特集:アフリカにおける医療機器ビジネスの可能性アフリカ向け医療機器の輸出動向
走査型超音波診断装置など、南アやエジプト向けに多く輸出

2021年9月9日

アフリカでは、近年の経済成長や所得水準の向上などから、医療機器市場でも今後の成長が期待されている。また、食生活の変化などに伴って生活習慣病の患者も増加傾向にあるなど、これまで以上に多様な医療機器・サービスへのニーズが高まることも見込まれる。本稿では、アフリカ主要国の医療関連指標を概観し、アフリカ向け医療機器の最近の輸出動向を紹介する。

アフリカ主要国の医療関連指標

まず初めに、アフリカ主要国の医療関連の指標をみておきたい。1人当たり年間医療費は、南アフリカ共和国(以下、南ア)1,148ドル、エジプト594ドル、モロッコ447ドル、ケニア169ドルなど、各国で大きな開きがある〔世界保健機関(WHO)、2014年〕。肥満人口の割合(BMI≧30)は、エジプト32.0%、南ア28.3%、モロッコ26.1%、ケニア7.1%などとなっている(同、2016年)。一方で、高血圧人口の割合はこれら諸国で大きな差は見られなかった。病院数(公立、私立)は、エジプト1,775、南ア709、ケニア548などとなっており、病床数では南アが約13万6,000と多く、エジプトが約11万6,000、ケニアが約3万9,000だった(BMIリサーチ、2015年)。

アフリカへの主な医療機器の輸出動向

各国貿易統計などを基に、近年のアフリカ向け医療機器の輸出動向を紹介する。まず、日本からアフリカ向けの主な医療機器輸出は表1のとおりとなっている。走査型超音波診断装置、磁気共鳴画像診断装置(MRI)、心電計など(HSコード9018の品目)は、2016年の約5,314万ドルをピークに、近年は約3,300万ドル前後を輸出している。2020年は約3,187万ドルで、全世界向けに約52億ドル輸出したうち、アフリカ向けは約0.6%だった。約3,187万ドルのうち、走査型超音波診断装置が21.0%、磁気共鳴画像診断装置(MRI)が10.8%を占めた。

表1:日本の主な医療機器の対アフリカ輸出(単位:ドル)(-は値なし)
品目 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年
走査型超音波診断装置 5,278,399 4,195,863 7,383,062 6,559,251 6,705,043
磁気共鳴画像診断装置(MRI) 5,559,904 4,510,163 3,206,350 3,334,289 3,451,985
その他の機器(眼科用のものに限る) 6,074,412 4,839,327 5,261,146 5,576,546 2,785,591
金属製の管針および縫合用の針 962,009 1,169,424 853,874 498,440 954,509
歯科用エンジン 34,065 41,398 8,520 89,675 485,613
心電計 147,416 105,298 109,432 51,945 220,958
注射器(針を付けてあるかないかを問わない) 5,468 103,379 5,547 35,670 7,030
紫外線または赤外線を使用する機器 22,580 2,606 16,310
合計(HSコード9018、その他含む) 53,138,149 33,111,567 33,915,039 33,400,490 31,865,950
HSコード9018の品目の全世界向け輸出 4,646,778,016 4,872,246,673 5,257,243,468 5,433,191,910 5,227,741,815
エックス線などを使用する機器(医療用または獣医用) 30,315,643 35,814,477 30,923,297 32,836,569 27,879,522
医療用品(医薬品、ガーゼなど) 71,588,091 107,693,884 74,622,907 67,747,802 64,990,212

出所:グローバル・トレード・アトラスを基にジェトロ作成

2020年の輸出先を国別でみると、表2のとおりだ。アフリカ内では、南ア向けが最も多く、次いでエジプト、アルジェリア、チュニジア、ナイジェリアと続く。南アは日本からの輸出先として世界全体では36位だった。近年ではナイジェリアやケニア、スーダン向けの輸出が伸びていることが分かる。

表2:日本の主な医療機器の対アフリカ主要国輸出(単位:ドル)
順位 国名 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年
全世界 4,646,778,016 4,872,246,673 5,257,243,468 5,433,191,910 5,227,741,815
36 南アフリカ 9,724,709 9,884,582 11,818,919 10,895,180 11,810,701
41 エジプト 28,730,902 6,758,399 7,019,483 9,765,774 8,814,726
64 アルジェリア 5,281,297 2,122,346 1,908,940 2,298,588 2,389,999
68 チュニジア 2,839,196 3,346,283 3,250,600 1,784,550 1,980,112
72 ナイジェリア 276,036 846,220 348,112 1,630,473 1,434,472
76 モロッコ 1,303,990 1,547,393 1,306,941 1,774,556 1,330,174
77 スーダン 1,026,174 2,307,060 785,977 945,033 1,329,026
79 ケニア 491,764 755,219 362,006 1,006,099 1,184,997

注:順位は全世界での順位。金額はHSコード9018。
出所:グローバル・トレード・アトラスを基にジェトロ作成

次に、アフリカの大きな医療機器市場である南アへの輸出を見てみる。これも既述の品目(HSコード9018)で実績を見ると、表3のとおりとなっている。南アにとって日本は同品目の輸入相手として、2020年は世界5位で、構成比は4.5%を占めた。

表3:南アフリカ共和国の主な医療機器の国別輸入額(単位:ドル)
順位 国名 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 構成比
全世界 539,174,321 567,221,407 610,091,588 640,202,055 546,041,993
1 米国 161,051,496 156,077,496 157,577,694 169,414,066 137,478,069 25.2%
2 中国 43,903,992 52,520,329 55,258,122 60,148,006 84,299,441 15.4%
3 ドイツ 74,876,348 72,820,101 84,626,835 82,557,294 51,256,135 9.4%
4 メキシコ 31,337,603 33,832,450 41,134,107 38,759,040 34,317,328 6.3%
5 日本 27,088,648 26,543,202 29,851,598 29,769,199 24,420,201 4.5%
6 アイルランド 16,705,507 17,965,270 20,271,109 22,262,490 19,863,137 3.6%
7 英国 14,485,021 17,332,807 17,856,684 19,339,266 15,864,671 2.9%
8 スイス 14,970,445 15,963,501 17,120,880 19,230,502 15,557,013 2.8%
9 フランス 15,354,823 21,120,037 17,931,987 18,426,281 14,929,225 2.7%
10 イタリア 10,008,800 11,539,682 11,508,997 13,898,369 12,578,777 2.3%

注:金額はHSコード9018。
出所:南ア歳入局(グローバル・トレード・アトラス)を基にジェトロ作成

次いで、日本の主な輸出品目である走査型超音波診断装置の輸出動向を紹介する。2020年の同品目の主なアフリカ向け輸出国・地域は表4のとおりだ。中国が22.3%と圧倒的な構成比を占めており、韓国(9.9%)、フランス(8.3%)と続く。日本は3.8%で8位だった。

表4:走査型超音波診断装置のアフリカ向け輸出国・地域(単位:ドル)
順位 国・地域名 2020年 構成比
合計 175,939,290
1 中国 39,310,131 22.3%
2 韓国 17,364,879 9.9%
3 フランス 14,619,268 8.3%
4 オランダ 11,589,340 6.6%
5 香港 10,728,655 6.1%
6 米国 10,222,230 5.8%
7 ドイツ 9,069,674 5.2%
8 日本 6,705,043 3.8%
9 イタリア 3,820,989 2.2%
10 ノルウェー 1,618,435 0.9%

出所:グローバル・トレード・アトラスを基にジェトロ作成

医療機器市場の拡大に期待

日本は2019年の第7回アフリカ開発会議(TICAD7)で、アフリカの強靭(きょうじん)な公衆衛生の実現をテーマの1つに掲げた。今後はアフリカのヘルスケア分野における日本企業の活躍が期待される。既述のとおり、アフリカでも今後は経済成長や医療をめぐる環境の変化に伴い、高度医療のニーズが高まることも見込まれる。また、最近では新型コロナウイルス禍を受け、ODAによる日本製医療機器の納入も多くみられる。今後のビジネス機会の創出にもつなげたいところだ。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部主査(出版・広告等担当)
小松﨑 宏之(こまつざき ひろし)
1997年、アジア経済研究所(当時)入所、総務部、研究企画部。1999年、ジェトロ企画部へ異動。その後、貿易開発部、国際機関太平洋諸島センター出向、展示事業部、ジェトロ高知所長、ジェトロ・ナイロビ事務所長、ジェトロ大阪本部、海外調査部(アフリカ担当主査)を経て、現在に至る(出版・広告等担当)。