、新たなビジネスパートナーを探していた。今回の商談会では、日本の高度医療機器を強みとする企業と商談を進めることができ、価格で折り合いがつけば、取り扱い製品や、取引先の多角化につなげられそうだ。コートジボワールの医療機器市場には、医療消耗器具などで中国製の安価なものがかなり入っている。日本製の品質が高いことは理解しているが、こうした製品では違いが見えにくく、価格競争で負けてしまう。超音波検査装置やMRIといった高度な機器にこそ商機があり、他国製品と差別化を図ることも重要だと考える。また、ユーザーやメンテナンス人材を増やすための人材育成にも積極的に取り組んでもらいたい。
質問:
ビジネス上の課題は。
答え:
市場参入にあたっては、機器の事前登録が必要で、登録がないと輸入許可が取れないため、実際に手続きを行う輸入代理店とのネットワークが重要だ。フランスの影響が強いコートジボワールでは、当局の認可を得る際にCEマークを示すのが一般的である。法的にはJISでも認可は得られるが、この場合 ISOも取得する必要がある。また、電源電圧が異なるので、規格対応を要する。商品説明や使用上の注意、ラベル表示は公用語のフランス語表記が義務付けられており、言語の壁もある。
質問:
今後の展開は。
答え:
取り扱い製品の多様化とともに、UEMOA地域諸国へも事業を拡大していく方針だ。正しい製品を提供しながら、コートジボワールの医療体制の改善と医療水準の向上に貢献していきたい。
執筆者紹介
ジェトロ・アビジャン事務所
渡辺 久美子(わたなべ くみこ)
1990年から、ジェトロ・アビジャン事務所勤務。主にフランス語圏アフリカの経済・産業調査に従事している。