特集:ロシアでの日本食ビジネスの新たな潮流食分野にも広がる日本への関心(ロシア)
定食屋、カラオケ、バーを融合した新たな店舗展開へ

2020年8月21日

カジュアル日本食が広がりの兆しを見せるモスクワ。おいしい料理を出せるカラオケ店という新しいコンセプトに挑む若手実業家がいる。レストラン、バー、カラオケを融合させた店舗「泉」のマクシム・ルキヤノフ共同オーナーだ。名古屋留学時に、日本式の「定食」に魅了された。日本への関心は、工業製品や文化から「新しい日本食」に広がりつつある、と語る。(インタビュー実施は2019年11月15日)。

質問:
「泉」の概要について。
答え:
2019年9月末に開店した。日本の「定食」のコンセプトを取り入れたレストラン、くつろげる雰囲気を醸し出すバ-・スペース、人数に応じて楽しめるカラオケルーム(5~20人の3タイプ)の3つを融合させたコンセプトだ。主な顧客層は22〜35歳。アルコールなしで1人当たり1,500ルーブル(約2,250円、1ルーブル=約1.5円)と、客単価は比較的高い。
「コーナー・カフェ&キッチン」(以下、「コーナー・カフェ」)のオーナーシェフ、小林克彦氏(本特集「『新しいものを探す』人たちに日本の味覚を融合させたメニューを」参照)を当店のブランドシェフとして迎えた。小林氏には、メニューを考案していただいている。たこ焼き、たい焼きなども取り入れた。これらは、他の日本食ではあまり見かけない。なお、小林氏は週3回、「コーナー・カフェ」のシェフを講師として、当店の調理人向けに研修を行っている。
「泉」に加え、私(ルキヤノフ氏)は中心部からやや離れた地域に姉妹店「ナゴヤ」も経営している。学生や労働者向けに、安くてボリュームのある定食類を提供するコンセプトだ。20種類以上の定食メニューを用意している(2020年1月時点)。
質問:
最近のモスクワでのカジュアル日本食の広がりをどう見るか。
答え:
5年ほど前から、新しい形の日本食の波が押し寄せてきた。それが本格的になり始めたのは、ラーメン居酒屋「クウ」が2017年にモスクワに1号店をオープンしてからだ(2017年12月18日付海外農林水産・食品ニュース(Food & Agriculture)記事参照)。最近では、食事のほか抹茶や甘味も大胆に取り入れた「J’PAN」(本特集「『粉モノ』の先駆者が挑む日本産抹茶の普及」参照)をはじめとするレストラン・カフェも出てきている。過去20年はいわゆるスシ(ロール)がロシアにおける日本食のイメージだった。いわばステレオタイプの理解しか浸透していなかった。最近は、料理だけでなく、その背景にある日本の文化も含めて日本食を紹介する動きがみられる。
これまで日本食を全く知らなかった層で、日本に対する関心が高まっている。米国、カナダ、スペインなどと比べても、これほど日本に対して熱心に関心を示す人が多い国はないだろう。工業製品、文化、アニメ、武道などを含め、様々な面で関心が持たれている。 これらへの関心の高まりで、日本食に対する需要も高まっている。これに対し、「いちばんぼし」(2019年1月21日付海外農林水産・食品ニュース(Food & Agriculture)記事参照)をはじめとして、多店舗展開を図るケースがみられる。しかし、既存店で提供されているものを上回るニーズがあり、チャンスありと見ている。ただ、いろいろなメニューを楽しみたいというロシア人の嗜好(しこう)を考えた場合、(日本の焼き鳥専門店やそば店ように)単品で営業するのは困難だろう。様々なメニューを取りそろえることが必要だ。

「日本への関心が高まっている」と語るルキヤノフ共同オーナー(ジェトロ撮影)
質問:
食材はどのように調達するか。
答え:
ソースは、小林シェフがロシアの材料を組み合わせて作ることが多い。照り焼きソース以外のソース、昆布、かつお節、ふりかけなど、日本にしかない食材は日本から輸入する。価格が高くても、それを使わなければ日本の味と品質を再現できない場合は活用する。ビールや調味料も含むと、品目ベースで全体の40%は日本製の食材だ。焼きすしのりは、日本メーカーの中国工場から仕入れている。何度も試食を繰り返し、これであれば日本の味と品質を保証できるとして取り入れた。
肉や卵はロシア産を使用。コメはイタリア米だが、過去にはカリフォルニア米を使ったこともある。日本米はロシア米の2倍以上の値段がする。このため、残念ながら調達できない。ロシア米でも、調理次第では十分活用できる。当店ではスシメニューはなく、丼物が主なので地場米でも行けると判断した。日本米が最高の品質ということは理解するが、価格の壁は大きい。
質問:
日本の食材を輸入する際の課題は。
答え:
一番大きな問題は、通関に時間がかかることだ。動物検疫対象製品の場合、多くの書類が求められる。ラーメン用のスープは、成分によっては輸入規制に抵触する。日本と同様で、動物由来製品や加工肉の輸入には手間がかかる(注1)。
冷凍食品もあるが、それも通関にかかると厳しい検査を受ける(注2)。ソースは、通関時の成分検査に3カ月を要したこともある。従って、当店で使う日本製品は、通関時の留置リスクを考慮して、賞味期限が長いものになりがちだ。
日本製食材を活用するかどうかは、価格面、通関とその準備に要する時間と品質の維持のバランスなど、総合的に考える問題である。例えば、生鮮食品は冷凍にすると味が落ちる。このため、なるべくなら使わない。
もっとも、必要なもの、あるいは店舗ごとのコンセプト次第では、冷凍の輸入製品を使うこともある。例えば、ギョーザは当店では手づくりだが、「ナゴヤ」では味の素のポーランド工場で製造された冷凍製品を使っている。
質問:
今後の方向性は。
答え:
定食メニューやラーメン、焼きそばといった麺類などのメニューを増やしたい。店舗数の拡大も検討中だ。モスクワ市内で5店舗の開設を目標としている。「ナゴヤ」は、フードコートやショッピングセンターなどを中心に10店舗以上増やしたい。他都市への展開も将来的には考えたい。
カラオケについて、モスクワでは競合となるカラオケボックスがある。しかし、それらの店舗では食事に配慮されていないため、飲食する気にはならない。「飲んで歌う」コンセプトは、ロシアでも新しい楽しみ方として受け入れられ始めている。当店ではそこにきちんとした料理を出すことで、総合的に楽しめる空間、自分が考えるところの日本的な「オアシス」をつくりたい。それによって、他店との差別化を図り、優位性を出していく。
日本食はおいしい。しかし、ロシア人はこれまで日本食にも様々な種類があることを知らなかった。定食や日本式デザートもある。ようやく、ロシア人もそれらが分かり始めた。「トンカツ」は「カツレツ」から派生したものだが、全く違う食べ物だ。ロシアの一般消費者にとって、これまでに目にする機会が少なかった珍しいものとして受け入れられ始めている。
日本食は健康的との強いイメージもあるが、今の日本食ブームは「未知の国の珍しい食べ物」によるイメージが牽引している。
すでに、ロシアではスシを出すレストランが当たり前になっている。その意味では、日本食は一般的なものとなっている。その状況の中で、徐々に本物の日本食に対する需要も高まっている。

5人から20人まで楽しめる大小さまざまなカラオケルーム(ジェトロ撮影)

注1:
ロシアへの食品の輸入手続きに関しては、「農林水産物・食品 品目別輸出ガイド(ロシア)」および調査レポート「ロシア品目別輸入手続き」を参照。
注2:
ロシアに製品を輸入する際に事業者が直面しやすい通関時のトラブルについては、2019年9月5日付ビジネス短信参照
執筆者紹介
ジェトロ・モスクワ事務所長
梅津 哲也(うめつ てつや)
1991年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ・モスクワ事務所、サンクトペテルブルク事務所などに勤務。主な著書に「ロシア 工場設立の手引き」「新市場ロシア-その現状とリスクマネジメント」(いずれもジェトロ)。

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