特集:RCEPへの期待と展望 -各国有識者に聞くRCEP域内からの投資に期待(カンボジア)
カンボジア商業省長官 シム・ソケン氏

2021年2月16日

地域的な包括的経済連携(RCEP)が、2020年11月15日に署名された。これに対応し、ジェトロは各国の有識者や産業界などにインタビューを実施した。カンボジアでは、RCEP協定の交渉に関わったカンボジア商業省のシム・ソケン長官に聞いた(インタビュー実施日:2月5日)。


シム・ソケンカンボジア商業省長官(本人提供)
質問:
RCEPが11月15日に署名された。貴国および関係地域にとってどのような意義があるか。経済的効果、地政学的な観点から大局的な見方を伺いたい。
答え:
カンボジアはRCEP域内の一部の国とも二国間自由貿易協定(FTA)の交渉をしているが(注1)、RCEPは、二国間FTAではカバーしきれない大きな枠組みも含まれていると認識している。
カンボジアとしては、一国に偏るのではなく、様々な国々と交易を増やしたい。RCEPは、域内の連携を強固にし、輸出量の増加や投資件数の増加が期待できるという点で非常に高く評価している。RCEPにより、カンボジアから域内への輸出が7%増加、カンボジアのGDPが2%増加、域内からのカンボジアへの投資が23%増加するという調査結果も出ている。
質問:
カンボジア政府、企業はRCEPに何を期待しているか。具体的な企業活動、産業・ビジネスへの裨益(ひえき)という点から伺いたい。
答え:
RCEPによりビジネスの交流が活発になり、カンボジアへの投資が促進されることを期待している。
最近ではRCEP域内からの投資も増えてきた。カンボジア国内で投資法改正の議論(注2)が進んでおり、製造業だけでなくエネルギーやハイテク産業の投資が増えると考えている。
日本からは過去にミネベアが投資したような、新規大型投資やタイプラスワンとしての投資を歓迎する。タイ国境付近にある、ポイペト地区の経済特別区(SEZ)(注3)が良い例だが、電子機器、機械部品、自動車部品の高付加価値産業の生産ハブとなり、日本への輸出を伸ばしている。そのような事例がさらに増えることを期待したい。
また、RCEPは、先進国、新興国、途上国が一緒に協定を結んだ点が非常にユニークだと感じている。域内全体のバリューチェーン構築や簡易な通関手続きの構築に伴い、貿易が促進され、域内全体の経済底上げにつながる。輸入品が多いカンボジア国内は、物価が下がり、旺盛な個人消費に拍車がかかるだろう。
質問:
RCEPの交渉経緯・結果について、貴国・地域の立場で、最終的にこの条項は、RCEPが自国・地域に有利な形になった、または不利な形になった(ルールを満たすために課題がある)などについて教えていただきたい。また、各国の交渉スタンスはカンボジアからどう見えていたのか。
答え:
カンボジアは今後、農作物の輸出を拡大させたいと考えているが、日本や韓国は農作物を保護しており、関税撤廃の壁が高く、非常に厳しい交渉だった。一方、輸入の観点では、マーケットが小さく、発展途上であるカンボジアにとっては、域内の国々から農作物が関税なしで入ってくると、カンボジアの農家にとって打撃となる。そのため、関税即時撤廃の猶予や技術移転禁止時期の猶予など、経済規模を考慮した内容もいくつか認められた。何かを得るには何かを犠牲にしなければいけないことはわかるが、今後、詳細を詰める際には経済規模を考慮した内容にしてほしい。
交渉スタンスについては、中国が主導したという話もあるが、日本はもちろん域内の一国一国が議論を尽くしたと感じている。
質問:
インドは最終的にRCEPから離脱することになったが、インドに対しては門戸が引き続き開かれた形になった。インド離脱の影響、インド復帰に対する期待や見方について。
答え:
インドはマーケットが大きく、日本にとってはもちろん、RCEP協定国にとって非常に大切だと認識している。カンボジアとインドは経済的な関わりだけでなく、古くから文化的、宗教的に交流を持っており、良い関係を築いている。日本がインドのRCEP参加をいつでも歓迎していることをうれしくと思うと同時に、RCEP域内全体でインドにRCEP参加を引き続き働きかけることが重要だと感じている。
質問:
RCEPの発効を見据え、日本政府・企業へのメッセージは。
答え:
カンボジアは、他の国よりもRCEPに関してスピード感を意識して交渉に臨んでいた。2021年中に国内での承認プロセスを終了させるよう動いている。各国と締結に動いているFTAに関しても同様。日本もカンボジアと二国間FTA締結を考えているのであれば、私たちはいつでも準備ができている。隣国のASEAN諸国は成熟しつつあるが、カンボジアはまだまだビジネスチャンスが広がっている。今後、日本からの投資が増えることを期待したい。

注1:
カンボジアは、中国と2020年10月12日に二国間FTAを締結したことを皮切りに他国と二国間FTAを交渉している。韓国とは2021年2月3日にFTAの最終妥結に至り、共同宣言文に署名した。
注2:
カンボジアにおける投資法は、1994年に施行された。主に、製造業を中心とした輸出産業に対する優遇措置を定めている。投資法は2003年以降、改正されていないが、2020年から改正投資法の議論が急速に進んでいる。クリーンエネルギーや物流産業、ハイテク産業など幅広い産業に対する優遇措置が盛り込まれる見通し。2021年中に施行を目指しているという。 署名した。
注3:
ポイペト地区には現在、3つの経済特別区(SEZ)がある(2020年1月8日付ビジネス短信参照)。入居企業14社中8社が日系企業。
執筆者紹介
ジェトロ・プノンペン事務所
井上 良太(いのうえ りょうた)
人材コンサル会社での経験(2017年~2020年)を経て、2020年7月からジェトロ・プノンペン事務所勤務。