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特集:RCEPへの期待と展望 -各国有識者に聞くRCEPによってビジネス環境は改善、フィリピンが取り組む経済改革とも整合
アラン・ゲプティ氏:貿易産業省次官補(産業・通商政策担当)

2021年2月24日

フィリピンは2020年11月、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に署名した。RCEP参加はフィリピンにどのような影響を与えるのか。フィリピン政府のRCEP首席交渉官、アラン・ゲプティ貿易産業省次官補(産業・通商政策担当)にインタビューした(実施日:2021年2月15日)。


アラン・ゲプティ氏(本人提供)
質問:
RCEPは、国際経済やフィリピンにどのような意義をもたらすか。
答え:
新型コロナウイルス感染拡大によって、国際社会は困難に直面している。このような厳しい状況の中、RCEP協定が締結されたことは、締約国域内でルールに基づく国際貿易を実施していくという姿勢を示した。規則に基づく通商体制の構築を約束しており、事業者や投資家にとって、安心材料となるものだ。
ASEANにとっては、歴史的な転換点となり、これらの国々に良い影響をもたらすだろう。それは、ASEAN域外の5カ国(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド)にとっても同じことだ。
フィリピンにとって、RCEP協定は質の高い自由貿易協定(FTA)というだけではない。ルールが整備されることで、フィリピンでの事業活動や投資活動に対して、安定的かつ予見可能性の高い環境を提供し得ると考えている。
また、RCEP協定はフィリピン政府が推進する一連の経済改革とも整合している。現在(2月18日時点)、「小売りの外資規制緩和法案」(注1)や「公共サービスの外資規制緩和法案」(注2)などの経済改革を目的とした法案が議会で審議されている。税制改革の第2弾(法人向け諸税の見直し、CREATE法案、注3)は議会を通過し、大統領の署名を待っている。これらの経済改革は、RCEPの原理原則とも合致しており、事業者や海外の投資家から肯定的に受け止められると、貿易産業省は期待している。

RCEP参加によって、貿易・投資のコストが低減する。企業の競争力は高まる

質問:
フィリピン政府や企業はRCEP参加について何を期待するか。
答え:
フィリピンは、RCEPによって創出される巨大な自由貿易圏で競争し、機会をつかむと期待している。フィリピンの法律・制度、国家体制に鑑みると、フィリピンはRCEP域内でイノベーションの創出や研究開発、製造、教育の拠点となる優位性を有していることが分かるからだ。他のASEAN諸国と比較して、フィリピンが投資家にとって最適な利益をもたらすと考える。あらゆる投資家にフィリピンの利点を適切に伝えたいと思う。
フィリピンがRCEP参加によって得る便益として、貿易産業省としては、以下の4点を挙げる。
  1. 調達コストの低減
    より安価に原材料や中間財、機械などの資本財を調達することができる。RCEP参加により、高いレベルでの貿易自由化が実現できるとともに、通商に係るルールがよりシンプルになるからだ。それによって、貿易業者や事業者、投資家の管理コストも低減すると考える。
  2. (貿易・投資を行う上での)利便性の増加
    RCEP協定を通じて、貿易・投資に係るルールはよりシンプルかつ透明性が高いものとなり、事業者や投資家は便益を得る。
  3. 競争力の向上
    知的財産保護が強化され、安定した知的財産制度が確立される。併せて、政府が市場での事業者間の競争を促す産業政策を実施していくことで、フィリピンの競争力が向上する。また、域内での市場アクセスが高まることも競争力の向上に寄与する。
  4. 経済改革との補完性
    RCEP協定は、フィリピン政府が取り組んでいる経済改革と整合性を有している。経済改革は産業政策から法規制の改革まであらゆる範囲に及ぶ。これらの取り組みの一部については、前述の通りだ。

RCEP協定は仕組みであり、その内容を十分に理解し、活用していくことが重要

質問:
RCEP協定締約国間で既存のFTAがある中で、具体的にどのような役割がRCEP協定に期待されるか。
答え:
最も期待しているのは、貿易・投資に係るルールがよりシンプルになり、透明性が増すことだ。また、原産地規則に係る累積規定(注4)が経済効果を生み出すことや、締約国域内で広大な市場が誕生すること、将来のより高度なFTA締結の契機となりうることも期待している。
質問:
RCEP協定について、フィリピンに有利な条項、あるいは、デメリットをもたらす条項はあるか。
答え:
RCEP協定には、フィリピンだけでなく全ての締約国に便益をもたらす数多くの条項がある。これまでの議論を通じて、全ての条項はその長所と短所について十分に検討・評価されてきた。そして、協定は最終的に締約国間で合意に至った。RCEP協定の全ての条項について、適切なプロセスを経て締約国にメリットをもたらすと判断され、規定された。ゆえに、全ての条項は効果を発揮し、締約国間で相互に便益をもたらすと考えている。
デメリットは、一般的にRCEP協定を活用しない時に生じ得る。重要なことは、RCEP協定を十分に理解して使っていくことだ。協定はそれ自体として仕組みに過ぎない。協定をどのように使っていくのかによって、RCEPがもたらす利益の程度は変わってくる。
加えて、もし通商関係で不公正やバランスの欠いた状態が発生した場合、RCEP協定は締約国に対して、それらの問題に対処する政策を各国が取ることをある程度柔軟に認めている。
質問:
RCEPは一部では「中国主導」とも言われているが、どう思うか。
答え:
中国が経済大国なのは事実だ。一方で、RCEPにおいて、ASEANが経済的な中心に位置しており、ASEAN主導のFTAであるという事実も否定することはできないだろう。ASEANは、世界経済の重心となりつつあるアジアでその中心に位置する。ASEANが地政学的な要衝であり、重要な役割を果たしていることは、ASEANの貿易相手国自身が認めるところだ。
重要な点は、RCEP協定は既に合意されたということであり、その合意内容に注意を払うべきだ。本質的な問題設定としては「RCEP協定は公平なのか。平等に、そして相互に利益をもたらすのか」ということだ。もしRCEPがそれらの性質を満たすのであれば、交渉スタンスに問題はなかったと言えるのではなかろうか。
質問:
RCEPの交渉途中でインドが離脱した影響についてどうみるか。
答え:
主に市場規模や累積規定の利用範囲、事業機会といった観点から、インドが離脱したことは、RCEPが創出する自由貿易圏の規模や範囲に影響を与えた。一方で、通商関係に関するルールに安定性をもたらすという観点から、RCEP協定は準拠すべきFTAであり続ける。それゆえ、インドを含めたあらゆる国々が参加を検討し得る協定だと考える。

フィリピンは2021年内での批准目指す

質問:
RCEP協定発効に向けたフィリピンでの批准の見通しは。
答え:
フィリピンが外国との協定を批准するプロセスとしては、(1)協定への署名、(2)大統領による署名、(3)上院議員の3分の2の同意がある。現在は(2)の大統領署名の段階だ。
新型コロナウイルス感染拡大により、多くの困難を抱える中でも、フィリピン政府はRCEPへの批准に向けて準備を進めている。2021年内に全てのプロセスを完了し、批准することを目指している。
国内では、一部の産業でRCEP参加に対して懸念を表明しているのは事実だ。フィリピン政府は定期的に情報発信を行い、懸念事項については、RCEP協定の条項で適切に対処されているということを伝えていきたい。
質問:
協定での約束内容を円滑に実行するに当たって、貿易産業省はどのような取り組みを行っているか。例えば、関税局とは連携が取れているか。
答え:
もちろんだ。貿易産業省は政府内の他の関係機関と緊密に連携して動いている。RCEP協定の約束内容をフィリピンが実現できるよう、関係機関と取り組んでいるところだ。具体的には、関税体系の見直しや国内の知的財産の番号修正に着手している。

フィリピンへの投資は、生産工程の効率化に資する

質問:
日本からの投資を例に取ると、在フィリピン進出日系企業にとって、フィリピン国内での原材料・部品の現地調達が難しいことが課題の1つとなっている。RCEPは、フィリピンでの現地調達比率の向上につながると思うか(注5)。
答え:
現地調達比率の向上に関して、RCEPがもたらす大きな利点は、日本の製造業が彼らの主要な製造工場での生産を補完するために、フィリピンで新たに生産施設を設置する可能性があることだ。特に、新型コロナウイルス感染拡大によって、バリューチェーンを合理化し統合していく流れが生まれている。企業は製品の生産工程でそれぞれの近接性を高め、効率的に供給していくことを志向するだろう。フィリピンのような戦略的拠点に部品などの生産を集積・統合させていくことで、企業は生産工程の効率化を達成できよう。

フィリピンは締約国域内でイノベーション・ハブとなることを目指す

質問:
フィリピンへの進出や投資を検討している日本の事業者に伝えたいことはあるか。
答え:
日本の事業者・投資家は、貿易産業省とより緊密に連携するべきだということだ。そして、前述の通り、フィリピンはイノベーション創出や研究開発、製造、教育の拠点となり得る比較優位性を有している。
フィリピンはかつて産業開発のモデルケースであり、1960年代は東アジア・東南アジアで日本に次いで経済的に豊かだった。かつて成し遂げられたのに、今のフィリピンが再び達成できない理由はない。
フィリピンは多くの便益を日本の事業者や投資家に提供できる。地理的な観点から言えば、多くの貿易業者や投資家はフィリピンの地政学的な優位性を認識しており、東南アジアへのゲートウエーとして位置付けている。人材に関しては、労働力として若く技術力を有する労働者を提供できる。フィリピンの中央年齢は24.3歳だ。また、イノベーション産業やIT産業でフィリピンは成功していると言えよう。英語が堪能なことは指摘するまでもない。
さらに、イノベーション創出や研究開発、製造、教育の拠点となり得るという点については、例えば、2014年のブルームバーグの記事によると、シリコンバレーでフィリピン出身だと回答した数は6番目に多かった。1番はメキシコ、米国の4州がそれに次ぐ。従って、国単位で言えば、フィリピンはメキシコ、米国に次ぐ3位に位置する。このことは、フィリピン人の知性や創造力が高いことを反映している。

注1:
外資の出資が制限されている小売業(外食業含む)について、参入規制を緩和する法案。現行では、外資の場合は払込資本金250万ドル、かつ1店舗当たりの投資は83万ドル以上などの要件を満たす必要がある(「ジェトロ:外資に関する規制」参照)。
注2:
外資の公共サービスへの参入規制を緩和する法案。現行では、フィリピン人もしくはフィリピン人が60%以上出資する企業だけに「公益事業」の運営・管理業務への参入を認めている。一方で、通信、運輸、放送、発電といった公共サービスも「公益事業」と見なされ、実質的に外資の参入を妨げている(「ジェトロ:外資に関する規制」参照)。
注3:
CREATE法案は、法人向けの税制の見直しを行うもの。ドゥテルテ政権は同法案を最も重要な経済政策の1つと位置付けている。同法案では、法人所得税の減税など景気浮揚を目的とした措置と、これまで投資誘致機関が提供してきた各種インセンティブの整理・合理化が図られている。
注4:
RCEP参加国から部材を輸入し、輸出した際に、輸入した部材について当該輸出国原産と見なす規定。当該輸出国分のみの付加価値、生産工程で原産地規則を証明する場合よりも、原産地規則を満たせる可能性が増す。
注5:
フィリピンでは、国内での原材料・部品の現地調達が難しいことが進出日系企業にとって課題の1つとなっている〔「2020年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」〕。
略歴
アラン・ゲプティ(ALLAN B. GEPTY)
アラン・ゲプティ貿易産業省次官補(産業・通商政策担当)。フィリピン関税委員会委員、知的財産局副局長を経て現職。政府で勤務する前は、弁護士として商法や国際経済法、知的財産法などの分野に関する訴訟で活躍。ペンシルベニア大学ウォートン校アドバンスド・マネジメント・プログラム修了。聖トマス大学に修士号を取得(法学)。
執筆者紹介
ジェトロ・マニラ事務所
吉田 暁彦(よしだあきひこ)
2015年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ名古屋を経て、2020年9月から現職。

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