特集:北米地域における環境政策の動向と現地ビジネスへの影響米カリフォルニア州、課題はEV充電器増設、2030年までに120万台以上必要に
ZEV化目標達成に向けた現状と課題

2021年9月14日

米国のバイデン政権は2021年1月の政権発足以来、国内的にも国際的にも気候変動対策に精力的に取り組んでいる。同年4月には、2030年までに温室効果ガス(GHG)排出量を2005年比で50~52%削減し、2050年までにカーボンニュートラルを目指すと表明した(2021年6月9日付地域・分析レポート参照)。

バイデン政権の方針は、トランプ前政権から大きな方向転換となる。他方、連邦政府の方針の移り変わりにかかわらず、これまでさまざまな環境政策で米国の牽引役を担ってきたのが、カリフォルニア州だ。2020年9月には、ギャビン・ニューサム知事が気候変動対策として、GHGを排出しないゼロエミッション車(ZEV)の普及をさらに推進する知事令(N-79-20外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発出。同州では現在、このZEV化目標達成に向けて充電設備などの整備を急いでいる。同州のZEV化に関する最新データやZEV化促進の課題を紹介する。

2030年までにZEVは800万台以上必要

前述の知事令で定めた目標は、(1)2035年までに乗用車〔トラックを含む。車両総重量(GVWR)8,500ポンド(約3.9トン)以下〕の新車販売を100%、ZEV化すること、(2)2045年までに州内で走行する中・大型車(GVWR 8,501ポンド以上)を可能な限り100%、ZEV化することだ(注)。

また、2018年にジェリー・ブラウン知事(当時)が発した知事令(B-48-18外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)では、2025年までに電気自動車(EV)の充電ステーション(EVCS)を25万台、水素ステーションを200カ所に拡大し、2030年までに同州内のZEV(乗用車および中・大型車)を少なくとも500万台に増やすことを定めており、これらの目標についても達成する必要がある。

カリフォルニア州大気資源委員会(CARB)の試算では、N-79-20の目標達成には2030年までに州内を走行するZEVが乗用車で800万台、中・大型車で18万台必要とされる。同州エネルギー委員会(CEC)は2021年7月に発表した調査報告書で、それらを充電するためにEVCSが乗用車向けに120万台、中・大型車向けに15万7,000台必要になると推計している(表参照)。

表:ZEVおよびEVCSに関するB-48-18目標値とN-79-20目標達成のための推計値(単位:台、カ所、年)
知事令 区分 目標値または推計値 期限
B-48-18 ZEV(乗用車、中・大型車) 5,000,000 2030
EVCS 250,000 2025
水素ステーション 200 2025
N-79-20(CARB推計値) ZEV(乗用車) 8,000,000 2030
ZEV(中・大型車) 180,000 2030
N-79-20(CEC推計値) EVCS(乗用車) 1,200,000 2030
EVCS(中・大型車) 157,000 2030
水素ステーション

出所:カリフォルニア州エネルギー委員会(CEC)報告書のデータを基にジェトロ作成

2021年第2四半期(4~6月)までの同州のZEV累計販売台数(乗用車)は、92万4,822台となっている。同年上半期の販売台数は12万1,006台で、乗用車販売台数全体の約11%を占める。モデル別に見ると、1位はテスラ「モデルY」(2万7,924台)で、次いでテスラ「モデル3」(2万6,671台)、シボレー「ボルトEV」(1万983台)、トヨタ「プリウス・プライム」(1万535台)、トヨタ「RAV4・プライム」(2,841台)だった。同四半期時点で利用できるEVCSは7万4,459カ所、水素ステーションは52カ所となっている。

CECによると、2012年の知事令(B-16-12)が定めた「2025年までに州内で走行するZEVを150万台に増大する」という目標については、目標値を超えるペースで順調に進んでいる一方、増大するプラグイン電気自動車(PEV)台数に充電インフラの供給が追い付いていない。CECは、この充電インフラ供給の遅れが「2030年までにZEV500万台」というB-48-18の目標、さらにはN-79-20の達成に必要なZEV800万台に向けた前進を阻害する可能性があるとしている。

EVCS増設に向け行政手続き効率化など支援するも、苦戦

カリフォルニア州経済促進知事室(GO-Biz)によると、同州の建築規制などの許認可手続きには全米平均より70%以上も長く時間がかかるとされる。この状況を打開するため、GO-BizはEVCS許認可手続きの効率化を各自治体に求める州法(AB1236)を基に、実施すべき項目を挙げたチェックリストを作成して自治体を支援、EVCS建設・増設を後押している(2021年5月10日付ビジネス短信参照)。

ただ、EVCS建設・増設のための制度整備は思うように進んでいないのが現状だ。GO-Bizは2021年4月22日の「地球の日」までに州内全ての郡が許認可手続きの効率化を完了することを目指していた。しかし、同年8月16日時点で効率化が完了した自治体は134市・郡(全体の約25%)、整備中は149市・郡(約28%)にとどまる一方、効率化が全く進んでいない自治体は257市・郡と全体の約半数(約48%)を占める。GO-Bizは各郡の許認可手続きの効率化の進み具合を「金」(郡内の100%の地域で効率化)、「銀」(同75%)、「銅」(同50%)メダルの3段階で評価していたが、「今後は別の方法で評価できないか考えている」と、ジェトロがメールで行った質問に回答した(7月19日)。

EVCSに関するそのほかの施策としては、CECがEVCSの建設・増設に対する奨励金制度(CALeVIP)を設けている(2021年5月24日付ビジネス短信参照)。これには内陸部など充電設備の少ない地域に特化したプログラムなどが含まれる。しかし、CALeVIPは何億ドルもの申請超過になっており、申請者の約3分の1しか助成金を受け取れない状態という。CECは、一連のZEV目標達成には、充電器設置への継続的な公的資金投入が不可欠だとしている。

安定した電力供給などの課題残る

カリフォルニア州では、過去数年間に大規模な森林火災が立て続けに発生している(2021年8月11日付ビジネス短信参照)。2019年10月には、極度の乾燥と強風の予報を受け、送電網を出火元とする森林火災の発生を防ぐため、一定の地域で4日間の計画停電が行われた(2019年10月21日付ビジネス短信参照)。また、2020年8月には歴史的な猛暑による電力供給の逼迫に伴い、州住民に電力使用の削減を求めたほか、計画停電を実施して約30万世帯に影響が及んだ(2020年8月24日付ビジネス短信参照)。

このような状況で、ZEV化を推進することは電力需要の高まりを招き、送電網へ一層の負荷をかけると指摘される。CECの推定によると、EV(乗用車)の充電による電力消費量は2030年に、深夜時間帯で5,500メガワット(MW)、平日午前10時ごろで4,600MWに達する。電力需要はそれぞれの時間帯で最大25%、20%増加することになるという。

現在のEV充電状況をみると、住宅以外での充電需要はおおむね、太陽光発電が可能な日中に発生している。しかし、CECによると、充電需要全体の6割以上が依然として太陽光発電が十分に行えない時間帯に集中しているという。

EVを電力供給システムに組み込むVGI

CECは、安定した電力供給を支えてクリーンな電力による安価なEV充電を実現するためには、「ビークル・グリッド・インテグレーション(VGI)」の普及が必要だとしている。VGIとは、EVと送電網(グリッド)をつなぎ、EVを電力供給システムの一部として利用することを指す。VGI技術は2つの要素から成る。電力が豊富な時間帯や電気代の安い時間帯など、送電網の状況に合わせて最適なタイミングで充電を行うスマート充電(V1G)と、EVバッテリーに蓄えられた電力の送電網への放電(V2G)だ。V2Gハードウエアを装備するEVはまだ市場にはほとんど出ていない。しかし、EVに蓄えた電力で最大10日間、一軒家に電力を供給できるフォード「F-150ライトニング」(2022年発売予定)や、V2G機能やEVからEVへの送電を可能にする機能を備えたルシッド・モーターズの「ルシッド・エアー」などが今後市場に投入される予定で、各社のEV対応に期待がかかる。


注:
コンテナ陸輸送ドレージトラックは期限を2035年とする。
執筆者紹介
ジェトロ・サンフランシスコ事務所 調査部
田中 三保子(たなか みほこ)
2015年、ジェトロ入構。外資系消費財企業を経て2012年渡米、サンフランシスコ・ベイエリアでは日系食品メーカー勤務ののち、2015年2月から現職。