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特集:RCEPへの期待と展望 -各国有識者に聞くRCEPはフィリピン市場の開放を促進、政府による国内企業へのサポートが必要
ジョビト・カティグバック氏:フィリピン外務省外交研究所研究員

2021年3月2日

フィリピンは2020年11月、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に署名した。RCEPは、フィリピンにどのような影響をもたらすのか。国際経済情勢や通商政策について研究するフィリピン外務省外交研究所のジョビト・カティグバック氏にインタビューした(実施日:2021年2月10日)。なお、同氏の発言は自身の見解を示し、所属する機関の公式見解ではない。


ジョビト・カティグバック氏(本人提供)

RCEPは締約国域内の貿易・投資を促進、締約国間の経済的な結びつきが強まる

質問:
RCEPは、国際経済やフィリピンにとってどのような意義があるのか。
答え:
世界経済が新型コロナウイルス感染拡大という困難に直面する中、RCEPの合意は、締約国が自由貿易の推進を堅持していくという姿勢を示した。既存の重複した貿易や通商政策に関するルールが、RCEPによって統合される。それによって、締約国域内での商品、サービス、投資や人の移動が促進されるだろう。
地政学的な観点から言うと、世界経済の重心がアジア地域へと移行しつつあること、そして、ASEANと同地域の主要な貿易相手国である中国、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、日本が1つの経済圏を形成していくことを示している。今や、世界の中で経済活動の多くがRCEP締約国を含むアジア地域に集中しており、フィリピンにおいても、アジアの他国・地域とのサービス、投資取引や人の行き来が活発化している。国家間で、経済的な相互依存関係とも言える状態が深化している。そうした状況の中、締約国域内でのつながりを強化するために、RCEPは合意に至る必要性があったとみている。
質問:
RCEP締約国間で既存のFTA(自由貿易協定)がある中で、具体的にどのような役割がRCEPに期待されるのか。
答え:
RCEPの目的の1つは、締約国間で結ばれている様々な通商に関するルールや関税制度を統合することだ。締約国域内では、個別に2国間でFTAを締結している国々もある。例えば、フィリピンは日本と、日本・フィリピン経済連携協定(JPEPA)を結んでいる。RCEPは、既存のFTAで設定された交易や関税に係る諸制度を統合し、締約国域内に共通した、包括的なルールの枠組みを提供する効果をもたらす。RCEPによって、域内の通商に係るルールの統一化が進むだろう。加えて、RCEPには、一部の二国間FTAには含まれていない条項(電子商取引や知的財産、投資、政府調達)が含まれており、先進的である。特に、投資に関する条項について、投資家とRCEP加盟国との間の紛争解決処理についてルールを定めている点を評価する。
一点、忘れてはならないのは、アジア・太平洋地域の多国間でのFTAとして、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、通称TPP11)が既に存在していることだ。特に中国は、RCEPをアジア・太平洋地域にまたがる、より広域のメガFTA締結の端緒としているように思われる。そして、既に存在する広域のメガFTAとして、CPTPP をかなり意識している。 RCEPのいくつかの条項は、CPTPPの条項を反映した内容となっているとみる。そのため、RCEPは(例えばフィリピンのような)CPTPPに加盟していないRCEP締約国に対して、CPTPPに加盟するのと類似の経済効果を享受する機会を与えるのではないか、と考える。

RCEPはフィリピン市場開放を促進する経済政策としての一面も

質問:
RCEP参加によって、フィリピン政府や企業にどのようなメリットがあるのか。
答え:
フィリピン政府にとっては、フィリピンの市場開放を約束した点にある。フィリピン国内では、外資企業の市場参入をより自由化するために、様々な努力がなされてきた。そういった中には、現行憲法の見直し(注)をはじめとした、法制度に関する取り組みも含まれる。フィリピンの議員、政策立案者や主要な大企業の多くは、フィリピンの市場開放を進めるべき、という共通感覚を持っている。しかし、地場企業の大半は、自社が十分な競争力を有していない、と考えている。市場を海外へ開放すると、自らは市場から退出せざるを得ないのでは、と恐れている。ゆえに、市場開放に反対する。
RCEPに参加することで、フィリピンは国際協定の中で市場開放を約束したことになる。国際協定を利用した、いわばトップダウン型のアプローチを政府は取ったのだ。RCEPを批准すれば、フィリピン国内で、同協定に適合する措置を実施しなければならない。RCEPは、フィリピン市場の自由化を加速させる役割を果たすだろう。 加えて、RCEPによってオーストラリア、ニュージーランド、中国、韓国や日本といった主要な貿易相手国の市場も開放されるため、それが経済的な便益を生み出すであろう。

人材や産業の高付加価値化が必要との見解

質問:
RCEP締約国の中で、フィリピンはどの産業に優位性を有するのか。
答え:
現況では、電子機器産業が、フィリピンで最も輸出額が多い。同産業は、輸入額も一番多い。フィリピンの電子機器産業は、組み立てがメインだ。部品を海外から調達して、国内で組み立て、輸出するというビジネスモデルである。フィリピン政府としては、製造業の付加価値をより高めたいと考えている。そして、RCEPが製造業の生産性向上に資すると期待している。
電子機器産業以外では、サービス産業が同国GDPの多くを占めている。RCEPによって人の移動が自由化され、サービス輸出が促進されることで、フィリピンは一時的に利益を得るだろう。一方、長期的には、特にRCEP締約国域内の企業が必要とする労働力を提供できるよう、フィリピンは人材開発を行っていく必要がある。政府は、労働政策や教育政策を通じて、市場で価値があると評価される労働力を創出するように、取り組んでいかねばならない。かつて、市場で必要とされた主要な労働力は、家事労働者や看護師であった。今日では、フィリピンを含め、ITなどのクリエイティブ産業が新興産業として注目を集めている。そのため、ITエンジニアなどの理工系人材が以前よりも必要とされている。
BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)産業については、音声サービス分野でフィリピンは世界で随一の競争力を有すると考える。同じくBPO産業大国であるインドが、音声サービス分野からプログラミングやソフトウェア開発などの、より付加価値の高い分野へと転換したことが主要な原因だ。現在、コールセンターにおいて英語が堪能な多くのフィリピン人を雇用できることは、フィリピンにつかの間の利益をもたらす。しかし、将来的に、フィリピンがBPO産業でより多くの収益を得るためには、付加価値の高いプログラミングやソフトウェア開発分野の育成にリソースを配分するべきだ。

市場開放に伴う産業構造変化に対応し、政府にはセーフティーネットの構築が求められる

質問:
フィリピンのRCEP参加について、どのような懸念事項があるか。
答え:
前述の通り、フィリピンの地場企業、特に多くの中小企業は、市場開放を憂慮しており、「競争力を有するまでもう少し時間的な猶予がほしい」と考えている。フィリピンの事業者の99.5%を中小企業が占めている。さらに、ASEANを対象としたいくつかの研究では、中小企業がFTAによる関税率の低減を知らないことや、その利用方法が分からないことを、FTA活用に際する中小企業の主要な課題として挙げている。そもそも、フィリピンの中小企業は、RCEPの存在自体を知らないかもしれない。
市場開放に伴う影響に対して、政府はセーフティーネットを用意しなければならない。市場開放はフィリピンの産業構造に変化をもたらすだろうが、その移行期間に際して、産業を保護する措置を適宜取っていく必要があるだろう。
2点目の懸念として、電子商取引に関するフィリピン国内での規制の問題を挙げる。RCEP参加によって、電子商取引にアクセスする機会が増大するだろう。一方で、規制の観点からみると、フィリピン国内では、電子商取引やデジタル経済分野での法的枠組みが整備されていない。また、(法的枠組みが将来的に整備されたとしても)フィリピン政府が国境間のデータ取引に対する規制や課税措置を実際に運用するには、いくつかの技術的な困難が伴うだろう。法的な執行力が確保できないのであれば、フィリピンにとって損失となりかねない。

RCEP合意の過程で、中国はリーダーシップを発揮したと評価

質問:
RCEPは一部では「中国主導」とも言われているが、どのように思うか。
答え:
実質的に、中国の国際的地位が上昇していることは否定できないだろう。同国はアジア地域において大きな影響力を持ち、さらなる大国へとなりつつある。中国が大国として国際的な指導力を適切に発揮していくのかはまだ不確かだが、RCEPの交渉過程だけを考慮するのであれば、確かにリーダーシップを発揮したと思う。
質問:
RCEPの交渉途中でインドが離脱した影響についてどう見るか。
答え:
インドがRCEPへ復帰するかどうかを予測するのは非常に難しい。インドがRCEPを離脱した理由として、特にサービス産業や農業に関する条項が同国にとって有益でないと判断した可能性がある。また、インドと中国との間で政治的な緊張が高まっていることも、インド離脱の主要な原因であると考える。RCEPは「中国主導」の側面が強く、インドとしては、自国への中国の影響力をなるべく排除したかったのではないか。もし両国間の政治的な緊張が緩和すれば、インドが復帰する可能性も十分にあるだろう。

批准にあたって大きな障害はないと認識

質問:
RCEP発効に向けたフィリピンでの批准の見通しは。
答え:
批准に際して、フィリピン国内での大きな障害はないと考える。その理由として、(中小企業から同協定への反対の意見が予想されるものの)主要な大企業や多国籍企業は、RCEPを支持していることが挙げられる。
大多数のフィリピン人にとって、目下の関心ごとは新型コロナウイルス感染拡大への対応であり、RCEPが政治的な争点となっていないことも、理由として付け加えることができる。おそらく、大半のフィリピン人は、RCEPという言葉自体になじみがないだろう。

注1:
1987年に制定された現行の憲法では、外資企業のフィリピン市場参入に関して、様々な規制を課している。それが、フィリピンへの直接投資を抑制しているとして、同憲法改正が議会で議題の1つとなっている(ビジネスミラー2月18日付)。
略歴
ジョビト・カティグバック(Mr. Jovito Jose Katigbak)
フィリピン外務省外交研究所・国際関係・戦略研究センター国際経済班研究員。デラサール大学聖ベニルデ校及びファーイースタン大学にて非常勤講師も務める。デラサール大学聖ベニルデ校にて学士(国際関係論、成績優等賞を受賞)、デラサール大学にて修士号(開発学)を修了。
執筆者紹介
ジェトロ・マニラ事務所
吉田 暁彦(よしだあきひこ)
2015年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ名古屋を経て、2020年9月から現職。

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