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特集:RCEPへの期待と展望 -各国有識者に聞くRCEP加盟の機会を生かし産業の高度化を(インドネシア)
ヨセ・リザル・ダムリ氏:戦略国際問題研究所(CSIS)経済部長

2021年2月16日

地域的な包括的経済連携(RCEP)が、2020年11月15日に署名された。これに対応し、ジェトロは各国の有識者や産業界などにインタビューを実施した。

インドネシアでは、戦略国際問題研究所(CSIS)のヨセ・リザル・ダムリ経済部長に、RCEPの効果や期待などについて聞いた(インタビュー実施日:2021年2月10日)。同氏は、国際貿易のインドネシアにおける権威で、セミナーや現地紙からのインタビューなどでRCEPに対するコメントを多く発信している。


ヨセ・リザル・ダムリ氏(同氏提供)

市場アクセス効果は、インドネシアから見ると限定的

質問:
インドネシアにおけるRCEPの経済的、地政学的な意味は何か。
答え:
市場アクセスの観点から見ると、RCEPに加入したことによるインドネシアのメリットは大きくない。理由は、インドネシアは既にRCEP加盟国の多くと個別、もしくは多国間の経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)を締結済みだからだ。グローバルサプライチェーンに組み込まれない限り、恩恵を受けるのは難しい。そのためには、経済環境、エコシステム、投資枠組みなどに関する改革が重要となる。インドネシア政府は、雇用創出オムニバス法の制定により、改革を進めようとしている(2020年10月13日付ビジネス短信参照)。広い視野に立てば、RCEPは経済的な意味よりも、地政学的な重要性の方が大きい。協定の第15章で規定されている経済協力・技術協力をうまく活用することで、対立している国どうしの対話を促すことができるのではないか。直近では、オーストラリアと中国が、貿易面で緊張関係を高めている。

RCEP加盟の機会を生かし、産業の高度化を

質問:
RCEPにはインドネシアに利する条項は入っているか。
答え:
インドネシアにとっては、原産地規則、投資、市場アクセスの順で、影響度が高いと考えている。RCEPは、域内でより深い連携をしていくためのゲートウェイとしての役割を果たすのではないか。インドネシアは多くの国・地域とFTA・EPAを締結しているが、その分、原産地規則の数が多く複雑で、企業にとって活用が難しかった。しかし、RCEPの原産地規則は15カ国をカバーし、かつ原産地規則の1つである累積制度(注)も認められている。加盟国によって構成される地域のサプライチェーンが強化され、域内の貿易量は増加するだろう。
質問:
どのような産業がRCEPを活用できるか。
答え:
自動車や繊維産業は、既にグローバルサプライチェーンに組み込まれているが、さらに高度化できる可能性があると考えている。日系の自動車産業にとってインドネシアは、タイの次に大きな生産拠点となっているが、本来であれば、インドネシアが第1の拠点になるポテンシャルを持っていると考えている。他方、インドネシアの繊維産業は、生産量が近年低下しており、生産設備や技術をアップグレードしない限り、生き残るのは難しいだろう。そのほか、食品加工産業も有望ではないか。インドネシア最大の総合食品会社であるインドフード・サクセス・マクムール外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます が独自にバリューチェーンを築いている点をみても、インドネシア地場企業は、食品分野で有力な生産者になる可能性を秘めている。
電気・電子機械産業についていえば、2000年代前半、インドネシアは同産業を集積させる機会を逃した。結果として、ベトナムやフィリピンへ同産業が集積している。RCEP加盟という機会を活用する必要があるだろう。

RCEPにおけるASEANの存在感

質問:
RCEPが中国主導と言われることが多いが、その点についてどのように考えるか。
答え:
RCEPはASEAN主導であり、中道的なメカニズムを保有するASEANだからこそ主導できた。RCEPの交渉妥結は、「ASEAN中心性」を示すものだ。また、東アジア地域においても、台頭する保護主義に対抗する意思表示にもなる。中国はASEANのようなメカニズムを持っておらず、交渉を主導できることはない。メディアが、RCEPを中国主導と評価するのは、中国がRCEPで恩恵を比較的多く受けることになるからであろう。
質問:
インドがRCEPを抜けた影響をどのように考えているか。
答え:
インドの政権与党であるインド人民党(BJP)の事務局長と話した際、国内情勢が課題だと聞いた。RCEP加盟国に対し、インドは貿易赤字を抱えているという事情もある。政治的には難しい状況かもしれないが、数年後には、加盟による経済的にメリットが大きいと、気づくのではないか。
なお、RCEPではないが、ASEANは独自のインド太平洋構想「ASEAN Outlook on the Indo-Pacific」(AOIP)を掲げている(2019年7月12日付ビジネス短信参照)。ASEANはインドと、この枠組みで提携することも可能だろう。

批准の時期は2022年前半か

質問:
インドネシアの批准はいつ頃になると見ているか。
答え:
現在、政府や国会は新型コロナウイルス対策やオムニバス法に忙殺されており、審議には時間がかかるだろう。批准は2022年前半になるのではないか。

注:
他の締約国の原産材料を、自国の原産材料とみなすことを指す。RCEPにおける累積制度は、原産品の累積のみ利用可能な「部分累積制度」を採用。原産品の累積と生産行為の累積の両方が利用可能な、いわゆる「完全累積制度」については、RCEPがすべての署名国について効力が発生した後に検討される(累積規定(第3・4条)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(260.31KB))。
略歴
ヨセ・リザル・ダムリ(Yose Rizal Damuri)
インドネシアのシンクタンクであるインドネシア戦略国際研究所(CSIS)で経済部長を務める。調査領域は国際貿易、地域統合やバリューチェーンのグローバル化。インドネシア大学経済学部卒業後、オーストラリア国立大学にて開発学修士、ジュネーブ国際・開発研究大学院にて国際経済学博士号取得。
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
上野 渉(うえの わたる)
2012年、ジェトロ入構。総務課(2012年~2014年)、ジェトロ・ムンバイ事務所(2014年~2015年)、企画部企画課海外地域戦略班(ASEAN)(2015年~2019年)を経て現職。ASEANへの各種政策提言活動、インドネシアにおける日系中小企業支援を行う。

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