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特集:RCEPへの期待と展望 -各国有識者に聞くRCEPは15カ国の補完関係を強める―「中国主導のFTA」は誤解(タイ)
ソンポップ・マナランサン氏:パンヤピワット経営大学(PIM)学長

2021年2月12日

地域的な包括的経済連携(RCEP)が、2020年11月15日に署名された。これに対応し、ジェトロは各国の有識者や産業界などにインタビューを実施した。

タイでは、パンヤピワット経営大学(PIM)のソンポップ・マナランサン学長に、RCEPの効果や期待などについて聞いた(2021年2月4日)。同学長は、タイにおける東アジア経済・通商の権威。ASEAN+3やASEAN+6などの広域FTA(自由貿易協定)が打ち出された初期に、タイ代表として構想に関わった経歴がある。


ソンポップ・マナランサン学長(2021年2月4日、ジェトロ撮影)
質問:
RCEPが11月15日に署名された。タイや関係地域にとってどのような意義があるか。経済的効果、地政学的な観点から大局的な見方を伺いたい。
答え:
より広範な視点からみると、RCEPは 15 カ国の間で大きく5つの「自由な流れ(フリーフロー)」を強化するだろう。すなわち、(1)自由な貿易の流れ、(2)自由な投資の流れ、(3)自由な電子商取引などサービス産業における流れ、(4)自由な資本・資金の流れ、(5)自由な人の流れ、の5つだ。
特に、4番目の資金と資本の流れは、よりスムーズになり、東京、ソウル、シンガポール、シドニーといった、15カ国を代表する金融センター間でのリンケージが高まるだろう。資金・資本の流れの活発化は、RCEP域内での経済・ビジネス活動を促進することにつながる。
5 つの自由な流れは、タイを含めて経済規模が小さい国々の経済規模を拡大させる効果を持つ。世界のGDPの合計は80兆ドルを超える。その中で、タイのGDPは5,000億ドル程度で約0.5%のシェアしかない。人口でいえば、世界の約1%に過ぎない。ASEAN加盟10カ国では世界人口の約9%を占める一方、世界のGDPに占めるシェアはわずか3%だ。RCEP経済圏に比べて小さい(RCEPは世界GDP、世界人口の約3割のシェアを占める)。RCEPは5つの自由な流れを生み出し、タイを含むASEANに対して、より多くの成長機会を与えるだろう。タイが正しい政策を行えば、RCEPは成長する機会となる。ASEAN全体においても同様だ。
RCEPを締結した15カ国は、最終的には補完関係にある。オーストラリア、インドネシア、ミャンマー、ラオスなど資源主導型経済は、RCEP各国で発展に必要となる天然資源を工業へ、特に製造業などへと提供する機会が生まれる。また、RCEP域内には、中国のような生産主導型経済もある。タイをはじめASEAN経済において、中国は生産基地として最も重要な役割を果たしている。また、シンガポールのようなサービス主導型の経済もある。タイも、それを目指して奨励を行っているが、RCEP域内では、こうしたサービス業を中心とした経済が増えている。また、日本や韓国などのイノベーション・研究開発(R&D)主導型経済や、金融主導型の経済も存在する。こうした様々なタイプの経済を正しく結びつけることができれば、RCEP が1つの経済グループとしてまとまり、機会を増大させることが可能だ。
ASEAN各国にとっては、地政学的な意味合いでも、良い効果をもたらす可能性がある。RCEP は日本、中国、韓国に対して、協力のためのプラットフォームを提供する。この3カ国は長年にわたってFTAを推進しようとしてきた。にもかかわらず、政治・安全保障上の要因や歴史的な相互不信感により、今まで協力することができなかった。これら3カ国は、少なくとも経済的には協力していく余地がある。RCEPがなくとも、この3カ国間の貿易は非常に大きくなっている。3カ国間でのFTAは存在しない。しかしが、RCEPによってこの3カ国は、ほかの12カ国も含めて完全にリンクされる。この3カ国の連携は、タイ、そしてASEAN各国に恩恵をもたらすだろう。
タイとシンガポールを含むASEAN諸国の大部分は投資・資本を受け入れる側の国々で、さらなる投資の余地がある。特にタイでは、政府が東部経済回廊(EEC)開発の下で「タイランド4.0」政策を推進し、新たなS字カーブ産業などを支援しようとしている。しかし、RCEP加盟国の支援がなければ、その目標を達成することは困難だろう。
質問:
タイ政府や企業はRCEPに何を期待しているか。物品貿易の自由化(市場アクセス)をはじめ、知的財産、電子商取引のルールなどの視点から、具体的な企業活動、産業・ビジネスへの裨益(ひえき)という点から伺いたい。
答え:
新型コロナウイルス感染症発生後のニューノーマルの世界では、様々な変化がある。RCEPは、以下それぞれの分野ごとに恩恵をもたらすだろう。
  1. デジタリゼーション:
    RCEP加盟国で、第5世代移動通信システム(5G)技術の導入を加速させ、はるかに高速な通信が浸透する。RCEP経済圏内でのデジタル技術の普及が進む。
  2. メディカリゼーション(医療化、医療開発):
    高度な医療がダイナミックに浸透する。特にタイは、RCEP加盟国に対して医療を提供し、医療分野でさらなる発展を目指すことが可能になる。医療産業で優位性を有しているからだ。
  3. フィナンシャリゼーション(金融化):
    今後、金融業界はさらにダイナミックになる見通しだ。世界経済は、より金融主導型の経済になるだろう。現在、米国の連邦準備制度理事会(FRB)など世界の超大国による拡張的マクロ経済政策(金融政策や財政政策など)の過剰実施により、世界の至る所で過度な金融流動性が散見される。世界レベルでみると金融の流動性が高く、フィナンシャリゼーションがよりダイナミックに起きる原因となっている。
    先日、個人投資家がヘッジファンドと争ったという報道があった。これは個人投資家の資本へのアクセス性が高まったことの証左だ。フィナンシャリゼーションがよりダイナミックに起こっていることが、その要因と言える。RCEP加盟国の間でこうしたダイナミズムに協力して準備しておけば、恩恵にあずかることができる。逆に、そうでなければ、悪影響を受けることになりかねない。
  4. アーバナイゼーション(都市化):
    都市化は、特にASEANで、ますます重要な役割を果たすことになる。タイを例にとると、バンコクだけが突出して都市化している。一方、全国的にみると、地方部では発展が遅れている。
    RCEP加盟国間の協力により、インフラ投資が円滑化され開発がより早く実施されるようになる。インフラ整備は、都市化の前提条件だ。
  5. リージョナリゼーション(地域化):
    ポスト・コロナ時代では、リスク管理と比較優位性を向上させる。そのため、国際的なサプライチェーンが短縮されることが予想される。結果、リージョナリゼーションは、グローバリゼーションよりも重要な役割を果たすことになる。
    また、今や気候変動もさらなる発展の前提条件の1つになりつつある。RCEP加盟国間では、気候変動が貿易機会の重要な前提条件となる可能性が高い。気候変動が新しい非関税障壁になるという見方もできる。これは、十分にありうる話だと思う。カーボンフットプリントのような要素がでてくると、長すぎるロジスティクスや長時間にわたる輸送は、カーボンフットプリントを増やす原因になる。サプライチェーンが短ければ、エネルギーを節約することにつながり、大気中への二酸化炭素(CO2)排出量も減少し、脱炭素化に資する。
質問:
RCEPはサプライチェーンの再構築をもたらすのか。また、中小企業や農家への影響はどうみているか。
答え:
RCEPにより、リージョナリゼーションが加速化されるため、地域のサプライチェーンの在り方は再構築されることになる。RCEP域内に補完的な経済があればあるほど、より効果的なリージョナリゼーションを進めることが可能となる。
今後は規模よりも、スピードが重要な役割を果たす時代になる。つまり、リージョナリゼーションによって、「規模の経済」よりも、「スピードの経済」の重要性の方が増すということだ。そうした変化の中で、小規模農家がスマート農業のようなデジタル技術を利用できるようになれば、より効率的に生産や販売ができるようになるだろう。
中小企業については、この「デジタル・ダイナミズム」にどう対応できるかにかかっている。それに加えて、カスタマイゼーション(特注化、カスタム化)や仮想化がより進展し、それらがビジネス上で果たす役割が大きくなってくる。こうした非常にスピードの速いダイナミズムに、RCEP加盟国が対処するにあたって、この種の技術を得意とする日本や中国、韓国などが、ほかの加盟国を支援することが期待される。
質問:
RCEPの交渉経緯・結果について、中国主導で署名に至ったとの報道なども見受けられる。中国がリードしたという見方についてはどう考えるか。ASEAN、日本、オーストラリアなどの交渉スタンスは、各国でどう見えていたのか。
答え:
中国が主導したという報道があるとすれば、それは全くの誤解だ。私自身も、この地域大のFTAに直接関わる機会があった。2002年ごろの話だが、最も初期の段階で中国はASEAN+3(日本・中国・韓国)でのFTAを打ち出そうとしていた。私は、タイを代表する20人のチームの1人として指名され、ほかのASEAN加盟国のメンバーとともに、ASEAN首脳会議に向けて、ASEAN+3構想の提案書の起草に関わった。ASEAN+3の13カ国間での協力の可能性について、数年かけて議論を行い、提案書を起草した。中国がASEAN+3を推進しようとした一方、日本は中国が支配的な役割を担うことを懸念して反対し、現在のRCEPの原型となった「ASEAN+6」構想を提案した。こうした経緯から、私はRCEPが中国主導のFTAだとは思っていない。
(そうした報道が出るのは)TPP(環太平洋パートナーシップ)構想が始まってから、日本国内でASEAN+6の枠組みに関心が薄れたことも関係しているのではないか。
質問:
インドは最終的にRCEPから離脱した。他方で、インドに対しては門戸が引き続き開かれた形にもなっている。インド離脱の影響、インド復帰に対する期待や見方について教えていただきたい。
答え:
私の考えでは、インドがすぐにRCEPに戻ってくるとは思えない。少なくとも、今後5年以内にRCEPに戻ることはないだろう。モディ首相はインドの農業分野を改革しようと努力しているが、それに対する世論の不安が示すように、開放は政権与党にマイナスの影響を及ぼすことになる。モディ首相以前の国民会議派政権時代においては、各種の開放は利害関係者からの逆風を巻き起こした。
現在のインドが注目しているのは、ASEANではなく、米国や欧州各国ではないだろうか。米国のバイデン新政権ではカマラ・ハリス副大統領がインドにルーツがあり、米国のデジタル業界とインドのつながりは深い。ブレグジット(英国のEU離脱)後の英国も、旧英国領のコモンウェルス・ネットワークを通じて、インドに近づく可能性が高い。
一方のタイはというと、タイ・インドFTAのアーリー・ハーベスト以降は進展がない。ただ、タイの対インド輸出は、自動車部品、エアコンなどはあるものの、比較的小さいとみている。インドのRCEP離脱によるタイへの影響は、軽微と考える。
質問:
RCEP発効に向け、タイの批准の見通しをどうみているか。国内の論調、世論、産業界の声などはどうか。
答え:
タイの批准手続きに障害はないだろう。2021年内に国会で批准が承認される見通しだ。国民の間でも、RCEPに対する抗議の声は出ていない。タイの野党から批判が少しあった程度で、ほとんど問題にならないと考える。CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定、いわゆるTPP11)などに比べて、RCEPは制約が少なく柔軟性がある。(批准に向けて問題になりにくいのは)そのような協定だからだ。
略歴
ソンポップ・マナランサン(Sompop Manarungsan)
パンヤピワット経営大学学長。1989年、フローニンゲン大学博士(開発経済学)。チュラロンコン大学教授や同大中国研究センター所長などを歴任。タイ学術研究会議(NRCT)、タイ投資委員会(BOI)役員も兼ねる。東京大学や京都大学、法政大学などに客員研究員として在籍した経験もあり、日本をはじめ東アジア経済に精通する。また、タイ政府のFTA交渉に提言を行うなど通商政策にも詳しい。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
北見 創(きたみ そう)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、大阪本部、ジェトロ・カラチ事務所、アジア大洋州課リサーチ・マネージャーを経て、2020年11月からジェトロ・バンコク事務所で広域調査員(アジア)として勤務。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
シリンポーン・パックピンペット
通商政策や貿易制度などの調査を担当。

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