特集:拡大するロシアEC市場日本製品販売店でもECの利用広がる(ロシア)
SNSによる販促や大手プラットフォームへの出店で売り上げ向上へ

2020年6月23日

ロシアにおける日本製の食品・日用品販売は従来、店舗での販売が中心だったが、近年、ECサイトでの販売にも取り組む企業が一般的になりつつある。ジェトロはロシアで日本製品を取り扱う3社に電子商取引(EC)への取り組み状況や売れ筋商品、販促方法、物流、決済方法などに関するインタビューを行った(インタビュー時期は、2019年10~11月)。ECによる日本製品購入者の地方部への広がりや配送手段の多様化、大手ECプラットフォームへの出店といった新しい動きがみられている。

利用客は店舗既存顧客が中心、地方からの発注も

今回インタビューしたのは、ことり外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (ウラジオストク)、ニッポン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (モスクワ)、レッドドラゴン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (サンクトペテルブルク)の3社。いずれも日本産の食品、日用品、衛生用品をECで販売している。

表:インタビュー先企業一覧
企業名 本社所在地 主な取扱商品 店舗数
ことり(KOTORI) ウラジオストク 食品(菓子、コーヒー、紅茶)、日用品(洗剤、トイレットペーパー)、サプリメント、目薬、子供用品(おむつ) 計9店(モスクワ2、ウラジオストク5、チタ2)
ニッポン(Nippon) モスクワ 食品(菓子、茶、しょうゆ)、日用品(ヘアケア用品、台所用品)、サプリメント 計8店(モスクワ5、サンクトペテルブルク2、タタルスタン共和国1)
レッドドラゴン(Red dragon) サンクトペテルブルク 食品(生鮮食品、菓子、ソース類)、日用品(ヘアケア用品、歯磨き粉、洗剤)、コスメ(基礎化粧品) 計7店(サンクトペテルブルク6、セバストポリ1)

注1:ニッポンのタタルスタン共和国店、レッドドラゴンのセバストポリ店は、フランチャイズ店舗。
注2:レッドドラゴンの生鮮食品の配達は、サンクトペテルブルク市とレニングラード州内に限られる。
出所:各社ウェブサイトとヒアリングからジェトロ作成

各社ともに、ECサイトの利用者は一度来店して自分の目で商品を見てから購入する来店経験のある顧客が一般的だ。日本製品になじみがなく、実際に手に取ってどのような商品か確かめたいためだ。また、同じ商品を繰り返し購入する者も多い。このような背景もあり、売り上げ割合は店舗が7~8割でECは2~3割にとどまっている。しかしECの売り上げは、増加傾向にある。

ECサイト利用者を地域別にみると、各企業所在地のモスクワ、サンクトペテルブルク、ウラジオストクがメインだ。しかし、それ以外の100万都市からも注文が入る。ニッポンは店舗を構える3地域(モスクワ、サンクトペテルブルク、タタルスタン共和国)のほか、ノボシビルスク、エカテリンブルク、チェリャビンスクなどからの注文もあり、少なくとも月50件は地方に向けて発送しているという。レッドドラゴンは注文1回当たりの最低購買価格を300ルーブル(約420円、1ルーブル=約1.4円)に設定しているが、地方からの注文は1回当たり1,500~2,000ルーブルに上る。地方発送の場合、配送費がかさむのを防ぐために、注文回数を少なくし1回当たりの注文量を多くする傾向がある。

売れ筋商品は各社さまざまだが、実店舗とオンラインでの違いはない。ことりは「洗剤や歯磨き粉の売れ行きが良い」とし、レッドドラゴンは「学生にはアイスや飲料、中年以上の方はソース類、女性にはコスメが人気」といった特徴を挙げている。


ことりのECサイト(ジェトロ撮影)

SNSを活用した販促が効果的

ECで最も重要なことの1つが販売促進で、インスタグラムをはじめとするSNSの活用が効果的だ。レッドドラゴンは、「開店当初はチラシ配布に取り組んでいたが、インスタグラムやフコンタクチェによる販促の方が反響は大きかった」「SNS経由のサイト訪問者数は、年々増加傾向にある」と指摘する。加えて、同社はメールマガジンで、セールの案内などを希望者に週1回配信しているという。

宅配はロシア郵便、受け取り方法は多様化

ECの要である物流について、B2Cの宅配ではロシア郵便の利用が多い。ピックアップポイントや店舗向け配送など、受け取り方法の多様化が進む。3社とも本社を構える都市の住人からの注文が多く、市内向けは自社トラックで配送している。他地域向けの場合は、消費者の要望に応じて輸送手段を決めているが、ロシア郵便の利用が最も多いという。ことりは「ロシア郵便の配達サービスの質や早さは、以前は他の輸送会社に劣っていた。しかし、近年は改善され問題ない」と話す。ロシア郵便以外では、CDEK、ポニーエクスプレス、DHLといった物流・配送業者が利用されている。

宅配時間に在宅できない、あるいは自宅待機するのが煩わしいという客も、一定数いる。このため、ボックスベリーをはじめとするピックアップポイントサービスも利用されている。また、店舗での受け取りを希望する客も多く、レッドドラゴンはオンライン上の発注数(1日当たり約60件)のうち、宅配と店舗受け取りが半々という。

宅配リードタイムは、自社での配送(市内・地域内)の場合、当日または翌日以内。外部の物流・配達会社を利用の場合、モスクワからサンクトペテルブルクに向けてであれば最大で2日程度で済む。一方、モスクワから沿海地方、サンクトペテルブルクから南連邦管区、それぞれに向けた場合は1週間程度を要する。

返品は一般的に少ない。日本製品が高品質なためだが、倉庫内での集荷作業や配送業者のミスにより返品が発生することがまれにある。レッドドラゴンは倉庫管理のシステムを3、4年前に導入した。ロシアで普及している統合基幹ソフト「1C外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を用いて、商品番号や棚番号などをシステム上に登録することで、作業員が簡単に集荷・梱包(こんぽう)すべき荷物を把握できる態勢を構築している。レッドドラゴンでは、以前生じていた集荷・梱包の際の荷物の入れ違いなどの問題が、システム導入によって解消した。また、1CにはVMS(映像監視ソフトウエア)も搭載されている。スマホからアプリで倉庫内の映像を常に閲覧でき、安心感が得られるという。


レッドドラゴンのエレナ・ジュラフレワ社長(右)、
ドミトリー・ジュラフレフ・ゼネラルディレクター(ジェトロ撮影)

現金とカードの利用は半々

ECでキーとなる決済手段については、3社ともにクレジットカードと現金の2種類を提供している。利用の割合は、それぞれおよそ半数だ。ことりはウラジオストク市内からの注文のうち現金払いに限って、前払いだけでなく着払い、後払い(銀行や郵便局への振り込み)も認める柔軟性を持たせている。

ニッポンはカード支払いのシステムとして「ロボカッサ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を利用している。「ロボカッサ」はオンライン上でクレジットカードやアップルペイなどの電子マネーによる決済を可能にするシステム。購買客と販売店の間に立って決済を行うため、販売店の手間が省けるのが特徴だ。

大手ECプラットフォームへの出店を目指す

今後の事業展開について、ニッポンとレッドドラゴンは日本の楽天やアマゾンのような大手ECプラットフォームへの出店を目指している。ニッポンはベルーやオゾン、ワイルドベリーズなどへの出店の検討を進める。ワイルドベリーズとは2018年に契約を結んでおり、試験的に3品目を出品した。まだ取り組み始めたばかりの手探りの状況で、どのような手続きが必要か、どれくらいの手間がかかるか、といった情報を収集しているところだ。


ニッポンのフョードル・ニコラエビッチ卸売担当部長(左)、
ダリヤ・セルゲエワ小売担当部長(ジェトロ撮影)

出店に向けた課題となっているのが人材不足だ。商品写真の撮影や価格設定、商品説明(サイズ、重量など)の作成、出品時の提出書類としての証明書準備(品質保証書、適合証明書など)と業務が多岐にわたるため、追加で7、8人の専門スタッフを雇用する必要がある。特に、価格設定は通常価格だけでなく、ECサイトが実施するセールごとに割引価格を設定する必要がある。セール期間に割引設定するとサイトのトップページに掲載されるため販促効果が大きいという。

また、大手ECプラットフォームに出店する場合、日本のメーカーに後払いを認めてもらう必要がある点も課題だ。大手ECプラットフォームでは購入者の支払い方法にクレジットカードや着払いがあるが、ニッポンで一時的に負担するのは現実的でないという。

ニッポンのセルゲエワ氏は、今後の大手ECプラットフォームへの出店について、「従業員の新規雇用など検討すべき点は多いが、今後の事業拡大に向けてECはカギとなる。小売店舗に重点を置きながらも、自社ネット販売の維持、大手ECプラットフォームへの出店も引き続き検討していきたい」と述べた。

レッドドラゴンも今後は大手ECプラットフォームへの出店やインターネットサイトのアプリ開発に取り組んでいきたいという。

インタビューを通じて、ロシアの日本製品販売店では既存の店舗利用客を中心にECサイトの利用が一般的になりつつある様子が明らかになった。ロシア郵便の配送の質が改善し、配送手段も充実してきたほか、大手ECプラットフォームへの出店を検討する企業もある。今後は、日本の製品にはなじみがなくECでは買いにくいという弱点を補うために、インスタグラムなどのSNSを活用したより一層の販促活動が必要となるだろう。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
加峯 あゆみ(かぶ あゆみ)
2018年4月、ジェトロ入構。同月より現職。