売り上げは右肩上がりで拡大、売れ筋商品はサプリメントや化粧品(ロシア)
ロシア向け越境EC事業者インタビュー

2019年11月1日

これまで信頼性の低かったロシアの郵便事情が、大きく改善を見せている。関税・付加価値税が免除となる点、ロシアにおける高額な流通コストが上乗せされないメリットなどもあり、近年、ロシアでは越境電子商取引(EC)で外国製品を購入する消費者が増えており、市場は拡大を見せている。日本でもロシア向けに越境ECに取り組む事業者が相次いでいるが、そのうちの1社が北海道貿易開発株式会社外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(北海道小樽市)だ。同社の西耕作代表取締役社長、成松勝司取締役部長に、ロシア向け越境EC事業について聞いた(7月19日)。

質問:
会社とEC事業の概要について。
答え:
当社は1998年の創業。長年、海外貿易に携わってきた代表取締役会長の西順平氏が、独立して免税店を開設したのが創業のきっかけ。免税店でのビジネスを通じて、人脈を構築し、貿易事業に業務を拡大。ロシアを中心に、大型機械、電化製品、日用雑貨品、食品などを継続して輸出している。

北海道貿易開発が運営する免税店「サクラ」の様子(ジェトロ撮影)
ECサイトは2016年に開設。ロシア人向けに日本の円建て小売価格で、越境ECの形で販売している。日本のメーカーや問屋などの正規ルートから卸売価格で購入し、日本の小売価格で販売していることが強み。日本製品を海外向けに購入代行して、発送する事業者・ウェブサイトは多数存在するが、これらは一般的に、日本在住の外国人が日本の小売店で購入したものに手数料を上乗せして販売しているため、当社の販売価格より割高となっている。これが、他のEC事業者と比べた際の優位点となっている。

北海道貿易開発が運営する越境ECサイト「サクラ」(同社提供)
質問:
EC事業の売上高はどれくらいか。1人当たりの購入単価は。
答え:
売り上げは毎月、右肩上がりで伸びているが、当社の売上高全体に占めるEC事業の割合は、全体の10%以下に過ぎない。注文は1人1回当たり、日本円で1万円~1万5,000円程度。オーダーを受けてから、約30センチ四方の小箱に製品を詰めて発送する。発送先を件数別でみると、モスクワ、サンクトペテルブルクなどの人口の多いロシア欧州部が大部分を占める一方、購入金額別では、極東地域の方が1人当たりの購入単価が高い。
ユーラシア経済連合における個人使用目的の国際小包に関するルール(2017年12月28日付ビジネス短信参照)に従い、購入上限額を独自に定めている。現在のルールに従い、1人による1カ月当たりの最大購入金額は500ユーロと、ウェブサイトのトップページに明記しており、これを超える金額分の製品を購入しようとしても、購入ができないようなシステムを構築している。
ロシア以外のCIS諸国やロシア人が居住している第三国からの注文もある。ベラルーシ、ウクライナ、カザフスタン、ジョージアのほか、米国、ドイツ、英国、ラトビア、オーストラリア、中国、イスラエルなどだ。ロシア語で掲載しているので、ロシア語圏や全世界のロシア人を対象のビジネスができる点が魅力だ。
質問:
売れ筋商品は何か。
答え:
売れている製品は、サプリメントや化粧品などの健康関連製品、チョコやガムなどの菓子類、歯ブラシ、歯磨き粉などの衛生用品など。現時点の当社ECサイトの取り扱い品目数は1,500品目。これを今後、まず3,000品目まで、最終的には数万品目まで拡大させたい。
新規取り扱い商品については、メーカーからの提案や当社の免税店に来店するロシア人からの情報、ロシア国内のネット上での商品売れ行き動向などを参考にして決定している。
免税店では、小樽港に寄港する貨物船、RORO船、中型クラスの漁船の船員、船員資格で買い付けに来るビジネスマンに販売している。1隻当たり、大体30人程度のロシア人が乗船しており、ほぼ全員が当店に来店する。
メーカーから、基本的に、免税店での店頭販売とECでの販売の両方の許可をもらっているが、中には、ロシア向けの輸出は不許可で、免税店のみ許可を出すメーカーもある。ロシアにおける販売権に影響される。
質問:
商品発送はどのようにやっているのか。発送から到着までのリードタイムはどれくらいか。
答え:
国際郵便を活用している。購入者は、EMS(国際スピード郵便)だけでなく、SAL便(エコノミー航空便)や国際eパケットなど、任意で郵送手段を選択することが可能。当社(小樽市)からモスクワへのリードタイムはEMSで4~5日程度。一方、ロシアの地方都市では10日間程度を要する。届け先が自宅なのか、郵便局などのピックアップポイントでの引き取りなのかによって、リードタイムは異なる。
国際郵送でのトラブルはほとんどない。ロシア郵便は近年、郵送品質が向上しており、米国やドイツ向けでは発生しやすいトラブル(郵便の不達、郵送中の盗難など)が、ロシアではあまりみられない。当社は、月に数百個、国際郵便で小包を発送しているが、問題が発生したという事例はない。2カ月に1回程度、商品が足りないというクレームが消費者から寄せられるが、当社が梱包(こんぽう)の際に入れ忘れたか、税関検査で抜かれた可能性などが考えられる。
質問:
ECサイト運営はプロモーションがカギとなるが、どのようにやっているのか。
答え:
プロモーションについては、フェイスブック、インスタグラムを用いて、ターゲット層を細かく絞り込んだ上でのSNS広告掲載を、2018年まで月1~2回程度実施していた。現在は、口コミなどのリツイートで、効率的に知人・友人に拡散させている状況。当社ECサイトに、直接アクセスする消費者も多い。グーグルやロシア語検索サイト「ヤンデックス」で検索して、当社ウェブサイトにたどり着くケースが多いようだ。
ロシアの場合、言葉の問題がある。当社は日本の高校、大学を卒業している2人のロシア人スタッフを雇用しており、彼らがSNS広告文面(文書・画像)の作成を担っている。ターゲット層の絞り込み、キーワード、配信日時、対象地域など、細かい設定をロシア人スタッフと議論しながら決めている。
質問:
取引のキーとなる決済はどのようにやっているか。
答え:
決済手段はクレジットカードとペイパルが利用可能だが、ほとんどがクレジットカード払い。
クレジットカードでは、ビザ、マスターカード、アメックス、DCなど、日本で使うことができる決済システムにはほとんど対応している。
決済通貨は円のみとしている。ウェブサイトには、毎日12時の為替レートをもとに、円建て価格に基づくルーブル参考価格を表示している。日本円の価格は基本的に固定。ロシアの消費者が為替レートに基づき、割高、割安を判断して購入していると思われる。
質問:
日本の中小企業がロシア向けに製品販売する際、越境ECの役割は何か。
答え:
日本の中小企業は海外販路開拓したくても、言葉や手続き面の問題が立ちはだかり、簡単にできるものではないと感じている。特にロシアは、一般貿易のハードルが高いと認識している。越境ECは、このような、煩わしいことを省略したい中小企業には追い風となるもの。当社は、こういった中小企業に少しでも貢献できればと考えている。越境ECの場合、郵送できる品目に制限があるが、ロシアへの製品輸出に関心を持っている企業の方は、当社にコンタクトいただければありがたい。
執筆者紹介
海外調査部欧州ロシアCIS課 リサーチ・マネージャー
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸、ジェトロ・モスクワ事務所を経て、2019年2月から現職。編著「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。