多言語対応の海外からの購入代行サービスで急成長
ロシアCIS地域向け越境EC事業者インタビュー(1)

2019年12月26日

近年、日本では、国内にいながら簡便に海外販路開拓できる方法として、越境電子商取引(EC)が注目されている。越境ECには、購入代行、マーケットプレイス型モール運営、自社でのECサイト運営などがあるが、これら全てに携わる会社がある。大阪の中心地に本社を構えるゼンマーケット株式会社外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますだ。同社へのインタビューを前編・後編の2回に分けて報告する。前編は企業概要や売れ筋商品、物流、支払い、リスク管理などについて、同社の代表取締役アンドリイ・ナウモヴ氏とゼンプラス事業部営業担当の北川将一氏に越境EC事業について聞いた(11月7日)。

質問:
企業概要や主要事業について。
答え:
当社は2014年4月設立で、創業6年目の企業。資本金は2,000万円。本社は大阪市西区で、大阪府内の吹田市と門真市の2カ所に倉庫を有する。主要事業は、購入代行(ゼンマーケット事業)、マーケットプレイス型ECモールの運営(ゼンプラス事業)、定期発送型のギフトサービス(ゼンポップ)の3つだ。詳細は表のとおり。取り扱い製品は全て日本製で、取引形態はB2Cである。
表:ゼンマーケット株式会社の事業概要
事業名称 内容 概要
ゼンマーケット 購入代行 楽天、ヤフーショッピング、ヤフオク!などのサイトに掲載されている製品を、同社ウェブサイト(ゼンマーケット)を通じて購入するもの。購入者はゼンマーケットを通じて、海外に発送することが可能。手数料は商品1点当たり300円。
ゼンプラス マーケットプレイス型ECモール 出品者が直接、同社マーケットプレイス(ゼンプラス)に商品を掲載。購入者から注文が入り次第、同社が代理で出品者に発注。発注確定後、出品者が同社倉庫に商品を送付し、最終的に同社が購入者に発送を行う。手数料は出品者の売上金額の10%。出品登録費用や月間費用は徴収しない。
ゼンポップ 定期発送サービス 文房具、カップ麺、菓子、それらを混載した4種類のパッケージを半年にわたり、毎月発送するサービス。契約者にとっては、毎月何が届くか分からない福袋形式。同社が問屋から仕入れ・選定の上、毎月送付。金額は送料込みで30ドル程度 。

出所:ゼンマーケット株式会社ウェブサイト、ヒアリング結果からジェトロ作成


代表取締役のアンドリイ・ナウモヴ氏(左)とゼンプラス事業部営業担当の北川将一氏
(ゼンマーケット提供)
質問:
売上高と傾向はどうか。
答え:
2018年度の売上高は31億円。2017年度は22億円で、近年、急激に拡大している。直近の月間売上高は3億円、発送個数は約1万2,000個だ。登録ユーザー数は2019年9月時点で54万7,835人。2020年の同時期には100万ユーザーに達する見込み。
主たるユーザーは、海外在住の外国人。海外で生活している日本人も、わずかながら含まれる。販売上位国・地域は米国、ロシアが最も多く、それぞれ20%、19%を占める。それに次いで、ウクライナ(5%)、フランス(5%)、英国(5%)などが続く。中国は多くない。
ゼンプラス事業の出品者数は525社、商品点数は54万8,000点。ほとんどが、中小企業の製品で、楽天に出品している企業が多い。最も規模の大きい出品者はタワーレコード。なお、海外に発送できない品目は、ゼンプラスには掲載していない。
質問:
売れ筋商品やマーケティング方法について。
答え:
売れ筋製品は釣り具、電化製品、衣類などだが、国によって売れる商品、売れない商品は異なる。ロシアとウクライナ向けでは、圧倒的に釣り具が多い。特に、湖・河川向けのルアー、手巻きリールだ。また、日本の化粧品は世界のどの国・地域でも人気で、スキンケア製品や、ボディーソープ、シャンプーなどのヘアケア製品などは1,000円程度のものが試し買いされている。そのほか、アニメ関係製品や、せんべい、チョコレート、レトルト食品、クッキーなどの食品も人気。ロシア向けでは、1回当たりの平均購入金額は3万3,000円。
マーケティング・PR方法については、ターゲットを選定し、PPC(クリック課金型広告)やSNS(インスタグラム、フェイスブック、ツイッターなど)を出している。釣り具であれば50代の男性をターゲットに、アニメ関係製品であれば10~25歳の男性といった形だ。化粧品は幅広い年齢層の女性の方にPRしている。
当社のマーケティング担当者は、効率的なセグメンテーション方法を熟知しており、広告を出す国、言語、場所、アプローチを自身で決めている。
質問:
他社の越境EC事業者との差別化ポイントや御社の強みは何か。
答え:
当社の強みは3点挙げられる。まず、消費者が個別にECサイトで購入し、海外に発送するよりも、安価な送料で送付できること、次に、送付方法、通関手続き、梱包(こんぽう)、インボイスの記載方法、貨物保険・補償内容に通じており、購入者に手間がかからない体制を構築していること、3つ目は出品者にとっては国内処理で取引が完了し、カード詐欺など外国の購入者との取引に伴うリスクも発生しないことだ。
送料面のメリットについては、当社は国際貨物輸送大手サービスの関西地方における顧客の中で、月間の送付量が上位10位に含まれるほど多く、同社から送料面での融通・便宜を受けている 。消費者が単独でさまざまな企業ウェブサイトから購入するよりも、当社のウェブサイトを経由して購入した方が、当社倉庫での商品の同梱が可能なため安価である。
購入者に手間がかからないという点については、中国のアリババ、米国のイーベイなどを活用した場合、インボイスを自分で作成する必要があり、かつ、送付に伴うリスクを自分で負うことになるが、当社を通じて購入すればそういった作業は全て当社が担う。越境ECで出品者が抱えるリスクのほとんどがカード詐欺だが、当社を通じることで、出品者は安心して資金回収をすることができる。
大阪府の箕面商工会議所のウェブサイトでも、当社を紹介いただいている。他の越境ECモールでは、出品料、手数料などが高額となるが、当社はこれらのコストを出品者に要求しないこともあり、商工会議所としても会員企業に活用してほしいと考えているようだ。
質問:
越境ECの核となる物流・配送はどのように整備しているのか。
答え:
国際郵便はEMS、航空便(AVIA)、SAL便、クーリエ(国際宅配便)はFedEx、UPS、DHL、SFエクスプレスの利用が可能。送付できる製品は航空便で輸送可能なもので、ライターや爆発物などの危険品目やライセンスが必要なものは発送できない。リチウムイオン電池は条件次第で、UPSなど輸送会社のルールに従っている。
他社のショップサイトに掲載されている製品を、当社ウェブサイトを通じて消費者が購入する場合、発送ができない製品については注意・警告メッセ―ジが表示されるようフィルターをかけている。発送不可の商品の注文が入った場合、お客様に確認いただき、注文をキャンセルする形となる。当社では国際航空運送協会(IATA)の危険物取扱資格(DGR)認定者が輸送に関する業務を担っており、発送できるか分からない状態で、発送手続きを取ることはない。仮にその担当者が見落としても、輸送会社がチェックしており、発送できないものは止まる形となる。
当社が商品発送後、DHLや日本郵便から連絡がくることもあり、例えば、ワシントン条約によって取引が禁止されているローズウッドが用いられている製品のため、発送ができないといったことや、電気製品ではリチウムイオン電池の有無などの連絡・照会が寄せられることもある。このため、はじめから「素材にローズウッドを含まない」「リチウムイオン電池が機械の中に入っている」など、素材や危険品の有無など、送り状にはできる限り詳細に書いておくことが重要。
通関で止められた事例はほとんどないが、留め置かれる可能性は購入者に伝えている。これまで、そのような事案が発生したときは、大体、ルール変更に伴うもので、例えば、リチウム電池の許容発送個数が2個だったものが1個に減らされた際などであった。輸送に伴うトラブルはたまに発生し、荷物が開封され、商品が紛失した事案もあった。これに備え、当社では全ての小包に保険を付保している。
国・地域によってルールはさまざまであり、頻繁に変更も行われるため、その都度、ルールを確認し、顧客に知らせるなど対応している。当社には5年のノウハウがあり、加えて、海外の発送会社と付き合いがあるため、幅広い情報を入手できている。
関税や税金の支払いについては、仕向国での通関の際に関税支払いが発生する場合、購入者が負担する。オーストラリア向けは全て小包に課税されるため、発送者から事前に関税を徴収する必要がある。当社が関税を預かり、期日までにオーストラリアの当局に納付している。送り状には、関税は徴収済みであることと購入者の納税番号を記載している。
ロシアでは、これまで個人輸入の免税範囲が1カ月当たり500ユーロだったものが、1回当たり200ユーロ以下に変わる。ルール変更の際には、当社のブログなどに情報を掲載するほか、メールを用いて顧客への周知徹底を行っている。
個人輸入のため、現地側の認証取得などのルールが課されることはない。一方、出品者が外国に代理店を持っている場合には、販売権の関係で、発送できない国がある。そういった取り決めのある出品者のために、当社のウェブサイトでは販売除外国・地域の設定が可能。
質問:
倉庫でのオペレーションについて。
答え:
倉庫は小規模であるが、自動化している。倉庫に商品が到着したら、各商品に番号を振り、梱包を開け、当社独自のバーコードを貼りつけて棚に登録する。配置場所はデータベースで確認する。発送指示があり次第、担当が同梱する製品を全てピッキングし、梱包の上、発送する。各作業ではバーコードによる工程管理を行っており、梱包、インボイス発行は自動化している。倉庫内の室温管理はしているが、冷凍、冷蔵設備はない。
倉庫には担当マネージャー、サブマネージャーがおり、ミスが生じないように気を付けている。たとえ、オペレーターが間違ったとしても、多くはマネージャーのチェックにより誤りを発見する。過去にピッキングミスが発生した事案としては、ユーザーが2個購入した製品を、受け取り時点で1個として登録してしまったというケースがあった。ミスは完全にゼロにすることはできないが、新しいミスが発生した際には、繰り返さないよう対策を講じている。
質問:
支払い方法について。
答え:
まず、購入者にクレジットカード、ペイパル、ユニオンペイ、アリペイなどを通じて一定額をチャージしてもらう。残額は購入者のクレジットカードに返金が可能。
価格は円建て価格を、当社社内で設定している外国為替レートで現地通貨価格に換算して表示する。対応可能な通貨は17種類。購入者が日本円のままで支払うか、現地通貨で支払うか。当社レート、購入者が活用しているレートの2種類があり、購入者は使い分けることが可能。一般的には、当社が提示するレートの方が有利なことが多い。
質問:
事業運営する上でのリスクは何か。
答え:
最大のリスクは、カード詐欺だ。盗まれたカードで購入された場合、当社にチャージバック(カード保有者を保護するためにクレジットカード会社が事業者の売り上げを取り消すこと)が発生するためだ。詐欺対策のため、当社ではリスクマネージャーを雇用したり、カード会社とも連携したりしている。
加えて、当社独自の自動的検知システムを導入している。例えば、同一の顧客がさまざまなクレジットカードを何枚も使用する場合や、商品説明を十分に読まずに高額な製品を購入する行動がみられる場合、日本のECサイトからの購入よりも、現地で買った方が安価な製品を購入があった場合などに、フラグが立つようにしている。また、ペイパルやストライプ、クレジット会社から入手した情報を活用し、さらに上述の検知方法を組み合わせたリスク管理システムを、購入者全員が通過することになっている。※後編に続く。

ロシアCIS地域向け越境EC事業者インタビュー

  1. 多言語対応の海外からの購入代行サービスで急成長
  2. ウクライナ人とロシア人留学生が起業、16カ国・地域出身の従業員が勤務
執筆者紹介
海外調査部欧州ロシアCIS課 リサーチ・マネージャー
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸、ジェトロ・モスクワ事務所を経て、2019年2月から現職。編著「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。