特集:拡大するロシアEC市場広大なロシアのEC市場拡大を物流が後押し
作業の効率化、保管環境や配送の質の向上、配送手段の多様化が進む

2020年6月23日

ロシアのEC市場拡大の理由として、物流インフラの整備とサービスの改善が挙げられる。物流はECの要だと一般的に言われる。とりわけ、世界一の面積を誇るロシアでは、その整備が今後のさらなるEC市場発展のカギとなる。本稿では、ECの物流面で重要な役割を果たすフルフィルメントサービスを提供するロシア企業3社へのインタビューを基に、作業の効率化、保管・配送の質の向上、配送手段の多様化の3つのポイントを解説する(インタビュー日:2019年10~11月)。

在庫管理システム活用により効率化が進む

フルフィルメントとは、受注から収集、梱包(こんぽう)、在庫管理、配送に至るまでEC事業に必要な一連の作業。フルフィルメント企業には、自社で配送機能を有するところや、配送を外部に委託するところなどさまざまな形態がある。今回インタビューしたのはマルシュルート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますDSS外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますエクスプレスRMS外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます の3社(表参照)。マルシュルートは大手ECプラットフォームやメーカーから商品を預かり、消費者に届けるB2C業務を中心としたフルフィルメントサービスを提供している。DSSとエクスプレスRMSはメーカーから商品を預かり、在庫状況に応じてECプラットフォームの倉庫に配送するB2B業務を主要事業としている。

表:インタビュー先企業一覧
企業名 本社
所在地
主な取扱商品 取引先 倉庫(2019年11月時点)
Marshroute
(マルシュルート)
モスクワ 日用品、電気製品、衣類、自動車用品、食品(子供用食品、サプリメントなど) プラットフォーム(ワイルドベリーズ、ラモダ、オゾンなど)、メーカー
※いずれもロシア法人のみ
総面積:45,000平方メートル
収集:65,000個/日
注文:20,000件/日
DSS モスクワ 日用品、電気製品、衣類、自動車用品、サプリメントなど(生鮮食品および取扱免許が必要なもの以外) プラットフォーム(ワイルドベリーズ、ラモダ、オゾンなど)、メーカー(グローリアジーンズ、テロリナ、ゼンデン、シャオミなど) 総面積:40,000平方メートル超
注文:最大80,000件可
収容可能:150,000個
Express RMS
(エクスプレスRMS)
モスクワ 衣類、子供用品、ペットフード、コスメ、自動車用品、コーヒー、サプリメントなど プラットフォーム(ワイルドベリーズ、ラモダなど)、メーカー(アエロサス、レオキッド、ネスレロシア、プアル、ルクオイル、ボッシュ) 総面積:3,000平方メートル
配送数:800~1,200件

注:エクスプレスRMSの配送数はフルフィルメントサービスのみ。通常の輸送サービスは2,500件ほど。
出所:各社インタビューおよびウェブサイトからジェトロ作成

消費者からの受注、商品の配送に至るプロセスの迅速化に向け、3社とも在庫管理システムを活用した効率化を図っている。ロシアではまだ収集や梱包は手作業で行われているが、商品の搬入から搬出までの倉庫内の全工程をシステムによって管理することで、作業の自動化や省力化、人手によるミスの防止につなげている。マルシュルートの場合、倉庫内の工程管理はシステムの導入により図のようなフローとなっている。

図:倉庫内作業でのシステム活用フロー
搬入時は荷物のサイズをカメラで計測し、システムに自動登録されることで、最適な収納場所が特定される。受注時、システムが注文された荷物の収納場所を特定し、複数個ある場合は最適な収集ルートを割り出す。収集時、受注内容と作業員のデータを照合し、適当な担当者に振り分ける。梱包時、商品の重量やサイズ、壊れやすさなどに合わせて、最適な梱包方法を指示する。搬出時は、システムに登録された商品の重量と、コンベアが計測する実物の重量が異なる場合に、要確認レーンへと自動運搬される。

出所:各社インタビューからジェトロ作成

一方、前述のとおり、収集や梱包は主に手作業で行われており、ロボットを用いた自動化は進んでいない。人件費が安価なためだ。マルシュルートのオリガ・ベロワ開発ディレクターは「現在のところ、倉庫の完全自動化は検討していない」と述べ、その理由として人件費が安い点に加え、現状で調達可能なロボットでは梱包をはじめとする繊細な作業の実現が難しい点を挙げた。

最適な保管環境と配送の質、返品サービスの改善を追求

物流においては、商品の保管条件の維持も重要だ。商品をより良い品質・状態で購入客まで届けるためには、最適な環境で適切に保管しなければならないが、ロシアの気温は冬にマイナス30度を下回り、夏はプラス30度まで上昇する厳しい気候条件にある。マルシュルートは商品の凍結や結露を防ぐため倉庫全体の温度管理を通年で25~27度に設定しており、食品向けには18度の常温管理室を倉庫内に特別に設けている。食品を取り扱う企業にとっては消費期限の管理も重要だ。在庫管理システムを活用することで、消費期限の近づいた商品を把握し、値引きやメーカーへの返品、廃棄などの対応を迅速に講じている。

配送の質も重要で、年々改善がみられる。各フルフィルメント企業は条件に合う複数の輸送会社と提携し、顧客の都合に合わせて発送手配している。昨今ではロシア郵便によるサービス品質の改善が著しい。日本製品の販売を行うECサイト「ことり」(ウラジオストク)によると、「これまでロシア郵便の配達サービスの質や処理速度は他の輸送会社より劣っていたが、近年は向上している」という。

衣類・靴などサイズが決まっている製品では、自分の体と大きさが合わなかった時に返品がしやすいかどうかも、ECで購入する際の判断基準の1つとなる。このため、輸送会社とフルフィルメント企業は返品サービスの改善に取り組んでいる。ロシア郵便による配送を手配しているDSSによると、ロシア郵便は荷物の到着後15日以内であれば、無料で返品が可能となるサービスを提供している(注)。エクスプレスRMSは全ての荷物に返品可能な条件や免責事項を記した用紙を合わせて梱包し購入者に通知することで、返品にかかるトラブルが発生しないよう対策を講じている。

購入者の都合に合わせた受け取りサービスが発達

商品の受け取り方法も、消費者の都合や状況に応じて多様化しつつある。外出していて再配達手配が必要となったり、日中は不在にしているため自宅で商品を受け取るのが難しかったりする人もいるだろう。こういった不都合の解消に向け、各フルフィルメント企業は配送手段を多様化し、購入者の都合に合わせた受け取り方法を選択できるよう工夫している。具体的には、ロシア郵便、CDEK、DPD、EMS、ノービー・パルトニョールなど複数の提携先輸送会社の中から、配送スピードや価格など顧客や消費者の要望に基づき、フルフィルメント企業が配送手段を選択し手配している。例えば、地方への配送の場合、広大な国土の全てをカバーするネットワークを有するロシア郵便が最適だが、モスクワ市内の配送では、エクスポストなどの小規模ながら機動力のある会社の方が使い勝手がよいといった具合だ。

また、ピックアップポイント(宅配ボックス)を利用した受け取りの需要が高まっている。大手ECプラットフォームサイトを運営し独自の配送手段を持つオゾンや輸送会社のボックスベリーは、荷物を預け入れるロッカーをショッピングセンターやオフィスビルに設置している。注文した衣類を受け取ってすぐに試着、サイズが合わなければその場で返品可能な試着室付きのピックアップポイントも存在する。


デパートに設置されたピックアップポイント(ジェトロ撮影)

ロシアへの輸入手続き代行サービス事業者も出現

日本企業がロシア向けECに取り組む場合、国際輸送に伴う輸入・通関手続きの代行や保管・配送が問題となる。このようなニーズに応えるサービスプロバイダーの1社がエクスプレスRMSだ。ロシア法人を持たない海外メーカーや卸売業者の製品を小ロットで輸入し、プラットフォームサイトへ出店する。通関手続きをサポートすることも可能だ。コンスタンチン・ヤクーニン最高経営責任者(CEO)は「日本企業がテストマーケティングとしてロシアのプラットフォームサイトに出品する際の手伝いが可能だ。顧客の需要に合わせた柔軟な対応ができるのがわれわれの強みだ」と述べ、日本企業との協業に意欲を示した。エクスプレスRMSのように輸入代行や保管・配送作業を担う事業者を活用した現地ECプラットフォームへの出店は、初めてロシア向けECを取り組む上での選択肢の1つとなろう。


注:
越境ECについては、中国の「アリーエクスプレス」で注文した商品に限る。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
加峯 あゆみ(かぶ あゆみ)
2018年4月、ジェトロ入構。同月より現職。