特集:激変する世界情勢と日本企業の海外ビジネス日本企業の海外進出方針、選択の背景は

2019年4月18日

約6割の日本企業が今後の海外進出に拡大意欲を持つことがジェトロの調査で明らかとなった。海外ビジネスをめぐる環境は不透明さが増しているが、海外市場の規模と成長性はやはり魅力が高い。今回は中国、米国での事業拡大意欲が高まった。企業の選択の背景にあるものは何か。

約6割が今後の海外進出拡大に意欲

ジェトロが毎年実施している「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」では、今後3年程度における企業の海外進出方針を尋ねている。2018年度(注1)については、「海外進出の拡大を図る」(注2)と積極姿勢を示した企業は57.1%と前年と同水準となった(図1参照)。

最近の海外ビジネスをめぐる環境は、保護主義的な動きの台頭など変化が大きく、経営資源の投入を伴う海外進出方針の決定には困難さが増している。だが、このような状況においても、前年と同様に約6割の企業が今後の海外進出について拡大方針を取るとした。企業はどのような戦略からこの選択をしたのか。2018年度の調査では選択の理由を聞いている。そこから企業の意図を読み解きたい。

図1:今後(2018年度も含め3カ年程度)の海外進出に関する方針(時系列)
2011年度から2018年度までの日本企業の今後(3年程度)の海外進出方針をパーセントで示す。選択肢は以下の6つに分かれる。さらに拡大を図る、新たに進出したい、現状を維持する、縮小・撤退が必要と考えている、今後とも海外への事業展開は行わない、その他。 さらに拡大を図る、新たに進出したい、の2つの選択肢は2013年度以降のみ。 さらに拡大を図ると、新たに進出したい、の合算値を海外進出の拡大を図るとする。選択肢がない2011年度、2012年度は、新規投資または海外の既存事業の拡充とする。 海外進出の拡大を図る、2011年度63.3%、2012年度68.3%、2013年度58.3%、2014年度60.5%、2015年度61.2%、2016年度61.4%、2017年度57.1%、2018年度57.1%。 さらに拡大を図る、2013年度36.6%、2014年度36.8%、2015年度35.9%、2016年度36.1%、2017年度31.2%、2018年度32.9%。 新たに進出したい、2013年度21.7%、2014年度23.6%、2015年度25.3%、2016年度25.2%、2017年度25.9%、2018年度24.2%。 現状を維持する、2011年度21.9%、2012年度16.3%、2013年度15.5%、2014年度17.0%、2015年度14.7%、2016年度15.3%、2017年度16.1%、2018年度13.7%。 縮小、撤退が必要と考えている、2011年度1.3%、2012年度0.8%、2013年度1.0%、2014年度1.2%、2015年度0.8%、2016年度0.7%、2017年度1.0%、2018年度0.9%。 今後とも海外への事業展開は行わない、2011年度9.7%、2012年度11.1%、2013年度18.7%、2014年度15.7%、2015年度16.2%、2016年度17.4%、2017年度21.0%、2018年度23.2%。 その他、2011年度3.8%、2012年度3.6%、2013年度6.5%、2014年度5.7%、2015年度7.1%、2016年度5.2%、2017年度4.8%、2018年度5.1%。

注:(1)母数は「無回答」を除く企業数。(2)2011年度、2012年度の「海外進出の拡大を図る」は「新規投資または海外の既存事業の拡充」と回答した企業の比率。(3)太枠内の数値は、「海外進出の拡大を図る」企業の比率。
出所:2018年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

製造業ではサービス面で海外拠点拡充を目指す企業も

まず、今後の海外進出について、「拡大を図る」と回答した企業のコメントをみると、「国内市場は間違いなく収縮するが、海外では後発でも参入可能な市場が残っている」(一般機械)、「内需型産業中心の事業構造のため、将来的な需要減退局面に備え、積極的に海外事業を拡大する」(化学)、「国内市場では大きなシェア拡大は望めない。一方、海外では潜在需要が大きい」(運輸)など、幅広い業種から海外市場の規模と成長性への期待とともに、国内市場の縮小への懸念が数多く寄せられた。これは過去の調査結果とも合致する。海外進出拡大の理由を尋ねた過去の設問では、2011年度以降、2016年度まで、「海外での需要の増加」と回答した企業の比率が最も高く、「国内での需要の減少」が続く。外需、内需の規模と成長性が海外進出方針決定における最大の決め手という結果で、この状況は続いていると言えよう(注3)。

海外市場に対する期待の高さは、海外拠点の事業強化で新たな地域の市場獲得を目指すという動きにもつながっている。「米国工場の稼働に伴い、米国でシェア拡大を図るとともに、米国を起点として欧州へ進出可能性を探る」(金属製品)と、グローバル戦略を念頭に置き、着々と拠点強化を図る企業もあるが、「日本との輸出入手続きを結ぶ企業は減少傾向にあり、新たout-outの仕事に取り組む必要がある」(運輸)と、海外から海外へというビジネスの流れへの対応が生き残りに不可欠とする企業もある。

海外進出拡大における具体的な拡充内容について、回答企業のコメントで目立ったのがサービス機能の拡充だ。非製造業もさることながら、製造業でも海外進出の拡大理由として、サービス機能の拡充をあげる企業が多かった。特に機械機器分野では、「サービス拠点を中心に拠点拡大を検討」(一般機械)、「拠点を増やし、サービス向上、トレーニング、物流、修理体制の充実を図る」(電気機械)、「各国での修理サービスの充実を図る」(精密機器)、「地域密着型の技術サービス展開を通した市場開拓が基本」(一般機械)など、製品に付随するサービスの重要性に対する認識が高まっており、海外進出意欲の拡大を後押ししている。

拠点がなくても海外市場は視野に

海外進出に積極姿勢を示す企業が過半を占める一方で、「今後とも海外への事業展開を考えていない」と、今後の企業戦略に海外進出を組み込まないとする企業もある。近年、その割合は徐々に増え、2014年度の15.7%から2018年度は23.2%に拡大した。企業が海外進出を選択しない理由はさまざまだ。最も多かったのは、人材や資金など経営資源の不足、特に人材不足を指摘するコメントが目立つ。「人材を育成する時間的・経済的余裕がない」(飲食料品)、「人材確保が困難。自社事業を理解できるまで期間が掛かり、アジアの多くが求めるスピード感ある収益確保が難しい」(商社・卸売)など、輸出方針決定の際と同様に、海外進出においても人材がネックとなる状況が浮かび上がり、海外ビジネス全体にとって人材確保は喫緊の課題となっている(注4)。

次に多かったのは、海外需要には輸出で対応という回答だ。「現状、輸出拡大が主要課題であり、進出までは考えていない」(金属製品)と、まずは輸出を活用したいとするコメントが目立った。さらに、「国内に軸足を置いて商品開発。メード・イン・ジャパンとして輸出」(繊維・織物)、「自社の強みは『日本製』であることからくる信頼感とブランド力。材料は日本製でないと品質に問題があるため、海外で生産するつもりはない」(一般機械)など、製造業を中心にメード・イン・ジャパンが強みという意見や、「費用対効果を考慮すると、ネットを利用した販売方法が最適」(飲食料品)と、インターネットの活用で対応したいとする声もあった。実際、海外進出をしないと回答した企業のうち50.8%が現在、輸出を手掛けており、今後の輸出方針については、6割以上が拡大したいと回答している。このように、海外進出を念頭に置いていない企業でも、海外市場を視野に捉え、着実に企業戦略を練っている。

海外進出拡大意欲、中国、米国では上向く

それでは、企業の視点はどの国・地域に向いているのか。市場の成長性に関しては、やはり近隣のアジア諸国に対する期待が高い。「東南アジアを中心に需要は伸びており、販売網の拡大を検討」(繊維・織物)、「現在、中国での生産は全て日本向けだが、現地販売を増やしたい」(飲食料品)など、アジアに対する関心は高い。

そこで現在、海外に拠点があり、今後さらに海外進出の拡大を図ると回答した1,050社に、拡大を図る国・地域について聞いたところ、最も回答比率が高かったのは中国の55.4%で、前年の49.4%から上昇した(表1参照)。中国は2011年度以降、首位が続いているが、回答比率が前年よりも上がったのは2018年度が初めてだ。足元では中国の経済成長に陰りが見られるが、「中国は国内で生産した製品を輸出するだけではなく、内需にも期待できる」(非鉄金属)、「大口取引としては、中国しかない」(電子部品・デバイス)、「中国を拠点として、タイ、ベトナムなど東南アジア方面への販売強化」(プラスチック製品)など、中国内需の存在感は依然として大きい。また、アジアビジネスの起点としての役割も健在なことが、中国での事業展開の拡大を後押ししたとみられる。中国に続いては、前年に引き続きベトナム(35.5%)、タイ(34.8%)となり、いずれも上位を維持したものの、前年からは比率を下げた。

4位につけたのは米国(32.3%)だ。景気が堅調とされる米国は、前年は事業拡大意欲に低下が見られたが、2018年度は製造業を中心に拡大意欲が上向いた。米国で事業拡大をする企業からは、中国と同じく市場規模の大きさへの期待に加え、「取引先の海外展開に対応する必要がある」(一般機械)、「顧客の日系企業が現地調達を望んでいる」(自動車部品)、「日系の顧客の海外生産シフトへの対応強化」(商社・卸売)など、日系企業を含む取引先からのニーズに対応という理由が多く見受けられた。また、「米国で成功できれば、世界的展開が可能に」(その他非製造業)と米国市場が持つ影響力を重視する声や、「不採算事業は閉鎖するが、重点地域(米国、中国)は追加投資や新拠点を設立」(電子部品・デバイス)というコメントもあり、選択と集中という場面に迫られても、企業にとって米国と中国は外せないとの姿勢がうかがえた。2018年度は中国、米国で事業拡大意欲の増加が見られたが、背景にはこうした企業の認識も働いていると考えられる。

新規進出を狙う企業はまず近隣アジアから

これまでみた事業拡大を図る国・地域に対する企業の視点は、既に海外拠点を持つ企業のものだ。それでは、現時点では海外拠点を持たないが新たに進出したいとする企業は、まずどこに足場を築きたいのであろうか。新規に進出したいとする企業750社に尋ねたところ、最も比率が高かったのが中国(42.3%)、次いでベトナム(31.9%)、台湾(29.5%)、タイ(27.6%)、米国(27.2%)と、上位陣は、表1に見られる既に拠点を持つ企業の視点とは若干、異なる結果となった(表2参照)。背景にあるのは、新規進出を目指す企業の規模の違いだ。大企業は既に拠点を持つ割合が高いため、新たに進出したいとする企業750社のうち9割以上は中小企業である。大企業に比べて中小企業は経営資源が限られており、最初の拠点は手堅く近隣アジアを選択する企業が多いということであろう。

表2に見られるとおり、首位の中国は多くの業種で他の4カ国・地域よりも比率が高いが、電気機械や建設ではベトナム、自動車・同部品/その他輸送機器ではタイ、精密機器では台湾の比率が最も高く、業種によって企業の視点は少し異なる。そのような中、5位の米国は、飲食料品、木材・木製品/家具・建材/紙パルプ、情報通信機械/電子部品・デバイス、精密機器の4業種で5カ国・地域の中で最も比率が高く、製造業全体で中国に次ぐ位置につけた。米国に新たに進出したい企業からは、「日本の食文化が今後、受け入れられる」(飲食料品)、「展示会に出展し、海外での可能性が確認できたため」(電子部品・デバイス)とのコメントがあった。このコメントを寄せたのは、いずれも従業員20人以下の小規模企業だ。足元のビジネス環境は先行き不透明感が増しているが、商機を逃さないためには、こうしたビジネスの芽を確実に捉えることが肝要となろう。

表2:今後、新たに海外進出したい国・地域(上位5カ国・地域)業種別(複数回答、%)
業種 社数 1位
中国
2位
ベトナム
3位
台湾
4位
タイ
5位
米国
全体 750 42.3 31.9 29.5 27.6 27.2
階層レベル2の項目 製造業 417 43.2 30.5 31.4 29.3 33.8
階層レベル3の項目 飲食料品 131 38.2 31.3 38.9 31.3 44.3
階層レベル3の項目 繊維・織物/アパレル 28 57.1 7.1 32.1 3.6 35.7
階層レベル3の項目 木材・木製品/家具・建材/紙パルプ 18 38.9 11.1 27.8 22.2 50.0
階層レベル3の項目 化学 10 70.0 40.0 40.0 40.0 20.0
階層レベル3の項目 医療品・化粧品 23 65.2 39.1 39.1 26.1 21.7
階層レベル3の項目 石油・石炭・プラスチック・ゴム製品 25 52.0 44.0 20.0 44.0 28.0
階層レベル3の項目 鉄鋼/非鉄金属/金属製品 44 27.3 31.8 25.0 31.8 29.5
階層レベル3の項目 一般機械 35 34.3 34.3 20.0 34.3 17.1
階層レベル3の項目 電気機械 14 28.6 42.9 35.7 7.1 14.3
階層レベル3の項目 情報通信機械/電子部品・デバイス 10 40.0 10.0 10.0 0.0 50.0
階層レベル3の項目 自動車・同部品/その他輸送機器 11 27.3 27.3 9.1 45.5 9.1
階層レベル3の項目 精密機器 15 33.3 26.7 40.0 26.7 40.0
階層レベル3の項目 その他の製造業 46 56.5 32.6 30.4 37.0 30.4
階層レベル2の項目 非製造業 333 41.1 33.6 27.0 25.5 18.9
階層レベル3の項目 商社・卸売 139 52.5 33.1 33.8 28.1 14.4
階層レベル3の項目 小売 42 45.2 21.4 45.2 16.7 33.3
階層レベル3の項目 建設 30 26.7 30.0 3.3 26.7 10.0
階層レベル3の項目 通信・情報・ソフトウェア 33 39.4 27.3 18.2 24.2 30.3
階層レベル3の項目 専門サービス 13 38.5 30.8 7.7 23.1 7.7
階層レベル3の項目 その他の非製造業 67 25.4 44.8 20.9 25.4 20.9

注:(1)母数は、業種ごとに「現在、海外に拠点はないが、今後新たに進出したい」と回答した企業のうち、拡大する機能について無回答の企業数を除いた数。比率は業種ごとの母数に対して、当該国・地域を回答した企業の比率。(2)太文字のセルは業種ごとに5カ国・地域の中で最大の比率。(3)2018年度の回答企業数が10社以上の業種のみ掲載。
出所:2018年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)


注1:
本調査は、海外ビジネスに関心の高いジェトロのサービス利用日本企業10,004社を対象に、2018年11月から2019年1月にかけて実施。3,385社から回答を得た(有効回答率33.8%、回答企業の81.8%が中小企業)。プレスリリース・概要報告書も参考にされたい。なお、過去の調査の報告書もダウンロード可能。
注2:
「海外進出の拡大を図る」企業は、「現在、海外に拠点があり、今後、さらに拡大を図る」「現在、海外に拠点はないが、今後新たに進出したい」と回答した企業の合計。
注3:
「海外進出を拡大する理由」を聞く設問は2011~2016年度調査で実施。2016年度調査結果では、「海外での需要の増加」(81.0%)が最も多く、次いで「国内での需要の減少」(50.4%)、「取引先企業の海外進出」(26.9%)だった。
注4:
「今後の輸出方針」については、本特集の2「日本企業の輸出拡大意欲が下げ止まり」参照。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 国際経済課
中村 江里子(なかむら えりこ)
ジェトロ(海外調査部、経済情報部)、(財)国際開発センター(開発エコノミストコース修了)、(財)国際貿易投資研究所(主任研究員)等を経て2010年より現職。