特集:高い不確実性の中での日本企業の海外ビジネス足踏みが続く日本企業の海外進出意欲

2020年4月3日

日本企業の海外進出の拡大意欲はここ数年、足踏みが続く。一方で、輸出に対しては積極姿勢を示す企業は約8割と高水準を維持。これが、ジェトロが毎年、実施している日本企業に対する調査から明らかになった企業の姿だ。海外市場に対するアプローチへの意識の違いについて、企業の声を聞いてみたい。

拡大意欲は6割近傍を推移するも、動きは鈍い

ジェトロが毎年、実施している「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」では、海外進出に関する今後3年程度の中期的な方針を尋ねている。2019年度の調査(注1)では、「海外進出の拡大を図る」(注2)と回答した企業の比率は56.4%、前年(57.1%)とほぼ同様に6割近くの水準を維持したものの動きは鈍く、足踏み状態が続くという結果となった(図1参照)。それぞれの進出方針の選択理由について、前年度と同様に今回も各社に尋ねている。今後の海外進出方針に向けた企業の姿勢に、変化はみられるのだろうか(注3)。

図1:今後(2019年度も含む3カ年程度)の海外進出方針
2011年度から2019年度までの日本企業の今後(3年程度)の海外進出方針をパーセントで示す。選択肢は以下の6つに分かれる。さらに拡大を図る、新たに進出したい、現状を維持する、縮小・撤退が必要と考えている、今後とも海外への事業展開は行わない、その他。 さらに拡大を図る、新たに進出したい、の2つの選択肢は2013年度以降のみ。 さらに拡大を図ると、新たに進出したい、の合算値を海外進出の拡大を図るとする。なお選択肢がない2011年度、2012年度は、新規投資または海外の既存事業の拡充とする。   海外進出の拡大を図る、2011年度63.3%、2012年度68.3%、2013年度58.3%、2014年度60.5%、2015年度61.2%、2016年度61.4%、2017年度57.1%、2018年度57.1%、2019年度56.4%。   さらに拡大を図る、2013年度36.6%、2014年度36.8%、2015年度35.9%、2016年度36.1%、2017年度31.2%、2018年度32.9%、2019年度30.9%。   新たに進出したい、2013年度21.7%、2014年度23.6%、2015年度25.3%、2016年度25.2%、2017年度25.9%、2018年度24.2%、2019年度24.2%。   現状を維持する、2011年度21.9%、2012年度16.3%、2013年度15.5%、2014年度17.0%、2015年度14.7%、2016年度15.3%、2017年度16.1%、2018年度13.7%、2019年度12.8%。   縮小、撤退が必要と考えている、2011年度1.3%、2012年度0.8%、2013年度1.0%、2014年度1.2%、2015年度0.8%、2016年度0.7%、2017年度1.0%、2018年度0.9%、2019年度0.8%。   今後とも海外への事業展開は行わない、2011年度9.7%、2012年度11.1%、2013年度18.7%、2014年度15.7%、2015年度16.2%、2016年度17.4%、2017年度21.0%、2018年度23.2%、2019年度22.2%。   その他、2011年度3.8%、2012年度3.6%、2013年度6.5%、2014年度5.7%、2015年度7.1%、2016年度5.2%、2017年度4.8%、2018年度5.1%、2019年度7.8%。

注1:nは「無回答」を除く企業数。
注2:2011年度、2012年度の「海外進出の拡大を図る」は「新規投資または海外の既存事業の拡充」と回答した企業の比率。
注3:太枠内の数値は「海外進出の拡大を図る」企業の比率。
出所:2019年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

既存の海外拠点の基盤固めに重点が移る企業も

約6割の企業が今後の海外進出に対して積極的な意欲を示すということは、見方を変えれば約4割の企業は海外進出に対して明確な拡大方針を示していないということである。こうした企業はなぜ、拡大にかじを切らないのか。まず、海外進出の拡大意欲が足踏みする背景を、こうした企業の声から探ってみたい。

海外進出に対して拡大方針を示さない4割の企業のうち、1割強は「現在、海外に拠点を持っており、現状を維持する」としており、既に海外拠点を持っている。これらの企業から多く聞かれたのは、「主要な場所は既に進出済み」(電気機械)、「すでに拠点があり、この拠点をもとに販路を拡大したい」(小売り)、「各地域への布石はほぼ打てた。今後は確実に収益をあげ、人材を含めたアセットを積み上げていけるよう、体制強化に力点を置く」(化学)というコメントである。海外拠点の設立や拡充については一段落を迎え、既存拠点の基盤強化に重点を置くなど、グローバル戦略が次の段階に移った企業も多いようだ。

また、「現地の景気の上昇傾向がつかみきれず現状維持」(電気機械)、「拠点はあるが、現地情勢が不安定なため現状維持」(運輸)と、現地のビジネス環境が見通せないため、海外事業は現状維持にとどめるとする企業もあった。こうしたビジネス環境の先行き不透明さは、企業の海外進出方針の決定先送りにもつながっている。今回の調査では7.8%と、1割弱の企業が海外進出方針について「その他」と回答、比率は前回(5.1%)から上昇した。回答企業からは、「確実な見通しがたたない」(金属製品)、「(海外進出は)全く無しということではないが、先が見えず進むことができない」(小売り)など、現状では中期的な方針を決めかねるとの声も散見され、明確な方針を打ち出せない企業の様子がうかがえる。

海外進出はせずとも輸出拡大には積極姿勢

残りの約2割は「現在、海外に拠点はなく、今後とも海外での事業展開は考えていない」として、いまのところ海外進出は念頭においてないと回答した企業だ。これらの企業からは、「海外に拠点を置く余裕がない」(電子部品・デバイス)というコメントにあるように、人材や資金、海外進出のノウハウなど、様々な経営資源の不足を指摘する声が最も多く聞かれた。特に人材については、従来から中小企業を中心に海外拠点の運営を担う人材の確保が困難との声が多く、海外進出に対するボトルネックである状況が解消されていない。

また、「海外拠点を持つより、現在の製造、販売体制で行う方が、コストがかからない」(飲食料品)、「現状の精度管理を海外で維持するのが困難であり、コストに見合わない」(金属製品)など、海外進出に対するコスト意識も強くなっている。中には「以前は拠点があったが、費用対効果を考えて既に撤退。世界情勢が目まぐるしく変化する中、拠点を構えると活動地域が狭まり、俯瞰(ふかん)的な見方ができなくなる」(木材・木製品)と、費用対効果を考慮した結果、企業戦略として海外進出という手法を取らないとする企業もあった。

このように、海外進出には数々のハードルはあるが、だからといって海外市場を考慮していないわけではない。企業からは、日本からの輸出で対応したいとするコメントも多く、自社による直接輸出のみならず、商社や現地代理店など様々な手段を通じて製品やサービスを届けたいとしている。越境電子商取引(EC)の広がりなどもより海外市場へのアクセスを容易にしており、海外のマーケットを意識する企業が増加しているようだ。

その一端がうかがえるのが、今後の輸出方針に対する企業の姿勢である。今後3年程度の輸出方針について、「輸出の拡大を図る」と回答した企業は80.4%で、ここ数年はコンスタントに8割の企業が輸出拡大に意欲を示している(注4)。企業の海外進出方針別に、輸出拡大意欲を持つ企業の比率をみると、海外進出は現状を維持と回答した企業では66.9%、海外への事業展開はしないと回答した企業についても62.7%の企業が、輸出については拡大方針を持っており、企業にとって海外市場は重要なターゲットである状況が読み取れる(図2参照)。

図2:海外進出方針捌にみる輸出拡大企業の比率
海外進出方針別に、「輸出の拡大を図る」と回答した企業の割合をパーセントで示す。 なお「輸出の拡大を図る」の回答比率は、「さらに拡大を図る」の回答比率、「新たに取り組む」の回答比率の合計。   今後の輸出方針(全体)、輸出の拡大を図る80.4%、うち、さらに拡大を図る71.1%、新たに取り組みたい9.3%。   以下、5つの海外進出方針別に示す。 1.さらに拡大を図る企業のうち、輸出の拡大を図る87.8%、うち、さらに拡大を図る82.9%、新たに取り組みたい4.9%。 2.新たに進出したい企業のうち、輸出の拡大を図る94.0%、うち、さらに拡大を図る76.3%、新たに取り組みたい17.7%。 3.現状を維持する企業のうち、輸出の拡大を図る66.9%、うち、さらに拡大を図る63.2%、新たに取り組みたい3.7%。 4.縮小、撤退が必要と考えている企業のうち、輸出の拡大を図る47.6%、うち、さらに拡大を図る47.6%、新たに取り組みたい0.0%。 5.今後とも海外への事業展開は行わない企業のうち、輸出の拡大を図る62.7%、うち、さらに拡大を図る53.7%、新たに取り組みたい9.0%。

注1:nは今後の海外進出方針の各選択肢を回答した企業のうち、今後の輸出方針について、「輸出を行う業種ではない」、「無回答」を除いた企業数。
注2:太字は「輸出の拡大を図る」と回答した企業の比率(さらに拡大を図る」、「新たに取り組みたい」と回答した企業の合計)。
出所:2019年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

今後の事業拡大先として中国が後退、ベトナムが迫る

それでは、約6割を占める、海外進出の拡大を図ると回答した企業の声はどのようなものなのか。最も多く寄せられたのは、海外市場への高い成長性への期待と合わせ、国内需要の先細りに対する懸念のコメントである。前年度もこうした声は多かったが、今回は、国内市場の先行きに言及するコメントがさらに増えた感がある。「現在は国内市場が主流ながら、今後を考えれば海外は必要」(金属製品)と、国内市場がメインの企業においても、今後の成長のためには海外市場の取り込みが不可欠という認識が広がっている。また、「海外市場向けに特化したものづくりの体制をつくる」(医療品・化粧品)、「拠点設立によりニーズにすばやく対応、新たな顧客獲得を期待」(飲食料品)、「可能な限り、現地対応できることが最良の策」(化学)など、海外需要に対する距離を縮めることでビジネスのスピードアップを図り、臨機応変に対応したいとするコメントも目立ち、海外需要を確実に取り込みたいという熱意がより強くなっているようだ。

こうした企業が狙う先は、やはり市場の成長性に注目が集まる地域、特にアジア諸国が中心だ。現在、海外に拠点があり、今後さらに海外進出の拡大を図ると回答した企業(1,028社)に対し、今後、事業拡大を図る国・地域について尋ねたところ、最も回答率が高かったのは中国、次いでベトナム、タイとなった(表参照)。中国は比較可能な2011年度以降、常にトップの座を維持し、ベトナム、タイも上位の常連だ。

表:海外のどの国・地域で事業拡大を図ろうとするのか (上位10カ国・地域)(複数回答)(単位:%)
国・地域名 2019年度(n=1,028) 2018年度(n=1,050) 2017年度(n=938) 2016年度(n=992) 2015年度(n=895)
比率 順位 比率 順位 比率 順位 比率 順位 比率 順位
中国 48.1 (1) 55.4 (1) 49.4 (1) 52.3 (1) 53.7 (1)
ベトナム 41.0 (2) 35.5 (2) 37.5 (2) 34.1 (3) 32.4 (4)
タイ 36.3 (3) 34.8 (3) 36.7 (3) 38.6 (2) 41.7 (2)
米国 31.6 (4) 32.3 (4) 29.0 (4) 33.5 (4) 33.7 (3)
インドネシア 23.6 (5) 23.4 (5) 24.8 (5) 26.8 (5) 31.8 (5)
西欧 23.3 (6) 21.9 (6) 21.5 (6) 19.7 (7) 20.6 (7)
インド 20.2 (7) 20.9 (8) 18.2 (8) 18.5 (8) 20.1 (8)
台湾 19.6 (8) 21.3 (7) 20.0 (7) 20.6 (6) 21.6 (6)
シンガポール 17.0 (9) 15.0 (9) 17.1 (9) 17.7 (9) 16.1 (10)
マレーシア 14.2 (10) 14.2 (10) 14.0 (10) 14.7 (11) 15.5 (11)
ASEAN6 71.1 67.3 69.2 70.5 73.2

注1:nは「現在、海外に拠点があり、今後さらに拡大を図る」企業のうち、拡大する機能について無回答の企業を除いた数。
注2:ASEAN6は、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナムのいずれかを選択した企業。2017年度以降の西欧は、英国、西欧(英国以外)のいずれかを選択した企業。
注3:各国・地域で1つ以上の機能を拡大する企業数の比率。1つの国・地域で複数の機能を拡大する場合でも、1社としてカウント。
出所: 2019年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

ここ3年はトップ3に変動はないものの、首位の中国とベトナムでは回答比率に変化が生じている。今回の調査で中国を挙げた企業の比率は48.1%と前回(55.4%)から大幅に後退、2年ぶりに5割を割り込んだ。代わって躍進したのはベトナムだ。ベトナムを挙げた企業の比率は41.0%と初めて4割を超え、中国との差が前年度の19.9%ポイントから7.1%ポイントと、その差が大きく縮まった。事業拡大先としてベトナムを選択した企業からは、「ベトナムは今後の発展が見込める」(運輸)、「現在、ベトナム拠点が成長しており、開発や営業などの機能を強化しアジアでのシェア、売り上げ拡大を図る」(電気機械)など、今後の成長性という観点からベトナムを推す声が多く聞かれた。また、「国内の理系人材の採用が困難なため、ベトナムで設計人員の増員を図る」(一般機械)、「現在、ベトナムで現地の大学と共同で人材育成を実施。今後は現地で自社開発製品の販売、周辺国にも事業展開を検討」(医療・福祉サービス)など、人材の観点からもベトナムは注目市場となっている。

一方、市場規模が大きく、高い経済成長を続けていた中国であるが、足元では経済成長に陰りが見え、さらに長引く米中貿易摩擦も企業の事業拡大意欲に影を落としている。企業からは「米中貿易摩擦などのカントリーリスクを含め、環境変化に対応したリスク回避の必要性」(精密機器)、「中国に拠点があるが、中国国内の規制、法改正、貿易摩擦の影響が大きく、ASEANに別の拠点を持ちたい」(商社・卸売り)、「販売市場として中国市場への集中から他のアジア諸国への展開」(小売り)という声が聞かれた。中国市場に魅力を感じつつも、事業が集中することによるリスクへの対応から、中国以外にも目を向ける企業が増えており、これがベトナムやタイなど周辺国における事業拡大意欲の上昇にもつながっている(注5)。


注1:
本調査は、海外ビジネスに関心の高いジェトロのサービス利用日本企業9,975社を対象に、2019年11月から2019年12月にかけて実施。3,563社から回答を得た(有効回答率35.7%、回答企業の83.9%が中小企業)。プレスリリース・結果概要報告書も参考にされたい。なお、過去の調査の報告書もダウンロード可能である。
注2:
「海外進出の拡大を図る」企業は、「現在、海外に拠点があり、今後、さらに拡大を図る」、「現在、海外に拠点はないが、今後新たに進出したい」と回答した企業の合計。
注3:
海外進出方針の決定理由に関する2018年度の調査結果については、「日本企業の海外進出方針、選択の背景は」(地域・分析レポート特集「激変する世界情勢と日本企業の海外ビジネス」、2019年4月)を参照されたい。
注4:
「輸出の拡大を図る」企業は、「現在、輸出を行っており、今後、さらに拡大を図る」、「現在、輸出は行っていないが、今後、新たに取り組みたい」と回答した企業の合計。過去の状況については、プレスリリース・概要を参照されたい。
注5:
ベトナム、中国のビジネス環境、米中貿易摩擦の影響に関しては、本特集の「アジアで主要なビジネス課題が改善傾向」、「日本企業への保護貿易主義の影響広がる」、「米中摩擦が組み替えるアジアのサプライチェーン」を参照されたい。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 国際経済課
中村 江里子(なかむら えりこ)
ジェトロ(海外調査部、経済情報部)、(財)国際開発センター(開発エコノミストコース修了)、(財)国際貿易投資研究所(主任研究員)等を経て2010年より現職。

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