特集:アフリカにおける医療機器ビジネスの可能性外国メーカーの存在目立つ医療機器市場(アルジェリア)
輸入規制強化に伴い、スペックや価格よりメーカーの柔軟な対応重視

2021年9月9日

アルジェリアのMedicatechは、20年以上にわたって輸入代理店事業を展開しており、輸入規制の多いアルジェリア市場でのビジネスについて高度な専門性とノウハウを有する。アフリカ医療機器オンライン個別商談会(ジェトロ主催)にバイヤーとして参加した同社購買部長アブデルクリム・ヘリール氏に、アルジェリア市場の特徴と動向、日本製医療機器の普及状況、日本企業に対する期待、今後の展望などについて聞いた(2021年6月14日)。

売上高の約7割占める公立・軍病院

質問:
貴社のビジネス概要は。
答え:
医療機器全般と医療消耗品を輸入販売している。取扱品目は主に外科用機器、新生児用機器、手術室用機器、医療施設での患者向けの家具だ。さらに、医療廃棄物処理・焼却機器も取り扱うほか、わずかだが、医療消耗器具の製造も始めている。強みは、20年以上にわたる経験とエンジニアの高度な専門性を活用して、エンドユーザーを対象に技術サポートとトレーニングを提供していることだ。
質問:
主要販路は。
答え:
アルジェリアでの販売先の大半は公立病院や軍の病院で、特に産婦人科医や神経科医、心臓病専門医などの診療科をターゲットとしている。公共施設の医療機器調達は競争入札で決定し、年間20件ほどの大型案件がある。その内4~5件を落札すれば、安定した収益を確保できる。当社の場合、公立病院と軍病院との取引額は総売上高の約7割を占める。民間病院向けでは近年、フルターンキー(設計、許認可、資金調達、設置やトレーニングを含む機器導入)契約の受注が多くなっている。当社は設計から販売まで一貫して手掛ける国内でも数少ない企業といえる。

政情・社会不安の影響で減速した民間部門の投資計画

質問:
アルジェリアの医療機器市場の特徴と最近の動向は。
答え:
前述のとおり、アルジェリアでは以前から公立と軍の病院が医療機器市場の大きなシェアを占めている。国の社会保障制度が充実しているため、国民の大半が無償で治療を受けられることが理由の1つだ。ただし、2010年代前半から2018年にかけて公立病院だけでなく、民間病院の需要も同様に高まった。その後、民間需要が減少した背景には、2019年2月に始まった大規模な反体制運動「ヒラック」と、政権交代などの政情・社会不安がある(2019年12月18日付ビジネス短信参照)。これらの事態を受けて、アルジェリアの銀行は民間企業への新規融資に対して慎重な姿勢を示すようになった。その結果、民間の医療セクターは多くの病院建設計画や大型医療機器の調達計画を一時中断した。国内の政情はある程度安定してきたものの、2020年から続く新型コロナウイルス禍によって民間部門の回復はさらに遅れている。感染収束後には医療機器市場も平時の状態に戻り、2022年以降の民間部門の成長が期待される。

生活習慣病の増加に伴う新しいニーズ

質問:
アルジェリアならではの医療機器のニーズは。
答え:
まずは、人口の増加(注:年間100万人程度)が挙げられる。医療を受ける総数が増えることで、医療機器に対する全体のニーズを底上げする。次に、生活習慣病の増加だ。近年、糖尿病や高血圧症、大腸がんなどの生活習慣病の患者が増加傾向にあり、こうした病気向けの医療機器や消耗品が求められる。国内の病院が対応できずに国外で治療を受ける患者がいるなど、ニーズに対応しきれていない。また、入院期間や治療コストを圧縮できる新しい治療法への期待も高いと言える。
質問:
:新型コロナウイルスを受けて、医療関係者の機器に対するニーズの変化は。
答え:
アルジェリア政府はロックダウンや国境の閉鎖などの対応策を早急に導入したこともあり、感染者数は他国より比較的少なかった。また、国内で多くの個人用防護具を製造できたため、新型コロナウイルスによる特別なニーズはなかったと感じている。

スペックや価格よりも求められるメーカー側の柔軟な対応

質問:
取り扱い製品を検討する際に重視するポイントは。
答え:
ポイントの1つ目は、当社はエンドユーザーへのサポートを重視しているため、医療機器メーカーがトレーニングを含めたフルパッケージを提供できることだ。例えば、エンドユーザーが機器の清掃や保守方法を独自で調べられるオンラインリソースがあるなど、当社の負担を軽減できる製品が良い。
2つ目は、複雑な行政手続きにも柔軟に対応してくれることだ。アルジェリアでは輸入と決済に関する行政手続きが煩雑で、輸入規制もしばしば改定される。そこで、メーカーはアルジェリアの輸入代理店が求める各種行政資料を迅速に提供できる体制を整えていることが好ましい。当社がフランスなど欧州の医療機器メーカーに資料を依頼すると、24時間以内に対応してくれるため、大変助かっている。医療機器のスペックや価格よりも、柔軟な対応ができることをはるかに重視している。
3つ目は、アルジェリアの輸入規制への理解があることだ。アルジェリアでは、特に決済を対象とした独自の規制が存在する。例えば、頭金の支払いなど、他国では普通と思われる商習慣はアルジェリアでは通用しないケースがある。加えて、メーカーの輸出ポリシーと合わないこともあり得る。そうした場合、われわれ現地バイヤーは輸入規制に従わなければならない。
質問:
貴社が関心を持つ製品は。
答え:
今は治療用と手術用の機器、画像診断機器と内視鏡検査機器を調達したいと考えている。質の高い内視鏡検査機器を使えば、正確に診断して患者の身体負担を減らすことができる。最終的には治療のコストダウンにもつながる。

日本企業のプレゼンスは控えめ、他国メーカーと同様の積極的な営業活動に期待

質問:
アルジェリアでの日本製医療機器の普及状況と今後の可能性について。
答え:
画像診断機器や内視鏡システム、心電計など、日本の大手メーカーは昔からアルジェリア市場に参入しているものの、十分に普及していないと感じている。一方、知名度の低い欧州の中小メーカーのプレゼンスが逆に目立っている。また、中国メーカーは価格面で競争する姿勢を見せており、SMSやメールを通じた売り込みなど、積極的な営業活動が販路拡大につながっていると思う。
質問:
日本企業へのアドバイスは。
答え:
アルジェリアのバイヤーは日本企業のノウハウを知っているが、日本企業のプレゼンスは大変控えめで残念だ。先ほど述べたとおり、機器のスペックと費用対効果がどれだけ優れていても、輸入代理店のもとへ届かなければ意味がない。フランスやドイツのメーカーは見本市に出展したり、自国の経済団体主催のイベントなどに積極的に参加したりしている。優れた製品を持つ日本企業にも、他国メーカーと同様に積極的な営業活動を期待している。
質問:
今回参加したアフリカ医療機器商談会の手応えは。
答え:
日本にはこうした事業をどんどん実施してほしい。日本の大手メーカーだけではなく、面白い医療ソリューションを開発した日本の中小企業とも商談ができたので満足している。今回は合計13社と商談したが、実りが多かった。さらに多くの商談に参加したかった。
質問:
日本製医療機器の輸入・通関の実態や課題は。
答え:
(日本製に限らず)医療機器は輸入規制が多い分野の1つだ。加えて、2020年秋以降、アルジェリア政府は医療機器の輸入規制をさらに強化している。われわれはこうした変化に慣れているものの、当社だけでは対応できないケースもある。メーカーとのチームワークが大切だ。
質問:
今後の展開は。
答え:
新型コロナウイルスが収束し、市場が正常になるまでしばらくは我慢しなければならない。アルジェリア政府は経済の脱炭化水素(資源)依存、脱輸入依存を目指しているため、新たな潮流(注)に対応する必要がある。その1つとして、医療機器の現地製造を考えている。まずは、安価な使い捨て用品から取り掛かり、その次の段階としてパートナーとともに付加価値の高い製品へと、少しずつグレードアップしていきたい。アルジェリア政府はアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)を先日批准したので、新しいビジネス機会が出てくると思う。チュニジアやリビア、モーリタニアなど、これから周辺国の市場も狙いたいと考えている。

注:
アルジェリア政府は2016年以降、輸入割当制度や、輸入品を対象とした30~200%の一時的追徴課税、非関税障壁など、各種輸入規制の強化措置を導入した。その半面、2020年財政法で、外資の出資比率を最高49%に制限する「51/49措置」を製造業全般で廃止し、投資規制の緩和を図ったが、医薬品や医療機器の製造と卸売りなど医療産業は戦略的産業として引き続き出資比率を制限している(2021年5月7日付ビジネス短信参照)。
執筆者紹介
ジェトロ ・パリ事務所
ピエリック・グルニエ
ジェトロ・パリ事務所に2009年から勤務。アフリカデスク事業担当として、フランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種事業、調査・情報発信を行う。