日本人起業家、ロシアのカフェと組み、ラーメン店を本格展開
味の均一化と多様なメニューの提供でロシア人消費者の支持を狙う

2020年5月8日

ロシアで、日本人の手掛けるラーメンチェーンが人気を集めている。サンクトペテルブルクの「chou do(チョウド)ラーメン」は、徹底した味の均一化と現地食材の活用による低コスト化、そして多様なメニューの提供によって、ロシア人受けする店舗を展開する。2019年7月に1号店を市内ショッピングモールのフードコートに開店し、2019年12月には市内中心部に2店舗目となる路面店をオープンした。さらに、モスクワへの進出も目指す。ビジネスの概要やロシアの日本食市場、今後の計画について「chou do ラーメン」の代表取締役社長を務める鬼島一彦氏に聞いた(2月26日)。


ショッピングセンター内の店舗チラシ
(chou do ラーメン提供)

鬼島社長(右)と日本人の副料理長
(chou do ラーメン提供)
質問:
企業概要について。
答え:
当地で医療・外食コンサルタントや製麺などのビジネスに取り組む鬼島と、国内40店舗以上を展開するロシアのカフェチェーン「ブーシェ」との共同ビジネスだ。サンクトペテルブルク市内で2店舗のラーメン店を経営している。従業員数はフードコート店が7人、路面店が18人、自分を含めたマネジメント層が3人の計28人。今後は、サンクトペテルブルク市内(空港近くのショッピングモール内)とモスクワ市内に、2店舗を新規オープンする予定だ。

フードコート内に位置する第1号店(chou do ラーメン提供)
質問:
ブーシェとの出資比率・役割分担は。
答え:
出資比率は自分(鬼島氏個人)が20%、ブーシェが80%。ブーシェの役割は、総務・管理系業務の支援やプロモーション、食材の物流など。店舗デザインや店舗物件のオーナーとの交渉は、ブーシェのようなノウハウあるロシア企業でないと難しい。自分の役割は、マネジメント、メニュー開発や調理指導、日本人としての広告塔業務だ。
質問:
鬼島社長は以前からサンクトペテルブルクで製麺会社を経営し、ロシアのレストランに麺やスープを提供する一方、自身ではラーメン店を経営しない意向だった(2019年3月25日付Food & Agriculture記事参照)が、なぜ乗り出したのか。
答え:
これまでは、ロシアのラーメンブームを陰から支える製麺会社が最も付加価値を創出でき、かつ投資コストや事業継続の観点からも理にかなっていると考えていた。しかし、ブーシェという外食産業に強いロシア企業と協業できたことで、ラーメン店の経営も現実的なビジネスだと判断したためだ。ブーシェは個人のオーナー企業なので意思決定が早く、協業を決めてから1年で初店舗の開店にこぎ着けた。なお、製麺会社の経営も続けている。
質問:
メニュー開発で留意していることは。
答え:
ロシア人にも日本人にも認められる味を目指している。具体的には、味のブレをなくすことだ。例えば、ラーメンの麺とかえし(タレ)と香味油は、工場で一括製造し半完成品にすることで、店舗での調理時に味が均一化される。仕込みや調理を担当する副料理長には日本人を据えた。ロシア語ができ、料理学校で学んだ経験もある。
ロシアの特徴は、多様なニーズがあることだ。日本ではスープの味が1種類のラーメン店が多いが、ロシアではベジタリアンや、「肉はNGだが、シーフードはOK」といった人など、多様な顧客を満足させなければ客足は遠のく。
他の日本食レストランとの違いは、ラーメンだけでなく、ギョーザにもこだわった点だ。納得できる味を目指し、一般的な日本食レストランに見られる冷凍食品のギョーザではなく、店内での手作りで提供している。路面店では「ラーメン・餃子バー」と銘打っている。ギョーザはロシア風水餃子「ペリメニ」に近く、ロシア人に受け入れられやすいと判断し、力を入れて開発した。

ギョーザの皮は店内で作る手作りだ(ジェトロ撮影)
質問:
人気メニューは。
答え:
しょうゆラーメン。当店では「クラシック・ラーメン」と表記しており、オーソドックスな入門のラーメンとして、初めてラーメンを食べるお客がよく注文する。その次に、ベジタリアン向けの塩ラーメンだ。豚骨ラーメンは用意していない。味がぶれやすく、また廃棄が多く重労働となる割に好き嫌いが激しいためだ。代替として、鶏白湯ラーメンを提供している。

しょうゆラーメン(ジェトロ撮影)
質問:
日本産輸入食材の割合は。
答え:
ラーメンの完成品割合では、価格ベースで5~10%程度。しょうゆ、かつお節、ノリは日本産だが、あとはほぼロシア産。価格はもとより、輸入食材は安定的に供給されないことがデメリット。また、物流のリードタイムを考慮すると、まとめて注文する必要があるため、キャッシュフローが苦しくなる。従って、日本産食材の取り扱いを積極的に拡大するつもりはない。ラーメンは、ローカルの食材を使っても提供できる日本食であり、そこにビジネスの魅力を感じている。
質問:
客単価、客層は。
答え:
1オーダーあたり平均では、路面店で1,200ルーブル(約1,680円、1ルーブル=約1.4円)、フードコート内店で550ルーブル(約770円)だ。主な客層は、アルコールを提供する路面店では20代後半から30代、フードコート内は学生から大人、高齢者までさまざまだ。課題は路面店のリピーターづくり。市内中心地に立地するが、フードコート店と異なり、衝動的な来店は少ないため、プロモーションに取り組んでいる。
質問:
モスクワとサンクトペテルブルクの投資額の違いは。
答え:
モスクワの店舗はやや郊外になるため、賃料としては、サンクトペテルブルクの市内中心地の路面店とあまり変わらない。人件費は、同じポジションのロシア人を採用する場合、モスクワの方が10~15%高い印象だ。
質問:
ロシアの日本食市場をどうみるか。
答え:
近年、ロシアでは食文化が多用化していると感じる。特に、アジアの食品にフォーカスが当たり、日本食ビジネスのチャンスは増えている。一方で、本物の日本食を持ってきたからといって売れるわけではない。柔軟に現地化することも必要だ。加えて、適切なロシア企業パートナーと組むことも重要。
また、ロシアの通貨(ルーブル)は現在、下げ止まりしているとみる。現地進出はタイミングとしても良いのではないか。
執筆者紹介
ジェトロ・サンクトペテルブルク事務所長
一瀬 友太(いちのせ ゆうた)
2008年、ジェトロ入構。ジェトロ熊本(2010~2013年)、展示事業部アスタナ博覧会チーム(2015~2018年)などを経て2018年4月より現職。