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特集:ロシアでの日本食ビジネスの新たな潮流カジュアル日本食も多品種のメニュー展開が必要(ロシア)

2020年8月21日

モスクワでは、カジュアル日本食が流行の兆しを見せる。経営コンサルタント出身のミハイル・レフチェンコ氏に、日本食市場の現状、食材調達とその課題などについて聞いた(インタビュー実施日は2019年11月13日)。成功の秘訣(ひけつ)は多様なメニュー展開だという。 なおレフチェンコ氏は、弟のデニス・レフチェンコ氏とともに合計4店舗を運営する。その中には、ラーメンを中心とする店舗が含まれている。

質問:
日本食ビジネス参入のきっかけは。
答え:
これまで日本との関係が特にあったわけではない。飲食業の世界に飛び込んで最初に開いたのはビアハウス。ここは日本食とは特に関係していない。もともと、大手監査法人プライスウォーターハウスクーパース(PwC)にコンサルタントとして勤務していた自分(ミハイル氏)が飲食業に関心を持ち、半分趣味のような形で立ち上げた。やっているうちに飲食の方が面白くなってきた。営業的にも成功したこともあり、この業界に専念することにした。
日本関係では、ラーメンを中心とした「RA'MEN」(ラーメン)、抹茶中心のカフェ「タッチ・オブ・抹茶(Touch of Matcha:ToM)」がある。ToMは、純粋な日本カフェではなく、「フレキシタリアン」(準菜食主義)向けの菜食を中心とした「グリーンフード」がコンセプト。
「J'PAN(ジェパン)」を共同で経営するエレーナ・コジナ氏と知り合ったことで(本特集「『粉モノ』の先駆者が挑む日本産抹茶の普及」参照)、「RA'MEN」のプロジェクトが実現に向けて動き出した。日本食は、モスクワで人気になっていた。このため、取り組んでみようと思ったのがきっかけだ。

異業種から参入したレフチェンコ共同オーナー(左がミハイル氏)(ジェトロ撮影)
質問:
「RA'MEN」の経営はどのように進めているのか。
答え:
シェフ1人、調理人3人、ホール係2〜3人で回している。アルコールを含むドリンクコーナーは、曜日や時間帯により1人(平日)〜3人(金曜夜)が入る。シェフは、以前J’PANで調理を担当していた人物が移籍してきた。デザートも「J’PAN」のものを使っており、両店で1つのチームを組んでいる。
客層は男性6割、女性4割で、平均年齢は27歳。新しいものを体験したい世代が来店する。来客数は金曜日で320人、平日は120人程度。(客層が若いため)客単価が低いのが悩みだ。昼食時には400ルーブル(約600円、1ルーブル=約1.5円)で、夜は1,000ルーブル程度まで上がるが、まだ低い。より高価なメニューの考案もしている。30代は、20代に比べればお金を持っているので、それらの層を呼び込む戦略を立てたい。
質問:
調理人の教育は。
答え:
シェフは、日本の料理学校に派遣し、研修を受けさせている。これまで、大和製作所の麵学校(香川)に3人の研修生を送り出した。また、他店の料理を勉強ために食べてみることも重要だ。ニューヨークや日本で多くのラーメン店を回り、どれが導入できそうか検討した。日本からコンサルタントを招いて、何らかの刺激を当店の調理人に対して与えられないかと考えている。

ごまみそが香る担々麺(ジェトロ撮影)
質問:
日本産食材の利用と課題について。
答え:
「RA’MEN」における日本食材の利用率は5%前後。麺の材料は、かんすい以外はロシア製だ。製麺機は日本の大和製作所ものを使用している。スープの材料も、基本的にロシア製。他方、しょうゆ、ワカメ、昆布、メンマ、キムチソースは日本産のものを使用(ロシアの地元業者から購入)している。とんかつソースは自社では作れないので、これも輸入品を使っている。
(「J’PAN」と共同で)日本米(あきたこまち)を購入している。しかし、供給が安定しないのが悩みだ。(サンクトペテルブルクに本社を持つ食品輸入・卸の)クラスヌィ・ドラコン(レッド・ドラゴン、2020年6月23日付地域・分析レポート参照)による供給が滞るときがある。日本米が手に入らない場合は、イタリア米(はるか)を使う。コシヒカリを自社輸入することもあるが、恒常的に輸入しているわけではない。
日本の輸出者が前払い要求をすることも、直接の輸入取引にならない要因だ。ロシアの事業者との取引では、支払い猶予を設定できる。最低購入量も、日本の輸出者は最低2トンで当社には多すぎる。
コメの購入価格は、1キログラム当たり350ルーブルが仲介業者から購入する際の上限だ。通関手続きに要する手間・費用を勘案すると、自社輸入でも大きなコスト低減にはならない。このため、ロシアの事業者から調達している。
日本産食材の利用拡大は考えていない。経営の観点からは、地場産品を安定的に調達するのが合理的だ。2019年1月の付加価値税引き上げもあり、輸入品は競争力が落ちている。
質問:
今後の日本食市場をどう見るか。
答え:
日本では、そばならそば、ラーメンならラーメンと専門店が成り立つ。しかしロシアでは、単品ビジネスは難しいだろう。当店は比較的、単品(ラーメン)に特化しているが、丼物や手巻き、前菜も提供している。「ラーメン居酒屋『クウ』」(注)もラーメンを中心にしているが、様々な種類の前菜も出している。
大都市の消費者には、常に新しいもの、新しい味に関心を持つ人がいる。とはいえ、大部分は昔の味に慣れた保守的な味覚のままだ。ただし、その中間のセグメントも出てきた。例えば、ベトナム料理(特にフォー)がそれに該当する。ロシア人にとってエキゾチックな味だが、カジュアルなアジアン・フードとして急速に広まっている。ベトナムに旅行するロシア人が多いため、現地で味を覚えてきたのだろう。
日本食トレンドは続くだろう。しかし、そのためにはより多くの日本人がロシアを訪れ、またロシア人が日本を訪れることが必要だ。旅行者や滞在者が増えれば、それらの需要を満たす日本料理店も増える。
今後は、フードマーケット(おしゃれな食料品バザール)、フードコートへの出店を考えたい。日本食・中華の両方を出す店舗のコンセプトもある。

注:
モスクワのカジュアル日本食を本格的に成功させた草分け的存在。「シベリアのレストラン王」と称されるデニス・イワノフ氏がオーナー。スモレンスカヤ店オープン(2017年9月)を皮切りに、2020年7月現在、モスクワ市内に4店舗を数える(2017年12月18日付海外農林水産・食品ニュース(Food & Agriculture)記事参照)。
執筆者紹介
ジェトロ・モスクワ事務所長
梅津 哲也(うめつ てつや)
1991年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ・モスクワ事務所、サンクトペテルブルク事務所などに勤務。主な著書に「ロシア 工場設立の手引き」「新市場ロシア-その現状とリスクマネジメント」(いずれもジェトロ)。

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