特集:拡大するロシアEC市場ECにおける効果的な広告手段とロシア企業の取り組み
ロシア・デジタルマーケティング企業へのインタビューから

2020年6月23日

ロシアで電子商取引(EC)を成功させるためには、インターネットを利用したオンライン広告が不可欠だ。実店舗のように偶然通りすがることがないECサイトでは、需要のある顧客に対してオンライン広告を打ち、サイトを訪問してもらうことが売り上げにつながる。EC市場の発達に連れてオンライン広告市場も拡大している。もっとも、ロシア特有の広告形態があるわけではない。SNSやアフィリエイト広告の活用が一般的だ。本稿では、ロシアで活用されているオンライン広告、効果的な広告手段やそのトレンドについて、ロシアのデジタル広告・マーケティング事業者やECサイトを持つさまざまな企業にヒアリングした結果を紹介する(インタビュー日:2019年10~11月)。

拡大するオンライン広告市場

ロシアの広告市場では、インターネットを利用したオンライン広告がシェアを拡大している。ロシアの広告代理店などが加盟する業界団体「ロシア・コミュニケーション・エージェンシー協会(AKAR)」によると(表1参照)、2019年のオンライン広告は、前年比20%増の2,440億ルーブル(約3,416億円、1ルーブル=約1.4円)だった。ロシアの広告市場の中で、2年連続して最大の広告媒体となった(2019年3月18日付ビジネス短信参照)。

表1:2019年のロシア広告市場規模(単位:10億ルーブル、%)(△はマイナス値)
分野(セグメント) 市場規模 前年比
テレビ 175.0 △ 6.0
階層レベル2の項目キー局 167.8 △ 6.0
階層レベル2の項目専門チャンネル 7.2 △ 2.0
ラジオ 16.0 △ 5.0
印刷物 15.1 △ 16.0
階層レベル2の項目新聞 5.7 △ 22.0
階層レベル2の項目雑誌 9.4 △ 13.0
屋外広告 43.8 0.0
階層レベル2の項目屋外広告 34.9 0.0
階層レベル2の項目交通広告 5.5 8.0
屋内広告 2.8 2.0
映画館広告(シネアド) 1.1 △ 6.0
インターネット 244.0 20.0
階層レベル2の項目検索 103.7 △ 17.0
階層レベル2の項目ビデオ 14.7 23.0
階層レベル2の項目その他 125.6 23.0
総計 494.0 5.0

出所:AKAR

オンライン広告にはさまざまな種類があるが、本稿では主にアフィリエイト広告、動的リマーケティング、SNS広告について紹介する(表2参照)。いずれも、ロシアにおいて効果的かつ普及している広告として、デジタル広告・マーケティング事業者やECサイトを持つさまざまな企業から言及があった。

表2:主なオンライン広告
項目 アフィリエイト広告 動的リマーケティング SNS広告
サービス
  • アフィリエイト・サービス・プロバイダー(ASP)と呼ばれるプラットフォームを介して行う(注1)
  • AIによるユーザーの行動分析データを活用し、ユーザーの需要に合わせて広告を打ち出す(注2)
  • SNSのアカウントを作成し、広告を投稿する
  • インフルエンサーにSNS上に投稿してもらう
メリット
  • 効果測定が容易
  • CPA(成果報酬型)で無駄なコストがかからない
  • より的確にターゲティングし広告を打つことができるため、訴求効果が高い
  • より的確にターゲティングし広告を打つことができるため、訴求効果が高い
  • 費用をかけず広告可
デメリット
  • 初期費用や月額費用がかかる場合がある
  • 短期的な効果は期待できない
  • 検索エンジンやECプラットフォームが持っているビッグデータを購入して行うため、費用がかかる
  • 実際に購入したかどうかの追跡ができず、効果測定が難しい
  • 広告運用に手間がかかる
特徴
  • ロシアで最も普及
  • 有名ブランドなど広告費をかけられる企業にとっては、コストパフォーマンスが高い
  • ブランドの認識向上に効果的

注1:自社商品やサービスを紹介したい広告主がASPに登録。自身が運営するウェブサイト上などで広告を掲載し収入を得たい媒体主が、ASP上にあるさまざまな広告から掲載したいものを選択し掲載することで広告が行われる。
注2:従来の静的リマーケティングは、過去のサイト訪問者に対して同サイトの広告を配信するのに対し、動的リマーケティングは過去のサイト訪問者が閲覧した商品およびそれと関連性の高い商品の広告を配信することができる。このため、よりユーザーの関心をひきやすく、広告効果を的確に発揮できる。
出所:各社インタビューに基づき、ジェトロ作成

最も普及しているのは、アフィリエイト広告

ロシアにおいて、最も普及している広告手段としてアフィリエイト広告がある。これは、アフィリエイト・サービス・プロバイダー(ASP)と呼ばれる仲介プラットフォームを介して表示される。ロシアだけでなく、日本を含めて世界的に一般的な手法だ。ロシアの代表的なASPは表3のとおり。

表3:ロシアの代表的なASP一覧
企業名 広告として掲載する主な業種・商品
lucky online
(ラッキーオンライン)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
別荘、衣類、美容・健康(ダイエット、フィットネス用品)
shakes
(シェイクス)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
美容・健康、エンターテイメント
Cpagetti.com
(スパゲッティ)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
美容・健康(ダイエット用品)、薬、エンターテイメント、靴、アクセサリー

出所:各社ウェブサイトよりジェトロ作成

アフィリエイト広告の広告費は、CPA(Cost per Action)モデルが最も普及している。実際に注文があった場合にだけ、広告費の支払いが発生する仕組みだ。広告をクリックした人が実際に購入したか追跡可能で効果測定が容易であるため、効果的な広告手段とされている。一般的に商品の売り上げの何パーセント、もしくは会員登録1件につきいくら、といった形が考えられ、「平均広告費は300ルーブル程度」(ロシアのデジタル広告・マーケティング企業「DA!skipper(ダー!スキッパー)」)との声もある。広告経由のオーダー数(1カ月当たり)から広告費を計算し、ASP経由で媒体主に報酬が支払われる。

より的確に需要を起こす動的リマーケティング広告

動的リマーケティング広告は、グーグルやヤンデックスなどの検索エンジン、ワイルドベリーズやオゾンなどのECプラットフォームが持っているビッグデータを購入して行う。このため、コストはかかるが、有名ブランドなど広告費をかけられる企業では活用しているところも多い。より需要のある消費者に広告を打てるので、結果的にコストパフォーマンスが高いためだ。

「ダー!スキッパー」では、動的リマーケティングのデータ提供元として最大手ワイルドベリーズやファッションを中心に取り扱うラモダなどのECプラットフォームと提携を結んでいる。提供元のECプラットフォームのシェアはロシアEC市場の半分を占めると言われる。このため、ロシアEC利用者のビッグデータのうち半分を活用し、リマーケティング広告を打ち出すことができることになる。

SNS広告の効果測定を狙い、プロモーションコードが普及

SNSアカウントやインフルエンサーを活用した広告も、近年普及している。SNSが擁する個人情報は膨大で、より的確にターゲティングし広告を打つことができる。ロシアで宣伝効果の高いSNSは、ロシア版フェイスブックともいわれるフコンタクチェ(VK)、VKと同様にロシアおよびCIS圏で多くのユーザーを獲得するオドノクラスニキ、インスタグラム、フェイスブックだ。

一方で、広告を見た人が実際に購入したかどうかの追跡ができず、効果測定が難しいというデメリットがある。これを克服する手段として、プロモーションコードを利用した割引を紹介する広告が近年普及してきた。コードの利用状況から購入者を割り出すことができ、効果測定が容易なため、SNS広告の1つとして好まれている。

日本製品を取り扱うロシアの輸入商社や卸売・小売店の中には、インスタグラムやフコンタクチェによる販促活動の反響を実感している企業もある(「日本製品販売店でもECの利用広がる(ロシア)」参照))。

SNSの活用で日本製品の理解向上を

このほか、ロシアEC事業者でよくみられる広告手段として、(1) リターゲティング広告、(2) コンテクスト広告、(3) Eメールを利用したメルマガ配信、(4) リスティング広告がある。(1)のリターゲティング広告は、以前に購入した商品が消費されるタイミングを見計らい再広告するシステムだ。リピーター獲得に効果的と言われる。(2)コンテクスト広告は、自社商品に関連性の高いサイトに広告を掲載することで、特に認知度が高いブランドでは消費者の購買意欲をかき立てやすい。コストパフォーマンスが高い点が特徴だ。

(3)のEメールを利用したメルマガ配信は、古典的な手法ながら一般的によく使われている。日本製品を取り扱うサンクトペテルブルクの小売店レッドドラゴンは、週に1度セール情報などのお知らせを希望者にEメールで配信している。(4)は検索エンジンで検索したキーワードに応じ、関連した広告を検索結果画面に表示するというものだ。この手法を取り入れる企業も一般的。モスクワの日本製品小売店ニッポンは、ヤンデックスやグーグルのリスティング広告を活用している。

ロシアのECで使用される広告手段には、他国と比較して際立った大きな特徴や差異はない。各企業は自社の予算、商品の種類、ターゲット層に合わせて、より効果的な手段を選択している。中でも日本製品を販売するのに特に効果的な手段は、SNSを利用した広告と考えられる。実際、日本製品を取り扱う企業は、主にSNS広告を活用している。なじみのない外国の商品が実際どのようなものでどのように使うのか、具体的に理解できると購買につながるためだ。例えば、商品を開封して提示したり、販売用の食品・調味料を使ったレシピを紹介したりする動画を自社のSNSアカウントに投稿する例が見られる。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
加峯 あゆみ(かぶ あゆみ)
2018年4月、ジェトロ入構。同月より現職。